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◆閑話の1◆ 地球防衛のMVP・宇宙生物アーチーによる三十分のビデオレター

 この映像に映るのは、いったいどこのホテルだろう。


 キングサイズのベッドに、こぶし大でコロッと丸いぬいぐるみが転がっている。パッチリした目、ふにゃっとした口。若い女子が好みそうな、無害を固めたような顔の。

 いや、いや、それよりも。

 背後のガラス戸の向こうでは、およそ地球ではありえないモノが空を泳いでいた。


 例えばそれは、奇妙な円盤であったり、足が百本あるケモノ。あるいは機械か生物か判別できないナニカであったり。たまに光線が走っては、浮遊する何者かが無残に撃ち落とされている。


 だが、そんな光景に目をとらわれていてはいけない。この映像の主人公は、ベッドの上の彼なのだ。


「めっぽ~♪ ルゥルゥ元気にしてる~?

 これ、自撮り初めてなんだけど、ちゃんと映ってるかな~?」


 ぬいぐるみが、短い手足をパタッと上げた。そう、これは、生き物なのだ。出身星はアナーシア。地球の数えで二百十歳の、れっきとした成年……男性。


「地球での暮らしは最の高~? 低~?

 なんて、名乗りもすっトバしちゃったけど、まあトーゼン覚えてるよね?

 やあ、おいらアーチーだよ! 第一銀河防衛機構特殊戦隊派遣科B班特務員のアーチー=ギリガン!


 やや、忘れるはずないよなぁ? 三年前、おまえたちをボッコにした戦隊の司令官様をな~!?

 ……いや、今のは言いすぎたわゴメン。


 ああ、アドレスも教えてないのに、なんでメールが? ってビックリしたよな?

 いや、実は今、おいら休職中でさ。ヒマだから、おまえの地球のパソコンにアクセスして遊んでたわけ。いそがしんだね~、おまえ。でもおいらはクソヒママックスだから、たまには連絡しよっかなって。カワイイ系のよしみだしね。


 あ、そうそう、ちなみにこの映像は、第二銀河のリゾート惑星、オージェイのスイートで撮ってまーす。昼から一人で飲んでまーすいぇーい。いやさ、美人が多いわこの星~。おいら露骨にリッチマンだから、かつ最高にキュートだから、これがもうモテモテでさぁ……。


~【聞くに堪えない会話が続くため、中略】~


 ……とまあ、おいらがそのパンティ熟女にボられた話は置いといて。

 地球時間で四年前だよな。おいらが戦隊を作ったのは。


 ま、仕事の愚痴とか言いたかないけど、あのときは大変だったんだぜ。そもそもおいらの仕事は、各惑星に危機が迫ったとき、星を滅亡から救う【特殊戦隊】を送りだすこと。同行はするが戦わない、カワイイ見守りマスコット的安全ポジションだったんだが……、


 四年前、機構の予測システムが、惑星ガリアの危機を予見した。おれは担当の戦隊と共に、マヌケ面でガリアに行き、そして、おまえらに出くわしちまった。


 ヤラハン=ボーグとその手下ども。ガリアに送った戦隊は、ほんの一瞬で壊滅した。


 今考えてもムカつくぜ。あのクソッタレ防衛機構は、おいらたちに黙ってたんだ。ガリアに派遣が決まった時点で、すでに七十三もの星が、ボーグに滅ぼされていたこと。その脅威を、恐怖を、機構は隠してやがった。


 ああ、怖気がよみがえる。汗がにじみそうになるぜ。かろうじて攻撃を免れ、救援要請を送ったオレに、機構の理事はこう言ったんだ。


『我々は、第一銀河を放棄する決断を下した。今より同盟星に呼びかけ、第二銀河への避難を開始する。君も戻ってきたまえ、ギリガン。君はよくやったよ』と……。


 オレは……さ。そのとき、ぶっちゃけめちゃくちゃ泣いていたよ。だって、死ぬかも、助けてって気持ちで、必死に連絡したんだ。なのに、誰も来てくれねえって。ボクたちは逃げま~すだって。


 オレはもう、ボロボロだった。星が、生き物が滅びる姿、滅ぼす化け物の姿を見て、心底ブルッて動けなかった。オレもここで死ぬんだって、六感で悟ってた気がする。


 けど……。そのとき、オレは視線に気づいたんだ。オレがうずくまる隣には、死にかけの隊員たちがいてよ。その中の一人が、もう言葉も話せねえんで、オレをじっと見やがるんだよ。


 ……なんとも言えねえ顔だったなあ。そいつはガリアの出身でさ、兄弟で戦隊に所属してた。弟の方も虫の息で、故郷はもうめちゃくちゃで、役立たずのくせ元気なオレを、まばたきもせずにずっと見んだ。


 死ぬ寸前の生き物ってさ、なんか神秘的だよ。肉の檻から放たれかけて、魂が悟りでも開くのかな。優しくて、寒気がする程度にぬるい、ぞっとする目をするんだよ。あのときは震えたね。いや、とっくに心身バイブッてたけど、もっと違う恐怖に駆られて。


 本当は、身体が動き次第すぐに、第二銀河に逃げたかった。今すぐ脱出ポッドに乗って、誰でもいいから同じ星の生き物に抱きしめられたかった。生きるためならなんだって犠牲にできる覚悟があった。


 なのに、なんでだろうな? オレはジルを……一番ケガがマシだった、あの死にかけの弟を、脱出ポッドに押し込んでいた。そんでガリアを飛び立って、おまえとボーグとアイゼンバッツが、隊員に歩み寄るのを見ながら……、機構のデータにアクセスした。


 防衛機構はクソの巣窟だが、予測システムは銀河の宝だ。オレは、おまえらが滅ぼすだろう惑星の予測リストを見た。

 そして、そこに覚えのある名を見つけて、ポッドの行き先に指定したんだ。オレが新米だった頃、不時着したことのある星。おまえらが、百の節目に選んだ惑星───地球に。


 なあ、ルゥルゥ。オレがあのとき感じた恐怖は、たぶん理性の恐怖だぜ。死ぬのが怖いが本能なら、あのとき感じたあの寒気は……、何も為さないことへの恐れだ。戦隊はゴミのように殺されたが、最期まで勇敢だった。あの星の生き物は、大事な人を守るように抱きしめながら死んでいった。結果を見ればただの虐殺。けどオレは、ぜんぶ見てた。


 ガリアで死んだ生き物は、誇り高く美しかった。あそこで逃げたらオレはきっと……、一生まえを向けやしないと、魂に瑕がつくだろうと、その直感にオレは震えた。


 恐怖は最高のエンジンだ。オレはあのあと、がむしゃらになって地球で戦隊を作った。防衛機構はとんずらして、支給品も応援もねえ。強化スーツもガリアでおじゃん。そんな場所からスタートして、よくもまあやりとげたもんだ。人を選んで、スーツも作って……ま、そこから始まる戦いの日々は、おまえにとっちゃ苦い記憶かもな。


 ……しかしよ、生き物って満ち足りねえもんだな。オレ、もしもボーグを倒せたら、オレはもっと自分のことを誇れるだろうと思ってたんだ。けど、どうなのかねぇ。たまに思い出すんだよな。あいつ、白いスーツ着てた、あのオンナのこととか。


 あのさぁ。オレはさ、あいつにうらまれてるんじゃないかって、ずっと……、いや……。あぁ……。


 やっぱ、いい。おまえに言ってもしゃあねえしな。


 ああ、ところでルゥルゥ、おまえ今、人間の金持ちと組んで【戦隊もの】だかドラマのホンを書いてるって聞いたぜ? コズ~~~……ミック・フォース、だったか? おいらたちの戦いの日々を、ほとんどまるまる映像化して儲けてるらしいじゃないか。てめえの立場も明かさねえで、よくやるもんだぜ、まったく。


 そう、そんで、まあ……、勘違いならいいんだが、あのな? なんか、おいらが? 戦隊のキュート司令官、プリティボディのアーチーさんが? 聞いた話じゃ存在ごとカットされてる? とかなんとか?


 まさかそんなことないよな? だってホラ、おいらがいなきゃ戦隊はできなかったワケだし。よりにもよってそんなひどい改変するこたねえよね?


 あっ。もしかして、CG使いたくないとかそういう配慮だったりすンの? 地球は技術力がザコいし、CG高いっていうよな~、作んの。ウン、まあわかるよ。アニメと違ってムズカしんだよな、実写のマスコットキャラってさ。ウン……、でも、必要だと思うナ、おいらは。そんで、ぬいぐるみとか売ればいいと思う。そうおいらの。低反発のもちもちの奴。


 つーか、実写ドラマだろ? いっそ本人(おれ)が出ちゃえばよくね? テレビに映っちまえば、視聴者はCGって思うだろ。そんでスタッフは……、催眠洗脳スプレーとかで良き具合にするとして。


 ……ああ、そろそろしゃべりつかれたな。パンティ熟女にやられたキズがまだウズいてるしよ。

 つーことで、ルゥルゥちゃん。出演オファー待ってます♡ 連絡してね、アーチーより♡」


 映像は、ここでブツリと終わる。



◆ボーグの元配下怪人・ルゥルゥからの返信メール

「銀河戦隊コズミックフォースはフィクションです

 作品に登場するものは、実在の人物・事件・団体とはいっさい関係ありません

 また、ハッキングの件につきましては、銀河防衛機構様に通報させていただきました

 以上、よしなに。さっさとくたばれ!」



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