第五話
「やっぱり足が伸ばせるお風呂は気持ち良いですよ」
「うん,私達だけで使うには広すぎるけど全身がお湯に浸かって身体も伸ばせるなんて贅沢過ぎて少し気が引ける」
「何言ってやがるエラン。領主様がここまでやってくれてんだから俺達はしっかりと甘えて,しっかりと働けば良いだけだろ」
「うん,そうだねイクス」
エラン達は現在,会話で分かる通りに領主の城にある賓客に対して使われている浴槽に浸かって適温のお湯がもたらしてくれる心地良さと広さが与えてくれる適度な脱力感をしっかりと味わっていた。なぜエラン達が風呂に入っているのかというと,その経緯は実に簡単だ。
昼食を食べ終えたエランが微かに肌で感じる砂のような物を感じ取ったのが始まりとなっている。そして思い出したのがここに来る前に行った模擬戦だ。そこで相手もエランも散々と砂埃を上げただけではなく,その砂埃に向かって突っ込んでいったりもしたのだからエランの服にまだその時の砂が付いていても不思議ではないし,それが肌に擦れる感じがエランに不快感を与えていた。だからエランは昼食を食べ終えるとすぐにメイドに入浴を要求した。
イブレが手を回していたのか,それとも常に備えているのかは分からないがメイドは既に浴室の準備は出来ており,いつでも入浴が出来ると告げたのでエランはすぐに入浴すると告げると他のメイドが洗濯物が有ったら出して欲しいと言ってきたのでハトリが理由を聞くと他のメイド達が洗濯もやってくれるとの事なのでハトリは遠慮せずに洗濯物を出してからエランに続いて浴場にやってきて今に至るという訳だ。
エランを中心に左側にはハトリが右側には剣なのにしっかりと入浴を楽しんでいるイクスは鞘から出ている抜き身で刀身の切っ先から数センチ程を浴槽から出しており,柄はしっかりとエランの右手に包まれている。優れた剣士はどんな時でも自分の剣を手放す事は無いと言うが……この場合はどう取って良いのか微妙な所だろう。だがお湯の揺らぎでしっかりとは見えないもののイクスの刀身が全て見えるのでイクスが細身の剣となっている理由がしっかりと分かる。
イクスの長さはエランの身長程だが同じ長さの剣は数え切れない程に世の中に存在しているからこそイクスは細い方だと言える。その理由ははっきりとしており簡単に言うとイクスが片刃だからだ。両刃の剣は刃が両側に突いているだけではなく中央には両刃を支える為に広い造りになっているか内部にしっかりとした鉄の芯を入れて強度を保つ,その為に両刃の剣は自然と横幅が広くなってくる。それに比べて片刃のイクスは支える刃が一つなだけに余計な支えが要らない。
片刃の剣は逆の言い方が分かり易いだろう。強度を保つ為に剣の中心に強固な芯を入れるのではなくて強固な芯に刃を焼き付けたとも言える。強固な芯に刃を焼き付けるからこそ刃を限りなく研ぎ澄ます事が出来るだけではなくて反対側には剣を抜きやすいように小さな丸みになっている為に峰と呼ばれるようになった。その理由は小高い山を遠くから見ると山頂が小さな丸みに見える為と言われているが,それが正しいと言い切れる者はおそらく誰も居ないと言えるだろう。なにしろ世の中に出回っている剣は全てと言って良い程に両刃の剣を主流としているのにイクスのような片刃の剣が全く無い訳ではないが稀少で作る者も使う者も居ないと言って良い程に片刃の剣は珍しい。まあ……イクスが珍しい理由はこれだけではないのは確かだ。
話を戻すと制作過程だけを見ると片刃の方が作り易いと思えるが逆だ。強固な芯に刃を焼き付けるからこそ焼き付ける部分をしっかりと芯と馴染ませないとならないし,刃が一つしかないからこそ反対側とのバランスも考えて偏らない刃に重さと切れ味を付けないとならないのだから,かなりの計算と神経を酷使して作り上げるのが片刃の剣と言えるだろう。逆に両刃は強度を保つ為の強固な芯を包み混んでから刃を作っていくので制作過程を考えると最初から全てを考えながら作る片刃よりもある程度だけ作ってから仕上げるだけの両刃の方が簡単なのは確かで有り,簡単だからこそより精度が高い物を求められるのと同時に数を求められる。
制作過程からこれだけの差があるのと同時にイクスの長さが加わるとかなりの腕と頭がない限りはイクスを模した剣は作れないだろう。それだけでもイクスの制作者であるスレデラーレの凄さが分かるというモノだが,もちろんそれだけではないのは確かだろう。イクスの長さはエランの身長と同じぐらいなので長さとしては一メートル五十ぐらい,横幅は三センチもなくて三分の二が刃で残りが鎬と呼ばれる強固な芯がそのまま出ている。切っ先は先端から二・五センチほどから丸みを帯びており先端は両刃の剣と同じように尖っている。ここで実用性はともかくとして見た目だけの芸術性でもかなりのモノだというのは見る者が見れば分かるだろう。
更に言うならイクスはスレデラーズの一本で有る。それだけでも実用性に長けているのは確かで有り,有してる力は未知数とも言えるだろう。今までのイクスが声に出した言葉からはまったく想像が出来ない程に見た目は美しく,信じられない程に力を秘めたのが本来なら見えるイクスなのだろうが今はエランに峰を向けながら浴槽を微かに流れるお湯を楽しんでいるのだから,別の言い方でとことん変な剣とも言えるのがイクスならではなのだ。
エランを中心にして入浴を楽しんでいた二人と一本だったが,豪勢なお風呂にすっかりご満悦になっているイクスがのんびりしながらも少し楽しげな声を発する。
「久しぶりの風呂がこんなに豪勢だと俺様に似合い過ぎるってもんだな。おかげですっかり汚れが落ちてスッキリした気分だぜ」
「汚れないくせにイクスは何を言っているですよ」
「うっせ! 気分の問題だよ,気分っ!!」
イクスがそんな返し文句を言い終わるとエランが動き出したのでハトリは開き掛けた口を閉ざす事にした。それからエランはイクスの刀身を左手で優しく撫でてから口を開いて言葉を声に出した。
「イクスと一緒に入れるお風呂の機会はあまりないからね。今日は一緒にゆっくりとしようか」
言い終わるとエランはイクスから手を離して元の体勢に戻ると再びお湯に浸かってのんびりとし始めたものだからハトリが先程言おうとした言葉とは違う言葉をイクスに浴びせる事にしたようだ。
「まあですよ,いつもはイクスが入れる程のお風呂を備えた宿に泊まる事なんてほとんどないですよ。だからこんな時こそ,一攫千金,千載一遇,だと思ってゆっくりすると良いですよ」
ハトリが言った通りに湯船がかなり大きくない限りはイクスが風呂に入るなんて事は出来ないのがエラン達の現状だ。なにしろイクスの長さはエランの身長と同じぐらい,そしてエラン達も常に足が伸ばせる程の風呂を備えている宿に泊まっている訳ではないので長さがあるイクスが風呂に入るという事が無理だ。長さ故にお湯に浸かる前に湯船の端に引っ掛かるのは一度でもやれば分かるというものだ。その為にいつもはエランとハトリしか浴室なんて使わない物だから,こうしてイクスと一緒に湯船に浸かるのは珍しいのは確かだがハトリの言い方がかなり気に入らなかったどころか何か悪い方向を感じたイクスはハトリに向かって言い返す。
「おい,こら,言葉の所々に嫌みを入れてんじゃねえぞ」
「気のせいですよ」
「立つよ,イクス」
「なんだとっ! こっちは久しぶりに心地良く満喫している気分を少し壊しやがって」
「おやっですよ,たったの少しだったですよ」
「このっ!」
何かを言い掛けたイクスだが,そんな事をまったく無視したエランが立ち上がったからこそイクスの言葉は途切れて,いきなり動かされたものだから驚きもありイクスも声を発する事が出来なかった。それからエランは湯船の縁に座るとイクスを持ち直してしっかりと刀身だけをお湯につけて切っ先だけをお湯から出るように器用な持ち方をするエランに落ち着いたイクスが声を発する。
「おいおいエランよ,いきなり動くなよ」
「ちゃんと立つって言った」
「えっ,マジ?」
「ちゃんと言葉を聞いておかないから驚く事になるですよ」
そんな言葉を発したハトリは未だに肩までお湯に浸かっているが先程までとは違ってエランに対して斜めに背中を向けている。それだけではなくエランやイクスの角度では見えないが顔が少し赤くなっていた。そんなハトリが横目を左の方に向けてエランの姿を見る。
湯気で細部までは見えないがエランの細身とも言えるボディラインはしっかりと分かるし,大きすぎず小さくもない細身のエランには似合っていると言える程の胸部の膨らみなどがハトリの瞳に映るが何よりも目を引くのはエランの肌だ。
先程まで湯船に浸かっていた為に少し赤くなっているもののエランの肌は白いが真っ白な肌という訳ではなくて,白に微かな黒よりも淡い銀色を混ぜたような肌をしているので光の加減では肌が白銀に輝くようにも見える。そのうえエランは湯船を出たばかりだからこそ肌に水が張り付き,水が溜まっている場所は水滴となりエランの肌をより輝かせる。
エランはまったくそんな自分自身の身体に付いて意識はしていないがハトリはかなり違うようだ。だから今ではエランに背中を見せながらも横目で少し少しエランに眼を向けては顔を赤くしている。そんなハトリに気が付かないままにエランは口を開く。
「改めて見ても豪勢な造りのお風呂だね」
「まっ,ここはお優しい領主様に感謝ってとこだな」
「イクス,折角ここまでも持て成しをしてくれたんだから,そんな事は言っちゃダメだよ」
「軽い冗談だよ,それに感謝してるのは本当だぜ。なにしろハツミが失敗を重ねてくれたおかげなんだからなっ!」
「イクス……お仕置き?」
「俺様が悪かったので本当にすまんっ!」
「なら……軽く?」
「本当に申し訳ございませんでした」
イクスの声を聞いて微笑むように笑うエラン。まあ,調子に乗り過ぎたイクスが悪いのは確かなんだろうが,イクスにここまで言わせるエランのお仕置きにも少しは興味が沸くのだが決して自分では受けたくないと誰しもが思うのも確かだ。そんな会話を聞いていたハトリも身体が熱く為り過ぎているのを感じたので立ち上がるとエランの横に座って身体の火照りを取る。
お風呂好きのエランに付き合う事が多いハトリなだけに湯あたりをするまで湯船の中にいるなんて事はせずにエランと同じように身体の熱を取ってから再び湯船に浸かるのだろう……なにしろエランがこの浴室を気に入ったみたいで簡単には出そうにないからハトリも付き合うのも昔から続くいつもの事だから。
エランは横に来たハトリを軽く抱き寄せる。いつもなら髪を撫でそうなところだが浴室なだけあって二人とも髪を束ねて上げているから撫でようが無いので身体を寄せるエラン。そんなエランの手に合わせて身体を少しエランに傾けるハトリ,そんな時だったエランの頭に昔の事が蘇ってきた。
かつて見た光景,かつて一緒に居た光景,共に過ごした時間。そんな事がエランの頭に蘇ってきたのは,かつての昔もこのようにお風呂で火照った身体を冷ましながら横に座っているハトリを抱き寄せて右手に持っているイクスが賑やかだったからだ。
豪華な浴室はあそこと全く似てないが似たような行動を取ってしまったからこそエランは昔の事を思い出してしまったのだろう。だからと言ってエランは特に動揺する事も不安にも,迷いすら,心の中に現れなかった。それがエランの決意と覚悟であり,それと同じぐらい今の時間を壊したくないという想いが勝った。けれども一度でも思い出してしまえば心に引っ掛かるものであり,エランはその対処法を知っていた。
「イクス,浸かるよ」
「んっ,あぁ」
短い会話を終わらせてからエランは再び湯船に身を沈めるとイクスを元の位置に戻すと手を軽く離す。それからエランは目を閉じてのんびりとお湯を堪能しているように思えたが,先程の会話から違和感を感じ取っていたハトリとイクスはエランの変化に気付いていたからこそ何か言葉を出そうとしたが,こういう時にはなかなか言葉が出ずにもどかしい思いをするハトリとイクスだった。だからこそ今は何もせずにハトリは火照った身体を冷まし,イクスは黙ってお湯に浸かっていた。
そんな沈黙の時間は続かずエランが呟くようにほんの少しだけ口を開いて,ある言葉を声に出した。
「ここは……剣の楽園に似てるかもしれない」
エランの言葉を聞いたハトリは驚きの顔を見せてイクスも一回だけ湯船のお湯を大きく揺らした。どうやらイクスも驚いたようだがハトリとイクスは何も言わなかった。そのうちにハトリの小さな身体が冷めて来たからハトリも再び湯船に身を浸すと再び穏やかな温もりが身体の中に入ってくるが心の中にまでは入れないのは当然だ。だからこそハトリは湯気が少しずつ上がる水面に自分の顔を写しながら自分に向かって口を開く。
「似てなんてないですよ。ここには……足らないモノが多すぎるですよ」
ハトリの言葉を聞いたエランは眼を開いて辺りを見回してからハトリの方へ向かずに返事をした。
「そうだね,剣の……ううん,あの場所もあの場所じゃなくなったからね」
「そうなのですよ」
「……ごめんね,ハトリ,イクス,変な事を言って」
「別に構わねえよ。それにエラン,たまには弱くなっても良いんじゃねえか」
「うん……そうかもね」
「それと謝る必要もねえぞ。俺達にまで気を遣うな」
「……うん……」
言葉が見付からなかったのだろう,エランは一言だけ返事をしただけだ。それからエランは浴槽の壁にまで寄ると背中を壁に付けると頭を浴槽の縁にもたげると真っ平らな天井が目に映った。そのままエランは頭を浴槽の縁に預けて身体に少しだけ浮力を感じる態勢を取った。そのためにイクスの切っ先がエランの口元に近づいたからこそイクスはエランの口が動いた事に分かった。
「……必ず見付けるから,だから……」
小声でそんな言葉を口にしたエラン。お湯の音が邪魔をしてハトリには聞こえなかっただろうがエランの口元に近づく体勢になっていた為にイクスにはエランの言葉をはっきりと聞く事が出来た。だからと言ってイクスはその言葉に応じる気はまったく無かった。その言葉はエランの目的であり,祈り願う事だからイクスは何も聞かなかった事にして干渉するのを避けた。エランの祈りを……絶対に邪魔をしたくないから,そしてエランと共にイクスがあるのから……。
「すっかり茹で蛸ですよ」
そんな事を言いながら肌を赤くしたハトリが浴室から脱衣所に出てくるとエランも抜き身のイクスを手にしながら浴室のドアを開けっぱなしにして脱衣所へと戻って来た。エランが入浴を止めた理由はかなり意外で簡単なモノだ,それはハトリが『もう出るですよ』と値を上げたからだ。まあハトリと一緒に入浴していた時間は一時間半以上にもなるがエランだけで入浴してるとハトリが止めない限りは半日ぐらいは浴室で浴槽に入ったり出たりを繰り返して入浴を楽しむ程だ。そんなエランだからこそ入浴に関してはハトリに合わせている。まあ,そうしないといつまでも浴室から出てこない事をエランはしっかりと自覚しているからだ。
脱衣所に戻ってきたハトリは着替えの服を入れる棚が一面に並んでいる場所で自分の服を置いた場所に戻り身体から余計な水分を取る為にタオルで身体を拭き始める頃にはエランも反対側で身体を拭き始めるが,エランの前には着替えの服を置く棚は少しだけあるがそれ以上に豪勢な鏡台が右側入口に向かって並んでいる。なのでエランは棚と鏡台の端にある鏡台が出っ張っているところにいつも背負っているイクスの鞘を立て掛けていたのでその隣に未だに濡れて滴が滴り落ちているイクスを切っ先を下にして立て掛けていた。そんな時にハトリが身体を拭きながらエランに話し掛けた。
「やっぱりこの吸水保湿タオルは便利ですよ」
「うん,肌も髪も余計な水分まで拭き取らないから潤いを保てるだけじゃなく,一回の洗濯で汚れが全部落ちるだけじゃ無くて生地の傷みづらいから何度も使える」
「それだけにお値段も高いのですよ」
「私達も四つ程だけ持っていたでしょ」
「それはそうなのですよ。だけどこれだけ並んでるのを見るとですよ」
そんな言葉を口にしたハトリは棚の間に設けられているエラン達が使っているタオルが数え切れないぐらい所々に並んでいるのを遠回しに眺めるとエランが口を開いた。
「ハトリ,窃盗はダメ」
「わ,分かっているですよ。けど賓客扱いなら少しぐらいお持ち帰りしても良いかと思っただけですよ」
「確かに宿によっては日用品を持って帰って良い宿もあるけど」
「そうなのですよ」
「ここは宿じゃないから」
「……あ,うん,ですよ」
最後には言葉も出なくなったハトリだが,それも仕方がないと言えるだろう。なにしろ今現在エラン達が使っているタオルはかなりの高性能で高品質な品で女性にかなりな人気がある商品なのだからハトリがほんの少し下心が出ても仕方ない品物だ。その理由はこのタオルならではの機能にある。
エランとハトリが使っているタオルは肌に付けるだけで表面の水分だけを吸い取り,肌の奥にある角質に『分からない方は皮膚を守るバリアだと思ってください』必要な水分を絶対に吸い取らない為に肌が潤う為の保湿効果を損する事が無い。髪に対してもこのタオルを使って乾かせば髪に必要な水分だけを残して余計な水分を取り除くだけではなく,髪に水分を吸い込ませる事が出来る優れ物だ。まあ,簡単に言ってしまえば,このタオルを使うだけで肌はツルツルのモチモチ,髪はサラサラのフワフワになる。つまり肌や髪にこれ以上の手入れをしなくても良い逸品であり,そんな商品だからこそ買うとなればお値段もかなりの高額になる場合がある。それがエラン達が使っているタオルなのである。
ハトリなら,というよりは女性なら誰しもが欲しがるような物が監視の目が無い所に数え切れないぐらい置かれているのだからハトリが下心を出してしまったのもの仕方ないというべきだろう。多すぎるタオルに少しだけ心を奪われていたハトリだが,その間にもしっかりと身体を吹き終わったので今度は髪を乾かす為に植物を編んで作った椅子を持ってくると髪を右側に垂らしてしっかりと拭き出すとエランも身体を拭き終わったみたいでタオルを洗濯物置き場に投げ込むとイクスから声を発して来た。
「ようやくかよ。まあいいや,エラン」
「うん,イクス,やるよ」
「ああ,頼むぜ」
先程までお湯に浸かっており今では脱衣所の湿度でまったく乾きもしないイクスなだけに,というよりもこの状態で綺麗に乾く剣の方が無駄な機能を兼ね備えた剣だと思ってしまう程だ。そんな訳で湿気が付くどころがずぶ濡れという表現が的確だろう。エランはそんなイクスを右手で掴み左手には鞘を掴んで脱衣所の中央へと向かうとイクスを浴室に向けて構える。それから瞳を閉じて集中力を高めて身体を流れる魔力を高めると自然と白銀色のオーラがエランの身体がから放出される。このオーラは魔力流とも呼ばれており人それぞれ色が違ったりする。
魔力流は魔力を高めた時に自然と発生するモノだが,高度な魔力操作を会得しているモノは魔力流,つまりオーラを出さないままに高度な魔術や装備に仕込んである魔道装置を操ったりもするので魔力を使う時に必ず魔力流が出るとは限らない。だが今のエランからはオーラが出てる。まあ,その理由は少し考えれば分かる事だ。今現在エラン達が居るのは浴場の脱衣所,そんなところで高度な魔力操作をする必要が無いからこそエランはそのままオーラを出している。そしてエランが出す魔力流もまるで意図して作られたかのように白銀色のオーラだ……。
イクスを持ちながら魔力を高めたエランは一定の水準まで,というよりは発動が出来るまで魔力が高まったからこそ発動の言葉を口に出す。
「抜刀,アクアマニピュレ」
オーラが輝きに変わってエランを包むとエランに変化が生じ始めた。白銀色の髪が根元から徐々に蒼くなっていき最後には白銀色だったエランの髪が蒼い髪の毛へと変わった。だが変化はそれだけではなかったのはエランが瞳を開いた時だ,本来なら金色の瞳をしているエランだが今では髪と同じく蒼い瞳になっている。そんなエランの変化を目の当たりにしているハトリは全く気にする事はなく自分の髪が乾いたのでタオルを置いて服に手を伸ばしていた。ハトリの行動から見る限りはエランの変化は驚きに値しないとも言えるだろう。だからエランもハトリではなくてイクスに向かって口を開く。
「イクス,やるよ」
「おお,一気にやってくれや」
短い会話の後にエランがイクスを少し掲げると脱衣所に変化が生じた。今まで浴室との扉が開きっぱなしになっていた為に脱衣所はかなりの湿気で充満していたのだが,その湿気が消え去るのと同時にイクスの先端よりも上の部分に水の塊が出来てくる。それだけではなく今までイクスに付いていた水が移動し始めて水の塊へと吸収されるかのように合流していく,更に左手に持っているイクスの鞘からは湿気で中に水滴となっていた水が流れるかのように鞘から出て同じく水滴が水の塊に小さな波紋を作るが別の流れですぐに消えてしまった。ここまで来れば説明は要らないだろうが説明するのならこうなる。
今現在起こっている現象はエランが魔力を込めた言葉を発してから始まった,そうアクアマニピュレと。これはエランの能力や魔法ではなくエランの『剣』が持っている能力と言った方が正しい。エランはイクスを介して剣の能力を自分の中に吸収が出来る能力を持っている,とは言ってもどんな剣の能力でも吸収が出来る訳ではなくスレデラーズの中に有る数本だけエランが吸収する事が出来る剣,エラン達はエランの剣と呼んでいる剣の力だ。そしてエランが使っているアクアマニピュレの能力はもう詳しく説明する必要が無いと思うが,見ただけで分かる通りに水を操る能力,眼にはしっかりと見えない水蒸気や湿気から水滴や水流などを自由自在に操る事が出来るのがエランの剣が一つアクアマニピュレの力だ。
イクスとイクスの鞘の中,そして脱衣所に存在していた水分がイクスの先端に塊として大きくはないが小さくもない,まあ所詮は湿気を集めただけだから特出して語る程の大きさではないのだから仕方ないが脱衣所の湿気をかなり取った為にハトリは空気がすっかり乾いた事を肌で感じるとキャミソールを手に取るのと同時にエランが動いた。
「はっ」
掲げたイクスを一気に振り下ろすと水の塊は飛んでいて浴室の床に叩き付けられて弾け飛び床を更に濡らす。そしてエランはすぐに歩き出して浴室と脱衣所の扉をしっかりと閉めて浴室の湿気が入ってこないようにする。浴室も脱衣所も豪勢な造りだけあって機能性もしっかりと高めてあるので扉を閉めるだけで浴室の湿気が脱衣所に入ってくる事が無いからこそエランは今まで浴室との扉を開けていた,なにしろ最初からアクアマニピュレの能力で脱衣所の湿気を浴室に移動させるつもりだからだ。こうしてすっかり湿気が無くなり空気は乾いたからこそイクスはエランの右手から離れて宙を舞いながら回転すると切っ先を鞘に収めた時点で声を発する。
「もう曇りたくはないからな,俺様は籠もるぜ」
それだけを言い放ってイクスは鞘の中に刀身の全てを鞘の中に収めてすっかり静かになるとエランは再び瞳を閉じてから魔力を高めると言葉を発する。
「納刀,アクアマニピュレ」
再び全身が白銀色の輝きに包まれる中で今度は髪の毛先から蒼から元の白銀色の髪へと戻って行き完全に元の色に戻ってからエランが瞳を開けると瞳の色も元の金色に戻っていた。すっかりと元に戻ったエランは手にしているイクスを置いてあった位置に立て掛けると今度は鏡台の前に座って置いてあったタオルを手に取るとハトリと同じく髪を右側に垂らして髪を乾かし始めるとキャミソールを纏ったハトリが溜息を付いてからエランに向かって話し掛けてきた。
「毎回思うですよ。その剣の力はイクスにだけ便利ですよ」
「あの剣は力の加減が難しいから」
「ですよ~。最初に試した時にはもう一度お湯に浸からないといけなかったですよ」
「うん,私もそこまで湯船に浸かりたくない」
「お風呂大好きなエランが珍しい事を言ってるですよ」
「限度の話」
「冗談ですよ」
そんな会話をしながらエランは髪を乾かしハトリは未だに少し濡れている髪を乾かす為に今度は頭からタオルを被って髪を撫でるように乾かすが気になる事が有るのか雑ではないが手早くタオルで髪を包むようにすると一気に下まで動かしてはまた頭に被るという動作を繰り返していた。そのためハトリの髪はすぐに乾いて整え終えたがエランは鏡台の前に座りながらゆっくりと髪をタオルで乾かしていたが,先程の会話からアクアマニピュレの力加減が難しいという言葉を証明するかのようにエランの髪はかなり乾いており今では髪を整える為にタオルで髪を撫でているのだがハトリにはかなり気になるようでそれをエランに向かって口に出す。
「いつもの事ながらですよ,髪の手入れは何か着てからやった方が良いですよ」
「この方が楽」
ハトリの忠告に短く拒絶とその理由を返してきたエラン。まあ,エランがこのような答えを返してきても不思議ではない。なにしろエランの髪はほとんど乾いており今では整えているのと同時にタオルが持つ能力で髪の潤いを保つ為の手入れをする為にタオルで髪を撫でるように手入れをしている……全裸で。
髪が乾いているからには何かしら身に纏うべきなのだろうが,エランとしては髪が乾いたからと言ってすぐに何かを着る必要は無い,というのがエランの主張だから不思議でも何でも無い。そもそもこの程度は個人の自由なのだから誰かが口を出す事ではないのはハトリも重々承知しているのだがハトリとしてはエランに髪が乾いたらすぐに下着を身につけて欲しいようだ。なにしろエランの下着は機能性だけを重視した物で女性が身に付ける普通の下着と違って上下とも下着と肌着を合わせたようなものであり,身体のラインは出るモノの隠す場所はしっかりと隠すのは当然ながら動きやすいように伸び縮みが出来るようになっているがハトリが気にしているのはそこではないので自然と小声で口に出てしまった。
「目をどうすれば良いのか分からないですよ」
ハトリの瞳にはしっかりとエランが映り込んでいた。エランは未だに髪を右側に垂らしながら丁寧にタオルで撫でている為にエランの背中から身体がはっきりと見える。細身ながらもしっかりと腰にはくびれが出来ており,椅子に座っているというのに余計な肉がないだけにシルエットがしっかりと分かる。そして時々だがエランの動きに合わせて髪が動くものだからハトリが居る位置でも微かに胸の膨らみが分かるが,それ以上に目を引くモノがある。それはエランの身体もそうだが肌と髪だ。
白銀色の髪と少し白い肌が不思議な調和を成して背中越しとはいえ完璧とも言える身体のラインが更なる融合を成して何かしら見てはいけないと思える程に神聖さすら感じられる程の気分になっているハトリ。だからこそハトリはエランに向かって何か着るように言ったのだがエランに一蹴されてしまった為に顔を少し赤くしながらエランを見ている。エランはまったく気付いてはいないがハトリから言わせればエランは美しいという言葉が本当に似合う程の体型をしており,それと髪の色と顔付きが相乗効果を成して神聖さすら感じさせる程の美しさ……らしい。
ハトリの意見に是非を問うかは別としてエランの容姿は悪くはない上にスタイルもスリムな体型で細身ならではの美しさがあるとも言えるのは確かだ……まあ,そこに神聖さを持ち込むかどうかは別として。そのうえ脱衣所の湿気が無くなったとはいえエランの髪が濡れたままだからこそ濡れ髪から出た湿気が水滴となってエランの身体に付着し濡れ髪だからこそ白銀色に輝きエランならではの美しさと色気を出しているのは確かな事だと言えるだろう。だからこそハトリは顔を赤らめながら困っている。
エランにはハトリが思っているような美しさが自分にあるという自覚以前に思った事も無いのだからハトリの気持ちが分かる訳がない。ハトリもエランがその事に関しては無自覚以前に気にも止めない事を知っているからこそ何も言えずにただただエランが髪を乾かしている姿に顔を赤らめながら見ている,というより眺めていると言った方が正しいだろう。そんな事をしている内にエランが髪の手入れが終わったので着替える為に立ち上がった。
エランが着替え始める頃にはハトリの葛藤も消えており自分の服が置いてある場所に戻って服を着るが心の中ではかなりの罪悪感があった。なにしろハトリは今でも少しだけ美しいエランの姿を……つまり裸を見ていたかったという気持ちがあったからこそ尚更にハトリはそんな事を思ってしまう自分を責める気持ちを抱えていた。そんな罪悪感を抱えていたのだがハトリが着替え終わってエランに目を向けると着替えている途中だったのでハトリは『エランが綺麗なのだから仕方ないですよ,いつもの事なのですよ,いつもそうですよ』と心の中で納得していたのと同時にハトリはエランとお風呂に入る機会がある時は何度もこのような葛藤をしてから最後はこのように納得するのがいつもの事だというのがよく分かるハトリの一面だった。そしていつもの事のようにエランの着替えが終わるとそのままイクスを手にして背負うと荷物を片手に持って歩き出したのでハトリも洗濯物が入った荷物を持ってエランの横まで早足で行くとエランとハトリはそのまま脱衣所を後にした。
自分達に割り当てられた部屋にある豪勢でかなり大きく品質が良い事が分かり易いフカフカのソファーでのんびりとくつろいでいるエランとハトリ。エランはイクスを右肩に預けるように置きながら旅の途中で時間が出来て時に読んでる本を開いており,そんなエランの膝に頭を預けているハトリがうつ伏せ気味に横になりながら目を閉じて過ぎ去る時間を満喫している。ちなみにエランが読んでいる本は何度も読み返している本では無い。
エランは旅の途中で時間を持て余した時の為に数冊の本を常に持っているのだが読み終わる度に町に着くと古本屋に寄る事になる。そこで読み終わった本を売り払い,新たな本を買っているので特定の本を持ち続ける事は無い。それからエランが読んでいる本のジャンルは歴史,伝記,兵法書と年頃の娘が読むようなモノではないようにも思えるがエランは年頃の娘に見えるが,それ以上に旅人であり剣士だからこそ,このような本を読んでいても不思議ではない。そしてそんなエランの膝で目を閉じているハトリも昼寝をしてる訳では無い。
旅をするに当たって必要なのは精神の余裕,心のゆとりと言った所だろう。つまりエランの膝枕もハトリなりの心を休める方法……という訳ではない。エランがこうしていたいからこうしている,要するにエランの膝に頭を預けているのはハトリの要求ではなくてエランがハトリにこうしていたいからだ。そんなエランの行動にハトリは最初だけ抗議の声を上げるがエランが手を伸ばしてくるとそれ以上は逆らえない事が分かっているのでハトリは素直にエランの膝に頭を預けた。それから少しの間だけハトリの髪を撫でてたエランだが時間がかなり過ぎると撫でてた手を本の為に使い始めたのでハトリもやる事が無いからこそ未だにエランの膝に頭を預けていると言った状況だ。そんな風にのんびりと時間が過ぎて行った。そしてエラン達はゆっくりとした時間を過ごして行く……。
日が赤さを出し始めるのと同時に部屋の中に入ってくる光量が少なくなり影が広まってきた頃にエラン達が居る部屋がノックされたのでハトリはのんびりと頭を上げてエランは返事の言葉を口から出す。
「どうぞ」
ドアが開いて一人のメイドが入って来ると室内を見回してすぐにエラン達を見付けると歩み寄ってきたのでエランも本を仕舞い込むとメイドは深く一礼をしてから口を開いてきた。
「大変お待たせ致しました。領主様がお会いになるそうです」
「おっ,やっとかよ」
のんびりとした時間は嫌いではないが長く続くとやっぱり退屈に成って来ていたイクスが真っ先に声を発するとエランはイクスの発言を無視して立ち上がるとイクスを背負い,すぐ横には既に準備を済ませてあるハトリが立っているのでエランはメイドに向かって口を開いた。
「それでは行きましょうか,案内をお願いします」
「承知しました」
言葉と共に一礼をするメイドは頭を上げると真っ先に部屋から出て行ったのでエラン達も続いて部屋から出ると出入り口で待っていたメイドがドアを閉めると再び一礼してから歩き出したのでエラン達も黙ってメイドの後を歩み出した。
エラン達がまず辿り着いたのは大きな楕円を半分に切ったような入口と空洞になっている大きな円柱の柱。浴場に行く時にも使ったが城のような広い建物だと移動が大変なのは言わずとも分かるので歩くのとは別の移動方法が設置されているのは当然とも言える。そして今現在エラン達の前にある柱こそが別の移動方法でどのような方法かと説明するよりはエラン達を見ていた方が早いだろう。
メイドに促されて柱の中に入ったエラン達,最後にメイドが柱の中に入ると入口付近で立ち止まり周囲を確認してから口を開いた。
「五等賓客会議室」
空洞になっている柱の床が淡い光を放つと魔力の光で描かれた魔方陣が現れて次の瞬間には柱の外にある光景が変わったのではなく,エラン達が一瞬にして別の場所へと移動したから見える光景も変わった。これが城という大きな建設物には必ずと言って良い程に備え付けられている設備,空間転移魔方陣だ。
使い方は実に簡単で魔方陣が設置してある場所には必ずそこを表す名前も表記されているのと同時に魔方陣の中に組み込まれているので行きたい場所の名前を声に出して言えば良いだけだ。後は城に蓄えられている魔力貯蔵庫から供給される魔力を使って魔方陣の効力を発揮されると言った仕組みだ。
便利と言えば便利だが不便な点もある,それは行きたい先の魔方陣に誰かが居ると魔方陣に流れている魔力が人物の存在を感知して空間転移魔法が発動しないという点だ。少し考えれば分かる事だが空間転移魔法は指定した場所に瞬時に移動する魔法だ。だが指定した場所に邪魔なモノがあれば障害となって魔法の発動自体が無効化されてしまう。まあ,魔力をかなり高めれば発動は出来るが移動した先にある障害物とぶつかって弾け飛び爆発となってしまうのでやる者は居ないのは確かだ。もちろん安全装置として魔力の制限が有る為に移動先に誰かが居る場合は魔法が無効化される。だからこそメイドが真っ先に柱から出るとエラン達にも出るように手で促す,このような装置だからこそ長居するとそれだけ迷惑になるから移動したら早々に柱の外に出るのがマナーだ。だからエラン達も足早に柱から出るとそこにはより豪勢な装飾で施された廊下が続いていた。
エラン達が出た事を確認したメイドは再び歩き出したので続くがエランが途中で窓から外の景色が見えた。城を囲む城壁は下の方にあり城壁の向こう側にある町並みまで見える事からここが城の上層部だという事は分かるが,それ以上の事を知っても無駄だと知っているエランは余計な仕草をせずにただ黙ってメイドの後に続いて歩いているとメイドの歩みがゆっくりに為って行き最後には止まってエラン達の方へと振り向いた。
「こちらでございますが,私の方から領主様へ到着した事を知らせるのでもう少しお待ちください」
「おっ,やっと領主様とご対面かぁ」
「イクスはちゃんと行儀良くしておくですよ」
「おいおい,俺様はお子様か」
「精神年齢は一歳ぐらいだと思うですよ」
「乳幼児かよ」
「イクス,ハトリ,そろそろ行くよ」
「はいよ」
「はいですよ」
エランの一言で静かになったハトリとイクスに少し困っていたメイドが安堵したような仕草を見せるとすぐに先程のような仕事の態度に戻るとエラン達の少し前で右側にある両開きの大きなドアに向かってかなり強めにノックをした後に言葉を続けた。
「エラン=シーソル様,ハトリ=シーソル様をお連れしました」
ドア自体に何かしらの魔法が掛けられているのだろうメイドは特に声を荒げる事なくていつもの声量でドアに向かって言葉を発するとすぐにドアから返事が返ってきた。
「お二方を入室させたまえ」
偉そうな言い方に思えるが声が柔らかいのかエランとハトリは声からは悪い印象を受ける事は無かった。それからメイドは片方のドアに手を掛けるとそのまま引いて開けると今度は開けたドアの横に立ってエラン達に頭を下げながら口を開いた。
「中へどうぞ」
それだけを言って頭を下げ続けるメイドの姿に中に入る事を促されているのは察しが付くのでエランは部屋の中に入る前にわざわざメイドの前を通るように歩きながらもメイドに小声で案内の礼を口にしてからハトリと共に部屋の中に入るとメイドはドアを閉めた。
エラン達が案内された部屋は造りとしては豪勢というよりは単調な部屋だが柱には彫刻が施してあり,天井から吊されている照明設備も豪勢な造りとなっているが部屋そのものからは豪勢な雰囲気はしないが床はたぶん値段が高い材料を使っているようで綺麗な紋様が浮かんでいる石のタイルが敷き詰められており入口から一番奥まで続くカーペットは赤の単色だが両脇には補強もかねて綺麗な刺繍が施されている。そして最も気になるのは入口から何故か部屋の奥までそこそこの距離があるのに一番奥にしかテーブルが置いていない事と一番奥の両脇には槍を手にして剣を腰に携えている兵士達が並んでいた事だ。
部屋の規模から考えるともっと手前までテーブルが並び大人数での話し合いに使うような部屋だが,何故か一番奥にあるテーブルだけを残して後は片付けたようなそんな感じがする部屋だ。真っ先にそんな違和感を得たエランは足が止まってしまって入口付近で立ち止まっているので部屋の一番奥でテーブルに両手を付いている人物がエラン達に向かって口を開いてきた。
「お二方とも奥へどうぞ」
その声を聞いたエランは更に奥の方を見るとエランから見てテーブルの右側にイブレが既に座っており,左側には開いた椅子が二つとそこがエラン達の席という訳なのだろう。それからイブレはエランが違和感を持っている事に気付いているようで少し笑うと口を開いてきた。
「そんなに意識をしなくて大丈夫だよ。この部屋は僕の要望でこうしてもらっただけだから,そしてこちらのマーズ領主様も僕の要望を快く受け入れてくれたという訳さ」
そんな事を言いながらイブレは部屋の一番奥に座っている人物を手で示した。あっさりとした紹介にも関わらずマーズ領主は柔らかい微笑みを浮かべるだけだった。
この状況からイブレが何かを企んでいる事はエランにも分かったが何をするにしてもまずは座らないと話が始まらないのでエランが歩き出すとハトリもそれに続いてマーズ領主に近い方にエランが座り隣にハトリが座った。こうしてマーズ領主との謁見が開始された。
はい,そんな訳でお送りした第五話ですが……まあ,私の小説では時々やるな~,とか思ってしまうお風呂回です。まあ,毎度の事ながら誰かが挿絵でもしてくれたらやっぱりエロくなるな~,とか思ってしまう第五話をお送りしました~。
それにしても我ながらお風呂の話が好きだな~,とか思ってしまった。まあ狙っていないと言えば嘘になりますけど私としてはどうやって狙わせるかと考えながら書く方が楽しいかもしれないと思っている次第でございます。そして私が先程から何を言っているのか分からない方は分からなくて良いです,この手の話は時間が過ぎて成長していけば自然と理解が出来る話なのですよ,これが。
さてさて,もう一つだけ言っておきたい事が……本当ならイクスの詳細を第一話でやるつもりだったけどすっかり忘れていた私。まあ,そんな訳で今まで刀身を少し見せるだけのイクスが今回の話では刀身の全てを見せているので,ここぞとばかりにイクスの詳細な紹介を入れました。……まあ,こうして改めて考えるとかなり強引だったかな~,とも思ってしまうやり方でしたかね。まあ,なんにしてもイクスの詳細がやっと書けたので私自身はかなり安堵しております。
更に今回は私としては更新が早かったと勝手に思っております。……うん,世の中では更新が遅いという事は充分知ってるよ。けど,まあ,休止期間が長かった為にしかも今でも完治はしていないので私としては上出来なのではないかと勝手に思っております。そんな私がこれ位で更新が出来たのだから今回は頑張って更新したと言える……と思わせておいてください。
さてはて,長くなってきましたし,書く内容が適度に薄くなって来た所でそろそろ締めますか。
ではでは,ここまで読んでくださりありがとうございます。そしてこれからもよろしくお願いします。更に出来れば気長なお付き合いをお願いします。
以上,なんか昔に流行ったゲームが今になって再加熱されてる,とか思っており,自分でも昔のゲームがやりたくなってすっかり剣豪3をやっている葵嵐雪でした。