第三章 第二十話 布陣
二日程掛けてロミアド山地を抜けた第一軍は奥の山々と比べれば高さの無い山々に広がっている森まで抜けて草原へと出た。そこまで進軍したのはイブレの進言が有ったからだ。そして半日を掛けて更に西へと進軍するとイブレはやっと目的に見合った地形を見つけたので,スノラトは山の一つに上るように命じてフライア軍は再びロミアド山地へと足を踏み入れた。
丁度,第一軍が登り終える頃には日が沈みかけていたのでスノラトは野営の準備に入るように命じた。そうなるとスノラトの時間が空くのでイブレはスノラトと二人で話し合う時間が取れたので,自分の考えをスノラトに伝えた。そしてイブレの策はスノラトにも納得が行くモノらしく,翌日からはイブレの策をスノラトが命令としてフライア軍の第一軍に伝わると,すぐに作業へと取り掛かった。
フライア軍とは正反対にすっかり暇を持て余しているエラン達は邪魔に成らないように馬達が繋がれている場所で,エランは馬の世話をしていた。エランが言うには,それしかやる事が無くて暇だからと言われてはハトリも手伝うしかなかった。なのでエラン達が馬達とじゃれている間にもフライア軍は次々と山頂の木々を倒し,切り株を抜いて地面を平して段差を作っていく。昼前には第二軍が到着したので作業に加わり,一気に作業が進むが,その日のうちに第三軍も到着したとエラン達は聞いたのだが翌日には人が増えたようには思えなかった。
エランがそう感じたのも無理はない,なにしろ人員が増えた割には作業の進みが遅かったからだ。それでも山頂に到着してから翌日には何個かの天幕を立てる事が出来た中にはエラン達の天幕も含まれていたので,その日からは天幕の中でゆっくりとするエラン達。
外からは相変わらず木々を切り倒し,木材を加工する音が響いてくるがイブレの策だろうと気にする様子を見せなかった。そして,そのイブレはというと天幕内でスノラトと二人だけの軍議を開いていた。
「それにしても,三つも本陣を作るとは随分と考えたモノだな」
「そうでもないですよ,こちらは寡兵と最初から分かっているからには最初から大軍に見せる事は必ずやらなければいけません。まあ,これでブラダイラ軍が三人もの将軍が来ていると勘違いしてくれれば有り難いのですけどね」
「見破られる可能性が有るという事か」
「それはもちろん,なので本陣の設営が終わったら次は麓の森に細工をします」
「その細工とは?」
「本陣の麓には必ず森が深く広がっています。通常なら斥候兵を潜ませるだけで済むでしょうが,相手が相手ですからね。斥候を上に潜ませます」
「っん,言ってる意味が全く分からないが」
「理屈を述べれば簡単ですよ。森の木を利用して木と木を上の方,少し枝で隠れる場所に縄を結んで,その上に木材で床を作れば簡易的な見張り台に成ります。そうして作った足場を利用して弓兵を置く事でブラダイラの斥候を気付かれないうちに仕留める事が出来ます」
「なるほど,理には適っているな。普通なら木の陰に注意を向けるが上から射られるとは思いはしないだろう。だが,それだけではブラダイラ軍を追い返す事は出来ないぞ」
「まあ,それに関しては追々考えるしか有りません。それはともかく援軍要請は出されましたか?」
「あぁ,念の為に別々の道で本国に向かっている。とはいえ,ブラダイラ軍の到着が早いのは確かだろうな」
「ですね。ですが布陣してすぐに攻撃とは行かないでしょうね」
「ハッキリと言えるのだな」
「前にも言ったかもしれませんが,敵将テリングは手堅い戦を仕掛けます。それはつまり敵,つまり我々の情報をある程度は掴んでいるからこそ定石を乗せる事が出来るのです。ですが,今回ばかりは苦戦しているでしょうね」
その言葉を聞きながらスノラトはイブレの顔を見るが,いつのもの微笑みを浮かべているのだからスノラトは不気味さを感じた。兵力には圧倒的な差が有り,増援も見込めない状況で普段通りに笑えているだけじゃなく。この状況をひっくり返そうとしているのだから凡人の神経ではとても耐えられないだろう,現にスノラトも今の状況に不安を抱えているのでとても笑えない事を自覚しているからイブレをそのように感じたのだろう。そんな心境を悟られないようにスノラトは話を続ける。
「それでもテリングが何時までも我らに付き合ってくれるとは限らないだろう。時間が経てば強攻策に出てもおかしくはないからな」
「えぇ,その通りです。なのでテリングが動く前に私達が動かないと敗走すらままならいですね」
「考えただけで怖そうな事を笑いながら言うモノだな」
「そういう風に見えるだけですよ,ですが笑えない状況なのは確かですね。こちらとしては相手が大軍という不利を活かすしかないのですから」
「大軍が不利だと?」
「えぇ,どれだけ統制が取れていようとも一度の混乱が全軍に伝われば崩す事は可能です。その一手をどうするかを考えないといけないから,私とても頭を痛めているところですよ」
「そんな風には見えんがな」
「そういう風に見えているのと,私がこのような性分だからですよ」
「一つ増えたな」
「実際には幾つでも出て来ますよ」
「まあ,そういう事にしておこう」
言い終えた後に腕を組んだスノラトは長棹の上に広げてある地図に目を落とす。そこには既にイブレが調べた周辺が記されており,本物の本陣と見せ掛けの本陣の位置に麓の森に潜ませる弓兵の場所まで事細かに記されていた。スノラトは地図を最初に見た時からずっと気に成っている場所に視線を移した。
そこは東側に作った偽物の本陣から南東に向かって壁のように広がっている森が記されていた。この森が有る限り,ブラダイラ軍は森から東に向かって展開して布陣する事が出来ない。逆にフライア軍が先に布陣をしたのだから南東の森は警戒される事は分かりきっているからこそ,何処にブラダイラ軍が布陣するかは予想するのは容易い。つまり南東の森こそがブラダイラ軍が最も警戒するべき場所と成るのは必然だが,フライア軍としても南東の森を利用して仕掛けたいと考えるのは必然だ。だからこそスノラトは南東の森を指で指し示しながらイブレに問い掛ける。
「ここから南東の森が要所と成ってくると思われるからには,ブラダイラ軍は森の近くには布陣しないと私は考えているがイブレはどうだ?」
「もちろん,森に接するように布陣するでしょうね」
「その理由は?」
自分とは真逆な意見を述べてきたイブレに驚きを示す事がないスノラト,どうやらこのようなやり取りを繰り返してきたからこそ慣れきっていた。なのでイブレは何事も無かったように話を続ける。
「テリングの気質から言って,こちらを探りたいと思っているのは先に述べた通りです。なら如何にして調べるかと考えた時に南東の森を利用すると考えるでしょう」
「どうやら,この森が両軍にとっての要所と成るのは必然か」
「はい,その通りです。ですが,そこに拘らない事も大事です。要所だからと言って必ずしもそこに活路が有るとは限りませんから,なにより敵を前にしなければ分からない事が多いですよ」
「今はこちらの備えを万端にして敵軍が来るのを待つしかないという事か」
「はい,それにこちらは山頂を取っているからには先に敵軍を見つける事が出来るので今は作業を終えて英気を養う事が重要ですね」
「確かに居ない敵をいろいろと論じても意味はないか。それにしても……すっかりイブレに頼ってしまっているな。私もまだまだ未熟という事か」
「完熟や完成する人間なんて居ませんよ」
イブレが口に出した言葉がスノラトには刺さった。言われてみれば確かにその通りだとスノラトが納得したから,自分自身の力量を誤っていた事を強制的に理解させたからだ。だからスノラトは『今は及ばぬ事を認めよう』と自分自身に刻む。
要は境界線を引くか引かないかの違いである。何事に置いても熟練,熟達を決めるのは他者ではない,自分自身に他ならない。どのような道を歩もうとも必ず達人と言われる領域まで行けるかもしれない,ならそこで終わりかと問われれば違うのも確かだ。そもそも道を一つとするのが大きな間違いであり,他の道も歩む事で気付く事や考えが至る事がある。なら何処までが未熟で何処までが熟練か,その境界線を引くのは自分自身であり,あえて境界線を引く者が多いのも確かだ。
境界線を引く事で次の世代に繋げる,それもまた道の一つであり歩み続ける事を示している。そう考えれば未熟なんて言葉は自分を知る一つの方法であり,悪い事ではない事を証明するからだ。だからスノラトはイブレの言葉を自分自身の深い所へと刻んだのである。
フライア軍の最後尾が到着する頃には横並びに成っている山々の山頂に三つの本陣が出来上がっており,今は麓での足場作りの作業に移っていた。時間に猶予が有る為か丁寧に作業を進めるフライア軍と擦れ違いながらエランが歩いていると,自分達の作業が終わったカセンネとレルーンに出会った。偶然でもエラン達を見つけた事が嬉しいのかレルーンはエラン達に駆け寄りながら話し出す。
「エラン,ど~こ行くの~?」
「山頂」
「ほう,そいつは興味深いね」
いつものように短い返事をするエランに珍しくカセンネが興味を示す言葉を発してきた。それを好機と思ったのだろう,レルーンはカセンネに向かって嬉しそうに提案する。
「ねえねえ,団長団長,なら私達も一緒に行きましょうよ~」
「あんたはいつも勝手にエラン達に付いていってるだろうさね。そんな訳でエラン,私達も同行しても構わないかい?」
「うん,構わない」
「やった~」
咎められているのにエランの返答を聞いて嬉しそうな言葉を発するレルーンにハトリとイクスが軽く皮肉を言うと,それを切っ掛けに会話が弾む。だがエランとカセンネは黙って山頂へと歩みを進めて行く。
山頂へ辿り着くと木々は切り倒されたうえに,切り株までしっかりと引き抜かれており,視界を邪魔する物は一切取り除かれていた。あるのは背丈の低い雑草がまばらに有るだけだ。そんな山頂の最も高い所で歩みを止めたエランが振り返るとハトリやカセンネ達も同じように歩みを止めて振り返る。そしてイクスから喋り出す。
「用済みに成った狼煙の代わりに下の方にフライア帝国の掲げてるときたか」
「どうせイブレが考えた事ですよ。山頂に旗だけを見せて兵を見せない事で罠が有ると思わせるですよ」
「なるほどね,流石にイブレ殿とは付き合いが長いという訳かい」
「そんな所ですよ」
「それよりも」
余程気になる事が有るのか,珍しくエランが会話の切れ間に言葉を発しながら南の方角を指差した。
「あそこがロミアド山地の出口?」
タイケスト山脈付近で傭兵として活躍しているカセンネなら知っているだろうとエランがそんな疑問を投げ掛けると,カセンネはしっかりと答えて来た。
「あぁ,その通りだよ。そしてその先に広がっているのがヘルレスト草原と呼ばれる場所だよ」
「ヘルレスト草原?」
「このロミアド山地からブラダイラ王国の王都まで続いてる草原で起伏が有るモノの,軍用路が有るから通商路としても使われている道が有るのさ。まあ,商人や私達のような傭兵にとっては疲れるロミアド山地を抜けて,やっと楽に歩ける道だからこそ使われる事が多いのさ」
「それにしちゃあ,商人なんて俺様は殆ど見た事はねえぜ」
「この駄剣がまた馬鹿な事を言い出したですよ」
「あぁん,何だと」
「少し考えれば分かる事ですよ。そもそもフライア帝国がロミアド山地に侵攻しているからには,ロミアド山地は戦場と言っても過言ではないですよ。わざわざ戦場を通り抜けて貿易をする商人なんて居ないに等しいですよ」
「……」
因縁を付けたがハトリの反撃に対抗が出来ないイクスは黙り込むしかないようだ。そんなイクスを気付かれないように,別方向に顔を向けて静かに笑うレルーン。そんな事をしている間にエランとカセンネの会話が続く。
「起伏が有るって言ったけど,どの程度?」
「見ただけで登りたくないと思う程度だね」
「そうなると道は低い所を選んで作られている事に成る」
「あぁ,その通りだよ。それにしてもエラン,四万のブラダイラ軍がこちらに向かってくるのに,その先を見ているように思える訳を教えてくれるかい?」
「……イズンを倒す為に」
「っ!」
話を聞いて,流石のカセンネも驚きを示す。なにしろエランの実力は以前の戦いで目の当たりにしているうえ,イズンもブラダイラ王国だけではなく周辺諸国にまで名を轟かせる程の実力者。それにスレデラーズの使い手という事はカセンネも知っている程に名が広まっている。そんな相手とエラン,つまりスレデラーズ同士がぶつかり合うからには相当な激戦に成る事はすぐに察しが付く。だからこそカセンネはエランに問い掛ける。
「イズンと言えばスレデラーズの使い手だ,わざわざエランがそんな相手と戦う理由が知りたいね?」
「個人的な理由」
「それで?」
「それだけ」
「そうかい,ならもう聞きはしないよ」
あっさりと引き下がったカセンネに一度だけ頷くエラン。もちろんながらカセンネが引き下がった事にも理由が有る。その最大の理由はエランと組めばカセンネが率いているヒャルムリル傭兵団の利益が大きいという点だ,それだけではなくカセンネ個人としてもエランには嫌われたくないという理由も大きい。そして会話が途切れそうになるとエランの視線が動いている事に気付いているカセンネが話題に上げる。
「それでエラン,さっきから何を見てるんだい?」
「南東の森」
「確かにいろいろと有りそうな場所だね。フライア軍にとってもブラダイラ軍にとっても要所と言える場所だけど,少しあからさまだね」
「そう思わせるだけでも充分に役目を果たしてる」
「……ふっ,なるほどね」
鼻で笑ったカセンネにはエランが言いたい事がしっかり理解する事が出来た。実質的に今のフライア軍を動かしているのはイブレで,そんなイブレがわざわざ警戒させる場所を近くに置くのは考えが有っての事だと断言が出来る。もちろんながら最低限の兵は置くだろうが,罠かもしれない場所が近くにあるというだけでブラダイラ軍の兵達に精神的な重圧が掛かる。それに兵達を率いているのはブラダイラ軍の頂点とも言われるテリングだからこそ,この森を利用しないはずがない。だから多少は兵達が付かれる事を見越して森の近くに布陣する事は充分に考えられる。
イブレが居るからこその布陣だから一筋縄では行かない事は分かりきっている。だが,それだと自分達に活躍の場が有るのかも分からない。なら自分達から取りに行くべきだという結論に至ったからこそカセンネは鼻で笑った。命令が出るまで座して待つ程にお人好しではないからこそ,カセンネは傭兵団を率いる事が出来る,それだけの思考を持っているからこそ今回も存分に腕っ節だけではなく戦略も使うつもりという事だ。そんなカセンネとは対照的にエランは呑気になものだった。
ふと下を見ましたエランは何かを見つけると目を輝かせてカセンネ達に言葉を掛けると早足で下山して行くのだった。
寡兵であるからには必ず必要な逆転の一手,そこにフライア軍の策士達が考えている中でブラダイラ軍の内部でも様々な事を考えている人物が居た為にブラダイラ軍は進軍を一時的に中断して休憩へと入っていた。
休憩と言っても一時的なモノであり,ブラダイラ軍はそのまま草原の道に腰を下ろして各々に休んでいた。そして進軍で長くなった隊列の中心に地図を地面に広げて四隅を石で押さえながら思考に耽っているのがブラダイラ軍の軍事将相であるテリングだ。地図を見ながら慎重とも混乱とも見える顔をしながら思慮するテリングに足取りが軽い音が近づきテリングに声を掛けて来たのはトジモだ。
「テリング将軍,今回は随分と慎重ですね」
「儂にとっては当然だが,トジモよ。其方は現状をどう見る」
「いつものフライア軍……では,ないようですね。まあ,これは将軍の姿を見ての推測ですけどね」
「ならばそこに座ると良い,少し話をしようではないか。それに其方に話す事で儂の頭も少しは整理が出来るからな」
「はっ,そういう事なら」
そう言われたトジモは地図を挟んでテリングと向かい合うように座るとテリングが語り始める。
「儂が最も気に成っておるのは情報がまったく無いという事よ。ロミアド山地には我が軍が決めた要所に戦える兵と戦況を伝える伝達兵が居る事は知っておるな,その伝達兵が活躍したからこそフライア軍がどれだけ大軍を率いて来ても勝つ事が出来た。だが,今回はまったくと言って良い程に伝達兵達が帰ってこない」
「私が聞き及んでいるには数人は帰って来た筈ですが」
「うむ,その者達が報告してきた内容も意味不明……というよりも,伝達兵達も何が起こったのか理解が出来ていないような報告だった」
「つまり今回に限り情報が少ないと」
「うむ……いや,情報がまったく無いというべきか」
「ですが実際にフライア軍が侵攻してきたから,こうして軍を動かしているのですよね」
「うむ,分かっている事と言えばそれだけよ。敵の戦力,数や将に編隊に関しても一つとして報告が上がっていない。フライア軍が大軍だとしても各地に配置した主戦力と伝達兵は必ず距離を取っている,それなのに伝達兵達がここまで帰ってこないのは今までに無い程だ」
「それほどフライア軍が大軍を動かしただけでは?」
「だとしても伝達兵が報告に帰れない程ではない,むしろ大軍だからこそ伝達兵には気づけないように配置している。あのロミアド山地で大軍を動かしたとしても動けるのは一部のみ,それ以外は地形に阻まれ見ているしか出来ないのだからな,故に距離を取っている伝達兵達も情報が集めやすい。だが今回に限っては,その伝達兵達がまったく機能していない,フライア軍が伝達兵達に気付いても逃げ切れるだけの力を持った者達だが帰って来たのは,ほんの数人という時点で異常事態と言えるだろう」
「つまりテリング将軍が想定していない事態が起こっていると?」
「うむ,もしくはそれすらもフライア軍の罠かもしれん。つまり敵は未だに見えないが既に戦いは始まっているという訳よ」
「情報戦ですか」
「その程度なら良いのだがな,どうやら今回のフライア軍の侵攻に対しては慎重に慎重を重ねた方が良いかもしれん」
「つまり防衛戦に成ると?」
「いや,攻める時は一気に攻める」
「山ごと燃やすつもりですか」
重い話が続いた為にトジモとしては冗談を言ったつもりだったが,テリングは笑みを浮かべると言葉を返す。
「それも一つの手よ,現に出陣した時に大量の油を持ち出している。攻める時は山ごと燃やす事で相手の様子を見るのも一つの手よ」
「なっ,なるほど,このトジモまだまだ将軍の思慮には程遠いという事が良く分かりました」
驚きながらテリングを賞賛するトジモに,テリングは少しだけ気が楽になる。素直にトジモの言葉が嬉しかったのか,状況が整理できたのかはテリング自身にも分からないが少なくとも現状を理解する事が出来た。だからこそテリングは地図の上に乗っている石を手に取ると地図を丸めながらトジモに命じる。
「さて,休憩はここまでだ。進軍を再開するぞ,それにここで考えているより相手を見ながら考えた方が効率的だからな。全軍に進軍を命じよ」
テリングの言葉を聞いてトジモは未だに驚きにより動揺しているが,そんな動揺より命令による使命感が勝ったから立ち上がるとテリングに敬礼して返事をするとすぐに全軍に向けて進軍を再開する為に動き始める。そんなトジモの姿を見ていたテリングは視線を空に移すと少しの雲が王都の方へと流れていく,そんな雲を見てテリングは思わず口から言葉を出す。
「雲を掴むような話などと良く言うが,比喩にしても大きすぎるな。人には……いや,儂にはあの雲を掴む手など思い付きもせぬという事か」
そんなテリングの言葉を軟らかな風が東へと流していくのだった。
翌日エラン達は忙しくしていた。何をしていたかというとエランとハトリはそれぞれの包丁を持ち出して,昨日のうちに収穫していた柿の皮を剥いており一定数剥けると今度は柿の柄を紐で縛って繋げて天幕の上にイクスを使って吊していた……要するに干し柿を作る事に精を出していたという訳だ。
他のフライア兵達は未だに慌ただしく動いているが,エラン達がこんなにも呑気にしているのは敵が居ないのでやる事が無いとも言えるからだ。そしてハトリが手伝っているという事は集めた柿は籠の一つや二つではないという事だ。だからこそハトリも皮剥きを手伝っている。なにしろ甘味を無くすよりも何かしらの甘味が有った方がハトリとしても都合が良かった。
夕暮れ時には全ての柿を吊したエラン達はレルーンに招かれてヒャルムリル傭兵団の天幕で夕食を済ますと自分の天幕に帰って早めに就寝する。それから干し柿が丁度良く白い粉を吹き始めた頃,再びフライア軍の一部が急いで動き出す。なにしろ見張りのフライア兵からブラダイラ軍の到着を知らせてきたからだ。とはいえスノラトとイブレを筆頭に上層部は落ち着いたものだ,それもそのはずブラダイラ軍と戦う為にここに布陣したのだから。
上層部が落ち着いているモノだから次第と伝染しフライア兵達も落ち着きを取り戻す中,エランは山頂に登ってブラダイラ軍の様子を窺っている。そして夕暮れよりも少し前にブラダイラ軍はエランが居る山を左に見ながら軍を進めるとイブレの予想通りに南東の森を右翼に隣接させながら野営の準備に入る。
日が暮れるほんの少し前にイブレは設置した三つの本陣に篝火を灯すように命じるとそれ以上の篝火がブラダイラ軍の自営から見えた。それを見届けたエランは夕食をとる為に下山する。そして翌日にはブラダイラ軍も布陣を終えて,ようやく両軍はロミアド山地の出口で相対するのだった。
さてさて,いや~,それにしても予想外に更新が早いと自分では思っております。まあ,今までの現状から書くのが遅いな~,という感覚は有ったんですが約一週間での更新ですからね~。まあ,それだけ私の気が向いたのか,書いてみようという気持ちが大きく成ったのかは分かりませんけどね。
さてはて,いよいよ両軍が揃い踏みましたね。兵数が同じなら一気に開戦と成ってもおかしくはない状況ですが,フライア軍は寡兵なので手を打つ為にどうするのか,などなど,いろいろと有りますが今後の展開に期待……しても良いのだろうかと,私自身が思っている次第でございます。
さてさて,小説から話は外れるのですが……『一狩り行くぜっ!』と,もうすぐモンハンワイルドの発売日が近いですね。私は既に予約済み,発売日から楽しもうと思っていますが,あまりのめり込まないようにして小説の方も書いて行こうと思っております……うん,思っているだけで実際に出来るかはプレイするまで分かりません。けど,小説を書く事と並行して行けたら良いなと思っております。うん,これも思っているだけで,どうなるかは未だに分かりません。と言い訳という伏線を張ったところで締めますか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そして,これからも気長によろしくお願いします。
以上,実はモンハンライズは未だにクリアをしていない葵嵐雪でした。




