第三章 第十話
エラン達を含めたフライア軍はロミアド山地に入ってから三日目,馬上で昼食を済まして今日も移動だけだと誰しも思っていた。だがスノラトの軍が前方が山道を下りきる時,突如としてスノラトの元に伝令が走ってきて急いで報告をする。
「報告っ! 先頭の隊が左方向から戦いの音が聞こえてくるとの事ですっ!」
戦いの音というだけでフライアとブラダイラの戦いなのは分かりきっている事だ。だからこそスノラトはしっかりと確認する。
「確かに戦っているのか?」
「はいっ! 森の隙間から我が軍の旗とブラダイラ軍の旗が見えたそうですっ!」
「よしっ! なら総員一気に山を下りて救援へと」
「お待ちくださいっ!」
スノラトが命令を下す前にイブレらしからぬ大声を上げて,スノラトが命令を下すのを妨げるとスノラトを含めて近くに居るフライア兵が達の視線がイブレに集まり,当のイブレはいつもの微笑みではなく真剣な面持ちと成っている。そんなイブレがスノラトに向かって進言する。
「このまま下って突撃しても戦場が混乱するだけです。こちらとて戦況がどうなっているのかも分からないのですから,下手に戦場へと突撃すれば味方も混乱して被害が増えるだけですっ!」
「……」
イブレの言葉を聞いて自分の判断が早計すぎると思ったスノラトは言葉を無くすとイブレは続け様にある地点を指差しながら言い続ける。
「それよりも右側の山腹に広い部分が有りますので隊列が乱れても,そこに集結すれば良いだけで済みます。それにあそこなら戦況がどうなっているのか上から見る事が出来ますので,まずは現状を確かめるのが先決かと思いますがどうなさいますか?」
「……分かった,総員にイブレが指定した地点に急いで集結する様に伝えよっ! 動ける者からすぐに動けっ! 場所が分からぬ者には私が先に行ってフライア軍を掲げるので目印にするように伝えよっ! 伝令に走れる者は全員走れっ! 以上だっ!」
『はっ!』
進言を素直に受け入れたスノラトが命令を下すと伝令に走ってきた兵だけではなく,近くに居たフライア兵の数人が同時に返事をすると伝令に走った。するとスノラトはすぐに近くに居た兵に声を荒げて告げる。
「旗を寄越せっ!」
「はっ」
スノラトの声を聞いて近くに居たフライア兵の旗持ちがフライア帝国の国旗をスノラトに差し出すと幾つかは自分で持ち,残りはイブレに投げ渡してそのままイブレに命令を出す。
「イブレ,道は分かるな」
「はい」
「なら先行せよっ! 後に私とエランが続く,エランも良いな」
「うん」
短いエランの返事を聞いてイブレが馬を走らせるとスノラトとエランが続いた。常に周囲を見回して細かい道まで出来る範囲で把握していたイブレは迷う事なく,森の中にある微かな獣道を突き進む。道が細すぎて馬を並べられないからこそエランはスノラトの前を行く,何か有っても前に居ればすぐに対処が出来るからだ。そうしてエランは馬を走らせる。
前後に続いているフライア兵もスノラトの命令が伝わるとある程度は勘で走り出すが,スノラトの近くに居た兵がフライア帝国の国旗を掲げながらスノラトを追って走っているので,それを目印にスノラトの軍が一気に動き出す。そして目的地に着いたらイブレはすぐに戦場に成っているであろう場所が見える場所へ馬を進めて止めると確認する。
後に続いていたエランとスノラトも馬を並べるのと同時にエランはイブレから投げ渡されたフライア帝国の国旗を一本だけ受け取ると右手だけで持って掲げ,イブレとスノラトも同じようにしながら戦場と報告されていた地点に目を向けている。
報告は確かであり,ここに来たから分かる。戦場は山の谷間に有る小さくて開けた場所だが,少数の部隊なら問題なく全軍をぶつける事が出来る広さを有しているが,どうやら戦いは始まったばかりで双方の先陣だけが戦っている状態なのが良く分かる。流石は流浪の大軍師と呼ばれるだけあって的確な助言だと感心しているスノラトは追い付いてきた兵達にもフライア帝国の旗を持たせて集結地点を明確にする。そして自ら掲げていた旗も兵に渡したスノラトがイブレに話し掛ける。
「イブレ殿,的確な助言に感謝する。それでどう見る?」
「双方共に損害を抑えたいようですね。後方との連絡が途絶えたフライア軍なら当然とも言えばますがブラダイラが全軍をぶつけないのは援軍を待っているからでしょうね。なので叩くなら素早く的確にする必要があると思いますよ」
先程とは違ってすっかりいつもの口調に戻ったが表情は依然として鋭い目付きで戦場を見ている。まあ,イブレも戦いを前にして微笑む程にふざけたりはしない。そしてイブレの意見を聞いたスノラトは改めて戦場を見るが,それが返ってスノラトの思考を混乱させる要因となってしまった。
普通ならここまで明白に戦況が分かる事など滅多に有る事ではない,殆どが前線の戦況などは伝令で聞いて判断しているのだから。なので様々な予測をするのが正道だからこそ,ここまで明確となっている戦場にどう対処したら良いのかスノラトは迷っていた。だからこそスノラトは再びイブレに話し掛ける。
「イブレ殿,ここから我が軍はどう動いたら良いだろうか?」
「では,あちらをご覧下さい」
イブレが指し示したのはブラダイラ軍の後方にある森だ。両軍とも麓で戦っているので日光が山々に遮られて,戦いの邪魔となる木々がない為に戦い易い状況なのは分かるスノラトだが,それと敵の後方にある森とどう繋がってくるのか分からないので黙っているとイブレもスノラトの状況を理解したので口を開く。
「双方共に戦力を温存したい為に戦況が動くのはまだまだ先でしょう。ですが,戦況が動く前にスノラト将軍の軍が敵の後背を付く形で一気に突撃すれば味方も呼応して全軍で攻めると思われます」
「なるほど,その為には森の中を移動した方が良いという訳か」
「そういう事です」
「……助言に感謝する」
「分かった」
スノラトがイブレの助言と取り入れた判断したエランが返事をするのと同時に,エランとハトリが馬を降りたのでスノラトは何事かと驚いた表情をするが,こうなるだろうと思っていたハトリが説明する。
「ここから先は馬で行っても歩いて行っても一緒ですよ,それにエランだからこそ敵の背後から奇襲を掛ける時には馬に乗っていない方が誰よりも早く敵陣に突っ込むですよ」
「……なるほどな,そういう事か」
少し黙った後に先日の会話を思い出したスノラトは言った後に他の兵にエランが乗っていた馬を預けるように命を下し,他にも必要だからと他の兵に命を下した。なにしろ戦いと成ればエランがスレデラーズの一本であるイクスを使うのは明白であり,最初に出会った時の模擬戦よりも強くなる事は確実だからこそスノラトは少しだけ心が躍ったのも仕方ない。
向かう先は確実な戦場となるからにはエランも全力を出す事は明白なので,スノラトは今まで経験した事が無い程に戦いに対する昂揚感を抑えながらも今は自軍の集結を待っている。それから程なくスノラトの軍が集結するとスノラトは隊列を取らせる事なく作戦を説明する。
「これより我が軍はこのまま山を下りて森の中を進み敵の後背へと出て奇襲を掛ける,既に道は見付けてあるから行ける者から行け。奇襲地点には斥候が居るので,そこで待機し私の合図で総員突撃せよ。我が軍の奇襲で敵味方共に混乱する事が予想されるからには,必ず旗持ちの兵は前線近くに,そして戦っている者は常にそれが敵だという事を確認してから戦う様に。誰しも味方とは戦いたくはないだろう,では移動を開始せよ」
先程とは違って冷静な口調で命令を下したスノラトに応える様に急ぎながらも音をあまり出さない様にフライア兵が動き出すのと同時に,既に道を知っていたエランは先頭の隊に混じって移動する。ハトリが既にイブレから道筋を聞いていたので,エランはハトリの案内で他の誰よりも早かったので隊の先頭になって歩みを進めていた。
獣道にしては道幅が有ったのでエランの後に続々とフライア兵が続き,山を下りる頃には敵軍が見えたがこちらに気付いた素振りは見せない。眼前の敵に釘付けになっているのは間違いない様だ。だからこそイブレは後方からの奇襲を提案したとエランは考えた。
少数でも軍が移動するからには音を完全に消す事が出来ない。なので静かな時なら気付かれるが,今は戦いの喧騒でこちらの音まで消してくれるのでエランと共に進むスノラトの軍は敵に気付かれる事なく移動する事が出来た。
「あそこですよ」
目的地に着いた様でハトリが小声でエランに告げてくると奇襲地点に居る斥候も気付いたみたいで,ここだと示す様に敵には見付からない様に森の木々を利用しながらフライア帝国の旗を掲げて目印にした。そしてエラン達が斥候の元へと到着するとすぐに戦う準備へと入る。
「イクス」
「はいよ」
エランが右手を右上に挙げると鞘から音も無く飛びだしたイクスが半回転して柄をエランの右手に乗せると,エランはしっかりとイクスを握り締めてお互いの魔力が接続する様に少しの間だけ白銀色の魔力をエランとイクスは放った。それからエランはイクスを下ろすと背を見せている敵を確認する様に見ると何かを見付けてから次の言葉を口から出す。
「イクス,ホワイトストームブレイド」
「よしっ」
イクスもそれを待っていた様にエランの言葉に応える。そしてエランの中で剣が抜かれるのと同時にイクスが白い魔力で覆われと,エランの背中から魔力が形と成していき白い四枚翅と成る。それと同時にイクスの刀身が真っ白に成り白い魔力がイクスを覆う様に形成される。そしてエランの中で剣が天を刺す様に止まるとエラン達を覆っていた白い魔力も消え去った。
突然の変化に周囲に居たフライア兵達は自然とエランに視線を向けるが,やはり全くそんな事を気にしないエランはスノラトの到着を黙って待っている。そして続々とスノラトの軍が到着するとエランは目印で有り,先頭と成っている先行していた斥候の近くに位置取ると今は黙って戦いの時を待っていた。そしてスノラトとイブレが到着する。
エランの変化にスノラトが驚くとハトリは思っていたが,予めイブレからエランの姿に関して聞かされていた様でスノラトは最初に驚きの表情を見せたがすぐに元の凜々しい表情に戻ったのでハトリ少しだけ残念がる。そんなハトリは正反対にイクスは今か今かと戦いの時を待っていた。
後続が続々と到着するのと同時に突撃陣形を成していくスノラトの軍,その先頭に当然の様にエランの姿が有り突撃命令を待っている。そして斥候の一人がスノラトに報告するとスノラトは腰のブロードソードを抜いて,その音を聞いたスノラトの軍に緊張が走るのと同時に戦いの猛りを燃え上がらせていた。そしてスノラトが大声で命を下す。
「突撃っ!」
『お―――っ!』
一気に森から飛び出してブラダイラ軍の後方に姿を現すスノラトの軍,その先頭どころかブラダイラ軍が気付いた頃にはエランは既にブラダイラ軍に斬り込んでいた。イクスの刀身とイクスを覆っている白い魔力によって十数人が一気に斬り裂き,断末魔すら挙げられないままに地面へと倒れる。
軽すぎるイクスを振り抜いてすぐに止めるだけの筋力を持っているエランは,攻撃直後にイクスを止めて刃を返すと既に標的を定めているので邪魔に成る兵達に向かって再び地面を蹴ると一気に距離を詰めて再びイクスを振るい出す。再びイクスの刀身が伸びたかの様に多くのブラダイラ兵を斬ると地面に倒れる前にエランは跳び上がり,倒れて行くブラダイラ兵を踏み台にして次の敵へと向かって行く。
突如として背後から現れたフライア帝国の旗を掲げた軍に混乱するブラダイラ軍,それは戦っていた味方のフライア軍も同じだが,損害を抑える為に隊長は後ろに退がっていた為に素早く事態を把握する事が出来た。それに隊長としては優秀なのだろう,すぐに自軍に向かって命令を下す。
「味方の救援だっ! この機に孤立しているブラダイラ軍を挟撃するっ! 総員突撃だっ!」
『お―――っ!』
この時を待っていたかの様に兵の損失を抑えていた味方のフライア軍も一気に総突撃を開始する。そうなると未だに事態を把握してないブラダイラ軍は益々混乱が広がるばかりで,部隊長が未だに挟撃を受けている事に対応が出来ていない事も乗じてエランは次々とブラダイラ兵を斬り伏せる。そうしているうちにもブラダイラ軍の背後から突撃して来たスノラトの軍も突撃を仕掛けて一気にブラダイラ軍の数を減らしていく。
「撤退だっ! 急いで右の森に撤退しろっ!」
ようやく挟撃を受けている事実を把握したブラダイラ軍の隊長が撤退命令を出す。その声を聞いてブラダイラ軍が右に動こうとするが既に遅かった,なにしろイブレが率いているスノラト軍の一部が先回りしていたからだ。そして反対側にはスノラトが馬上から愛用のブロードソードを手にブラダイラ軍と戦っていた。
奇襲に続く挟撃だからこそ実現する事が出来た完全包囲と言っても過言ではない。とはいえ破られる可能性が有るのも確かで,寡兵で半包囲をしたからには兵の層が薄く成っているのも事実だ。けど一気にブラダイラ軍を劣勢に追い落としたからこそ気付く事が出来ないと読んだ策なので,イブレが発案した策が通じているのも確かだ。だからこそエランは一気に動く。
既にブラダイラ軍の指揮官をイクスの攻撃が届く範囲にまで近づいていたエランはイクスを振り上げるのと同時に跳び上がる。ホワイトストームブレイドはエランの体重までは操作する事は出来ないが,脚力は充分過ぎる程に上がっているからこそブラダイラ兵の頭上まで跳び上がったエランの瞳はしっかりとブラダイラの隊長を捉える。
捉えた場所を目掛けて一気にイクスを振り下ろすとイクスを覆っている白い魔力が一気に伸び,鋭い切れ味を持っているイクスから伸びた魔力だからこそ同等の切れ味を有している白い魔力とイクスの刀身によって一気にブラダイラの隊長とエランを結ぶ直線状に居た兵達も縦に斬り裂く。イクスは確実にブラダイラの隊長を斬り裂いた感触をエランに伝えると,今度はイクスを振り下ろした勢いのままに一回転してからエランは地面に足を付ける。
これで完全に指揮系統が乱れる,そう考えたエランは掃討戦へと戦い方を切り替えて周囲に居るブラダイラ兵からイクスを振るい始める。エランが考えた通りに指揮官が倒れた事により,ブラダイラ軍は更に混乱が広がり命令が出ない事を良い事に何とか逃れようとする者まで出て来た。そんなブラダイラ軍にスノラトは逃亡した者は追わず残って居る者だけを倒す様に命じる。
後方との連絡がしっかり取れているとはいえ捕虜を抱えている程の余裕が無いからこそ,スノラトも掃討する様に命を下して合流した味方も合わせて掃討戦へと移行した。倒れている兵にも槍や剣を刺して動かない事を確認するフライア軍,そして周囲に居たブラダイラ兵を全て斬り伏せたので未だに戦っている所に行こうとするエランを止めたイクス。
イクスからのおねだりを聞き入れたエランは落ちている剣から上質な物を選び探していた。既にホワイトストームブレイドを自分の中で剣を鞘に収めていたのでエランとイクスは元の姿に戻っており,合流したハトリから出て来た愚痴を聞きながらもエランは一本の剣を選び取った。
完璧とも言える勝利を手にしたスノラトだが未だに仕事は残っているので次の行動に移っていた。完全にブラダイラ軍を叩いたスノラトは側近に自軍の兵達に集まる様に伝令を出すと次は残っている側近を連れて合流した味方の元へ馬を走らせて大声を出す。
「フライア帝国中将のスノラト=シブだっ! そちらの指揮官は誰だ!」
「自分です」
スノラトが近づいてくるのを見て動いていたのだろう,一人のフライア兵がスノラトの前へと進み出ると敬礼する。それを見ていたスノラトは大きく頷いてから再び口から言葉を出す。
「貴殿の階級は?」
「中隊長です」
「分かった,今後は私の指揮下に入ってもらう。私はロミアド山地に居る味方を救援するように皇帝陛下から直々の命が下ったからには異論は無いな?」
「はっ,承知致しました」
「うむ,それでは早速そちらの物資について確認したい。どれ位の時間をロミアド山地で過ごしたかは分からないが物資,特に食料などは不足しているだろう?」
「はい,食料に関しては底を突いて狩りをして凌いでいました」
「なら安心せよ,食料は存分に持って来たからな。今日は満足するまで食ってくれ」
スノラトの言葉を聞いて歓喜の声を挙げる味方のフライア兵,その様子を見ただけでも飢えていた事は分かる。だからこそスノラトはすぐに食べる事が出来る保存食を与える様に連れてきた側近に命を出し,側近達は後方の荷駄隊に向かって駆け出した。何にせよ合流した味方からすれば食料の心配をしないだけでも大いに安心する事が出来るので心が穏やかに成るのを実感していた。そして次の事を決める為にスノラトは中隊長との話を続ける。
「この付近に貴殿以外の味方は居ないのか?」
「申し訳ありませんが分かりません。なにしろ私達も後方との連絡と物資が途絶えて何とか撤退しようとしていたところでしたので,他の部隊については何も情報は得ていません。そこに運悪く,いや,この場合は運が良いのでしょうか,どちらにせよブラダイラ軍に見付かってしまって攻撃を受けていた時にスノラト将軍の救援が来たという状態です」
「なるほど,な……」
言い終えた後に考えるスノラト,合流した味方は心身共に疲れ切っている状態だ。そんな味方を連れてロミアド山地を進むのは危険な上に,合流した味方に更なる疲労を与えてしまう。なので何処かで休ませる必要が有るのと同時に味方と合流したからには報告と物資を輸送してもらう必要がある。その為にも,まずはここを離れようとスノラトは結論を出すと再び中隊長に向かって声を掛ける。
「この周辺の地図は有るか?」
「はっ,こちらです」
既に用意していたようで中隊長は腰の後ろに付いている袋から紙を取り出すとスノラトに渡した。そこには手書きで周辺の地形が書かれていたので,地形から現在地を把握して撤退しようとしていた事が窺える。そして地図を確認したスノラトは中隊長に向かって命を下す。
「まずはこの場を離れよう,戦いの音を聞いたブラダイラ軍が来るかもしれないからな」
「はっ,承知致しました。それでスノラト将軍,何処に行くのでしょうか?」
「うむ,まずは」
「少しよろしいでしょうか」
会話を遮る様にイブレが割って入り,その事に合流した中隊長は無礼だと怒ろうとしたがスノラトによって止められた。だからこそスノラトはイブレが何者かも含めて言葉を選び出す。
「これは流浪の大軍師殿,何か助言でも有るのでしょうか?」
そこそこの敬意が有る言葉を出す事でイブレが一役を買っている事を示し,スノラトの態度と言葉に中隊長も何かを察した様に引き下がった。それからイブレがスノラトの元へ馬を寄せてきたのでスノラトはイブレに地図を渡す。
受け取った地図に目を落とすイブレはすぐに頭の中で記憶している地図と照らし合わせて周辺の地形を一気に把握する。そこから一つの策が思い浮かぶが,それをすぐにスノラトに告げる事なく質問から入った。
「それでスノラト将軍は何処に向かって軍を休ませるつもりでしょうか?」
「質問をしているのは私の方だと思っているのだが」
「そうでしたね,ご無礼にお詫び申し上げます。では言わせて貰いますと,ここから少しフライア帝国に向かうと小高い山の山頂が切り開かれているので,そこに陣を張ると良いというのが私の考えです」
「山頂に陣を張れだと,私達はロミアド山地に居る味方を集めないといけないのだぞ」
「だからですよ,こちらは味方と合流して数が増えたのは確かです。まあ,未だにどれ位増えたのかは聞いていませんけどね」
イブレの言葉を聞いて『確かに』と思ったようで,スノラトは改めて中隊長の方へと顔を向けると声を掛ける。
「そういえば確かに合流した味方の数を確認してはいなかったな。それで貴殿達はどの程度の数を残している?」
「はっ,役五百ぐらいです」
中隊長が答えるとどうすると言わんばかりにスノラトは視線をイブレに戻すと,エラン達からすれば見慣れた微笑みを浮かべるイブレ。イクスとハトリがその場に居たら確実に何かを企んでいると言われそうな微笑みだが,スノラトからして見ると何かしらの策が出たのかと思われる程だ。そんなイブレがやっと口を開いて言葉を出す。
「ならば釣ってみるのは如何でしょうか?」
「釣るだと,何をだ?」
「もちろん,敵と味方をですよ」
「っ!」
イブレの言葉を聞いて驚きの表情を見せるスノラト,それは中隊長の方も同じらしく思考が停止する程に衝撃だった様だ。味方を集めるはずが,ここに来て敵まで集めるというのだから驚くのも当たり前だというのが一般論だろう。だからこその策とも言えるのがイブレを流浪の大軍師と言われる程の理由でも有るのだった。
さてさて,後書きです。いやはや,何というか実は数日前に,ここまでは書き終わっていたんですけどね~。何か……やる気が死んでた。もう最終チェックをして更新しようとは思っていたんですけどね~。なんか……動けんかったんよ,ってかPCすら起動させなかったんよ。それぐらいグテ~っと呆然としてました。別に何かが有った訳じゃないのですけどね,まあ,持病から来るモノとも言えるのでしょうがない,という事に致しましょう。
さてさて,やっと戦闘かと思いましたけど呆気なく終わりましたね~。まあ,私的にはここで長々と戦闘シーンを書く場面ではないと思っておりますからね。まあ,皆様も気長にお付き合いしてくれれば分かってくれると思っております。これもそれも勝手なお願いですけどね,とでも言っておけば苦情は来ないと確信したところで,そろそろ締めますか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そしてこれからも気長によろしくお願いします。
以上,時折飛んでいる子虫に翻弄されている葵嵐雪でした。




