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白銀妖精のプリエール  作者: 葵 嵐雪
第一章 フレイムゴースト
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第八話

 朝日が窓に取り付けてあるカーテンを通り抜けてベットから垂れ下がっている上質な綿で織り上げられたレースが朝日の光を撫でるような光へと変えてくれた。多少の風もあるみたいでレースが軽く揺れると光が屈折してエランの顔に光が集中するとゆっくりとエランの眼が開いていく。エランと合わせた訳ではないがハトリの眼も開いていくのはエランとハトリはいつもこれ位の時間に起きるからで時間で表すと六時半ぐらいだ。 エランは眼が開いたモノのすぐに起きようとはせずにハトリも未だに横になっているのは特に急ぐ理由が無いからでエランは朝の温もりが与えてくれる心地良さを堪能していた。それから少しして充分に心地良さを堪能したエランが上半身を起こすと掛けていた布団もめくり上がりハトリの身体も自然と室内の空気に当たるのだがハトリは未だに身体を動かす事が無くて口を動かした。

「この寝心地は罪深いですよ」

 そんな言葉を発したハトリだがエランにもその気持ちが分かった。なにしろエランも先程まで程よく沈んで包み混んでくれる上質の布団が作り出す寝心地の良さは格別だからこそハトリは未練がましく,そんな言葉を放ったのだがエランの右側から金属音が鳴り響くと威勢の良い声が発せられた。

「何が罪深いだよ,お前が起きたくないだけだろ」

「イクスにはこの寝心地は分からないですよ」

「何を言ってやがる。俺様はこの世に唯一無二で最高品質の剣だぞ。その程度は分かって当然だからこそ俺様がわざわざ起こしてやろうとしてやってるんじゃないか」

「余計なお世話ですよ,そもそもエランが起きているから私も起きようとしてるですよ」

「口だけなら何とでも言えるからな」

「だったら起きるですよっ!」

 最後には声を荒げて身体を起こしたハトリは真っ先にイクスを睨み付ける。そんなハトリを面白そうに笑い声を上げるイクスにハトリはエランの背中を回ってイクスを手に取ると起き抜けながらも満面の嫌みを込めた笑顔を浮かべる。そんなハトリに顔を見たイクスは慌てたような声を発する。

「おいっ,こらっ,お前は何をするつもりだ」

「別に大した事は無いですよ。ただ朝からうるさいつるぎに黙って貰うだけですよ」

「って,こらっ! 俺様を鞘の中に押し込もうとするんじゃない!」

 朝から元気なハトリとイクスにエランは分からない程度の楽しげな微笑みを浮かべるとすぐにベットの上を移動してからベットから下りる為の履き物を履くとそのままベットから離れていく。ベットの上では未だにハトリとイクスが騒いでいるが,そんな騒ぎを無視してエランはベットの近くに置いてあった服を着ると横には鎧が飾るかのように置いてあったので鎧を身に付けていく。

 エランが鎧を手にした時に鳴った金属音に気付いたハトリはやっとイクスを鞘の中に収める事を諦めたのでイクスを持ったままベットの上を移動するとイクスを粗雑に扱いながらベットから下りるとイクスをベットの横に立て掛けて自分も着替えるのと同時に髪を整える。大きな鏡を前にしてハトリがツインテールを結び終わった時にはエランも髪を梳かし終わっていた。そしてエランが立ち上がるとエランの腰ぐらいまで有る髪が流れるようになびいて朝日の光が当たるとエランに幻想的で現実味のない姿をハトリが目にしたので思わず口に出てしまった。

「綺麗なのですよ」

 ハトリの言葉を聞いたエランは自分の事なのに何の事なのか全く分かっていないのでハトリに向かって口を開く。

「何が?」

 エランからそんな質問がハトリに届くがエランの言葉を聞いてすっかり幻想的な雰囲気が無くなってしまったエランにハトリは溜息を付いてから答える。

「何でもないですよ。それとエランは自分の事をしっかりと理解した方が良いと思うですよ」

「自分の力量はしっかりと理解しているつもりだけど」

「力量や実力の話ではないですよ。どうせ言っても理解が出来ないからさっさと朝食にするですよ」

 そんな言葉を放ってからハトリも立ち上がるとさっさと寝室から出て行ったのでエランは一度だけ首を傾げたが,やっぱりハトリの言葉が理解出来ないので綺麗さっぱりと理解する事を止めてから歩き出してイクスを背負うとハトリを追って隣の部屋に移ったら既にハトリはソファーでエランを待っていたのでエランは改めてお決まりの言葉を声にして出す。

「おはよう,ハトリ,イクス」

「おはようですよ,エラン」

「おうっ,おはようさん」

 目覚めてからすぐに騒がしくなったからという訳ではないが,エラン達は身支度が済んでから挨拶をするのが日課と為っているので目覚めてすぐに挨拶を交わした事はほとんどない。まあ,その理由はほとんど所か全部イクス有ると言っても良いぐらいだ。剣であるイクスに睡眠は必要が無いからエラン達が寝ている時はイクスは鞘に籠もっているだけなので朝に為るとすぐに構って貰いたいのか,それとも暇すぎて一気に喋り出すのかは分からないがイクスなりにエラン達に安眠をさせる為にこのような事をしている訳であるのと,睡眠を理不尽な理由で妨害されたエランが不機嫌になるのでイクスとしても重々過ぎる程に気を遣っていると言った方が正解だろう。

 エランにとってはいつものような朝を迎えたがいつもとは違う行動に出る。テーブルの上に置いてある小さなベルを手に取ると数回鳴らす。それからエランが椅子に座ってテーブルに着くとドアがノックされたのでエランが入室の許可を出すとすぐにメイドが入って来たのでエランは用件をメイドに告げる。

「朝食をここにお願い。それと朝食後にラスリット様から受けた依頼を遂行する為に出かけるので準備をしてくださるようにラスリット様にお伝えください。それとイブレにも同じ内容を伝えて」

「畏まりました」

 一礼をして退室するメイドを見送ったハトリはソファーから離れてエランの向かい側のテーブルに着くと大きく身体を伸ばした。それから程なく朝食が運ばれてきた。さすがに朝食なだけあって豪勢な料理とまでは行かないがしっかりと栄養が取れて身体も温まる朝食が運ばれてきたのでエラン達は残す事なく朝食を平らげるとエランは再びテーブルに置かれていたベルを鳴らしたのでメイドがすぐにやって来たのでメイドを入室させると言葉を発する。

「そろそろ出かけるわ,イブレは今どこに居るか分かる?」

「イブレ様は既に朝食を済ませて今では南門の所で各所と打ち合わせをしながらエラン様達をお待ちしているようです」

「分かったわ,どこから南門に出られる」

「南ホールからです」

 メイドの言葉を聞いたエランは立ち上がってハトリの方を見ながら口を開く。

「イクス,ハトリ,行くよ」

「はいですよ」

「おうよ,思いっきり暴れてやろうぜ」

 ハトリも席を立つとメイドがドアを開けていつでも出られるようにしておいたのでエランは部屋から出ようと歩き始めるとメイドは頭を下げながら口を開く。

「皆様,ご武運を」

 エランとハトリは動いている足を止める事なく進み続けるが,エランはメイドと擦れ違うと歩き続けながら口を開く。

「ありがとう,ハツミの困難は今日までだから」

 エランの言葉を聞いたメイドは頭を上げるとエラン達は既に廊下を進んでいたのでメイドはエラン達に向かって再び一礼する。



 エラン達が南のエントランスホールから外に出ると凄く賑やかに為っていた。それもそのはずだ,なにしろ南口から出ると大きな広場と為っているのだが広場を埋め尽くす程の荷馬車が集められて点検と整備をしている言葉が飛び交っている。そんな広場で一直線に城壁の南門までは荷馬車が遮る事が無くて見通しが良かったからエランはすぐに荷馬車がひしめく向こう側にイブレの姿を見付けたので歩き出すとすぐに金属音が鳴り響いてイクスが声を発して来た。

「随分と凄い数だな。これが昨日の話で出てきた略奪品を取り戻す為の荷駄隊って事は分かるが朝からご苦労な事だな」

 最後にはそんな皮肉を付け加えたイクスの言葉だがエラン達にしか届かない程に広場は独特の賑わいで溢れていた。整備をする為の木槌の音や各箇所を確認する声に遠くの方では兵士達が剣の手入れをしながら話しているような姿すら見受けられる。なにしろエランが盗賊団の首領さえ倒してしまえば統率が失われて盗賊達は逃げ出すだろうが,中には欲張って強奪品を持ち去ろうとしてもおかしくないから抑える為には兵力が必要となり強奪品をしっかりと取り戻す役目がある。その為にこれだけの賑わいになっているのだろう。そんな中をエラン達は一直線に進むとイブレと合流するとそこには見知らぬ兵装をしていた者も居たがエランはイブレに話し掛ける。

「おはようイブレ,随分と賑やか」

「おはようですよ,これもイブレが手を回した結果ですよ?」

 そんな質問をしてきたハトリにイブレは軽く笑った後に答える。

「手を回したと言っても必要な物を必要な時に使えるように話して置いただけだよ。まあ,ここまでの荷馬車を用意するとは思っていなかったけどね。僕としてはそれだけエランが領主様に期待されてると見てるけど」

「おぉ,おぉ,俺様達も随分と株が上がったモノだな」

 調子に乗ってそんな事を言い出すイクスだがハトリは逆にエランを気遣う言葉を口にして出す。

「期待され過ぎても重荷にしかならないですよ。こんな光景を見ずに出発した方が良かったのではですよ」

 ハトリの気遣いにしっかりと気付いていたエランが優しくハトリの頭を撫でると周囲を見回して改めて荷馬車を取り囲む人々を見るが,誰しも今回の討伐で今までの挽回が出来るとばかりに気合いが入っているように真剣であり,中にはお気楽に笑っている者も見られる中でエランは顔をイブレの方へ戻すとはっきりと言ってのける。

「期待したいのならさせておけば良い,私達はスレデラーズを手に入れられるならどんな戦場にだって飛び込んで戦うだけ」

「ぎゃはははっ,それでこそエランだ。周りはとにかく俺達はスレデラーズの使い手を倒す事に集中しとこうぜ」

 エランとイクスの言葉を聞いていたハトリが少し呆れたような顔をするとはっきりと聞こえる声で口を開いた。

「まったくですよ,少しは自分がどういう風に見られているか知るべきですよ」

「それは分かっている。けど,どんな風に見られようとも私がやるべき事は変わらないから気にしないだけ」

「はいはいですよ,エランがそう言うなら分かったですよ」

 そんな言葉を言い放って少しだけふて腐れるハトリ。そんなハトリの頬を軽く突きだしたエランに対してハトリは無抵抗のままにエランの好きなようにさせている。その理由としてハトリの気遣いが無駄という訳ではないが的から外れていたと言った様なものだろう。ここまで来たからにはエランに対して気遣いは無用なモノだ,なにしろエランにはしっかりと目的が見えているので,後はそこに向かって全力で取り組むだけだ。その事に気づけなかったからハトリはふて腐れててもエランの好きにされているという訳だ。これがハトリなりの気遣いとも言えるだろう。

 エランもハトリの頬を突くのに飽きてきた所で改めて顔をイブレに向けるとイブレはエランが言いたい事が分かったかのように頷くと近くにいた兵装した兵士を隣に立たせるとエラン達に紹介する。

「彼の名はストブル,昨日の話で出てきた僕達を焼却の盗賊団まで案内してエランの戦いを最後まで見届ける為に同行する騎士だよ」

 イブレがそのような紹介をするとストブルは一歩だけ前に進み出るとエラン達に敬礼してから口を開く。

「ご紹介に与りましたストブルと申します。今日はどうぞよろしくお願いします,特にエラン殿には勇姿を拝見させて頂けるので光栄です」

 堅苦しいだけではなくエランに思いっきり気を遣っている事が分かるような言葉を発するストブルに対してエランも挨拶の言葉を返す。

「よろしく」

 短すぎる言葉にストブルは敬礼しながらも困惑の色が顔に出ると隣に居るイブレが軽く笑い出したがすぐに笑うのを止めるとストブルに向かって説明する。

「エランは君が気に入らないとか不機嫌という訳じゃなく,いつもこんな感じだからね。今日一日だからあまり気にしなくても大丈夫だよ」

「……はぁ」

 何が大丈夫なのかと思わず考えてしまったストブル。かと言って何かを言う訳ではなくて敬礼を下ろして黙り込むので謙虚な姿勢を見せる。まあ,元から謙虚な性格かもしれないけどストブルは余計な言葉を発する事なく,今はただ成り行きを見守る事にしたようだがイクスが改め周囲の状況から察する事が出来る事を声に出す。

「それにしても朝っぱらからご苦労な事だな。けどこんなにも数がいるのか?」

 イクスの言葉にストブルは反応を示すが剣に話し掛けるなどという経験がない上に普通ならば話し相手がいないから剣に話し掛けるという根暗な印象がある為に少しだけ躊躇うが,先程からイクスが喋っているのだからストブルも出来るだけ普通の態度を意識してエランの背中にあるイクスに向かって話し掛ける。

「焼却の盗賊団がかなりの強奪品を貯め込んでいるのは被害者からの被害申告からして確かな事ですし,盗賊団の根城に馬車で行くには悪路が有りますから念入りに整備をして滞る事なく強奪品を持ち帰るのも我らの役目ですので手抜きなんて出来る訳が有りません」

 ストブルはそんな言葉を放つが言葉の裏には自分達が表立って動けないからこそ今は自分達が出来る事を精一杯やっていると言いたいのだろう。そんなストブルの心境がエラン達も分かっているがやっぱり気になるので今度はハトリが口を開いてきた。

「それにしてもですよ。既に勝った事を前提に動き出すなんて気が早いですよ,少しは様子を見てからという訳にはいかないですよ」

「さっきも話に出て来たように,それだけ領主様の信頼を得られたからこそエランが勝つ事を領主様はまったく疑っていないんじゃないかな。それに昨日はエランが騎士団を相手に実力を見せ付けたからね,ここまでされたんだから騎士団から文句が出るはずがないし,そもそもハトリだってエランが負けるなんて思ってもいないからね」

「はいはいですよ,その通りですよ」

 ハトリとしてはハツミの軍勢がここまで協力してくるとは思っていなかったからあの様な言葉を発したのだがイブレによって一蹴されてしまった。だがハトリの意見もあながち間違いでは無い。自分達では対処が出来ないから他人に任せるのだから最低限の協力はするモノの普通ならばあまり動かないというのが正論だろう。なにしろ任せた者が絶対に成功するとは限らないのだから。なので,どのような事情が有ろうとしてもエラン達が受けている待遇は例外と言える程に好待遇だし,エランを信じて朝からここまで動くのも例外で異例とも言えるだろう。まあ,こうなったのも昨日の時点でしっかりとエランが直に実力を領主であるラスリットと騎士団長のベルテフレに示した事が最大の要因と言える。だからハトリは気の抜けた返事をした。

 このような準備のお膳立てや根回しはイブレの役目なのを思い出したからだ。それを踏まえた上で考えるとストブルに対しても充分に吹き込んでいるのだろう,決して足手まといに為らないように。だからハトリはこれ以上の話は無駄だと思ってイブレに返事をした後は黙り込んだので,それを合図にした訳ではないがエランが口を開く。

「イブレ,そろそろ行こう」

「分かったよエラン。それじゃあストブル君,案内を頼むよ」

「はっ」

 イブレに言われて敬礼をするストブル。そんなイブレに続いた訳ではないがエランも口を開く。

「イクス,ハトリ,行くよ」

「はいですよ」

「さっさと行こうぜ」

 ストブルを急かしている訳ではないのだが,エランの癖みたいで自然とハトリとイクスに言葉を掛けてハトリとイクスもそれぞれに返事をする。けどストブルから見れば助かったとも言えるだろう。表情からは全く読めないエランが出発をする言葉を出したのだから,その言葉を聞いたストブルは敬礼を下ろして口を開く。

「まずは馬車に案内しますので付いて来てください」

 そんな言葉を発して歩き出したストブルの後に続いて歩き出すエラン達は賑やかな広場を後ろにして城門に向かって歩き出すと,すぐに城門に辿り着いたのでストブルは少しだけ城門を開けるとそのまま外に出てエラン達にも出るように促す。そして城門のすぐ傍には馬車が用意されていたのが目に映った。ストブルは城門を閉めると今度は早足で馬車に向かうとわざわざ馬車のドアを開いてエラン達が乗るのを待つ。随分と真面目というか謙虚さが出ている行動だが突っ立ていても意味はないのでハトリが真っ先に乗り込んでいる間にエランは背負っているイクスを手に持ってから馬車に乗り込むとイブレが続いて最後にストブルが乗り込んでから馬車のドアを閉めるとすぐに御者に合図を出して馬車を出す。

 馬車の中ではイクスを右肩に立て掛けているエランは走り出した馬車から外を見るとまだ静かな町並みが流れていくのを目にする。さすがに朝早くに出たのだから店などはまだ開いてはいないし,生活音もそんなに届かずにただ馬車が進む音だけがエランの耳に届いていた。

 石を敷き詰めて出来ている道を進む度に馬車は音を立てるが馬車に乗っているエラン達には微かに聞こえる程度の音しか聞こえてこないので町が静がだと分かる。なにしろ車輪が石に当たれば音が鳴り響くのは当然の事だから,その音が小さいという事は馬車はそんなに速度を出していなくてゆっくりと進んでいるのが分かる。まあ,こんな朝っぱらから騒音に近い速度で馬車が走り抜けても住民達に何かあったのかと不安にさせるのと同時にうるさくて迷惑だからこそゆっくりと進んでいる。エラン達もそれが分かっているからこそ何も言わずに黙って馬車に揺られて進むだけだった。



 馬車はハツミの南門を抜けると一気に速度を上げた。町の外に出てしまえば迷惑を掛ける相手なんていないのだから馬車に乗っているエラン達の負担にならない程度の速度まで上げて馬車は土の道を進んでいる。窓から外を見ると先程は町並みがゆっくりと流れていたが今では木々がかなり速い速度で流れていく。これだけの速度を出しながら馬車はそんなに揺れる事が無いのは路がしっかりと整備されているからだ。

 路は通商路として使われる事が多い為に横幅がかなりあってエラン達が乗っている馬車の三台分ぐらいはあるのですれ違いざまの事故なんてほとんど発生しないし,よほどの事がない限りは今のエラン達が乗っている馬車のように速度を出して進む事はない。速度を出すという事はそれだけ馬車が揺れるという事で人ならともかく荷物,特に割れる物などを積んでいるとなるとこんな速度で走るのは商品に損害を出す行為に過ぎないからだ。

 しばらくは森を両脇に見ながら馬車が進んでいくとすっかり暇になっている馬車の中では対面式の椅子になっており後ろの右側に座っているハトリは外を見ながら心ここにあらずという感じで,左側に座っているエランは目を閉じて眠っているのかも分からない程だ。そしてイブレはというと杖を身体の右側に預けて本を読んでいるが時折向かい側に座っているエランとハトリ,そして隣に居るストブルの様子を窺っている。すっかり呑気な雰囲気になっている中でストブルだけが緊張していた。

 なにしろこの馬車が向かっているのは自分達の軍勢を八回に渡って壊滅させた盗賊団の根城だ。それにストブルが案内役に選ばれたという事は八回目の討伐隊では偵察兵として焼却の盗賊団の実力を目の当たりにしているからこそ心には不安もあり,恐怖もあるからこそ緊張しているのだがエラン達があまりにも緊張感が無いのでストブルはエランの実力を聞いていても自分がしっかりしないと,と思ったのは自分の腕に多少の実力があると自負していたからだろう。

 馬車の車内ではそのような雰囲気になっていたが少しずつ速度が落ちていくのをハトリは目で見て,イブレは音で分かり,エランは感覚で分かった。速度が落ちて行くという事は目的地が近いという事だろう。ストブルも顔を動かして窓から見える風景で目的地が近い事を確認していた。そして馬車の速度は更に落ちて行き,遂には止まったので目的地に着いたのだろう。エランはイクスを手に持つ頃にはイブレも本を仕舞って今では杖を手にしておりハトリも下りる準備は出来ている。その中でストブルだけが未だに周囲を確認していたのでエランが馬車のドアを開けると勝手に下りてしまった。そんなエランに続くハトリ,目の前に座っていた二人が下りてしまったのでストブルも下りるとそこは確かに目指していた場所だった。

 最後に下りたイブレが馬車のドアを閉めると御者に合図を出す為に馬車を軽く何回か叩くと再び馬車は動き出してゆっくりと曲がり始めてエラン達が下りた地点とは丁度反対側の森に接する地点で止まる。そしてエラン達の前にも森が広がっているのだがエランは何かしらの違和感を得ながらも今は黙って案内役に任せる事にした。そして,その案内役は緊張の為か少しだけ深呼吸をしてから歩き出して,森の手前で止まるとエラン達の方を向いてから話し出した。

「ここが焼却の盗賊団に続く道になります」

 ストブルがそう言うとすぐにエランの背中から金属音が鳴り響いてから声が発せられた。

「確かに変な森だよな,なんか木が少ないように見えるぜ」

「ええ,その通りです」

 ストブルがそう答えるといつの間にか茂みを探っていたハトリがしゃがみ込んで両腕を茂みの中に突っ込むと立ち上がるのと同時に掴んでいた両腕を上げると茂みの一部も一緒に上に挙がっていた。そんな茂みを持ち上げながらハトリは口を開く。

「随分と適当に道を隠しているですよ」

「ってか,どうなってんだ」

「縦と横の支柱にその辺の草木を紐で縛り付けているだけですよ」

「うん,雑だな」

 最後にそんな感想を述べるイクス。その間にもイブレとストブルが道を隠している草木を退けると馬車が一台程だけ通れそうな獣道が姿を現した。深い森で分からなくなっているが馬車が通れるだけの木は根っこから排除されており,天井のように広がってきた木の枝が日の光を遮り,遠くに見える程に木々の幅は狭くなって道を消しているように感じさせるのは遠近法がなせる技と言った所だろう。

 出て来た道をエランは指さしながらストブルの方に顔を向けると口を開く。

「この道を真っ直ぐ行けば良いの?」

 そんなエランの問い掛けにストブルは少し慌てた様子で答える。

「確かにこの道は一本道ですが,盗賊団の入口は絶壁の崖を切り出して作った洞窟になってます。更に洞窟の周囲にあった木々は一掃されて見通しが良い草原が小さく広がっています。それと洞窟の入口には常に二人の見張りが居ますから,私達は途中にある脇道に入れば気付かれずに入口が見張れる小さな広場に出ます,なので作戦はそこで練りましょう」

「分かった」

 ストブルの提案にすんなりと承諾したエランにストブル自身が驚いていた。エランの実力はかなりのモノで騎士団の精鋭百人を相手に無傷で全滅させた事はストブルも聞かされていたので自分の意見を無視して一人で突っ込んで行くと思っていたが,ストブルの意見を聞いたという事は相手の意見を聞く耳をしっかりと持っているだけではなく,案内人であるストブルがここの状況に一番詳しいのだから意見を聞いた方が打てる手が増える事もエランは分かっているからこそ頭もしっかりと使う事が出来る事を示しているのだが,ストブルは未だにエランの性格を把握する事が出来ていないので,もの凄く意外に感じたが同時に安心もしていた。だからエランは道を空けてストブルに道を譲ったのでエラン達はストブルを先頭にして歩き出す。

 何をやるにしてもまずはストブルが言っていた脇道に入らないと話が進まない。そして歩きながらもストブルの言葉に耳を傾けて話をするエラン達,さっきもストブルが言った通りに脇道を進むと相手に気付かれず洞窟の入口を見張れる場所があり,そこでは三,四人程が野営が出来る程の広さがある見張り場所があるので,そこで敵の様子を探ってから作戦を練る事になった。だが脇道までに辿り着くまでもそれなりに歩くみたいなのでエラン達は黙って歩みを進めていると時間を持て余していたイクスが声を発して来た。

「それにしても随分と広い道だな,それに轍がしっかりと残ってやがるぜ。さっきの雑すぎて隠してるのかも分からない場所とか,隠そうともしない道には盗賊団の気配すら無いと来てらあ。ここまで来ると防衛心の欠片すらないから何を考えてんだか?」

「それだけ首領が持っているスレデラーズを当てにしている証拠だろうね」

 イクスの長過ぎる質問にイブレが簡単に答えたのでイクスが更に声を発する。

「んっ,どういう事だ?」

「焼灼の盗賊団としてはこんな所で無駄に犠牲を出すような戦いをするよりも,自分達の陣地になる洞窟に引き込んでから戦った方が数の差が出にくい。それにスレデラーズを持っているからには使わない手は無いからね,だからこんな場所から見張るなんて事をしていないと思うよ」

「なるほどな,確かに相手からしてみれば狭い洞窟内に引き込んだ方が戦い易いって訳だしな,それにスレデラーズがあるからには何かしらの策を備えているって訳だよな,ストブルの兄ちゃんよ」

「えっ! へっ! あの,はい」

 いきなり自分の名前が呼ばれるとは思っていなかったストブルは慌てて返事をしたモノだから言葉にするが精一杯の返事をするとイクスが面白そうに笑ったのでエランが口を開いてきた。

「イクス,暇なのは分かるけどやり過ぎ」

「ぎゃはははっ! そいつは済まなかったな。まあ,ちょっとした暇潰しだから大目に見てくれや」

「今回はね」

「さすがはエランだな」

「こうやってイクスを甘やかすからイクスが騒がしい程に五月蠅くなって迷惑になるですよ」

 エランがイクスに対して何もしなかったからハトリが抗議の声を上げるがすぐにエランが口を開いて反論をしてきた。

「確かにそうかもしれないけど,相手がスレデラーズだからこそイクスも感じてるモノが有るから,今回はイクスを制止するよりも思いっきり私と暴れられるように気分を高めて置いた方が良い」

「……分かったですよ」

 エランからそんな反論が来るとハトリも何かしら自分の中にあるモノをしっかりと感じてからエランに返事をする。まあハトリはハトリなりに気に掛ける程度では無くて心配にまで至る何かを抱いている,という事だろう。それをエランとイブレはともかくとしてイクスまでも分かったからこそイクスは仕方なく黙り込む事にしてエランとイブレは言葉を発しないままに歩みを進める。それから少し歩くとストブルは道の左側の方に寄って行くように前に歩き続けると何かを見付けたのだろう,エラン達がストブルに続いて道の左側に寄り添うように歩き続けるとストブルが止まったのでエラン達も歩みを止めるとストブルが森の奥を指さしながら口を開いてきた。

「ここが話していた脇道になります。見ての通りに獣道よりも狭い入口ですが少し進めば我々が道を切り開いて置いたので普通に歩けます。それとここから先はあまり騒ぐと盗賊団の見張りに気付かれる可能性がありますからお静かにお願いします」

「だそうですよ,駄剣は静かにですよ」

「クソガキから再度言われなくても分かってるよ」

「行くよ,案内をお願い」

 ハトリとイクスの会話を無視してエランはストブルに向かって先に進むように話を進めたのでハトリとイクスは短い一言で文句を言い表すだけで,それ以上の言葉を発する事が無かったからストブルは一安心すると目印と為っているマーズ領の印が入った布が縛り付けられている若木を見付けるとそれを右側に見ながら道とも言えない細い幅を丈の低い草木を掻き分けながら先に進むとすぐに両側の草木を切り揃えられているので邪魔は無いが道幅が狭い獣道へと出たのですぐにエラン達が進んでこられるように前に進むと最初にエラン次ハトリ,最後にイブレが獣道に姿を現したのでストブルは再度口を開く。

「それでは皆さん,ここからはお静かにお願いします」

 ストブルの言葉を聞いてエラン達が頷くとストブルは歩き出したのでエラン達も進み出した。木々からの木漏れ日が時折エランの姿を映し出すが風が木々を揺らしてすぐに木々の影がエランの姿を覆い隠してしまう。獣道に入ってから森の暗がりが強くなって行き,足下がやっと見えるぐらいで曲がりくねった道をエラン達は進んでいる。

 鬱蒼としている森の奥に入っただけあって照らす光が少ないがお互いの姿はしっかりと見えていた。森の奥に続くような獣道と言ってもまったく光が入らない訳じゃないので暗くても暗さに惑わされる程の暗さはなくて時折に差し込む光が周囲を明るくしなくても余計な影を一時的に消してくれていた。それでも獣道だから道が悪くて普通ならば足が取られて躓きそうになるが偵察で暗闇に慣れているストブルはともかくエラン達もそんな道に足を取られる事なくて定期的に曲がっている道を進んでいるとエラン達が進んでいる方向が徐々に暗さが無くなり明るくなって行った。

 ストブルが少しだけ足を速めて一気に進むがエランが歩く速度を変えなかった為に後ろに続くハトリとイブレも変わらない速度で歩き続けると道を抜けて光が少し差し込む何人かが座れる程の広さがある場所に出るとエランは真っ先に光が差し込む方へと歩いて行くとすぐに行き止まりになったので茂みに身を隠すように屈むと光の方を見ているとハトリとイブレも到着したのでストブルが小声で話し始める。

「ここが私達が使っていた監視場所です」

 ストブルがこれから説明を始めようと続きを話そうとする前にエランが口を開いてきた。

「確かにここからなら洞窟が見える。それにに見張りが二人,入口の両脇に立ってる」

 ストブルの話を信じていない訳ではないがエランの言葉を聞いてハトリも茂みに隠れながらイブレは木に隠れながら明るい方を確認するとストブルとエランが言った通りに木々の向こうには切り立った断崖絶壁が広がり,入口の横は溶けたかのように横に流れ込むような変わった形をしていたので自然に出来た事では無いのは分かる。そして入口には門は無いが綺麗な縦長のアーチになっておりエラン達が居る所では,さすがに洞窟の入り口しか見えないので奥の方は全く分からない。

 エラン達が集まっている所から洞窟まではそれなりの距離が有るのは見れば分かる程に分かりやすい。木々が少し邪魔だが洞窟の入口はしっかりと見えるがここからだと少し小さく見えるし見張りの二人も顔がしっかりと見て取れない程の距離だからこそ相手にも気付かれないがこちらからも特に見える物は無いがあるとすれば洞窟の前に広がる小さな広場に雑草が広がっているぐらいだ。

 焼却の盗賊団が根城にしている場所にしている所をそれぞれに見ると今度は意見を交わす為にエランがストブルの元へとやって来たので自然とハトリとイブレもストブルの元に行くが少し考えればそれが普通だと分かる。ないしろストブルは焼却の盗賊団の情報を持っているのだから。ストブルも情報をエラン達に伝える為に全員が集まった所でここからは洞窟の前に居る見張りには気付かれないと思うが念を入れてストブルは小声で話し出したのでエラン達も小声での会話が始まった。

「洞窟に入れば基本は一直線です。もちろん途中で脇に逸れる道が何本も有りますけどその道は盗賊団が工夫しており,罠に掛けるのではなくて侵入を防ぐ為の頑丈な扉で閉められるようになってます」

「つまり脇道は侵入を防ぐ為ではなくて自分達が移動し,追跡してきた敵を入れない為に有る訳だね」

 イブレがそのような意見を言うとストブルは一回だけ頷いてから再び話し出す。

「なので脇道を進む意味は有りませんが脇道から敵が出てくると思ってください。我々も詳しく調べられた訳ではないですが,道はかなり入り組んでいて盗賊達は当然ながら洞窟の内部を充分に熟知しているからこそ脇道を使って前後から襲い掛かってきます。なので気付かれずに内部に入った方が良いかと思います」

 ストブルが自分の意見を言い終わるとエランが即答する。

「却下」

「なっ! あっ,……」

 エランの言葉に思わず声を荒げてしまったストブルだがすぐに自分を取り戻して静寂を保とうとした。けれども最初からエラン達が居る所から見張りが居る所はかなり離れている上に森の木々が音を消してくれたので見付かるはずが無かった。それが分かったストブルは安堵したように息を吐くと今度は鋭い眼差しをエランに向けながら口を開いて言葉を出してきた。

「意見を棄却した理由を教えてもらえますか?」

 見た目からして不機嫌になった事が分かるストブルにエランは頷いてから自分の意見を聞かせる為に口を開く。

「内部が正確に分からないなら見張りの二人を一気に倒して内部に侵入しても脇道を使って移動してもいつかは見付かる。見付かったからには内部を熟知している敵に囲まれるのは必然,そのうえ私達は内部が分からないからにはどこを目指せば良いのかも分からない。だから下手に侵入して内部を探し回るのは見付かった時の不利が多いだけじゃなくて取り返しが付かない」

「……確かに言われてみれば,その通りです。ではエラン殿はどのようなお考えを」

 エランに言われて自分の作戦が穴だらけな事を指摘されても動揺すらしないからストブルもそれなりに頭がキレる方なのだろう。そんなストブルが今度はエランに意見を求めるがエランは意見では無くて質問を口にする。

「その前に討伐隊が全滅させられたという事は洞窟の内部に討伐隊が入る程の空間が有ると思って良いの?」

「はい,洞窟を入ってから一直線に進みますとかなり広い場所に出ます。広さからして千人は入りそうな広場です。ここからは推測ですが今までの討伐隊は前後から挟まれただけではなく,後ろから猛烈に攻め立てられて広場に押し込まれたのかもしれません。なにしろそこの広場には盗賊団の首領であるカイナスが待ち受けていて,スレデラーズを振るう事を楽しんでいるようでしたから」

 ストブルの話を聞いて少し考えるように左手を左の頬に当てると口を閉ざして沈黙する。その間にイクスなりハトリが言葉を発しそうなモノだが,さすがに敵の根城を前にしてそこまでふざける事はしない。だからハトリとイクスは黙ってエランの意見を待つのと同じくイブレとストブルも今は黙ってエランの考えがまとまるのを待つが,そんなに時間は掛からなかった。エランは左手を離して地面に付けるとストブルに向かって口を開いた。

「奥に有る広場には首領のカイナスが居るのは間違いない?」

「えっ,あっ,はい,それは間違いないと思います。どうやらカイナスはスレデラーズの力を部下にも見せ付ける事で盗賊団を維持してますから,奥の広場はさしずめカイナスのステージ,もしくはカイナスによる処刑場ですね」

「ステージに処刑場か,随分と面白い表現だね。だけど的をしっかりと射ているのは間違いないね」

 黙っている事に飽きたイブレがそんな事を言ってきた。というよりもこの時点でイブレにはエランの考えが分かったからこそ,このような事を言い出した。だからエランも言葉を続ける。

「ステージだろうと処刑場だろうと関係ない。そこにカイナスが居るのなら,そこまで行って倒せば良いだけ」

「それは」

 ストブルが反論しようと口を出してきたがイブレが手を邪魔するように差し出して黙るように促すとストブルは渋々ながら引き下がったので今度はエランに手で話をするように促したのでエランは自分の考えを話す。

「まず奇襲を掛けて見張りの一人を倒す,そしてもう一人には中に私達が来た事を知らせてもらう。そうなれば血の気が多い盗賊達が出てくるから私達は盗賊達を倒しながら洞窟を一直線に進んで広場に出た所でカイナスを倒せば盗賊達は四散するから,後は後続の兵士達に倒してもらう」

「さすがにそれは無茶では,焼却の盗賊団に加わっている人数は私達も把握していませんし,そんな人数を相手にしてスレデラーズを相手にするなんて無謀とも言えますよ」

 声を荒げそうになるストブルだが現状をしっかりと把握して自分をしっかりと律する事が出来ているからこそ,なんとか平静を保って小声で話す事が出来ているストブルだが内心ではエランの策は無茶を通り越して無謀とも言えると思っているから,このように自分が平常心を失わないよう気を張っている。そんなストブルの心もしっかりと見抜いているイブレがストブルにストレスを掛けない為に口を出してきた。

「確かにこの人数で突っ込むのは無謀だろうね。けど,こっちにもスレデラーズがある上にそのカイナスという人物はプライドが高いだろうからね。引っ張り出すにはこれ以上の手はないだろうね」

 最初はエランの意見を否定する言葉を発したイブレだが途中から話が切り替わって,ストブルにはすぐに理解する事が出来なかったので今度はエランが口を開く。

「挑発,たった数人で根城に攻撃を仕掛けて相手に傷を負わせる所か自分達がやられっぱなしとなれば黙ってはいられない。なにしろ自分達はハツミの軍勢を全滅させたという事実が自信に繋がってるから,討伐隊より少ない人数で乗り込まれて良いようにやられていて黙っていられないから出てくる。部下が見ている手前だからたった一人で私と戦わないといけない,それだけ」

「……」

 エランとしては自分の考えを全て伝えたつもりだろうがやはり今一つストブルには伝わっていないようなのでイブレが補足説明の為に口を開く。

「カイナスはスレデラーズを使ってハツミの軍勢を全滅させた,という自慢が有るからこそ自己満足の自慢を傷付けるような事は許せない,と怒らせる事が出来るだろうね。僕達はハツミの軍勢とは比べ物にならない程の人数だ。そんなたった四人に攻め込まれただけじゃなく,倒すどころか押されてはカイナスのプライドは面白い事になっているだろうね。だからこそ自分のプライドを守る為に,そして部下に自分の強さを改めて示す事で更なる統制を図ろうとするのは当然だね」

「なるほど,エラン殿の考えは分かりましたが,それでも数の問題はどうしますか。こちらはご覧の数ですよ,この数でカイナスを挑発するだけの戦いを」

「出来ますよ」

 ストブルの言葉を遮ってイブレは言い切った。そんなイブレにストブルは鋭い眼差しを向けるがイブレは微笑んで流してしまう。そんなイブレが続けて口を開く。

「エランは全力を出さなくても貴方達の精鋭を相手に百人の兵士をを倒しましたよ,ついでに言わせて貰えればハトリの力も確認しておくべきでしたね。そうすれば今頃はこんな話をしていないでエランがさっさと行動を起こしている事は間違はないでしょうね」

 イブレがここまではっきりと言い切った事もあるがやはりエランが模擬戦でハツミの精鋭を倒した事も大きくストブルの心を大きく揺らす事になったが,イブレのエランは全力でハツミの精鋭を倒した訳ではない,ハトリの力も確認すべきという言葉が引っ掛かった。いや,正確に言うとイブレの言葉を信じてみたくなったと言った方が正確だろう。

 ストブルはハツミの軍属だからこそエランの事は聞いていても実際に見ていた訳ではないし,イブレにここまで言われると逆にエランの実力を見てみたいという願望さえ芽生えてきた。そのうえ戦えるのかさえ分からないハトリが居るので自分がどうすべきなのかを考えると全てを納得した訳ではないが信じるだけの価値はあると,それに自分が提示した作戦ではエランによって看破されて仕舞ったのだから覚悟と決意を決めて判断したストブルは口を開く。

「分かりました。エラン殿の作戦で行きましょう」

「分かった,行くよ,イクス」

「やっとかよ」

 文句を言いながらもイクスが鞘から飛び出ると半回転して右上に挙がっていたエランの右手に握られる。それから周囲を見回したエランは焼却の盗賊団が根城に使っている洞窟に顔を向けながら口を開く。

「それじゃあ,見張りの一人を倒してくるから,合図をしたら来て」

「はいですよ」

「分かったよ」

「……えっ」

 エランの言葉にしっかりと返事をするハトリとイブレだがストブルだけが今一つ状況の理解が追い付かない為に声を上げるだけになった。そんなストブルを無視してエランはイクスを手にしながら跳び上がると上に挙がる勢いが衰えないうちに木の幹に片足を掛けると再び跳び上がった。同じように何度か跳び上がるとエランは太くて丈夫な枝を見付けるとそこに着地する。

 エランが着地した枝はかなり上に有り,目の前には日光を取り入れようと木々の葉っぱが覆い茂っているのでエランの位置からは葉っぱが邪魔をして目的の位置が見えないからこそエランは前方に広がる枝を見る。そして丁度良い所を見付けるとエランは軽く身体を上下に揺らして枝をしならせると反動を利用してイクスを前にして腕を組みながら葉っぱの中に突っ込んで行くと邪魔な葉っぱはすぐに無くなり薄暗い中に狙い定めた枝を見付けると着地した衝撃で枝が上下に揺れるが,エランはすぐに次の着地地点となる枝を探していたが,すぐに見付けただけではなくてこのまま木の上を移動する為の枝を選定してエランには空中を進む為の道が見えた。

 エランが順調に枝から枝へと移動しながら前進するとすぐに洞窟の前に広がる広場とは言えないが雑草が広がる場所を見下ろせる木の枝に到着した。ここから先にはもう木は無いので森との境目にまでエランは辿り着いていたがまだ見張りとは距離が有るのでエランは森との境目になっている木の枝の上に立つと周囲を見回した。

 エランが居る木から飛び降りて近づけば見張りは気付くだろうが仲間を呼びには行かないだろう。なにしろ見た目は可憐な少女に見えるエランに警戒をするはずがない,その事はエラン自身も分かっているからこそ奇襲を掛けるにはここから攻撃を仕掛けるしかないのだが,前に進む為の木はもう無いのでエランは雑草が広がる場所を越える為に今度は上を見ると,エランが乗っている木はまだ上が有り,一番上には丈夫な枝が五つの方向に向かって伸びていたのでエランは奇襲を掛ける手段を決めた。

 身体を軽く上下に揺らしただけでエランが乗っている枝が音を立ててしなるが,エランが立てている音は流れている風が持って行った為に見張りには全く届かなかった。そして枝が下から上に跳ね上がるのと同時にエランも上に向かって跳び上がる。それから枝伝いにドンドンと上に行くとすぐに木の一番上へと辿り着いた。木々がひしめく森の中で背が高い木の一つを足下にしているのだから見える景色は壮観で流れる風は心地良い程に弱くエランの肌を撫でるように過ぎ去っていく。そんな木の一番上に立った居心地を満喫したエランは洞窟に伸びている枝を進むと先端近くで止まって口を開く。

「そろそろ行くよ,イクス」

「おうよ,ド派手にかましてやろうぜ」

 頷いたエランは乗っている枝の上で軽く跳びはねると枝が木が鳴くように独特の音を立てるのと同時にエランが乗っていた枝も上下に動き出した。エランは上下に動く枝の動きに合わせるように何度も同じ場所で跳びはねていると枝が最もしなった瞬間,つまり枝が一番下を向いた瞬間にエランが着地した。

 タイミングは合った。そう確信したエランはイクスを右肩に乗せながら一気に膝を曲げる。そして次の瞬間にはしなっていた枝が元に戻る為に上に戻る力と合わせて前方に向かって一気に跳び出す。エランはすぐに下を確認するとそこに落ちるように体勢を変えてからイクスを振り上げる。後は放物線状に飛んでいくように思えるが高い木の上から勢いを付けて跳んだのだから普通ならば見張りを通り越して崖にぶつかりそうなほどの勢いでエランは跳び出したのだが,エランがイクスを振り下ろした瞬間だ。放物線状に跳んでいたエランが突如として真下に向かって急降下を始めた。

 イクスを振り下ろした瞬間にここまでの変化を出せたのもイクスの力とも言えるだろう。それにこういう事が出来るからこそイクスはスレデラーズの一本に数えられているのだ。そんなイクスの力が発動して急降下していくエランの影が見張りの一人に覆い被さるので影とは知らずに急に暗くなった事に見張りは自然と上を見上げた瞬間,肉と骨を引き裂いたような音が鳴り響くのと同時に何か重い物が上から落ちてきたような轟音が響いたのでもう一人の見張りが音に驚いて耳を塞ぐが,すぐに音が鳴り止んだので音が響いてきた方を目にした。

 知っている人物が自分と一緒に見張りというつまらない役目に就いていた筈だったが今では知っている人物は居なくなり,代わりにエランがイクスを振り下ろした格好で立っていたので見張りは何が起こったのかはすぐに理解が出来なかったが,自分の知らない人物が目の前に居るのだから言葉に詰まりながらも自然と言葉が出る。

「だ,誰だ,お前は」

 見張りの声を聞いたエランは振り下ろしていたイクスを軽く持ち上げて腰ぐらいの位置まで持ち上げると見張りの方に顔を向けて口を開く。

「敵」

 短すぎる返答に見張りが戸惑うが落ち着きを取り戻してきた見張りはエランの前に倒れている者にやっと気が付いた。文字通りに頭から一直線に切断された身体が,先程まで一緒に見張りをしていた者が仰向けになって倒れていただけではなく真っ二つになって血を流しながら切断面からは内蔵が溶けるように落ち始めていた。そんな惨状を目にして再び驚きながら声を上げる見張り。

「な,なっ,なんだっ! お前がやったのかっ!?」

 混乱に近い状況でやっと声を上げる見張りにエランはイクスを突き付けると口を開いて短い言葉を発する。

「そうだけど」

「なっ! こんなっ! なんで!」

 短すぎる言葉に見張りは更に混乱した。まあ,いきなり仲間が真っ二つにされて斬った本人が平然と静かに口を開いては短い言葉しか発しないのだから混乱するのも当然ともいる。エランもそれが分かっていたからイクスを見張りに突き付けた。そしてイクスもエランの考えが分かっているからこそ威勢の良い声を発する。

「さあっ! お前のお仲間は見ての通りに真っ二つに斬られてぶっ倒れてるぜっ! 次はお前が真っ二つにされたいかっ! それとも逃げ帰ってお仲間に助けを求めるか選びなっ! 俺達はお前達ほど非道じゃないから少しは待ってやるよ,ここで死ぬか逃げて助けてもらうかっ! さあっ! 選びやがれっ!」

「ひぃっ!」

 イクスの啖呵を斬った言葉に見張りは情けない悲鳴を上げるのと同時に手にしていた槍を落として,よほどイクスの言葉が怖かったのか膝を震わせながら最初はゆっくりと洞窟の中にエランを見ながら入って行く,そしてエランからある程度の距離を取ると腰が抜けそうな格好で走り出した。発狂したかのような声を上げながら。

「敵だーっ! 敵襲ーっ! 敵襲ーだっ!」

 不格好ながらも洞窟の中に走って行き,なんとか声を絞り出して敵襲という単語を繰り返す,よほどエランが恐ろしく見えてイクスの言葉が恐怖を誘ったのだろう,洞窟の入口から少し離れているエランにも未だに声が聞こえているのだから。何にしても見張りを一人倒して,もう一人に自分達の存在を中の盗賊達に知らしめたのだから奇襲は成功したと言っても良いだろう。だからこそエランは次の行動に出る。

 イクスを右肩に預けると振り向く事をしないままエランは左手でこちらに来るように手招き? 手を下から上に上げる動作を繰り返しているから手招きなのだろう,こちらに来るように合図を出しながら今度はエランが洞窟を見張る,もちろん敵が来たらすぐに動けるようにだ。だが,そんなエランの気遣いも杞憂に終わったので洞窟から何も出てこないままにハトリ達と合流した。するとすぐさまハトリが口を開いてきた。

「さすがはエランですよ,とは言っても本番はここからですよ」

「分かってる,そっちは?」

 エランが短い質問をするとイブレが代表するかのように洞窟に歩み寄りながら口を開いてきた。

「ハトリはもちろん,僕達もいつでも行けるよ。ストブル君も大丈夫かい?」

「えっ,あっ! はいっ!」

 遠くから見ていたから分からなかったからこそストブルはエランが斬った死体を目にして驚いていたが,イブレに呼びかけられてすぐに自分のやるべき事を思い出したストブルはしっかりとした返事をする。それでも内心では,こんな事をあっさりとやってのけたエランに驚きを通り越して恐ろしさすら感じていたが味方として助力してくれている事をしっかりと理解しているからこそ頼もしくも思えた。そんなエランが洞窟の前に立つとゆっくりとイクスを右肩から下ろしてから言葉を発する。

「なら,行くよ」

「はいですよ」

「久しぶりだ,思いっきり暴れてやろうぜ」

「それじゃあ,僕達もエランに続こうか」

「はっ!」

 エランの言葉を皮切りにそれぞれに言葉を発するとエランを先頭にして洞窟の中に足を踏み入れて行った,スレデラーズの使い手を目指して倒す為に。こうしてエランに任せられた焼却の盗賊団討伐作戦は幕を開けた。




 はい,そんな訳でお送りした第八話ですが,まあ,これで盗賊達との前哨戦に為っていく訳ですが,それは続きの第九話からお送りします事になりましたね~。

 それにしても,何というか,私としては今回の話もこんなに長くするつもりは無かったんですけどね~。何か知らんけど,最近の私が書いている小説は普通に長くなっております。ちなみに今回の第八話も約二万字です,二万までは行かなかったんですけど,もう少しだけ長くなっていたら確実に二万字を超していたな~。と思ってしまう程に長くなってしまいました。

 さてはて,これを投稿した日はクリスマスイブ,なので今回の話が貴方へのクリスマスプレゼント……ってな事はないわっ!! っと,丁度クリスマスに更新が出来たのでネタにしてきたけど,面白さを求めないようにしてくださいな。私に笑いのセンスを問われても困るだけだし,そもそもそんなセンスは持ってないですよ。

 まあ,何にしても無事に投稿が出来て良かったです。今年の更新はこれで最後になると思います。なにしろ……第二章の設定資料を作ってるからねっ! いやはや,この設定資料が第三章にもかかわってくるので長くなる長くなる。なので設定資料を作りながら,もしくは第二章のプロットを書きながらの年越しとなりそうですね。まあ,何にしても今年中にここまで出来たのは良かった……かは分からないですけど,私なりに頑張った年でしたと言えるでしょうね。

 さてはて,何かいろいろと長くなって来たのでそろそろ締めますね。

 ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございました。そしてこれからもよろしくお願いします。更に気長に更新を待って頂いたらありがたいのでお付き合いが出来る方は気長に更新をお待ちください。

 以上,季節の変わり目で体調が目早く変わる中でなんとか頑張った,というより,今年の私は頑張ったぞと自分を褒めながらも褒めてくれる方も募集している葵嵐雪でした。

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