第三章 第二十四話 新たなる幕開け
ロミアド山地での戦いはフライア軍にとって想定以上の功績を挙げる事になり,そしてそれを成功させたエラン達とヒャルムリル傭兵団は一番の功績者として帝都へと報告される事に成った。スノラトはカセンネ達が戦利品を漁っていた事を知っていたが咎めないようにしたらしい。
エラン達とヒャルムリル傭兵団は徹夜明けという理由を付けて,その日のうちに山頂近くの本陣に帰るように命じられた。そしてフライア軍はブラダイラ軍に快勝した喜びをそれぞれ口にして喜び合っていたが,スノラトが戦後処理としてブラダイラ軍の本陣にある物資を整えるように命じると皆して喜びを共有しながら責務へと当たらせる。
その頃には馬を使ってイブレも合流し,細かな戦後処理が開始された。流石に四万の軍が居ただけに一部を焼いただけでも,かなりの物資や食料も残っており,それらをまとめ整える。作業は夕暮れまで続いたが,スノラトの計らいにより飲酒も許可されたのでフライア兵達は思い思いにブラダイラ軍の天幕で宴会と成っていた。その頃スノラトはというとイブレと共に本陣の後ろにある小高い丘へと赴いていた。
「何とか追い返せたが,だが兵達は大勝のあまりに喜びで浮かれているようだ」
「そこまで心配する必要は無いかと思いますよ」
「その理由は?」
「私達はロミアド山地を取ったのと同じ,フライア皇帝がこの機を逃すとは思えませんので,かなり兵力をここに向かわせると考えられます。その中にはここに居る者達の上官が数多く居るでしょう,浮かれているようなら軍の再編成で思いっきり怒られるでしょう」
「ふむ,それもそうだな。それで今後のブラダイラ軍はどう動くと思う?」
「すぐには引き返しては来ないでしょう。これだけの物資を失っては軍の立て直しは不可能,ならば王都へと急いで向かっているはずです。皮肉にも敵軍の大半は撤退に成功した為に食料に困るからです」
「確かに皮肉だな,だがあの寡兵でここまでやれた事も確かな筈だ」
「えぇ,なのでフライア皇帝がこの機を逃すとは考えられませんね」
「あぁ,既に鞍替えの馬を連れた早馬の伝令は勝利の報告を皇帝陛下にするからな」
「後は誰が援軍として来てくれるか,ですかね」
「そうだな,私としても信頼が置ける上官は何人か居るが,その逆も何人か居る」
「援軍次第で今後が決まる事は確かですね,それでスノラト将軍は誰が来てくれるのか想像が付いているのではありませんか?」
「大凡な,だが決まっても居ない事を言って先入観を植え付けるのもどうかと思ってな」
「お気遣いに感謝します」
「別に気を遣っている訳ではない,誰が援軍を率いてこようと私とお前は用済みという事だからな。私達は勝った,それはロミアド山地を一時的に手に入れたようなモノだ。だからこそ本国から送られてくる将軍は私と違って上級大将なのは間違いないだろう,私達はその指揮下に入るという訳だ」
「確かにそのように成りますね。でしたら今日ぐらいは勝利の余韻を味わうのも悪くないと思いますが,如何致しましょう」
「分かった戻るとしよう,イブレ,お前も好きにして良いぞ」
「はい,それでは」
共に馬を走らせてブラダイラ軍が使っていた本陣へと戻るイブレとスノラト,イブレは本陣に戻るとすぐに自分に宛がわれた天幕へと入り今後の事を考えるが,スノラトは酒瓶を手にフライア帝国から連れてきた信頼を置いている女性の衛兵達が集まっている場所で一時ながら気を休めるのだった。
フライア軍が勝利に沸いていた頃,戦場が遠く離れた場所ではブラダイラ軍が陣営を張っていた。とは言っても大半の物資を失ったので無傷だった者は殆ど掘っ立て屋根の下で寝ており,怪我を負っている者から天幕の中で療養している。そして撤退したブラダイラ軍はテリングの要請が各将が集められて軍議が開かれていた。
軍議と言っても被害報告を受けてから誰一人として口を開こうとはしなかった。万全の態勢で挑んでいた筈なのに,たった一回の戦闘で兵達が総崩れと成り撤退を余儀なくされた事態に弁明すら口に出来ない程に集った将達の誇りを傷付けた。するとテリングから意外な言葉が発せられた。
「皆,すまなかった。こんなにも不甲斐ない結果と成ったのは儂の戦略を見誤った事にある,東の森は警戒するべき場所であったが警護を疎かにしたのは儂の責任だ。皆が気に病む必要は無い」
「その様な事はありませんっ! これは私も含めてここ居る将達の失態であり,全てがテリング将軍の失態ではありません。そうだろう皆の者よっ!」
「そうです,その通りです」
「全てをテリング将軍の所為には出来ません」
一人の将が反論すると他の将もテリングだけが悪い訳がないとばかり,それぞれの胸中の言葉を口に出し始めた。それを聞いてテリングは不覚にも皆の気遣いが嬉しく目頭が熱くなるのを感じたので指で抑えるとそれそれの声は消えて行く。そしてテリングが指を離すとトジモが立ち上がり話し出す。
「テリング将軍,皆の気持ちは一つです。このまま負けたままではいられない,それが皆の気持ちです。ですが,一つだけここに居る全員の耳に入れておきたい事がございます」
「うむ,話してみるが良い」
「はっ,皆は白銀妖精の噂を聞いた事は有るか。スレデラーズの使い手として名を馳せてきた傭兵であり旅人だ。その白銀妖精がフライア軍に参戦していた,というよりも火があそこまで早く広がったのは白銀妖精が居たからだ。私は直に見て問うと,確かに白銀妖精である事を認めた。つまりフライア軍には最初からスレデラーズの使い手が居たのです」
トジモの話を聞いて各将が驚きのあまりにそれぞれ周囲の者達と話し始めるが,テリングが両肘を長棹の上に乗せると一気に話し声が消えてテリングはトジモに問う。
「トジモよ,それを分かっていながら今に成って言うとはどのようなつもりだ」
「私は右翼に居たので右翼の兵達を落ち着かせようと奔走していました。ですが,兵達は未だに混乱してる者が居るからには言うべき時は選ぶべきと判断したのです。処罰があるのなら甘んじて承ります」
「よい,その様な事を儂もここに居る者達も望んではいない。そんな事よりも,確かにスレデラーズを持っていたのか?」
「はっ,この目でしかと確認しました。まるで火を纏っているかのような剣を手に一斉に矢を射かけても一振りで矢を弾き,単騎で矢を射かけましたが全て斬り落とされました。一時対峙しましたが,すぐに勝てないと判断して引き返したのです」
「うむ,確かに的確は判断だな。下手に戦って死んでは,この情報は我らにもたらせる事が出来なかったからな。良くやったぞ,トジモよ」
「はっ,ありがとうございます。それでテリング将軍,相手にスレデラーズの使い手が居る事についてどうお考えでしょうか?」
「……皆は嫌がるだろうが,我らはこの戦いで兵は半数程に物資は大半を失う事に成った。これらが広まれば我らの評判は落ちるだろう,だからこそあやつを動かす事が出来る。スレデラーズにはスレデラーズをぶつける事が出来る」
「イズンに出撃を願うのですかっ!」
「そうだ,皆の気持ちは分かっているつもりだ。ここの居る誰一人してイズンを良く思っている者は居ないだろう,だが敵に白銀妖精が居るからには対抗すべき手段が必要だ。それにイズンとしても同じスレデラーズの使い手と戦うのは初めてだろう,もしかしたらイズンは負けるかもしれん,何にしても通常の戦場ではなくなるだろ。なので儂らも出来る限りの兵を総動員する事が出来る,そして何としてもロミアド山地を取り戻さないと一気にフライア帝国が侵攻の手を伸ばすだろう。それだけは何としても防がねばならん,ロミアド山地がどれだけ要所なのかは皆も知っておろう。なのですぐに王都に戻って軍を立て直したら再進撃を開始する,良いなっ!」
『はっ』
「では軍議は解散するがトジモ,其方は少し残れ」
「はっ」
軍議の終わりをテリングが告げたので,トジモを残した各将はそれぞれ立ち上がり次々と天幕から出て行く。そしてテリングは衛兵達にも出て行くように指示すると完全にトジモと二人だけに成るとトジモはテリングに近い場所に座る場所を移すと,テリングはトジモの瞳をしっかり見た後に座りながらトジモに向かって頭を下げた。
「トジモ,ありがとう」
「自分の責務を全うしただけですので頭をお上げくださいっ!」
思わず立ち上がって膝を付きそうになるトジモだが,膝を付く前にテリングが頭を上げたのでトジモは安堵して再び座り直すとテリングは思ったままの事を口にする。
「それにしても随分と成長したようで助けられたぞ。其方が白銀妖精の報告を遅らせた事で士気が落ち込まずに済んだだけではなく,イズンに出撃を願う口実すら作ってくれた。全ては其方のおかげだ」
「いえ,私は唯々白銀妖精には勝てない事を恥じるだけです」
「そんな事はない,それにスレデラーズの力がどれだけ強力かは我らも良く知っておるだろう,退く勇気を示してくれた事で儂を助けてくれた。誇るべき事で有って,決して恥じるべき事ではない」
「はっ,ありがとうございます」
頭を下げるトジモを見てテリングは昔の事を思い出した。今では弓将軍と呼ばれるトジモだが幼い頃から文武共に鍛え,テリングも一目置く程の鍛錬ぶりだった。なので自然とテリングは幼いトジモに時折指導する事が有った,その度にトジモは礼儀正しく一礼して礼を述べた。そんなトジモがここまで頼もしくなったのだがテリングは胸に込み上げ来るモノを広げ,自然と笑顔に成るとトジモに話し掛ける。
「昔はただ鍛錬に明け暮れる小僧だったのが,ここまで成長するとは思ってもよらなかったぞ」
「む,昔の話はお止めください」
「ふっ,まあ,そう照れるな。確かにお前は弓の才は秀でていたが,他に剣や槍の修練も怠らなかった。それぞれ違う間合いでの戦い方を覚えたからこそ距離に関係する事がなく,敵の力量を測れるまでに成長したという証だ」
「はあ,そういうモノなのでしょうか」
テリングの言葉を素直に受け入れる事が出来ないトジモは曖昧な返事をするが,それもまた成長の証と受け取ったテリングは自然と和やかな気分となる。まるで祖父が孫に接するよう朗らかにトジモに接するのも敗戦という痛手を和らげる為で,テリングもまた一人の人間として年老いても更に成長するという事を経験で知っている。そんな自分とトジモを鼓舞するかのように二人な和やかな会話を続けるのだった。
ロミアド山地での戦いが終わってから四日後,勝利の報告はフライア軍の帝都ムルヘイムにまで届き,皇帝カトリス=フライアの耳にまで入っていた。なので無駄に広い謁見の間にカトリスは一人の将軍を呼び出していた。
玉座に座っているカトリスは五十七歳ながらも外見にしか年齢は現れない程に覇気を纏い堂々たる姿を見せていた。そんなカトリスに一人の女性将軍が膝を付いている。瑠璃色の髪を首の後ろで結び腰の辺りまで伸ばし,鋭い眼光を持つ紫色の瞳はカトリスの言葉を待つ為に下を向いていた。そしてカトリスは口を開く。
「フォルグナー,面を上げよ」
「はっ」
フォルグナーと呼ばれた者は言葉通りに顔だけを上げるが,カトリスがすぐに手で立てと合図したので立ち上がって敬礼してから次の言葉を待った。
「さて,フォルグナーよ,ロミアド山地での戦いについては報告が上がっているな」
「はい,まさかあのスノラトが八千の兵で四万のブラダイラ軍を退けた事に驚きましたが,詳細を聞き及べば納得しました」
「うむ,今のスノラトには流浪の大軍師と白銀妖精が付いている。この気を逃すべきではないと皆が考えおろう」
「その通りかと,ですから私が呼ばれたのですね」
「其方はスノラトを懇意にしていただろ,交代するのには打って付けだ」
「御意に」
「うむ,それでは其方に十万の兵を預ける。テリングはすぐに再起を計ろうと動き出すだろう」
「故に十万の兵で返り討ちにせよとのお申し付けでしょうか」
「そうだ」
「御意のままに」
「それともう一つ」
「まだ何か?」
「其方にはまだ重要な事をやってほしい。白銀妖精とイズンをぶつけてスレデラーズを手に入れるのだ」
「なっ! スレデラーズをですか?」
「そうだ,スレデラーズの使い手同士がぶつかり合えばどちらかが死ぬだろう。その際にスレデラーズを回収するのだ」
「お言葉を返すようですが,十万もの兵を預かるにはヘルレスト草原での決戦が余儀なくなれます。相手のテリングも兵力を増強して来るからには,そこまでの余裕があるとは思えません」
「難しく考える必要はない,其方の部下を潜り込ませて決着が付いたら権力を使いスレデラーズの回収を行えば良い」
(随分と簡単に言ってくれるわね)
心の内ではその様な思いが生まれてくるフォルグナーだが,それも仕方ない。なにしろ相手はブラダイラの宿将テリングを相手にぶつかり合えば激戦は必至。スレデラーズ同士が戦う事に成るのは確実だが,激戦の中でたった一振りの剣を見つけるのは容易ではないし,戦えば勝てる事すら危うい相手だ。
スレデラーズの事まで気を回してる余裕などは無いとフォルグナーは考えているが,皇帝陛下からの勅命となれば安易に断れない事は分かっている。そうなれば自分の代わりに別の将軍が行く事になるが,その者がスノラトを気に掛けてくれるとは限らないから自分が行くしかべきと最初からの思いが強かった。故にフォルグナーは頭を下げて口を開く。
「御意のままに」
「うむ,では準備が出来次第すぐに出陣せよ」
「はっ!」
謁見はこれで終わりとばかりにカトリスは立ち上がり,謁見の間を出て行くまでフォルグナーは頭を下げていた。そしてカトリスが完全に立ち去るとフォルグナーも頭を上げて踵を返すと謁見の間を後にすべく歩き出した。
廊下を歩きながらフォルグナーから自然と溜息が出た。実際にフォルグナーはスノラトを懇意,というよりも妹のように思っていたからこそ援軍に駆け付ける事には異論すら無かったが,そこにスレデラーズの回収が加わると気が重い。
スノラトがロミアド山地で勝った事は確かに喜ばしく,援軍に駆け付ける事に安堵すらしていたが,そこにはスレデラーズの回収という命令が下されたからには尽力しないと行けないがテリングは気を余所に向けて勝てる程の相手ではない事はフォルグナーも良く分かっている。それにスレデラーズの回収となると多少は兵を裂かなければならないうえ,スレデラーズ同士の戦いにどうやって介入すれば良いのか見当も付かなくて当然だ。それだけスレデラーズの回収という勅命が決戦の邪魔をする。
どうしたものかと悩みながら自分の執務室に戻ったフォルグナーだが,扉を開けた途端に驚く事になる。なにしろカトリスの息子キトラスがそこに居たからだ。
キトラス=フライア,第五王子にして継承権第一位を得る程の武勇と叡智に人望を兼ね備えている。正に次の皇帝になるべく生まれてきたような者だ。もちろん継承権争いは有ったがキトラスは次々と兄達を,継承権を持つ者達を現皇帝に切り捨てるように仕込んだ。中には自らの手で首を切り落とした者も居れば,懐柔させて継承権を放棄させた者も居る程の実力を持っているからこそ,自ら勝ち取った継承権第一位という事に誇りを持ち,次の皇帝が自分なのは周囲どころか現皇帝カトリスも認めている程だ。
今では次代皇帝とまで言われているキトラスが自分の執務室まで赴いたのだからフォルグナーが驚いても当然だ。逆にキトラスはというとここに居るのが当然とばかりに来客用の長椅子に座りながらフォルグナーに入るように促し,対面する形でフォルグナーが座るとキトラスの方から話を切り出した。
「それでフォルグナー,父上からはどんな無理難題を押し付けられたのだ?」
「……」
即座には答えないフォルグナーは正しいとも言える。スレデラーズの回収は現皇帝からの勅命,言い換えれば最大の軍事機密だ。相手が第一皇位継承権を持っていても易々と話して良い内容ではない。だがキトラスもそれは分かりきっているので返事をしないフォルグナーに語り掛ける。
「では先にこちらから条件を言おう。フォルグナー,お前がどのような失敗をしても何も咎められないようにしておく,そして父上ではなく私の命を遂行して欲しい」
「何故,その様な事を?」
「誰も口にはしないが次の皇帝は私に決まった。その皇帝が欲しているモノを要求しているだけだ」
「……御意に」
「流石に話が早いな,では手始めに父上から受けた命令を教えよ」
「はっ」
返事をしてスレデラーズの回収を命じられた事をキトラスに話すフォルグナー,もちろん彼女なりの計算があるのは当然だ。キトラスは二十二歳という若さで今の権力を手に入れたのと,現皇帝は既に年老いているので比較するならどちらかという事に成る。当然ながら帝位を退くのが間近に迫っているカトリスよりも,未来が多いキトラスの機嫌を取っておいた方が良いという訳だ。
目の前に居る青年こそ次代皇帝で,その皇帝になる日も遠くない事が分かっているからフォルグナーはキトラスに全てを話した。そして全て聞き終えたキトラスは短く切ってある紫紺色の髪を触りながら黒い瞳を閉じて少し考える素振りを見せたので,フォルグナー既に空となっているキトラスの前に置いて有る茶器に気が付いたので立ち上がって紅茶を注ぐと考えがまとまったのかフォルグナーが座るのと同時に話し始める。
「戦場でスレデラーズを回収するとは随分と父上も強欲だな。だがフォルグナーよ,スレデラーズの回収は形だけで良いのでやっておけ」
「はっ,承知致しました」
「それと私からの要求はただ一つ,ロミアド山地だ」
「……つまり国境線をそこまで押し上げると?」
「その通りだ。その為にはヘルレスト草原に砦を築く事が最も重要だ」
「つまり我が軍が決戦を行っている間にも後方では砦の構築に着手するという事でしょうか」
「そうだ,流石に話が早くて助かる。お前達が出陣した後に材料が揃い次第に砦を構築する者達を送り出す。材料を揃えるのはそんなに時間は掛からないだろう」
「そしてヘルレスト草原での決戦で確実に勝つ事で砦の構築を邪魔されずに遂行が出来るようにしておく,という事でよろしいでしょうか」
「そうだ,今回の決戦には白銀妖精が参戦するからには使わない手は無い。イズンを倒せたなら良し,例え倒せなくても無傷ではいられないはずだ」
「つまり今度の決戦の決め手となるのは両軍の軍事力になる訳ですね」
「相手はテリングとはいえ,お前なら勝てるだろう」
「はい,充分な兵力は既にあります。戦場がヘルレスト草原ならば負ける道理がありませんので,キトラス様は帝都にて物資輸送をお願いします」
「もちろんだ,では任せたぞ」
キトラスが立ち上がるとフォルグナーも立ち上がって敬礼するとキトラスは執務室から出て行った。そしてキトラスを見送ったフォルグナーは力が抜けたように座ると大きな溜息を付いた。
スレデラーズの回収は形だけで良くは成ったが,その代わりに砦を築くとなるとヘルレスト草原での長期滞在は確定している。いくら今回の決戦で勝ったとしてもブラダイラ軍が砦の建設を見ている訳がない,確実に軍を立て直して攻めてくるには自分も含めて兵達を常駐させる必要が有る。後方支援はキトラスが自らやるようなので安心は出来るモノの長く帝都を離れる事がフォルグナーを憂鬱にさせた。
フォルグナー=スノスは若い見た目と違って三十代後半であり,既に結婚している既婚者だ。それでも将軍という立場を下りないのは,彼女自身がそれを望んでいるからであり強制されている訳ではない。若くして軍に入ったフォルグナーにとっては軍属こそが家庭よりも居場所が良いところになっていた。それでも憂鬱になるのは仕方がないと言える。
フォルグナー夫婦は未だに子供が居ない,本来ならば既に出産して子育てに忙しい年齢だが軍属で有る限りそうそう休みが自由とは行かない。そして今回の長期出兵となれば心が重くなっても仕方ない。それでも自分が任命されたからには,やり遂げねばと覚悟を決めてフォルグナーは出陣に向けた準備へと入るのだった。
フライア軍とブラダイラ軍でそれぞれ新たな幕開けがされた頃,エラン達はというと山頂近くの天幕内でレルーンと円卓を囲んで呑気にしていた。スノラトが率いるフライア軍はブラダイラ軍の斥候が来ないように同じ配置に付いていたが,ブラダイラ軍を退けた事から兵力の補充に軍の再編成とブラダイラ軍も忙しいと踏んでいるエラン達だからこそ呑気にお喋りを楽しんでいた。しかもヒャルムリル傭兵団の調理場を借りてクッキーまで作って,紅茶を嗜みながらだ。
「いや~,私達大功を挙げたよね~」
「自画自賛も程々にするですよ」
「まあ,良いじゃねえかよ,あれだけ大暴れしたんだからな」
「そうそう~,ウチの団長も追加報酬を出てかなり儲けたと喜んでたよ~」
「まっ,殆ど俺達の手柄だけどな」
「だよねだよね~」
「イクス,レルーン,程々に」
「……すまん」
「ごめんなさ~い」
エランに言われて謝るイクスとレルーンの言葉を聞いて,エランはそれで良いとばかりに頷くと再び話し出す。
「そう言えば~,エラン達はまだフライア軍に残るんでしょ~?」
「うん,次が私達の本命」
「次って?」
「ブラダイラ軍はイズンを出してくる,だからイズンを討ち取る」
「えっ! あのブラダイラの穀潰しと言われてるスレデラーズの使いをっ!」
「驚くにも言葉を選ぶですよ,その言い方だと弱そうに聞こえるですよ」
「まあまあ~,ハトリ~,そこは良いじゃん。それで何でわざわざそんな奴と戦うの?」
「……」
レルーンの質問に沈黙で答えるエラン。要は喋りたくないと言っており,レルーンはしっかりとそれを受け取って話題を変える。
「そうなるとまたブラダイラ軍との戦争だね~,今度はどうなるんだろうね~」
「まったく緊張感が無いですよ」
「え~,そんな事無いよ~」
「そんな事が思いっきり有るぞ,レルーンの姉ちゃんよ」
「う~,それを言うなら一緒に居るエラン達も同じだよね~」
「こっちを巻き込み始めたですよ」
「まっ,俺様達ものんびりしてるのは確かだからな」
「力は入れる時に入れて抜く時には抜くモノ」
「おっ,エランがしっかりとした理由を述べてくれたぞ」
「じゃあ~,私の理由もそれで~」
「そういう問題ではないと思うですよ」
「団長様に言ったら思いっきり怒られそうだな」
「あははっ,団長には別の言い訳をするに決まってるでしょ~」
「どちらにしても言い訳をする事は決まっているですよ」
「そうそう,どちらにしてもどうでも良いよね」
「どうでも良いんかいっ!」
イクスが突っ込むとレルーンは楽しそうに笑い出し,ハトリは最初から諦めているのかのんびりと紅茶を嗜み,エランは甘みがあるエラン専用のクッキーに手を伸ばしてしっかりと味わう。
その一方でイブレ達は戦後処理を終えて,山頂の陣地へと戻っていた。そんなイブレにスノラトは援軍が来る知らせをスノラトから見せられる,そうなるとイブレはお役御免となるとスノラトは告げるとイブレはいつもの微笑みを浮かべて肯定する。まあ,どうなるかは援軍を率いてくるフォルグナーの軍勢が到着しないと分からないので,今は唯々引き継ぎ作業に没頭するイブレだった。
さてさて,今回もいろいろと私的な理由が有って遅れましたが,何とか無事に更新する事が出来ました~。……まあ,かなり間が空いたけどね。何ともうしますか,いろいろと言葉と場面が出て来ないのですよ,これが。以前ならいろいろと空想を楽しんでいたけど,今ではいろいろと出し尽くした感じがするといいう言い訳です。
さてはて,更新速度がこの程度の期間が続いておりますので,少し考えた結果として第四章を最後に一旦終わりにしようと思っております。まあ,本当は第五章で書こうとしていたモノを繰り上げる形に成りますね。前にも言いましたが,その続きを書けないという訳ではないですが,感想も評価も今の所はまったく無いので,その様に考えた次第で下ります。
さてさて,最近では少しずつ日常生活を改善してきたので,ほんの少しは更新速度を上げたいですね。まあ,出来るかどうか分からないけど。けど,なるべく書くようには成りました。……まあ,それでも次の更新がどうなるかは分からないですけどね。そこは私なりに頑張っている次第でございます。さてはて,いろいろと書いた所でそろそろ締めますか。
ではでは,ここまで読んでくださりありがとうございます。そしてこれからも気長によろしくお願いします。
以上,小説の方ではこんな状態なのにXでディスコで喋りながらゲーム仲間を集めている葵嵐雪でした。




