第四話
ハツミの領主城に備え付けてある入口とも言える城門はそんなに大きくはなく,ハツミは首都ではなくてあくまでも地方の城塞都市だからこそ城もそこそこ大きいがやはり首都圏の城に比べると小さい。だからこそハツミの城に入る城門は横幅はそれなりにあるが高さはそんなになくて五メートル程だろう。そんな城門の前で大きくて先端が渦巻き状に為っている杖を持ちながら立っている男が居た。
男の見た目からして若く二十代前半ぐらいだろう。だがそれ以上に目を引くのは容姿だ。細身ながらも身長は百八十ぐらいで身長と同じぐらいの長さの杖を持っており,長い黒髪をそのまま垂らして紫色の瞳をしており顔立ちはどこか気品を感じる程に整っており微笑むと絵になると言っても過言ではないだろう。そんな容姿に似合うかのようにどこか気品が有りながらも優しげな雰囲気を出している男だ。そんな男にエランも微かに微笑みながら近づくと男の方から口を開いてきた。
「やあ,久しぶりだねエラン,ハトリ,イクス。遅いから心配したけど元気な姿を見られて良かったよ」
そんな男の言葉にエランが答える。
「うん,久しぶりだね,イブレ」
相変わらず短く答えるエランの言葉からこの男が前々から会話の中で出てきたイブレーシン=シャルシャのようだ。エランがイブレに向かって挨拶をした後に少し,いや,かなり呆れた顔をしたハトリが口を開く前にイクスも鞘から少し出てきた。
「何が久しぶりですよ。この前会ってから十日しか経ってないですよ」
「どうせお前の事だから俺達の先に行って何かしてたんだろうよ,それと毎度の事だがかなり頻繁に会って居ると思うんだが,何でいつも挨拶が久しぶりなんだよ」
ハトリとイクスがそんな言葉を発するとエランは首を傾げた,どうやらハトリとイクスの言葉が理解しがたいようだ。そんなエランに構う事なくイブレはハトリとイクスに向かって笑顔で返事をする。
「例え数日だろうと離れていた相手と出会う事が出来たんだから,この偶然を久しぶりと呼ぶに相応しいと僕は思うんだけどね」
「いやいや絶対に偶然じゃないですよ。そもそも一緒に居る日数と離れている日数は同じぐらいですよ」
「それに毎回毎回,俺達に必要な情報や行き先なんかを示しやがるからな。わざわざこんな面倒臭い事をしないで先に行くとか言えよ。毎回偶然の出会いを演出するんじゃねえよ」
「ハトリとイクスは何を言ってるんだい。今回も出会えたのも偶然に過ぎないよ,僕としてもビックリしてるんだから」
「うん,イブレが居ると聞いて私も驚いた」
イブレに続いてそんな言葉を発するエラン。まあ,ハトリとイクスの言葉を聞いていれば分かる通りにイブレは定期的と言える程にエラン達と頻繁に合流しているのは間違いはないようだが,イブレは何故か毎回偶然の出会いを演出するのでハトリとイクスはそんな演出の意味が分からないと言っているようなものだ。そんなハトリとイクスとは逆にエランは頭から偶然が成した久しぶりの再会だと信じて疑わないからこそイブレと再会した時に思いっきり呆れた顔をしていた。イクスに関しても言葉通りに面倒な演出をするよりはすんなりと本題に入れと言いたいようだが,エランがその点に関してだけはまったく察しないどころか気付きもしないのだからハトリとイクスは呆れるしかないとも言える。
意味不明の演出はともかくとしてイブレとしてはエラン達に確認したい事が有るのでそれを口に出してきた。
「それはそうと,エラン達が到着した知らせが来てからここで待ってたのだけど随分と待たされたけど何かあったのかい?」
「それはそこの騎士団長様に聞いた方が分かり易いな」
イクスが真っ先にそんな事を告げるとハトリがベルテフレに近づいてから小声で口を開く。
「さっきも話した通りにイブレには素直に話した方が良いですよ。ついでに言うとですよ,イブレは相手の嘘を見破るのが上手すぎるですよ。あれはもう神懸かるどころか魔族的に上手いのですよ」
ハトリの忠告に突如として悪寒を感じたベルテフレは笑顔を向けてくるイブレに目を向けると苦笑いすら出来ない程に悪寒が強くなったので重すぎる足取りでイブレの前へと進み出ると頭を下げながら口を開く。
「イブレーシン殿,まずは謝罪から申し上げます。身勝手な事をして申し訳ありませんでした。詳細を申し上げますと」
「その前に頭を上げてくれませんか。何も知らないまま頭を下げられて話を聞くのも他人の目がありますからね。私としては止めて欲しいですし,理由が理解出来ない限りは対応も出来ませんよ」
「はっ,それは失礼しました」
短く非礼を詫びるとベルテフレは頭を上げてからエラン達の到着が遅れた理由を嘘一つなく,詳細に説明をするのだった。
「ふふっ,これは責めるに責められませんね。それに,これはこれでエランの実力を示すのにはありがたいですからね。ベルテフレ騎士団長殿,これ以上の謝罪は要りませんが報告書は上げてください。それと負傷者は出なかった事にしてください,エランがイクスと共に戦い不機嫌でなければ相手に怪我を負わせずに全員を倒せたのは確かでしょうから」
ベルテフレから詳しい事を聞いたイブレは開口一番にそう言い出して笑顔を向けた。これにはベルテフレは意外に思ってしまう,なにしろ自分勝手でエランの試す為の行為を勝手にやったのだからエランを推薦してきたイブレから文句や苦言が有っても何も言い返せない立場にあるのは十分に理解していたからだ。それなのに軽く笑ってから笑顔でベルテフレの責任を問うどころか笑顔で報告書の改変を求めてきたのだからイブレが何を考えているのかまったく分かる事も出来ないので言葉に詰まるベルテフレにイブレが更に言葉を続けてきた。
「まあ,そんなに難しく考えないでください。後は私の方で問題にならないように取り計らいますから,それと領主様にも告げ口なんてしませんから,なのであなたは私が言った通りの事をしてくれば良いのです。それで何も問題は無い事になるのであなたが責任を問われる事が無いのですから。それとも……今のハツミにこれ以上の問題を増やすのが望みですか」
最後は声色を落として言葉に重みを乗せるがベルテフレには言葉の重みだけでは無く身体と心にも空から何かが落ちてきた重みすら感じる程だ。そんなベルテフレがイブレに目を向けると相変わらず笑顔でベルテフレを見ている,それだけでベルテフレには何かこれ以上は関わっては為らないような壁のような圧力さえも感じていた。それにイブレが最後に言った言葉は言われればベルテフレも望む所を的確に突いてきたのでベルテフレは再び頭を下げてから口を開いた。
「分かりました,イブレーシン殿がそう仰るならそう致しましょう」
短く答えたベルテフレは頭を上げると未だに笑顔のイブレが目に映るとそのイブレが言葉を返してきた。
「理解して頂いて感謝します。それとエラン達は私が案内する事になってますからベルテフレ騎士団長殿は戻った方が良いでしょう,私は話を聞いただけですが聞いただけでもかなりの怪我人が出てる事は分かりますからそちらに対処した方がよろしいかと」
「お心遣いに感謝を致します。それでは私は失礼させて頂きます」
そんな言葉を返してベルテフレは踵を返して馬車に向かうとドアを開けたが,中には先程までエラン達が食い散らかしていたゴミあったのでそれを足で軽く払うと中の椅子に腰を掛けて御者の兵士に出るように合図を出すと馬車は進み出して城壁の門へと向かって行った。そこまで何も言わずに見送ったエラン達だが馬車を見送ると真っ先にイクスが声を発してきた。
「まったく,相変わらず陰険な手を使いやがって,聞いててあの騎士団長様が可哀想だとまったく思わなかったけどなっ!」
最後だけ少し楽しげな声を上げるイクス。どうやら先程の会話がイクスにしてみれば少し面白かったのだろう。そんなイクスとは真逆にハトリが溜息を付いてから会話に混ざってきた。
「イクスは調子に乗りすぎですよ,それにイブレがそんな事をするからエランがそんな手段を覚えてしまうですよ」
「ははっ,これが処世術というモノだよ。まあ僕なりにアレンジはしてるけどね」
「そのアレンジがエランに悪影響を与えてると時々心配になるですよ」
思わず額に手を当ててしまうハトリの頭をエランは優しく撫でながら口を開いた。
「大丈夫,覚えて理解して使い時を分かってるから」
「だから心配ですよ」
ハトリの頭を撫で続けながらエランは首を傾げたのはハトリの心配を理解が出来なかった事は言うまでも無いだろう。そして理解する事を諦めたエランはハトリの頭を撫でながら眼はイブレに向けて呟く。
「ゆっくりと休みたい」
「ごめんごめん,それじゃあエラン達に割り当てられた部屋に案内するよ。それにエラン達も聞きたい事も有るだろうし,僕も話したい事があるからそこでゆっくりとしながら話そうか。後はここの領主様次第だけどね」
そう言ってイブレは領主の城を見上げるとエランも真似て視線を上げる。地方の城だけあって立派な造りになっているが高さはそんなに無いが広さはかなりのモノだろうと推測しか出来ない程に建物の端が分からない程だ。高さとしては最上階でも七階か八階ぐらいだろう,さすがに外から見ただけでは内装がどうなっているかは分からない。そして最も高い部分にハツミを中心としたマーズ領主が居るのだろう。そんな城の門に向かってイブレが指で示してから短く口を開いた。
「それじゃあ案内するよ」
「うん」
エランも短く答えるだけで歩き出したイブレの後を続く,それからイブレが高さだけはある城門の取っ手に手を掛けると簡単に開いて自分達が通れる分だけ開けるとイブレが中に入ったのでハトリを先に促したエランは最後に入ってから門を閉める為に取っ手を握ると簡単に動いた。やはり見かけだけで門というよりはドアに近い造りとなっているようだ。まあ,元からハツミが軍事的に攻められる事まで考えて作られた城では無い事はこれだけでも分かるし,入ってすぐに豪華で大きすぎるだけではなく二階に続いている左右に分かれた階段がありその前にはエントランスが広がっていた。そんな城の中をイブレの後に続いていくエラン達だった。
イブレの案内でエランに割り当てられた部屋はかなり豪華で広いだけでは無くて寝室とリビングの二部屋に別れており,寝室にはキングサイズで見事な装飾が施された高い柱には天板から垂れ下がっている見事なレースがまとめられていた。そしてリビングにはエランとハトリの二人が使うには広すぎるテーブルの上に大量の甘味物が並んでいたのはイブレが用意させていたのだろう。
テーブルの上には小さなベルが置いてあり,イブレはそれを持ち上げて鳴らすと耳に心地良い音が入って来るのと同時に音には魔力が含まれて一つの流れとなって部屋の外に流れ出ていた。まあ,予想が付くのでまったく何も言わないエラン達が待っていると程なくノックされてイブレが入るように合図を出すと一人のメイドが入ってきた。
「ご用件はなんでしょうか?」
綺麗な姿勢で一礼した静かな佇まいをしたメイドが用件を聞いてきたのでイブレがエラン達に代わって用件を口にする。
「エラン達が城に到着した事を伝えて謁見が何時頃になるか調べてくれないかい。それと飲み物を,えっと」
「紅茶」
「コーヒーですよ」
「紅茶を二つとコーヒーを一つだね」
「かしこまりました」
再び一礼して退出したメイドを見送るとエランはイクスを右側に立ててハトリと席に着くとイブレも向かい合うように席に着くとハトリから口を開いてきた。
「かなりの好待遇ですよ,それにこの部屋は確実に賓客を迎える部屋ですよ,いったいどんな事を吹き込んだですよ」
「吹き込んだとは聞こえ方が悪いな」
「けど普通なら俺達みたいな奴にここまでの待遇で迎え入れないだろ」
「そう,普通ならね。それだけ言えば分かるかな?」
「今のハツミは普通とは言えない状況まで追い込まれてる」
いつの間にか甘味物を手に持っているだけではなくて半分程も食べかけになっている甘味物を手にしながらエランがそんな言葉を放つと再びドアがノックされたので自然と話が中断されるとエランがすぐに口を開いた。
「どうぞ」
すぐにドアが開いて専用の台車に乗せてある紅茶とコーヒーが運ばれてきたのでエランとイブレの前に紅茶が置かれてハトリの前にコーヒーが置かれた,ついでに大量の砂糖とミルクも。その事にかなり不機嫌になるハトリは真っ先にコーヒーが入ったカップを手にしてそのまま飲むがメイドはハトリの抵抗を無視して飲み物を運び終えると口を開いてきた。
「領主様は政務が立て込んでおりまして謁見が何時になるかは分からないそうです,他にご用は?」
「今は無いですよ」
未だに少し不機嫌なハトリが素っ気なく答えるとイクスとイブレが軽く笑い声を出すがハトリは何も聞こえないフリをして何事の無かったように雰囲気をリセットするとメイドが頭を下げながら口を開いてきた。
「ご用がある時はいつでもそこのベルでお呼びください。それでは失礼させて頂きます」
メイドが退出するとイブレは紅茶の香りを堪能してエランは甘みを堪能した後に紅茶の味を堪能した。その中で一人,というよりは一本? だけ暇で不満だったので刀身を少し出したイクスが声を発して来た。
「それでイブレよ,そろそろ本格的な話が聞きてえんだがな,いつまで焦らすつもりだ」
「焦らしてる訳ではないんだけどね。僕としてはまずエラン達がどこまで聞いてるかを知らないと話しようがないし,同じ話をするのは時間の無駄だと思ってるからね。だからイクス,ハツミに来てからの事を話してくれないかい」
イクスが時間を持て余して暇になっている事に気付いているのか,いないのか,イブレはイクスに話をするように促すとイクスも仕方ねえなと呟いてからハツミの町に着いてから聞いた事を話した。
イクスが一通り聞いた話をイブレに話し終えた所でイブレは手にしていたカップを置くと顎を挟むように手を当てると少し考えてから口を開いてきた。
「どうやら触りだけを簡単に聞いただけで詳しい事は何も聞いてないようだね」
「あぁ,だから俺としてもそろそろ詳しく説明して貰いたいんだが,そもそもイブレ,お前は何でエランを領主に討伐の推薦をしたんだ?」
「それは目的が,っと,ここは順番に話した方が分かり易いかな」
「うん」
「最初っからそうするですよ」
「ならさっさと話しやがれ」
エランとハトリもしっかりと話を聞いていたみたいでイブレの返答に同意する声を上げるとイブレは分かったと言った後に紅茶を一口だけ飲んで喉を潤した後に話し始めた。その内容はこうだ。
ハツミの騎士団が一つの盗賊団を討伐するのに八回も失敗しているのは聞いての通りだけど詳しく話すと毎回,同じような編成で討伐に向かっている訳じゃ無い。まあ,賊の討伐に慣れているハツミの軍勢が同じ失敗を続ける訳が無いから討伐の度にあれこれと手を打ってたのだが結果は全部同じで討伐に向かった兵士は誰一人として帰っては来なかった。
討伐に向かった者が報告の為に負傷しながらも戻って来るのが当然だと思っていたハツミ軍にとってはこれが更なる混乱を招く事になったようで,確かな情報は何一つ無いままに勝手な推測をいくつも立てて,そこから新たな作戦と的確に作戦を実行できる者を選び出して次の討伐隊を向かわせるという事を繰り返したんだ。そして,そんな状況が七回も続けばやっとハツミ軍も相手の情報が何一つ無くて,向かわせた討伐隊がどうなったかも分かっていない状況にやっと気付いたんだ。まあ,ここまで失敗を繰り返した心情は聞いているだろうから,そこは省かせて貰う。
ここでハツミ軍が最も重視したのが誰一人として戻ってこないという点だ。戦闘に参加してもある程度の負傷をすればその者は伝令として傷の手当てをした後に戦況を伝える為に戻って来るモノだが,この盗賊団に関しては誰一人として戻ってこないからほとんどの者が捕虜として捕らえられており監禁されている,と考えたからこそ何かしらの大がかりな罠で討伐隊の生き残りを逃げられないように捕らえる仕掛けがあると考えたが,その考えが甘いと後で思い知らされる事になった。なんにしろ八回目の討伐隊は更なる工夫が成された。
討伐隊のかなり後方に偵察兵を何人か配置して偵察兵は絶対に戦闘に参加せずに敵に気付かれないように動いて情報を集める事に専念するように厳命を出した。もちろんハツミ軍は何の情報も持っていなかった訳ではない。盗賊団の規模と成っている人数,商隊や旅団を襲う場所,更には盗賊団の根城まで突き止めていたのだから後は軍を送り込めば終わるだろうと思っていたが,それ以上の何かを盗賊団が持っている事にやっと気付いたからこそ八回目で偵察兵を配置する事に成った。こうして行われた盗賊団殲滅に向けた八日目の討伐だがさすがに八回目となると期待は薄い程度では無くて,また同じ結果になると民の中では囁かれるようになっていた。けどこの偵察兵が手にした情報こそ全てを解明するきっかけとなり,ハツミ軍がこれ以上の討伐隊を出せない理由となった。これだけ言えば偵察兵が上手く情報を得た事は分かるだろうが内容は最悪と言っても良い程だ。
偵察兵が持ち帰った報告は討伐隊の全滅で全員が殺されて生存者はいないと信じられない程の報告で驚きを通り越して報告を聞いていた者達が少し呆然とする程の衝撃だったらしい。そして偵察兵から更に驚かされる報告が成された。それは討伐隊のほとんどが盗賊団の首領に殺されおり,普通では考えられない方法で殺されたとの事だ。なんでも首領に殺された者は肉体は全て焼き消されて残ったのは焦げた鎧と盾や武器,剣や槍だけが地面に落ちたそうだ。
そこまで話したイブレは少し話疲れたのと話の切りが良いので紅茶で口を潤すと手を伸ばして一口大の甘味物を取ると口の中に入れて再び紅茶を満喫した。そんなイブレの話を聞いてたエランが口の中を無くなるまで噛み続けて,甘みを感じなくなってから口を開いてきた。
「つまりイブレは,不可解な死を遂げさせて異常とも言える程の強さを持っている盗賊団の首領の力について心当たりがあるって事?」
「さすがエランだね,理解が早くて助かるよ」
「それでその心当たりってのはいったい何なんだよ」
イクスがそんな声を発するとイブレは少し考え込むような声を殺しながらも空になったカップに横に置いてあったポットから自ら紅茶を注いでカップを満たすと香りを楽しんだ後に一口だけ飲んでからやっとイクスの質問に答えてきた。
「まあ,その心当たりがエラン達に関わって来るんだけどね」
「相変わらず回りくどい言い方をしやがるな,もっと簡単に言えないのかよ」
イクスの言葉にイブレは声を殺して少しだけ笑った後に会話を続けてきた。
「そうは言っても僕はこういう話し方しか出来ないからね,そこに文句を付けられても困るだけなんだけど,ねえ,イクス」
「俺様に同意を求めんなっ!」
「じゃあ否定?」
「エランも乗ってくるんじゃねえっ!」
「だったら」
「いや,これ以上は面倒からふざけんなっ!」
「僕としては真面目で真摯に答えてるつもりだけどね」
「私はふざけててイクスをからかってるかと思った」
「いや,エラン,そこで正直な感想を言われても俺様が困るだけだから」
「なら冗談?」
「それも違うっ!」
「ここまで来ると漫談だね」
「発端のイブレは黙ってやがれっ!」
そんな会話が続いているとコーヒーのあっさりとした苦みで口の中に有る甘みを打ち消したハトリが口を開いてきた。
「そろそろ本題の話に戻って欲しいですよ,これ以上の漫才はいらないですよ」
「おいイブレ,漫才呼ばわりされてるぞ,お前のせいで俺様もなっ!」
イクスの声を聞いてイブレは軽く笑いながら謝ると少しだけ笑い続けて,笑いが止まると紅茶が入っているカップをテーブルに置いてからやっと話を戻してきた。
「さて,僕がスレデラーレの最後に入った弟子と呼ばれてるのは知ってるね」
「あぁ,それで,それが俺様達にどう関わってくるんだ」
「まあ,これも少しだけ長いから黙って聞いててくれるかい」
「分かった」
「ちっ,仕方ねえ」
「……」
さっきから黙っているハトリは何も言わずにコーヒーと甘味を交互に味わいながらしっかりとイブレの話を聞いていたので返事すらしない。というよりも,先程のおふざけはもういらないと言わんばかりに何も言わないのだろう。そんなハトリの態度を少しだけ楽しんだイブレはやっと真面目な話に戻してきた。そして語った内容はこうだ。
イブレことイブレーシン=シャルシャは今では伝説の鍛冶匠と呼ばれるスレデラーレが取った最後の弟子とも呼ばれている事は世間では大いに広まりエラン達も知っている事だ。順を追って話すのならこうなってくる。
イブレの家系は武器よりも鎧や盾などの防具を作る鍛冶屋の家系であり,シャルシャの一族が作る防具にはかなり高度な魔術が練り込まれているだけでは無くて魔力の消費を抑えて防御力を上げる効果を発揮できる,などと特殊な技術を多く持っていた為にシャルシャの一族は防具作りで名を馳せる程になっていた。そんなシャルシャの一族が持つ特殊な技術に目を付けたスレデラーレは技術の提供を求めたがシャルシャの一族としても対価も無しに技術を提供する義理も恩義も意味も無い。そこでスレデラーレはシャルシャの一族から一人だけ弟子として技術を授けると申し出た。つまりお互いの技術を交換する為にスレデラーレが弟子を取るという形を取った。
その時は既に名を馳せていたスレデラーレが自らの申し出なだけにシャルシャの一族も時間が掛かってもスレデラーレの技術が手に入るのなら,という欲求には勝てなかったので申し出を受ける事となり,その時にスレデラーレに弟子入りする人物はイブレに決まりイブレがスレデラーレの元へ来た時にはシャルシャの一族が持つ技術の一部を記した書物を送るとスレデラーレも技術を記した書物を受け取ってシャルシャ家へと送り,今後も定期的に,というよりはイブレが成長する度にお互いの技術を交換するという密約が決まった。こうしてイブレはスレデラーレの弟子となり,それ以降はスレデラーレはシャルシャから得た技術を研究しながらもイブレの師匠として技術を授けた。
イブレが作った剣は最初からかなり評判が良かった。元は防具を作る家系だった為に少しは鍛冶職の技術を会得していたからこそでイブレが作った初期の剣はスレデラーレと共に作った物や指摘を受けながら作った物が多いが,それでも剣の出来が良かった為にイブレの名前は少しずつ広まって行った。それからイブレはスレデラーレから授かった技術を使って防具作りの研究もしていたが,こちらは世の中に出す事は無く実家であるシャルシャ家に行程の詳細と共に技術を一族の為に送っていた。だからこそイブレが自ら作った防具は一つとして世には出回っていない,と言われているがエランが身に付けている防具はイブレが作った物なので,それだけでもエランとイブレの関係性が深い事が分かる。
イブレがエランの為に鎧を作った理由はさておきイブレがスレデラーレに弟子入りしてから数年後,今から一年ぐらい前にイブレの口からスレデラーレの死が告げられてどこかに隠遁して制作と研究に没頭していたスレデラーレなだけにイブレが広めたスレデラーレの死亡を確かめる事は誰一人として出来なかったが,弟子として直接指導を受けていたイブレの名は信頼と共に広まっていた為に誰しもがスレデラーレが死んだ事に驚き,スレデラーレは数多くの弟子を取っていた為に死亡が確かなモノだと受け入れて嘆いた者も多かった。そんな経緯があり今ではイブレがスレデラーレが取った最後の弟子として更にイブレの名声は広まった。
一区切り付く所まで話し終わったのだろう,イブレは紅茶で口と喉を潤しているとイクスから不機嫌な声が発せられた。
「今更そんな昔話をしてどうする。それとも自慢か,俺達に無駄な自慢でもしてるのか,なあ,イブレよ」
イクスの声を聞いたイブレは軽く笑ってから口を開いた。
「そんなに焦らないでくれるかい。ここからが一番大事な所なんだからね」
「どういう事ですよ?」
「確信が無かったからエラン達にはまだ話してはいなかったんだけどね。僕がまだスレデラーレの弟子だった頃に自由に見て良いと言われた書物や目録の中にそれがあったんだ。スレデラーレが自ら選んだスレデラーズの目録がね」
「じゃあイブレはスレデラーズの全部を知っていたですよっ!?」
思わず椅子の上に立ち上がってテーブルに身を乗り上げてイブレに問い質すハトリにエランはハトリのツインテールになっている片方の髪を手に収めると優しく撫でる。エランがいきなりそんな事をしたので驚きの声を上げたハトリだが,すぐにエランが落ち着こうと言う代わりに髪を撫でている事が分かったハトリは再び座るとエランは手を離してイブレが話の続きをしてきた。
「正確に言うと僕もスレデラーズの全部を見た訳じゃないんだ。僕は目録からスレデラーズの特徴や形,一部の能力なんかを記した物を読んだだけだから全部を知っている訳じゃ無いけど。スレデラーズの全てを少しだけ知っていると言った方が正しいね」
「それで,それを俺達に教えて俺達は何を理解すれば良いんだ」
イブレの話から言いたい事がまったく見えていないイクスが少しふて腐れた声で発するとエランは紅茶を口の中に注ぎ込み甘味と薄い苦みが合わさり新たな甘味に変わって行くのを堪能した後に口から紅茶を離してカップを手にしながらイブレに目を向けてしっかりと口を開いた。
「スレデラーズの一本をその盗賊団が持ってる,で良いの?」
「うん,エランの言う通りだよ。ハツミの偵察兵が持ってきた情報とスレデラーズの目録で見た特徴が完全に一致しているからね。今まではここまではっきりとスレデラーズの情報を先に聞いた機会が無かったから言わなかったけど僕の見解が間違ってなければエランが言った通りに盗賊団はスレデラーズの一本を持っているのは確かだよ」
「なるほどな,これでようやく分かってきたぜ」
「それはそうですよ,私達の目的もスレデラーズなのですよ」
いろいろと納得をするイクスとハトリだがエランは紅茶に映る自分の顔を見ながら少しの時間だけ物思いに耽っている雰囲気を出すがカップをテーブルに戻すといつもの何も読み取れないような雰囲気に変わりエランはイブレに質問をしてきた。
「それでイブレ,そのスレデラーズの名前は?」
「フレイムゴースト,特徴としては剣が炎を纏う時に繰り出された攻撃は絶対に防ぐ事が出来ずに肉体だけを焼かれて鎧だけが残ると記してあったよ」
肉体だけを焼かれて鎧だけが残るという点は確かにハツミの偵察兵が報告してきた情報と一致していたのでイブレとしてはここまで来ると疑いようがないどころか確信に変わったのだろう。八回もハツミの討伐隊を全滅させた事だけでも異常としか言えないのにそのうえ死体が残らずに焼け焦げた鎧しか残らないという不可解な現象を常識で考えても絶対に解けはしない問題だ。だが,そこにスレデラーズという因子を加えるだけで簡単に解答にたどり着けたのだから,イブレが言う通りに盗賊団がスレデラーズを持っているという確率だけでもかなり上がり可能性も有ると言える。そしてハトリが言った通りにエラン達はスレデラーズを集める為に旅をしているのだからここはハツミに協力するのが当然なんだろうがイブレはエランに尋ねる。
「これで僕がエラン達を推薦した理由も分かった事だし,エラン……行けるかい?」
尋ねられたエランはというといつの間にか口の中に放り込んでいた甘味物を綺麗さっぱりかみ砕いて甘味を味わってから口を開いてきた。
「そのスレデラーズは絶対に手に入れる,それが私の目的であり願いだから。私が祈り願う限りは私は絶対に折れないよ」
そんな返答を聞いたイブレは声色を落として返事をする。
「そうだね」
エランがテーブルに手を伸ばして取ったのは甘味物ではなくて紅茶の入ったカップだった。微かにほろ苦さある紅茶で口と喉を潤すとカップが空になったのでエランもイブレと同じように傍に置いてあったポットから紅茶をカップに適した量を注ぐとカップを手に取ったが,すぐに口に運ぶ事はせずにカップを包み込むように両手で持つと紅茶がカップを通して温もりが伝わってくる。そしてカップを膝の上ぐらいまで下げると微かだがエランの顔が紅茶の水面に映った。相変わらず無表情だがエラン自身は自分が少し悲しい顔をしていると思ったからこそ呟く。
「イブレは……私がやっている事に反対? やっぱりあそこで,剣の楽園で閉じ籠もっていれば良かったと思ってるの?」
泣き言にも聞こえるような言葉を発するエランの姿は悲しげでもあり,逆に勇ましくも見えたハトリは何も言う事が出来ずに今はただイブレの言葉を待つ事にするとすぐにイブレからの返事か来た。
「反対なんてしないよ。エランが自分で決めた事だからエランの決断に口を出す権利は誰にも無いよ。それに僕にも責任があるからね,いや,贖罪と言った方が合っているかな。だからこそ反対はしないけど迷っていないとも言えないかな。それでも僕はエラン達を見守り,時には手伝うよ」
「そう,だね」
明らかに力の無い返事をするエラン。落ち込んでいるようにも見えるエランにハトリは何も言わなかったし言えなかった。それは長い長い旅路になる事は分かっているけどやっと最初の一歩を踏み出した時のような,不安でもあり迷いがまとい付く。だけどエランには戻る事なんて出来ない,というよりは,自ら戻る場所を無くしたのだから戻りようがない。自ら戻る路を断ち切ったエラン達はただ自分達の目的に向かって進むしかない,それはエランも充分に分かっているだろうが,やはり不安や迷いは襲い掛かって来るのは分かっていた事だ,分かっていたからこそエランは戻る為の路を断ち切ったのだから。
エランが静かにカップを見詰めるとイブレも何を言って良いのか分からない状況になってきたので自然と雰囲気が静かにそして少しずつ重くなってくる。そんな雰囲気に嫌気が差したのかイクスがわざとらしく大きな声を放つ。
「それにしてもよ,よく俺達をこんな待遇で迎えてくれたな。まあイブレが何かをやったにせよ,こりゃあ確実に賓客待遇だれ俺達。これで何か裏があるなんて落ちは無いよな,なあ,イブレよ」
イクスの言葉を聞いて驚いたのかイブレは手にしていたカップがに注がれいた紅茶が大きく揺れた。それから小さい声で,あぁ,と言ったので何かを忘れててそれを思い出したのだろう。イブレは改めて紅茶を少し堪能するとテーブルの上にカップを置いてから話し始めた。
「すっかり忘れていたけど,今回の討伐に成功した際の報酬はスレデラーズだけなんだ。だから他にはまったく何も支払われないんだよ」
「報酬としてスレデラーズを出すのですよ,それだけもこの件の充分過ぎるですよ。けどここまで持て成してくれるのは納得が出来ないですよ。スレデラーズだけでもかなりの価値があるのに私達の待遇はそれ以上ですよ,さすがにこれだけの好待遇を受けるからには余計なうがいをしてしまうですよ,さあイブレ,私達が邪推をする前にいろいろと薄情するですよっ!」
最後には興奮してきて声が大きくなったハトリにイブレは相変わらずの笑顔を向けながら答えた。
「まあ,その理由を話すと長くなるんだけどね。ハトリが納得が行かないのなら話すけど?」
そう言ってからハトリに目を向けるイブレに対してハトリはしっかりと頷いてから質問に答えた。
「納得が行くまで話して欲しいですよ」
「分かったよ」
それからイブレは語り始めた。真っ先に話し始めたのはマーズ領主の人柄と性格についてだ。ハツミの町が行っている賊に対する被害者への厚生が過ぎる制度とここに来るまでにエランが少し満足するだけの甘味物が買えたようにハツミは最北端の町ながらもかなりの賑わい栄えている。これだけでハツミに居城を構えている領主が訪れる商人と住んでいる民を深く重んじてる証拠であり,領主の人柄が成した成果とも言える。
領地の民から深く信頼されるだけではなく商売に訪れる商人にも信用されているのだから心優しく,民を愛する以上の器を持った人柄と言える。そんな人物が領主をしているのだからハツミを貿易町の一つとして重視する商人も多く,長らく何代にもわたってハツミに住んでいる者も多いし移住してくる者もいるぐらいだ。それだけマーズ領主は何代にも渡って遺伝子的にも教育もそのような人柄になるようにされてきたのだろう。簡単に言ってしまえばマーズ領主は心優しく,民やハツミに貢献してくれる人物を労うだけの気配りが出来る程の人物が歴代の領主として選ばれてきたからこそ今のハツミがあると言っても良いだろう。
心優しく人を想う気持ちも広い人物なだけにエラン達に対してもこのような待遇で迎え入れた,というよりはエランが盗賊団の討伐に向かわせると決まった時点でマーズ領主はエラン達を賓客として持て成すように命じた。イブレはもちろんその理由を聞いてみたらこんな答えが返ってきた。
八回もの討伐でかなりの人数が死んだ,そんな討伐に聞いただけだが少女とも言える者を向かわせるのは心苦しい。私個人としてはハツミの問題だからこそハツミの軍勢だけで解決をしたかったがそれも無理と分かったからにはどんな報酬でも出すつもりだがハツミの為に戦ってくれる少女を無下に扱う事は出来ない,それが私の,マーズ領主としての責務と思って欲しい。だからこそ彼女達を賓客として迎え入れるのは当然であり,私にはそれしか出来ない,と。
マーズの領主はエランの実力があっても個人的な理由があってもハツミの為に今回の件をなんとかしてくれるなら報酬なんてどうでも良いし,出来る限りの持て成しをしたいのだろう。それにエランの実力を未だに知らないマーズの領主だからこそエランが死んでしまうのではないかという懸念が捨てきれないでいる。そこで自分に出来る事を考えてみたのだろう,その結果としてエラン達を賓客として迎え入れて今回の件が終わるか区切りが付くまでは誠意としてエラン達を賓客扱いすると決めた。
心が優しいだけでは無くて生真面目な部分もあるんだろう,だからこそハツミが頭を悩ませている件を解決に乗り出してくれた者を無下に扱う事が出来ず逆に丁重過ぎる程に接しようという真面目過ぎる性格が出たのだろう。そしてエラン達は無事にめでたく賓客として迎え入れた。と,語り終えた所でイブレは乾いた口を紅茶で潤すとイクスが威勢の良い声を発してきた。
「そこまで言われたら仕方ねぇな,ここは素直に好意に甘えるのがこちらの誠意ってもんだしなっ!」
すっかり調子に乗ったイクスの言葉を聞いたハトリがすぐに反撃してくる。
「これだから駄剣は遠慮という言葉と行為を知らないですよ。少しはその細長い刀身に遠慮と配慮と謙遜という言葉を刻み込んだ方が良いですよ」
「このクソガキがっ! 何気に俺様に対する無礼な言葉を増やしてんじゃねえっ!」
「聞き間違いじゃないのかですよ。それと声がうるさいですよ,せっかくの心遣いが駄剣の遠吠えで無駄な時間に為って行くですよ」
「そこまで言うか,俺様に対してそこまで言いやがるかっ!」
「せっかくこんな環境に居るのですよ,ここは優雅に気品が有る雰囲気を味わいたいですよ。けど,この遠吠えが全部を壊してるですよ」
「それは俺様に優雅さと気品が無いと言いたいのかっ!」
「自覚がある事に驚いたですよ」
「誰も認めてねぇっ!」
すっかり賑やかになった右側にエランも自然と和やかな雰囲気になっていた。そんなエランの雰囲気を感じ取ったイブレは賑やかハトリとイクスをそっちのけにエランに向かって話し掛ける。
「ハトリとイクスは変わってないね」
「うん,賑やかで楽しいけど,たまにうるさいかな」
そんな言葉を聞いてイブレは軽く笑ってから会話を再開させる。
「エランも,その様子だと旅をする事に大分慣れたようだね」
「イクスとハトリが居てくれるから,それに……」
「今は自分を信じて前に進めばいい,前に進んでいる限り変化があるから。後は変化をどう受け止めて対処するかだよ」
言葉に詰まったエランに対してイブレがそんな言葉を贈るとエランは微かに微笑んで頷いた。そしてエランを見ていたイブレも優しい笑顔で頷くとカップに入っている紅茶を空にすると立ち上がってテーブルの隅に置かれていた小さなベルを鳴らした。
すぐにノックが聞こえてエランが入室の許可を出すとメイドが入ってきた。メイドが入ってきたのに未だに騒いでいるハトリとイクスを無視してイブレがメイドに向かって口を開いた。
「まだ領主殿との謁見は無理かい?」
先程メイドを呼んだ時も同じような事を聞いたばかりなのだが今度はメイドの口からは別の答えが返ってきた。
「政務が立て込んでおりますので夕方頃になるそうです」
「そうか,ありがとう」
イブレは聞きたい事だけ聞いて立ち上がったものだからメイドの方が聞きたい事があるのだからメイドの口からエラン達に向けて質問がされた。
「そろそろお昼になりますけど,皆様はどうなさいますか?」
そんな質問を聞いてからエランは部屋に備えて有った時計に目を向けると確かに後数分程度で丁度正午になる時間を指していた。
「僕は自分の部屋に戻るからそちらに持ってきてくれ。それでエラン達は」
と言ってイブレはエランに目を向けるのと同時にエランが口を開いた。
「私達はテーブルから離れるから,その間にテーブルの上を片付けて,そこにお願い」
先程まで大量の甘味物を定期的に口に入れていたエランだが,そんな事がまるで無かったかのように普通に昼食を要求してきたのでイブレとしても呆れながら言うしかなかった。
「さっきまでいろいろと食べてたと思うけど」
「甘い物は別腹」
お決まりの台詞を口にするエランにイブレは軽く笑う。というよりもここまではっきりと言われると笑うしかない,というやつだろう。そしてハトリとイブレが出す騒音を全て無視していたメイドが確認の為に口を開く。
「では,イブレ様の昼食はお部屋の方へお運び致します。エラン様達はこちらでよろしいでしょうか」
「ええ」
「うん,お願い」
「かしこまりました」
そう言ってメイドは一礼して退室して行った。メイドを見送ったエランはメイド達が片付けに来るまで今度は紅茶を楽しもうとしたが,その前に立ち上がって杖を手にしたイブレがエランに向かって口を開く。
「そうそう,僕に用事がある時もこのベルで僕を呼んでくれて良いからね」
「分かったけど,イブレは一緒に食べないの」
「エラン達が到着したから僕も少しだけ忙しくなるからね。まあ,夕食は一緒になると思うよ,思いがけない形だと思うけど」
「ん?」
意図が理解出来ないとばかりに少し首を傾げるエラン。そんなエランにそれ以上の説明をしないままに,それじゃあ,とエラン達の部屋を後にしたイブレ。そんなイブレを見送ったエランは未だにイブレの意図が分からないので,それ以上は考えないようにして未だに隣で騒いでいるハトリとイクスをなだめるとまだメイド達が片付けに来ていないのでハトリに昼食が来る事を告げてから再びテーブルにある甘味物に手を伸ばして口に入れた。
ハトリから先程イブレに言われた事と同じ意味の言葉が来るがエランは微笑んでイブレに返した言葉をそのままハトリに返すのだった。
さてさて,本編を読んでくださりありがとうございます。なにしろ今回の更新はかなり遅れましたからね~。その理由は……うん,辛かった,長引いて辛かった,頭がくらきゅ~する程の……夏風邪を長引かせましたっ!!
まあ,そんな訳で更新が遅れたので大目に見てくれる方は大目に見てくださいな。さてはて,そんな事がありながらもやっと上げる事が出来た第四話ですが,やっとイブレが登場したので主立った面子が集まったかなという感じですね~。念の為に言っておきますがイクスも含まれますよ~(笑) まあイクスだけが人間ではなく剣ですからね~。喋るだけでは無くて漫才まで出来る優れた剣なので今後とも変な意味で期待が出来ますね~(笑)
それにしても,今回はイブレの話からいろいろハツミに起こっている全貌が見え始めるのと同時にエラン達の謎も少し出てきましたね~。まあ,その辺に関しては,この小説を書き続ければそのうち書くだろうな~,という感じですね(笑) まあ私もこの白プリは本格的な連載として始めたので今度はキッチリと終わりまで書けたらな~,と思っていますけど,その終わりまで長いだろうな~,ってか……うん,どれだけ書けばいいんだろう。とか思ってるのと同時に終わりはこんな感じっていうシーンは頭の中にあるのでそこまで辿り着けるか,どうかですね。まあ,なんにしても……確実に長くなるのは確かだろうな~,と思っている今日この頃でございます。
さてさて,なんかいろいろと書いてきたのでそろそろ締めるとしましょうか。ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございました。そして気に入ってくれたのなら今後もよろしくお願いします。
以上,未だに絶賛夏風邪続行中なので次を今月中に上げたいけど,どうなるだろうと分からないから予定は未定って事にしておいた葵嵐雪でした。