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白銀妖精のプリエール  作者: 葵 嵐雪
第三章 バタフライフェザーカノン
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第三章 第二十八話 開戦

 ブラダイラ王国軍が戦場に到着するが,当然ながらフライア帝国軍とは距離を取り本陣を築き上げる。その間に一応ながらも警戒するが心配は両軍共にしていないのは規律を重んじる騎士だからこそ行いと言える。到着したばかりの敵を急襲する事や相手の位置が知れているからと奇襲を奇襲を掛ける,等と卑怯な真似は両軍共に矜持に関わるので,その様な行為が行われるはずがない。

 戦略的観点から見ても行ったとしても,そんな事を行ったとしても全くと言って良い程に価値は無いどころか相手を奮起させて士気を高めるだけで何の益も無いのでやるはずが無いのだ。その為にブラダイラ軍の本陣は到着した夜には完成しており,遠くからその様子を遠目で見ていたエランも明日に備えて自分の天幕へと帰っていた。

 夕食を食べ終えたエランは抜き身のイクスを手に取り天幕に備え付けてある小さいがしっかりと肩まで浸かれるお風呂を満喫していた。こんな風にエランがお風呂に入れるのもロミアド山地が近い事が理由となっている。なにしろお風呂のお湯はロミアド山地から流れ出ている川から引いて水源を確保しているからだ。もちろん,それはエランの為で無く砦を作る為に必要だから行った事でエランの天幕に備え付けたのはついでだ。

 ついでと言えどもエランの機嫌を取れるからとスノラトが進言したのでフォルグナーはスノラトの進言を実行に移して,ついでに他の天幕にも同じような設備を幾つか取り付けた。だからエランだけが特別扱いという訳ではないのだ。だがエランにとっては風呂が有る事は充分過ぎる程に満足していた。そんな風呂に浸かりながらイクスがエランに話し掛けて来る。

「それでとうとう敵さんが到着した訳だな」

「うん,けど私達のやる事は決まってる」

「だな,まあ相手も相当スレデラーズを使い熟している訳だし,ちったあ苦戦するかも知れねえけど俺様達には勝てねえよな」

「イクス,慢心は禁物」

「へいへい,分かりやしたよ。まあ,久しぶりに手応えがある相手だからな,こちとら気合いを入れるとするか」

「うん,久しぶりに全力で戦う事に成ると思った方が良い」

「そこまでの相手か?」

「少なくとも戦場で何度もフライア軍を撃退しているのは事実,それを考えれば実力は持ってる」

「そうだな,しかも遠距離攻撃に特化した剣だからな。そういうのを相手にするのは初めてじゃねえが,それ以上に厄介な奴らに比べれば少しはマシってもんだろ」

「そうかもしれない,けど今の私達には無い力だから注意」

「わ~ってるよ。それに久しぶりに最高の食事だからな,今から楽しみだな」

「うん,イクスはそれを楽しみにしていて」

「あぁ,言われるまでもねえ。……そういや,剣を喰った後はどうするんだ」

「戦況によって,また旅に出る時機を決める」

「まあ,そうなるわな。上手くフライア軍が勝ってくれれば楽に出られるからな,その辺も含めてイブレの野郎に任せて構わねえんじゃねえか」

「うん,そうだね。でも少しは戦う事に成る」

「実力は五分五分って事か,それなら俺様達が暴れねえといけねえが,その根拠は何なんだ」

「前回の戦いで撤退する流れが見事」

「戦う事よりも素早く的確に撤退する方が難しいからな,それをやってのけた相手だから兵数の差が有っても対等に戦いを繰り広げるって事か」

「うん」

「しかもブラダイラ軍名物の弓兵が揃っているからにはフライア軍も早々攻め立てるとは出来ねえって訳か」

「弓に弓で対抗するとは思えない,だから別の手を打つ」

「確かにな,ブラダイラ軍の弓兵といや厄介この上ない相手で有名だかな。撃ち合いでは勝てるのは思わねえだろうな,となれば重武装だな」

「うん,多分そうなる。それで被害を抑えるしかない」

「けど接近さえすれば一気に押せるって訳だ」

「そう,後は私達が横を突ければ一気に崩せる」

「まっ,そこまで上手く行くとは思わねえが今はスレデラーズに集中しようや」

「うん」

 会話を終えて小さな水音だけが時折鳴る浴室でエランは満足が行くまで身体をお湯につける。エランの長風呂が終わると今度はハトリが浴室へと入っていったので,エランは水出しの紅茶で暖まった身体に染み込ませる。そんなエランの耳に静寂さが聞こえて来ると,敵を前にして平然としているフライア兵に首を傾げるのだった。



 静まり返っているフライア軍の陣営内でスノラトはフォルグナーと話をしていたのは,戦いの事も有るが個人的にもいろいろと話を聞いて欲しかったからだ。フォルグナーはそんなスノラトの話に笑みを浮かべて楽しげに頷いていた。するとスノラトから突如として質問が出て来た。

「そういえばフォルグナー様,ブラダイラ軍が到着すると兵達に何かを言い付けていましたけど,どのようなご命令を?」

「大した事ではないわ,別働隊が夜に偵察を行うから敵に覚られないよう陣営内に居る者は息を潜めよと命じただけよ」

「別働隊の偵察など私は聞いていませんが」

「ふふふっ,そう怒らない怒らない。本当は別働隊なんて居ないのだから」

「嘘なのですか,その様な嘘を広めた理由をお聞きになっても?」

「構わないわよ。本当の目的は兵達をしっかりと休めさせる事,明日からの戦いはスレデラーズ同士の戦いと同じぐらい将兵達の戦いが重要に成ってくるわ。けど休めと言って休める程に強固な精神を持っている者だけじゃない,なら静かにするように命じて自然と休ませる方が兵達も休めるというモノよ」

「確かに,これだけ静まり返っていれば兵達もしっかりと休めるでしょう」

「それに本当は居ない別働隊の存在よ。こちらが秘密裏に斥候を出しているという話が広がれば攻めているのと同じなのよ,自分達が陰で先制攻撃をしていると思うだけでも兵達はかなり安堵するでしょうからね」

「なるほど,言われてみればその通りです。しかし,そこまで兵達に気配りが出来るのは流石です」

「そう難しい事ではないのよ,スノラトだってやれば出来るわよ」

「いえ,私はまだまだフォルグナー様には及びません」

「相変わらず謙遜が過ぎるのね。まあ良いわ,どんな形であれ見る事で貴方が成長するのなら私としては満足よ」

「はっ,お心遣いに感謝致します」

 丁寧に頭を下げるスノラト,それは尊敬の念だけではなく感謝の意まで含まれていた。そもそもスノラトはこのようにフォルグナーを見て成長して将軍にまで昇ったのだ。だからこそスノラトの兵達に対する細やかな心遣いはフォルグナー譲りとも言え,フォルグナーもそうした姿勢から様々なモノを汲み取っていくスノラトに目を掛けたのだ。そうした二人の師弟関係にも似ているが,それとも違った意味を二人は見出している。そしてそれが始まったのはスノラトが頭角を現し始めてからだ。

 スノラトは階級が上がるとフォルグナーの側近という役目を与えられてた。その時の年齢から言ってまだまだ見習いでもおかしくはないが,スノラトの文武は既に指南役を越えて評価されたので,また騎士の家系という事も有り当時は将軍だったフォルグナーの側近に取り立てられた。そこでスノラトはフォルグナーから多大な影響を受ける。

 指南役すら越えたスノラトだが,フォルグナーを前にしてはまだまだ未熟だと思い知らされた。剣技一つ取ってもスノラトはフォルグナーに勝てた事はない,それどころかいつも謙虚で物腰が柔らかく部下達にもきめ細かい配慮をするとフォルグナーの所作から学ぶ事が多かった。なのでスノラトは自然とフォルグナーを慕うようになり,フォルグナーも自分に懐いてくるスノラトを自然と妹のように可愛がった。そんな二人の関係はフォルグナーが上級大将に成っても変わらず,結婚した時はスノラトは心の底からフォルグナーを祝福した。それでもスノラトはフォルグナー側近で有り続けた。

 スノラトからして見ればフォルグナーの立場や環境が変わっても尊敬する人物で有る事には変わりがなかったからで,だからスノラトはフォルグナー側近として将軍の仕事と責任を覚え,加えてフォルグナーの兵達に対する心遣いも自然と身に着いた。スノラトが兵達にだけではなくエラン達にも出来るだけ対等に扱ったのは,こうしたフォルグナーの影響が大きかった。そしてスノラトに将軍就任の命が下された。

 今までフォルグナーの側近として目立った武功を上げてこなかった為に,最初は新米将軍として兵達に顔を背けられたスノラトだが初めての戦場に辿り着く頃には細かい心遣いを見せて兵達の心をしっかりと掴んでいた。そしてスノラトは将軍となってから初陣で多大な武功を上げたが,謙虚な姿勢を崩さずに兵達に譲るように取り計らったのでスノラトは更に兵達から慕われるようになった。そして同じ将達に語る,どうやったらここまでの功績を挙げられるのかを,その度にスノラトはフォルグナーの存在について語るのだ。

 将軍となって尚フォルグナーへの節度と礼儀を忘れないスノラトに将兵達から自然と慕われるように成ったが,経験が無い事が大きく響いてくる。そんな時にスノラトにロミアド山地での味方を救援するように勅命が下ってエラン達と出会った。そして今に至るという訳だ。だからこそ二人は楽しく,そして真剣に今度の戦いについて話し合う。

「それでフォルグナー様,此度はどのように戦うつもりなのでしょうか?」

「相手はあのテリングですからね,それに戦場の一角ではスレデラーズ同士をぶつけるのなら戦場は限られます。それにヘルレスト草原は見晴らしが良過ぎるので下手な策は打てない,ならば正面からの正攻法を取るしかないと相手も思っている事でしょう」

「そうなると重要なのは戦略ですか?」

「ええ,ブラダイラ軍は主力として弓を射かけてくるでしょうが,そこを逆手に取りたいところですね。ですが,そう簡単には行かないでしょうね」

「今までもロミアド山地でかなりの痛手を被りましたからね」

「今回は上から仕掛けてこないだけでも良いとしましょう,後はこちらの強みを活かすだけですよ」

「となると……騎馬ですか?」

「それを出すのは後々,最初は守りに徹します」

「では重装歩兵を?」

「それも後々,最初は弓と弓です」

「っ! それではあちらに分が」

「えぇ,分かっています。それはそうとスノラト,貴方は自分でエランさんの実力を試したのですね」

「えっ,あっ,はい,そうですけど」

「どうでした,エランさんの実力は?」

 突如として話が変わって困惑するスノラトだが,今はフォルグナーを信じようと聞かれた事を答える。

「スレデラーズの使い手として,かなりの実力を持っているかと」

「ですよね,ならば賭けてみるのも良い筈ですよ」

「賭け,ですか?」

「えぇ,此度の戦場はそこまで異様だという事です。ならば相手に乗って賭けに出るのも悪くはない手です」

「……私には分からないのですけど?」

「ふふふっ,そうでしょうね。こんな戦場は今後二度とは無いかもしれませんから,だからこそ異様な戦場に成るのですよ。まあ,たまにはこのような経験の良いかもしれませんね」

「……フォルグナー様,からかっています」

「ふふふっ,さあどうでしょう」

 楽しげに笑うフォルグナーにスノラトは大きな溜息を付いた。そんなスノラトの脳裏に昔の事が思い浮かぶ,それはフォルグナーの側近をしていた頃の記憶だ。以前にも似たような会話が有った事を思い出し,その時のフォルグナーも楽しげに笑っていた。だから自然とスノラトも二人は楽しげに会話を続けるのだった。



 その頃ブラダイラ軍でも大規模な軍議が開かれていた。各軍団から将達が集まりテリングが立案した作戦内容を詳しく聞いており,その中にはイズンの姿が有ったが如何にもつまらなそうにしており話などは全く聞いておらずに退屈そうに自分の髪をいじっていた。そもそもこのような場にイズンが居る事が珍しく,それだけでこの戦いが重要と分かるのだが当のイズンには分かっていないしテリングもまた分からせようとはしなかった。

 イズンの態度に誰も声を挙げないのは前もって他の将達にはイズンを引きずり出す事は伝えており,その態度にも目をつぶるように言っておいたからだ。なので軍議は流れるように進んで行ったが,テリングの作戦内容について説明が終わるとこの為に呼んだイズンへと話を振る。

「さてイズンよ,フライア軍としてもスレデラーズ同士を戦わせたいと思っているからには,白銀妖精の居場所を分かり易く示してくるだろう。だから最初は本陣直近に居てもらうが白銀妖精の居場所が分かり次第に出てもらうぞ」

 説明めいた言葉を聞いてイズンが当然とばかりに言葉を返す。

「改めて言われなくても分かっているわよ,それよりも私の邪魔をしないようにしなさいよね」

「無論だ」

 その事は先程の説明に含まれていたのだが,話を聞いていなかったイズンは念を押して来たのでテリングは改めてイズンの言葉を肯定する。

「こちらとしてもスレデラーズ同士の戦いに兵を裂く気は無い,それはフライア側としても同じだろう。だからお前は白銀妖精だけを倒せば良い」

「それが終わったら帰っても良いのよね」

「好きにするが良い」

「流石は軍務将相,話が早くて助かるわ。ここに居る雑魚とは大違いね,まあ久しぶりに本気を出せる相手だし,確実に首は取ってあげるわよ」

 イズンの言葉に将達が一斉に鋭い視線を送るが当のイズンは気にする事無く,当然の様に平然としている。それでも将達から声が出ないのはテリングからイズンの態度に目をつぶるように言っておいた事が大きい,だから不平不満どころか矜持に関わる事でも将達は何も言おうとはしない。そんな将達の心境が分かっているテリングが会話を続ける。

「その自信は結構だが,今回は相手もスレデラーズを持っているからには決して楽に勝てる相手ではないぞ」

「まるで今までスレデラーズの力だけで勝っていたような言い方ね」

「実際にそうであろう,今まではスレデラーズの力を放つだけで敵軍は吹き飛び退散して行った。流石は万の相手をしても勝てるスレデラーズと思っておったが,白銀妖精もスレデラーズを使うからには勝敗を決するのはスレデラーズを持つ者同士に実力と成るのは必然。これでも今までのように勝てると言えるのか?」

「言えるわよ,今までも私がスレデラーズを使っていたから勝てたのよ。そもそもこのバタフライフェザーカノンを使えるのに私がどれだけ努力したが分かってるのっ! 普通の剣じゃないスレデラーズを使えるように成るのに私は必死だったのよっ! この剣を手に取った時からねっ!!」

 流石にテリングの物言いが頭に来たようで,最後には怒鳴るように言葉を放つイズンに対してテリングは動揺も笑みも浮かべず,今まで通りに淡々と話を続ける。

「なるほどな,確かにスレデラーズは普通の剣ではないからには相当な鍛錬が必要なのだな」

「ふんっ! 分かれば良いのよ」

「だが白銀妖精も相当な鍛錬を積んでいる程と報告が上がっているからには激戦に成るのは当然だぞ」

「それがどうかしたのよ,要はその白銀妖精に勝てば良いだけでしょ。最初から気に入らない白銀妖精の話を聞かされてこっちは頭にきてるのよ」

「ほう,それは初耳だな。そんなに白銀妖精に執着しているのか」

「執着じゃないわよ,貴方達に分かるとは思わないけど白銀妖精なんて可愛らしく愛らしい異名なんて私に似合うのよ,私に。それをどっかの小娘がそう呼ばれて頭にきてるのよ,どうせ実力なんてたかがしれているのに鼻に付くったら有りはしないわ」

「ふむ,そこまで言うのならば白銀妖精を相手にしても余裕で勝てるという事だな」

「当然でしょ」

「分かった,ならば戦が始まって白銀妖精の居場所が分かったら,即刻知らせを向かわせるので出てもらおうか」

「えぇ,そのつもりよ」

「では,イズンよ。其方は明日に備えて英気を養うと良い」

「そうさせてもらうわ」

 少し険しい表情で席を立ったイズンは無言の将達を無視して,そのまま天幕から出て行きしばらくの間だけ軍議が開かれている天幕に沈黙が広がるとトジモから口を開いていた。

「流石ですねテリング将軍,ここまで上手くイズンの士気を上がるとは」

「こうでもしなければイズンは白銀妖精を見下したままやられる可能性が有るからには,喜んで憎まれるのも悪くはない」

 その言葉を聞いて他の将達も軽く笑いながらテリングを褒め称える。あそこまでイズンを手玉に取る事が出来ただけでも,集まった将達には痛快だった。なので軍議はしばらくの間だけ賑やかに成ると,一頻り楽しんだところでテリングの言葉が場の雰囲気を厳粛なモノに戻すと再びテリングが話し出す。

「さて,作戦は先程の説明通りだが何が起こるか分からないのも戦場だ。各自様々な想定して明日からの戦いに挑んで欲しい。特にイズンが勝てば良いが,下手をすると我らが白銀妖精と戦う事に成る,その事も含めて戦に挑め,良いな」

『はっ』

「では軍議はここまでにする,各自戻って明日の為に英気を養え」

 軍議の解散が告げられると各将達は一斉にテリングに敬礼をしてから各々天幕から出て行く。そして最後に出たテリングはふと空を見上げると,そこには雲一つない星空が広がっており,その広大さに自分が飲み込まれる感覚を得るテリング。それだけ明日の戦いが重圧と成ってのしかかってくるのだろう,そんなテリングが尤も心配しているのはスレデラーズ同士の戦いだ。

 イズンが勝てば他に杞憂は無い,だがイズンが負ければエラン達を相手にしないといけない。それがどういう事なのかをイズンとバタフライフェザーカノンの力を見てきたテリングとブラダイラ兵は良く知っている。それを考えると今回ばかりはテリングもイズンの勝利を願わずにはいられなかった。だが,イズンが負けると今までに経験した事も無い一方的な戦いに成るのではと不安が残る。そしてそれは兵達も感じている事だからテリングは改めてスレデラーズの強大さを思い知る。

 一振りで戦争を決着させる事が出来ると言われているスレデラーズ。味方であるウチは頼もしいが敵と成れば厄介どころの出来事ではない,この上なく全滅という事も有り得るのだから。それを見てきたテリングにとって正にエラン達との戦いは今後を左右する戦いなのは確かで有り,勝敗によってはブラダイラ王国は大いに衰退する可能性すら有るのだから負ける事すら許されない。それを肌で感じながらテリングは夜闇を自分の天幕に向かって歩いて行く。

 一方,その頃エラン達はというと寝言地が良い布団に包まれて寝息を立てていた。そんな様子をイクスは見守りながら,明日の戦いが楽しみで刀身の中から熱くなるのを感じていた。このようにそれぞれ明日の戦いを控えてそれぞれに休みに付くと闇夜は朝を連れ戻し,遂に戦いの幕が上がろうとしていた。



 両軍とも準備を終えると敵軍に負けないように陣形を成していく,そして両軍共に横陣を取りヘルレスト草原に総勢十九万もの兵が隊列を成していく。そしてそれが終わるとどちらが先に動くかと各軍の将達は総大将からの命令を待っていた。そんな中でエラン達は左翼より更に離れてた左側にイブレが率いる少数の兵達と共に白銀妖精の旗を後に抜き身のイクスを手にしてた。そして戦いが始まる前にイクスが喋り出す。

「おっ,そろそろ始まりそうだな」

「うん,戦場ならではの雰囲気が出来てきてる」

「さ~て,俺様達も存分に暴れようとしようぜ」

「イクスは精々敵に惑わされないようにするですよ」

「あん,どういう意味だ?」

「今度の剣は長距離に特化した剣ですよ,エランと合わせないと失態が見えるですよ」

「既に失態しているように言うんじゃねえよ。それにそれぐらいはわかってら,使い手が誰でもスレデラーズだからな」

「まっですよ,分かってれば良いですよ,分かってればですよ」

「二度も同じような事を言うんじゃねえよ」

「イクス,ハトリ,そろそろ準備」

「へいへい,分かったよ」

「はいですよ」

 ハトリへの文句を遮られたイクスは気持ちを切り替えてエランの言葉を待つ。そんなエランは呟く様にイクスに告げる。

「イクス,オブライトウィング」

「はいよ」

 イクスが白く発光すると翼が生えて別の剣へと変貌する。そして完全にオブライトウィングに変わるとイクスから光が消えて,翼が大きく羽ばたくと幻影のような羽根が宙に舞い地に落ちる前に消え去る。そして続け様にエランが呟く。

「抜刀,フェアリシュレット」

 エランの中で剣が抜かれると,剣は天を衝くように垂直に成ると続いてエランは白銀色の光りに包まれる。白銀色の光はエランの背中から強い光放ち徐々に膨らむと一気に弾けてエランの背中から白銀色の翅が生えるように見えた。それは蝶の翅みたいに白銀色で紋様を刻み込まれていた。そしてエランを包んでいた白銀色の光が消えるとイブレが話し掛けて来た。

「準備は出来たみたいだね」

「うん」

 エランの返事を聞くとイブレは視線をフライア軍の方に向けながら会話を続ける。

「どうやらあちらも始めるようだね」

「こっちもいつでも大丈夫」

「まあ,後は敵さんが来るのを待ってようや」

「それよりもイブレは大丈夫なのですよ」

「問題は無いよ,エラン達の戦いを邪魔する者が入れないようにする準備は整ってるからね。それとかなり大規模にやるからハトリも入らないようにね」

「はいはい,分かっているですよ。仕方ないからイブレ達を守ってやるですよ」

 こうしてエラン達の準備が終わる頃にはブラダイラ側も動いていた。

 斥候の報告で見慣れぬ旗が有る事が報告されテリングが自ら望遠鏡を持って旗を確認すると,明らかにフライア軍が白銀妖精の位置を知らせる旗だと分かった。なのでテリングはイズンに伝令だけを出して白銀妖精の元へと行かせる準備を整えた。こうしてスレデラーズ同士の戦いにも準備が整い後は戦いを始めるだけだ。そしてフライア軍から動き出した。

「中央の三軍と四軍は前進,敵が攻めてくるまで攻め上がれっ! 左右,両翼からも作戦通りに二軍と五軍を前進,決して急くなっ!」

 中央から動き出したフライア軍に対してブラダイラ軍は敵が動いたと言う報告だけですぐに兵を動かす。

「両翼を前進,敵と接敵しそうな場所は足を止めろっ! 距離を保ちまずは矢を浴びせてやれっ!」

 フォルグナーとテリング,それぞれに命令を出して兵達は命令通りに動いていく。フライア軍は中央を動かしたのに対してブラダイラ軍は両翼を出して来る。一見するとフライア軍の中央が包囲されるように軍を進めているが,両者に敵の動きが報告されたのはほぼ同時だった。それでもフォルグナーは命令を撤回する事無く中央を進め,テリングは何かしらの罠が有るのかと警戒するがこちらも命令を撤回する事無く兵を進める。

 徐々に両軍の先方が近づいてくると,まるで示し合わせたかのように両軍が止まると新たに動き出す。フライア軍は外側に重装歩兵を並べると歩兵と同じ程の大きさと厚さがある盾を並べ一列後は,外側に並べた盾よりも軽く小さい盾を上に向けるのと同時にブラダイラ軍は一気に弓を射かけてきた。まるで空を覆う黒雲のようにフライア軍に矢が降り注ぐが,その殆どが重装歩兵達の盾に阻まれたのだが,数十本に一本は重装歩兵の身に着けている鎧の隙間に矢が刺さり,中には当たり所が悪い者は矢に倒れるがすぐに後の兵が前に出て壁を作る。

 一方的に攻撃をしていると感じていたブラダイラ軍だが,それの束の間で何とフライア軍から矢が放たれてブラダイラ軍の弓兵達が倒れて行く。それでもブラダイラ軍の将は弓兵に矢を放つように命じるのは,ブラダイラ軍の弓兵は練度が良いので放たれた矢が散らばる事は無く,まるで一塊と成ってフライア軍に降り注ぐからこそ重装歩兵を射止める事が出来る。

 戦局から見て包囲に近いフライア軍が不利に見えるが,矢を止める重装歩兵が外側で壁と成っているので,そのまで不利というわけではない。その一方でブラダイラ軍は壁が無いために矢が当たりやすそうだが兵達を広げているので損害はそこまでではなかった。だが矢を射かける為に距離を取ったためにフライア軍の弓兵までは届かない,フライア軍も重装歩兵を壁とするために弓兵が多い訳ではない。つまり戦局は五分五分,そしてこの程度の想定はフォルグナー,テリング共に読んでいた展開だ。だからこそ二人とも大きく兵を動かす事はなく矢の応酬が続く。

 初戦が弓勝負と成る事にテリングは少しだけ驚いたが,すぐにフォルグナーの意図を察していた。そのフォルグナーも読まれている事に気付いてはいるが,それでも弓勝負を挑んだのだから退きはしない。なので戦局がここから膠着状態と成り,互いに少しずつ損害を出しながら戦いは続く。そしてフライア軍の中央が動くのと同時にエラン達も前に出ていた。とは言っても敵の右翼に近づかない程度に距離は取っている。そんな中でエランは静かに戦局を見ていた。

 こうしてヘルレスト草原での戦いは開戦へと至ったのだった。




 さてさて,いよいよ二回目の戦いが始まりましたね。前回の戦いと違って最初からかなり大規模な動きと成っておりますが,どうなる事やら。それと同じくエラン達の戦いも始まりそうなので,何というか大いに盛り上がって行きたい所ですね。

 さてはて,それにしても二章続けての戦争モノですからね,まあ,その方が盛り上がると言えば盛り上がるけど,そろそろ飽きてきたのも確かですね。……私がっ! 何にしても無事にそれなりに期間で投稿する事が出来たので一安心しております。まあ,次の最終章とも言えるので,かなり盛り上げていきたい所ですね。

 さてさて,全く関係が無いのですが……人を集めるのが難しいと感じている今現在。いやね,ディコードでワイワイと騒ぎながらゲームをやりたいけど,なかなか人が集まらなくてね。小説を書いては気分転換にゲームをやってるけどディスコの方には一人二人居れば良い方というのが現状だからね~。募集は掛けているけど全然集まらねえ,と愚痴って見ました。さてはて,全く関係が無い話をした所でそろそろ締めますか。

 ではでは,ここまで呼んでくださりありがとうございます。そしてこれからも気長によろしくお願いします。

 以上,次に収入を得たら地球防衛軍6をチートでやるかと思っている葵嵐雪でした。



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