第四章 第二話 霧のち再会
白い霧の向こう側でエランと少女との戦いは続いていた。エランが回転を加えて威力を上げると少女も同じように回転して威力を上げて,そのままぶつかり合いエランは思いっきり力を加えるが少女の大剣は全く動く事はない。だからこそエランが退くしかないのだが,少女はしっかりと追撃を加えてくる為に更に攻撃してくるので,エランはイクスを振って移動して何とか回避する。
イクスの切っ先に重心を置いて後は遠心力で回避する行動は少女も使ってエランを追撃に使っていた。少女も大剣を振って切っ先を重心に移動すると今度は自分を重心にして回転するとエランに向かって大剣を振ってきた。それに対してエランも対抗して横に一回転しながら勢いを付けてイクスを振り抜こうとするが,お互いに空中に居るのでイクスと大剣がぶつかり合い,勢いのままに相手を弾き飛ばそうとするが互いに拮抗し合う。
少しの間だけお互いに押し合うとエランから離れる事と成った。なにしろ相手はかなり大きな剣だけに遠心力で乗る力も大きいから,いずれはエランの方が吹き飛ばされる事が分かっているので,その前にエランが退いた形と成る。なのでエランが後方に一回転する時には少女の大剣がエランが居た所を通り過ぎていた。そこからお互いに一回転して再びイクスと少女の大剣がぶつかり合う。
今度はすぐに退いたエランは再び後方に移動するが,少女はそんなエランの動きを予期しているかのようにそのまま大剣を振り抜き様に一回転して,再び勢いを付けるとエランを捉えて大剣を振り出していた。それに対してエランは対抗する術はなく,何とかイクスで受け止めるが勢いに持って行かれて,そのまま弾き飛ばされてしまった。再び白い柱に激突したエランはそのまま床へと落下する。
何とか受け身をとる事が出来たエランはゆっくりと起き上がると,少女はエランがしっかりと見える位置に着地しており,そのままエランが起き上がってくるのを待っているように何もしてこない。エランもそれが分かっているからこそ呼吸をしっかりと整えてから立ち上がる。そして戦いを続けるようにイクスを構えると少女も大剣を構える。
今度はエランの出方を待っているかのように立ち続ける少女,それに対してエランはかなり迷っていた。あれだけの大剣で同じ戦い方なら相手の方が威力と攻撃範囲に優れている,その一方で速度と移動速度はエランの方が優れているが,こうも一方的にやれているのは経験の差だとエランは分かっていた。それでも戦い続ける事が求められているからこそエランと少女は戦い続ける。
出方を待っているのならこちらも待っていても仕方ないとエランから仕掛ける。少女に向かって駆け出したエランは途中で左に一回転して勢いを付けると,そのまま一気に斬り掛かるが,少女が持っている大剣は少女よりも大きいのでイクスが向かって来る方向に立て掛けるだけで充分な防御力を発揮した。なのでイクスは簡単に弾かれてしまった。そして今度はこちらの番と言わんばかりに少女が一気に動き出す。
少女は高く跳び上がると一気に右手だけで大剣を振り上げた。その動作だけでも攻撃が来るのが分かるのでエランは一気に駆け出して,狙いを付けられないように動き続ける。それでもある程度だけ狙いを付けて少女は一気に大剣を振り下ろすと,大剣がエランの後を通過するついでに切っ先が床を擦り,摩擦で少しだけ火花が飛び散った。それでもエランは動き続ける,次の攻撃こそ本命なのだから。
少女は自分を軸に一回転して勢いと空中での安定を得ると,今度は殆ど狙いを付けずに大剣を一気に床に叩き付ける。普通なら人の力では持ち上がらないと思える程に大きな剣を一気に叩き付けたのっだから,その衝撃は凄まじいモノでエランは動きを止めるしかなかった。しっかりと踏ん張って居ないと衝撃に吹き飛ばされてしまうからだ。
その間に少女は床に足を付けたら床に叩き付けた大剣を自らの右肩に乗せて衝撃で動きを止めているエランに目を向けると,既にエランは動き出しておりイクスの間合いにまで近づいていた。そこから更に回転して威力を高めようとするエランだが,回転している途中で少女の大剣とイクスが衝突してエランは空中で態勢を崩してしまう。そして次の瞬間には少女の蹴りがエランの腹を捉えていた。
思いっきり蹴り飛ばされたエランは床を何度か転がり,再び床に伏せる事に成り,蹴りを食らった衝撃で咳き込む。それでも少女はエランに追い打ちを掛ける事なく,唯々見守るように軽く微笑んでいた。そしてエランは呼吸を整えると何事もなかったように立ち上がると再びイクスを構え,少女も大剣を構える。
だが,次の瞬間には白い霧が濃くなっていく中でエランと少女は共に動き出し,再び戦いを続ける。そんな白い霧の向こうでエランと少女は斬り結びを続けるのだった。
窓から朝の零れ日が差し込んでくる中でエランは目を覚ますとゆっくりと起き上がって周囲を見回したら,見慣れぬ風景にイクスだけが有ったのでエランはイクスに向かって口を開く。
「おはよう,イクス」
「おはようさん,ってか,どうした。随分と妙な顔をしてやがるぜ」
「……昔の夢を見た」
「そりゃまたど,いや,忘れた方が良いぜ」
「無理」
「だろうな,まあ,だからどうしたと割り切って行こうぜ」
「うん,そうだね」
「って,言っても簡単じゃなさそうだな。気分転換に風呂に入るか甘味でも食べるのはどうだ」
「ならお風呂に行く」
「あいよ」
「何の話ですよ?」
イクスと喋っている間にハトリも起き出してきたのでイクスから説明すると,ハトリは二度寝するから,お風呂から出て来たら起こしてと伝言だけ伝えて再び布団に包まれるとエランはイクスを持ってお風呂へと向かった。
朝の心地良い中で入るお風呂は確かに気分転換に向いており,あの夢の中に広がった霧の向こう側について少しずつ忘却の彼方に送っていく。だが,そんなエランも心で思う,夢は夢,けど祈り願っていた夢には違いないと。そんな気分転換が済むとエランには珍しく短時間でお風呂を出る。
脱衣所から部屋に戻るとハトリは既に起きており,朝日を軽く浴びながら紅茶を片手に小説を読んでいた。どうやら目が覚めて二度寝が出来なかったらしい,エランはイクスを部屋の隅に立て掛けるとハトリの所に向かう時には既にハトリがエランの為に冷たい紅茶を煎れていた。
円卓の椅子にエランも座るとハトリが煎れてくれた紅茶で火照った身体を冷ますのと同時に心が落ち着いてくる。そしていつものように勝手にイクスとハトリがいがみ合いだして賑やかに成っていくのを,エランは心地良く見守っている事にした。そして朝食の前にエラン達は身仕度を調える時,ハトリに注意深く観察された為に昨日買った髪飾りをしっかりと付けてからイクスを背負う頃にはハトリの荷造りも終えたので,まずは食堂へと向かっていく。
少し遅い時間となったのか食堂には人はまばらで空席が目立つ為に,エラン達は空いていた席へと座ると店員が注文を取りに来たので,それぞれに注文するとすぐに無料提供している飲み物が運ばれてきたのでエランは紅茶を,ハトリは珈琲をそれぞれ頼むと店員はそれぞれに飲み物を出して下がっていく。そこからはイクスも含めて会話が弾むと穏やかな一時が流れる。
朝食が運ばれてくるとエランとハトリは料理人と食材に感謝する言葉を口にしてから,朝食を口にする。食事の間だけ静かにするイクスを余所にエランとハトリは朝食を平らげるとしっかりと食後の甘味までしっかりと味わってから宿の受付へと向かう。
今までの宿泊費をハトリがしっかりと払ったら宿を後にし,昨日イブレと約束した城門へとエラン達は向かう。そして城門付近にまで近づくと何故か城門ではなく,外に食事場がある喫茶店でイブレは優雅にお茶を堪能していたのを見つけたので,エラン達はイブレと合流する為に喫茶店の席に着くと注文を取りに来た店員にハトリは珈琲だけ,エランはしっかりと甘味と紅茶を注文して店員が下がっていくとイクスから喋り出す。
「っで,イブレさんよ,お前はこんな所でなに茶なんてしばいてんだ」
「あははっ,出発する前に少しエラン達と話したくてね」
「歩きながらでも出来る話ですよ」
「まあ,そうなんだけど,ゆっくりとした場所の方が良いと思ってね」
「自分がゆっくりとしたいと思うだけですよ」
「ここはハトリと同意見だな」
「まあ,否定はしないかな」
「しないのですよっ!」
「しねえのかよっ!」
同時に言葉を発したイクスとハトリに対してイブレは面白いとばかりに笑うと,すぐにいつもの微笑みに戻ったら話も戻す。
「実は黒き死神を調べさせていた者達からの連絡が途絶えたんだ」
「相変わらず謎の人脈が有るですよ」
「あははっ,これも情報収集の一環だからね。それで話を元に戻すと」
「その黒き死神にやられちまったって事だろ」
「そう,イクスの言う通りだと思ってる。なにしろ相手が相手だけにそれなりの前金を出して雇った者達だけど,一人残らずやられるとは考え難い程のやり手だけど。連絡が途絶えるって事は,そういう事なんだろうね」
「というか,いったい何を調べさせいたですよ」
「まずは外見的な特徴,つまり容姿だね。それとスレデラーズかもしれない武器に付いて,実際に戦闘が可能なら戦ってどんな力を使ってくるかを報告する予定だった。けど自分達の力を過信したのか,黒き死神を過小評価したのか,戦いを挑んで全滅というのが濃い線かな」
「ってか,全員で一気に攻撃して反撃を受けただけって事はねえだろうな」
「それはないだろうね,なにしろ成功報酬として雇っていた者達だから数人は報告の為に隠れて見ている事に徹していたはずだからね」
「つまり隠れていた連中も見つけて一緒にやられたって事ですよ」
「そういう事だね。けど,これで一つだけ分かった訳だね」
「何がですよ?」
「黒き死神は相当な実力者って事だよ」
「まあ,イブレが雇った連中なら下手を打たねえと思うが,それでも全滅したって事はそういう事だろうな」
イクスがそんな結論を出すと注文していた物が届けられてエランは早速とばかりに甘味を口にし,ハトリは珈琲で頭を動かそうとする。そしてイブレは話を再開する。
「さて,ここまでの相手となると相当な準備が必要に成ってくる。今までのように実力で奪い取るとしても,周囲の目を気にしないと行けないし,エランも本気を出さないと勝てないような相手だからね。いろいろと策を練らないとだね」
「裏工作の間違いですよ」
「もしくは隠蔽工作だな」
「まあ,間違いではないね」
「開き直ってやがるですよ」
「あぁ,呆れる程な」
「あははっ,まあ戯れはここまでにして,僕としては相手がかなりの実力者ならエランも本気で戦わないといけない。けど,スレデラーズ同士がぶつかり合えば周囲にかなりの影響を与えるからには,そこも考慮しないとだね」
「確かに俺様達が全力を出さないと行けない程なら場所を考えねえと,野次馬が集まってきても仕方ねえからな」
「まあ,その程度なら僕としては考える必要が無いんだけど,エラン達の全力なら周囲に集まった人達を巻き込むのは確実だからね。だからと言って周囲を気にしながら勝てる相手じゃないのは確かみたいだね」
「確かに私が守っても守りきる事は出来ないですよ」
「エランと俺様はそれどころじゃねえってか」
「うん,話を聞く限り」
「だから少し困っているという訳だね。場所を考えないとエラン達が本気で戦えないし,黒き死神がそこまで気にしてくれるとは限らないからね」
「要は出たとこ勝負とはいけねえって事だな」
「そうだね,黒き死神が気を利かせてくれるような相手なら,こんな心配は要らないんだけどね」
「けど今の所はそれも分からないですよ,だから今は情報が欲しいって事じゃないのですよ」
「それはこんな所で呑気にお茶なんてしてるなって意味かな?」
「そこまで分かっているのなら出発したらどうですよ」
「それはエランにも言うべきじゃないかな」
「まだ食べてる途中」
そう言ってエランは食べかけのガトー・オペラを再び味わいだした。エランがこんな状態なら仕方ないとイクスとハトリは話題を変えてイブレとの会話を再開させて,朝の賑やかな一時を過ごしていく。
エランがやっと甘味を食べ終わると全員が席を立って,イブレがエラン達の分まで支払いを済ませるとやっと城門に向かって歩き出す。そして城門を抜けると道が整った街道へと出て,エラン達が目指すのはこの国の王都に向かって歩み出した。
道が整っているだけに歩きやすく成っており,周囲が草原に成っている為に風が起きやすくエランの髪を持ち上げるように風が通り抜けると,エランは咄嗟に髪を押さえて草原の風を感じる。白銀色の髪が日差しを浴びて細かな光を散らすと風は柔らかく成り次第にエランの髪が落ちて行く。なのでエランは多少ながら髪がなびいている中を歩き出す。
旅路とも言える進みは順調で,その日は夕暮れ前には宿場村に着いて数少ない宿の一つを取る事が出来た。夕食を村の酒場で済ませてエラン達は宿に戻るとそのまま部屋へと戻っていく。そしていつも通りにエランが先にお風呂に入ってハトリはその間に小説に目を通していると,数時間後にはエランがお風呂から上がったのでハトリが次に入ると風で身体に付いた埃をしっかりと洗い流す。
ハトリがお風呂に入っている間にエランは冷たい紅茶で身体を冷ましながら,ハトリが用意していた甘味を口にする。こうした配慮が有るという事は路銀にまだまだ余裕が有る事を示していた。そうしてエランがのんびりとしているとハトリがお風呂から出て来る。ハトリは髪をしっかりと乾かすとエランと向かい合うように座るとエランはハトリの分まで紅茶を煎れて出したら,ハトリも冷たい紅茶で身体を冷ます。
その後しばらくはイクスも含めて会話が弾み,エラン達はのんびりとした時間を過ごす。そして夜が更けて闇夜が広がるとエランとハトリは寝台に向かい,それぞれに眠る前に挨拶をして,エランはハトリを抱き枕のように腕を伸ばして軽く抱くように手を置くと意識を眠りの煙と共に舞い上がるのだった。
翌日,窓から入って来る朝の零れ日に誘われるように目を覚ますエラン,目の前には未だに寝息を立てているハトリの姿が有り,エランがゆっくりと身体を起こすと周囲を見回してから口を開く。
「おはよう,イクス」
「おはようさん,しっかりと眠れたみてえだな」
「うん」
イクスと挨拶を交わしているとハトリも動き出して目を覚ましたら,そんなハトリにもエランはいつものように挨拶を口にするとハトリは眠そうに挨拶を返す。それからエランは窓の布掛を開くと朝日を思いっきり浴び,ハトリは脱衣所にある洗面台で顔を洗ってしっかりと目を覚ます。それからエランとハトリはそれぞれに身仕度をして,準備が出来ると部屋を出て下に行くと,小さな食堂に成っている所でイブレが既に起きていたので,それぞれに挨拶を交わすと一緒に朝食を口にする。
朝食を終えるとイブレとハトリはそれぞれに宿代を支払うと宿を後にして途中で昼食用の食料を買い揃えると次の宿場町を目指して村を後にする。村を出てしばらくすると右手に森が広がり,左には草原が広がる道を進んで行く。やがて日差しが高くなるとエラン達は草原で買っておいた昼食を済ませてから,再び王都へ向かって歩き出す。
今日もこのまま次の宿場町に向かって順調に歩いている時だった。エランが突如として歩みを止めると,かなり珍しく驚いたような表情を見せる。そしてエランは確認するようにイクスに話し掛ける。
「イクス,この気配って」
「あぁ,間違いようがねえ。確実にあいつらだ」
イクスの言葉を聞いた瞬間にエランは森に向かって駆け出していた。低木や高い草を避ける為に木から木へと跳んで行くエランに,ハトリとイブレは何事かと思いながらもエランの後を追う。だがエランは急ぐように森の中を進んで行く,そして確実に感じていた相手もこちらに向かって来るのを。だからこそエランは更に急ぐように森の中を進むと開けた場所へと辿り着いたら,目も前には高い崖がある場所で上を見ると見慣れない縦長の袋を背負っている驚いた表情をしている少女の姿を目にする。
少女はエランと同じ服装をしているが色は黒く,これもエランと似ている軽装の黒い鎧を身に着けているが,腰の部分はかなり特徴的で縦長の二等辺三角形をしている腰当てを身に着けている。そして何よりも目を引くのはエランと似ている容姿だが,髪と瞳は黒く背中には袋だけはなく巨大すぎる剣を背負っていた。
鞘の形からイクスと同じ片刃の剣だと分かるが身幅がかなり広い,背負っている少女の肩以上も長くなっている。そして刀身の長さはイクスと同じぐらいに長い。とても抜けるような大きさの剣ではないがエランはその剣が抜ける事を良く知っている。
エランと似ているが崖の上で腰まで伸ばしている黒い髪をなびかせながら,エランと同じような黒い衣服と鎧を身に着けて,その黒い瞳はしっかりとエランを見て驚きの表情を見せている。そんな少女を見上げてエランは懐かしい少女の名を呼ぶ。
「ユウリエ……姉さん」
ユウリエと呼ばれた少女はその言葉で我に返った様に頭を振ると,少しだけ鋭い眼光に成ると崖の上から下りてきた。ふわりと浮かぶ黒髪が黒耀のように煌めく,そんなユウリエが纏う雰囲気もエランと同じモノで,どこか神秘的で幻想的な雰囲気を出していた。そしてエランの前に降り立つとイクスが喋り出す。
「まさかこんな再会をするとはな,テメーらには聞きたい事が有るんだよ,ガンギ」
イクスがガンギという名を出すと少女が背負っている剣から声が発せられる。
「相変わらずのお喋りだなイクス」
「テメー程に静かじゃねえとこは変わってねえからな」
「だったら少しは静かにしたらどうだ,お互いの片割れが戸惑っているぞ」
「そっちこそ相変わらず指摘が多いんだよ,大体テメーらは何でこんな場所にいやがる」
「その質問はそっくり返すわよイクス,それとガンギも少しは黙ってて」
「ユウリエ,テメー」
「了承した」
ユウリエの声を聞いたエランはやっと我に返るといつもの無表情へと戻り,イクスと同じく喋る剣を持っているユウリエをしっかりと見詰める。エランとしては聞きたい事が多過ぎる為に何から話そうかと言葉が出ない状況だが,ユウリエはそんなエランを見ながら話を進めてくる。
「久しぶりね,エラン。それでエラン,貴方はこんな所で何をやっているの?」
「……」
ユウリエの質問に沈黙で返すエラン,それはただ答えられなかっただけじゃない,答える為には大量の言葉が必要だからだ。そんなエランを分かっているのかユウリエは溜息だけを付いて,話を続ける。
「そういう所も相変わらずね。まあ,いいわ,要点だけをまとめて言いなさい」
「それは」
エランが何かを言い掛けた途端にエランの後に有る茂みがざわつくとハトリとイブレが姿を現すのと同時に二人とも驚きの表情を浮かべ,それぞれユウリエの名を口に出す。
「ユウリエ,お姉ちゃん」
「ユウリエっ! どうして君がっ!?」
ハトリとイブレの姿を見てユウリエは再び驚いた表情に成るが,すぐに納得したように何度か頷いて状況を整理する。その間にもエランはユウリエに対して何から話すべきかを考えていた。そしてユウリエから話を切り出す。
「なるほど,イブレが居るのならそこそこ見当が付くけど,どうしても納得が行かない部分が有るわね。さて,エラン,何故『剣の楽園』を出てこんな場所に居るのか説明しなさい」
「話すと長くなる」
「構わないわ,私はそれが聞きたいのよ」
「その前にユウリエ,僕の質問に答えてくれないかい」
「お断りよ,話が有るのなら別の機会にして,今はエランと話しているんだから。それにエラン達から聞いている事は本当よ,これでイブレも納得するでしょ」
「それは無理だね,僕はその理由もしっかりと聞きたいのだからね」
「理由ね,それは全て主の為にやった事よ」
「ユウリエっ! 君は」
「お説教は結構,これは私達の決断だからイブレが口を出す事じゃないわ。そうでしょ,イブレーシン=シャルシャ。それに私は未だにエランから何も聞いてないわ,それなら今度はこちらの番じゃないかしら。そうよね,正式名称エランイクスエス,この世にたった二本しかないスレデラーズの一本なんだから」
「っけ,そんな正式名称なんて知ったこっちゃねえんだよ。黒のスレデラーズ,ユウリエガンギエスさんよ」
「ふふふっ,本当にイクスは変わっていないわね」
少し楽しそうに笑うユウリエは,こうしたやり取りに懐かしさを感じていたが,今はエラン達の事を聞くのを最優先として余計な会話を止めていた。そしてエランはユウリエが言った事をしっかりと聞き取っていた。そう,スレデラーズはイクスだけじゃない,エランとイクスを合わせて一本のスレデラーズなのだから。だからエランイクスエスが正式名称と成っている。それはユウリエ達も同じだ。
ユウリエとガンギと呼ばれた剣,ガンギエスはエラン達よりも先に作られたスレデラーズだからこそ正式名称はユウリエガンギエスと成る訳だ。そしてエランとハトリから見れば確かにユウリエは姉なのだ。だからこそイブレの事も詳しく知っている,ユウリエもまたイブレとは太い繋がりが有るのだから。そしてユウリエが言った事は確かな事だ。
スレデラーズは正式には二本しか存在しない,つまり三十本も有る訳ではなく,エランイクスエスとユウリエガンギエスの二本を正式なスレデラーズと呼ぶのだ。そして,その事はエラン達とイブレはしっかりと知っている。だがエランから見れば,三十本の方もスレデラーズと呼べるから,今までその様に呼んおり,これからもそれは変わらない。だからこそエランはスレデラーズを集める旅に出ている。だが突然すぎる再会に戸惑っているのも確かだ。
エランがここまで戸惑うのも無理はない,なにしろエランが旅をしている目的の一つとしてユウリエ達が含まれているからだ。だが,ここまで突然な再会に今は唯々戸惑っているエランを無視するように生まれた謎は一つずつ紐解かれて行くのだった。
さてさて,やっっっっっっっっっっっっと,ユウリエ達を登場させる事が出来た。ユウリエ達の存在は最初から設定を作っていたのですが,今までの話が長引いた事も有り全く登場させる事が出来なかった。けどやっと登場させる事が出来た事により,本当にやっと登場させる事が出来たので一安心しております。ってか,やっとここまで来たな,と安堵しております。
さてはて,……いやはや,長かった,ここで来るのが長かったよ。まあ,それはさておき,いよいよ様々な所で置いておいた伏線を回収する事が出来ます。次回ではいよいよエラン達が秘めている最大の謎が語られる事になります。スレデラーズとは何なのか,そしてここで出て来た剣の楽園とは。なにより正式名称としてのエランイクスエスとは。そしてユウリエを姉さんと呼ぶ理由とは,様々な伏線を回収する事になります。いや~,ここまで長くなるとは思っていなかったからユウリエ達の登場が遅れたので,ここからは一気に急展開としたいですね。
さてさて,何かいろいろと書いていたら長くなって来ましたので,そろそろ締めましょうか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そして,これからもよろしくお願い致します。更に評価と感想もお待ちしております。
以上,この文字数でこの期間での更新なら私は頑張っていると胸を張って言える葵嵐雪でした。




