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王子さまはゴシップが お・好・き

作者: ゆかりゆか。

 


贅沢に飽いた





貴族や王族には


 



変わった趣味の持ち主が


 



多いらしい・・・




ある春の日の朝、

グレープ城のバルコニーで、



[あなただけにお教えする

 秘密の貴族情報誌、うふふ♪]


を読んでいた王子が、

呑んでいる紅茶の表面に小波が立つほどに

大きな溜め息をついていました。


 西のラクスピン国王子、

 カエルに化けてテディ国の王女を誘惑!

 念願叶ってカエルの王子様は

 テディ王女と結婚式を行なった!!



 王子を良く知る貴族は言う。


「王子は昔から変わった趣味の持ち主でしたけど、

 まさかカエルに化けて

 王女を誘惑しに行くなんて(笑)」



 やはり魔法は魔法使いに

 かけてもらったんでしょうか?


「ちがいますよ。

 王子は自分で魔法を掛けたんですよ。

 ほら、いま魔法書がたくさん

 出回っているでしょう。

 不景気のあおりでリストラ食らった

 城付きの魔法使いが、

 生活に苦しんじゃって売り出してるやつが。

 あれを使ったらしいですよ」



 そうですか。

 ではもう一人のお話を聞いてみましょう。

 彼女はテディ国王女の小間使の方です。


「私、感動してしまいました。

 王子様がカエルの姿でいる間、

 王女は(ここで声のトーンを落として)

 王子にひどい仕打ちをなさっていたんです」


 と言うと?


「私の口からはとても言えないような

 酷い仕打ちなんですけどね。

 でも、王子はそんな仕打ちもに、

 めげずに耐えぬいて人間の姿に戻った時

 こう言ったんです

 『どんなに酷い目にあっても、

  私は彼女を愛していますから』ですって。

 すごいわー。愛ですねー」



 と言う事です。


 また新しいカップルが生まれましたね。


 先月はガラスの靴を手がかりに、

 貴族の下働き娘と結婚した王子の話でしたが、

 今回のこの話の前では薄らいでしまいますね。


 さあ、今度はあなたの番です。


 一国の王子ともなると、

 ただ平凡な結婚話など、

 恥ずかしくて出来ませんよ!!!


 それではまた来月お会いしましょう。


王子は何度もその記事を見て、


溜め息をついています。


王子もそろそろお年頃。


結婚を考えていましたが、

どうしてもお相手が見つからないのです。


別に容姿が悪い訳ではありません。


国も大きな方です。


見合い話は鬼ほどやってきます。


しかし彼の理想に叶う様な姫はいませんでした。


「どうしよう。

 このままでは、

 私はただの平凡な結婚をむかえる

 ただの王子になってしまう。

 ああーーー!」


王子は頭を抱え込んでしまいました。




毎月発売される貴族雑誌、うふふ には、

珍しい結婚をした

貴族や王子の話がてんこもりです。


自分も うふふ 雑誌に載れるような

変わった結婚がしたーい!


そう考えながら、王子は毎日、

憂欝な日々を送っていました。


ある日、遠乗りに出掛けた王子は

森の中で迷ってしまいました。


走っても走っても、同じ所にばかり出てしまいます。


「これは、どうしたことだろう」


時間がたつにつれて不安になった王子の耳に、

小さなすすり泣きが聞こえて来たのはその時でした。


風が梢を揺らす音に紛れてですが、

たしかに泣き声が聞こえてきます。


「なんだろう?」


王子は馬から降りると、

声のするほうに向かって

手綱を引きながら歩き出しました。


すすり泣く声が複数のものだと感じた時、

突然目の前が開けました。



小さな広場の様になっている所へ足を踏み入れると、

十四の瞳が一斉に王子の姿を捕らえます。


どれほど泣いていたのかは分かりませんが、

ウサギのように赤く濡れた瞳を見るかぎり、

長い時間であることは確かなようです。


子供程の背丈しかない七人の小人たちは、

ガラスケースを囲むようにして立っていました。


ケースの中には美しい花が

たくさん並べられています。


そしてその花の中に、

美しい女が横たわっていました。


「何をそんなに泣いているんだ?」


王子は馬を手近の木に繋ぐと、

小人たちに聞きました。


「白雪姫が死んじゃったんだ!」


小人たちは口々に言います。


「白雪姫?」


王子はガラスケースの中を覗き込みました。


遠目で見ても美しいと思いましたが、

近くで見ると、その美しさに目が眩みそうです。


「こんな美しい女性が森の中で...」


その時、王子の頭のなかに、

すばらしいゴシップが閃きました。




 美しい姫と結婚したグレープ王子!

 なんと お相手は死体!?




うふふふふ!

王子は口もとを押さえると、

ガラスケースを外しました。


「何するんだよ!」


小人たちが叫びますが、

そんなことはおかまいなし。

白雪姫を抱き上げます。


「そうか!」


小人の一人が叫びました。


「悪い魔法使いの呪いを解くには、

 王子様のキスが特効薬!」


そうです。


王子がここで白雪姫にキスをしてしまったら、

死体と結婚した王子ではなくなってしまうのです。


「さあ、早く早く!」


小人たちが急かしますが、

王子は眉を寄せました。


悪い魔法使いに呪いを掛けられて

眠らされた王女を助けた王子の話は、

三月号の うふふ に載っていた。


これでは、まねっこになってしまう!


「早く助けてあげてよ!」


小人たちの期待に満ちた視線が

王子に向けられます。


まてまて、

よーく考えるんだ。




彼女は死んでいるな?




王子は白雪姫の胸に耳をあてました。


ウンともスンともいいません。


確かに死んでいるようです。



このまま城に連れて帰って、

医者に見せた後、

生き返らせるのはどうだろう?




 

 グレープ王子、死体を見事生き返らせる!

 呪いで眠っていたのではない!

 死んだ者を生き返らせたのだ!!

 その姫とめでたくゴールイン!!! か?


ふふふふふー。


王子はまたもや口もとを押さえると、

馬に白雪姫を乗せました。


「どうするんだよ!」


小人たちが不満げに叫びましたが、


「私は彼女と結婚するから、心配いらない。

 さらばだ!」


ひらりと馬に飛び乗り、

蹄の音も軽やかに、

森の中に駆け込みました。


しばらく小人たちのブーイングが聞こえましたが、

浮き浮き気分の王子には聞こえないようです。




「これで私も、皆の注目を集めることが出来る」


王子は筋肉の揺るみ切った顔で、

記者のインタビューに答える

自分の姿を想像していました。



馬は軽快に走ります。



パッパカパッパカパッパカパッパカ...。



そのたび、馬の背に乗せた白雪姫の体も揺れます。


不安定な格好で

馬に乗せられていた

白雪姫の体が大きくズリ落ちたのは、

その時でした!


馬は、突然足元に落ちてきた障害物を

器用に飛び越すと、

王子が引いた手綱に従い、

数メートル先で立ち止まりました。


「死体は大丈夫か!」


王子はあわてて白雪姫に駆け寄りました。


うつぶせに倒れていた白雪姫の体を抱き上げた時、

彼女の口から何かがポロリと落ちました。



「なんだろう?」



王子がそれに手を伸ばし掛けたとき、


「うーん!」


白雪姫がうめき声を上げたのです!


見ると今まで血色の良くなかった顔に赤みがさし、

体が暖かくなってくるではありませんか!




「しまった、私の計画が!」




王子が真っ青な顔で叫ぶと、

ついに白雪姫は、その目蓋を開いたのです。






 がーーーん!






目覚めた白雪姫の美しさよりも、

ゴシップヒーローになり損ねた

ショックの方が大きかったのか、

王子は大袈裟に肩を落としました。



 さらば、我が栄光の日々...




そんな文字が王子の脳裏を過ったとき、

何を思ったか、

突然、王子は白雪姫の首に手を掛けたのです。


「お願いだ、もう一度死んでくれー!」


しかしティースプーンより

重い物を持った事がない

箱入り育ちの王子の力など、

波乱万丈の人生を歩んできた

白雪姫にすれば赤子同然。


反対に投げ飛ばされてしまいました。


「あんたも お母さまの放った刺客だね!」


白雪姫はドレスの裾を上げて飛び起きると、

木の根に頭を打ち付けて失神寸前の王子を睨み

付けました。


そんな王子の頭のなかに、

また新たなゴシップが浮んでいました。




 グレープ王子、美しい女盗賊に捕まる!

 王子の運命やいかに!!




そして二人は恋に落ちるんだ。


締めはやっぱり、





 グレープ王子の愛により女盗賊改心!

 結婚決まる!!




ああいい!

これだ!! これにしよう!!!


もうろうとする意識の中で王子は呟くと、

幸せそうな笑みを浮べて気を失ってしまいました。


「王子様! 王子様!!」


激しく体を揺すられて

王子は目を覚ましました。



「は! 白雪姫は!?」



王子はよだれまみれの顔を上げて

辺りを見回すと立ち上がりました。


その拍子に、雑誌 うふふ が床に落ちます。


「ずいぶんうなされていましたよ。

 悪い夢でも見ていたんですか?」


小間使いが王子のよだれ顔を

ハンカチで拭きながら聞きます。



「夢?」



王子は眉を寄せました。


夢だったのか...?


どんな夢だった?



王子は頭を抱え込みました。


なんだかとても

いい夢を見ていた気がするのに、

どうしても思い出せないのです。



王子はバルコニーにもたれると、


「良く覚えていないけれど、

 ゴシップのヒーローになった夢を

 見ていた気がする...」


呟くように言いました。


「あら、王子様なら夢で見なくても

 実現しますわよ、きっと」


小間使いはニッコリ笑って言うと、


「今日は遠乗りに出掛ける日ですよね。

 王様が門の所でお待ちですよ」


城門の方を指差し言います。


「そうだな。

 今日は森の中を散策すると言っていた。

 急ぐとしよう」



王子は うふふ を小間使いに渡すと、

バルコニーから立ち去った。




「まったく、

 王子様のゴシップ好きには呆れるわ」


小間使いは大きく溜め息を付くと、

よだれまみれのテーブルを丹念に拭き始めました。


「でも、白雪姫って...」


小間使いは王子が寝起き際叫んだ言葉を

呟きました。


どこかで聞いたような名前だったからです。


しかし、それが隣国の姫の名であったと

彼女が知るのは、ほんのちょっと後の事です。

                         

                 おしまい





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― 新着の感想 ―
[一言] 安心して読めました。とてもいいつくりだと思います。オチをもっとひねくって欲しい。個人的にホンワカしてるのが嫌いなので・・・
2009/02/09 14:50 退会済み
管理
[一言] とても面白かったです。 平凡な結婚では満足できない王子の心理が妙に納得。 だから死体でもよかったんですね。
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