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白銀妖精のプリエール  作者: 葵 嵐雪
第三章 バタフライフェザーカノン
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第三章 第四話

「バタフライフェザーカノン,それが次のスレデラーズ」

 確認するかのようにスレデラーズの名を口に出すエランは,今まで経験をした事がない程に難しい局面になっているのを感じていた。バタフライフェザーカノンを使っている者はフライア軍を撃退した程の経験を持っているのだから,その使い手を引っ張り出すだけでも手を焼いている状態なのに引っ張り出しても実際に戦えば手を焼くどころか激戦に成るのは必須。

 スレデラーズを使い熟している者同士がぶつかり合うと戦いが激しくなる事をエランは経験から知っているからこそ,フライア軍を撃退したバタフライフェザーカノンの使い手だけにエランは一騎打ちになるのは分かっていた。その理由は以前に数え切れない程に負けており,他者の介入を許さない程に激しい戦いに成るのは経験から分かる事だと言える。それはエランと一緒に戦ってきたイクスも理解しているし,エラン達を見てきたハトリとイブレにも言える事だからこそイブレは話を続ける。

「僕が知っているだけでもバタフライフェザーカノンは遠距離に特化しているけどつるぎだから当然近距離戦でも戦える筈だよ。遠距離攻撃で敵の数を減らして,潜り抜けてきた敵を斬り裂くのが基本だね」

「けどですよ,フライア軍は誰一人として使い手に近づけなかったと先程言ったですよ」

「それの可能性を考えると幾つも思い付くけど,今までバタフライフェザーカノンは同じスレデラーズと戦った事が無い事だけは確かだね」

「つまり俺様達なら近づくだけなら簡単って事だな」

「どうせならですよ,その続きも考えるですよ」

「うっせえ,俺様は実戦派なんだよ」

「イクスはそうでもエランがそうだとは限らないですよ」

「エランも同じだよな?」

 イクスから同意を求める質問をしてくるが,当のエランは首を傾げてから答える。

「それは……よく分からない」

「ほらみろですよ」

「うっさい,バーカ,バーカ」

 子供のような捨て台詞を吐いてから金属音を立てて鞘に収まるイクス,それを見ていたハトリは満足げに勝ち誇った顔をしており,エランは何の事なのかと反対側に首を傾げていた。

 普段通りに成ってきた雰囲気にイブレは静かに微笑んでいると,考える事を放棄して首を戻したエランがイブレに問い掛ける。

「分かった事はそれだけ?」

「今のところはね。以前にも言ったけどバタフライフェザーカノンに関しては,まるで分からないんだ。もっと情報があればいろいろと手が打てるんだけど今回ばかりは出たとこ勝負に成るだろうね。エランとしても僕としてもね」

「分かった」

「まあですよ,仕方ない事は仕方ないという事ですよ」

「ははっ,ハトリ皮肉かい?」

「分かっているくせに笑いながら問い掛けるなですよ」

「何の事かな」

「ここまで惚けると少し頭に来るですよ」

 ハトリの言葉を聞いて軽く笑い出すイブレに対してエランは再び首を傾げる結果と成っていた。その後はイブレが持って来た話はこれだけなので特に重要な話は無いとイブレの口から出ると,エランは店内にある時計に目を向けたら時間は正午を指していた。そして目の前に注文した品が有る事を思い出したハトリが昼食を取り始めたので,エランも同じように昼食を口にし始める。

 食後の甘味までしっかりと食べ終わったエランを見てハトリが時間が有り余ると言い出したので,イブレもここまで分かったからにはやるべき事が無いからとイブレの方からエラン達に一緒に町を観光しないかと言って来たのでエランは即答で同意する。確かに午後の予定が無いので断る理由も無いハトリは何も言わず,イクスも鞘から少しだけ刀身を出したが黙る事にした。そしてイブレを含めてエラン達は再びハニアプの町を観光する為に店を出る。

 午前中は露店街を巡ったとエランがイブレに話したので,イブレから町の東側にある露店街に行く事を薦めてきた。フライア帝国はタイケスト五国で最も広大な領土と国力に軍事力まで備えた国だからこそ,自分達には刃向かってこない東の小さな国々には関心を示さない。まあ,それでも貿易ぐらいはやるか,という感じで東側からの貿易品も貿易都市と言えるハニアプの町に集まってくるので午前中に見た物とは別な物が商品として出されているとイブレが説明する。

 特にどころか全く予定が無いエランには断る理由が無いので即答で行く事を決めるとイクスとハトリもエランが言うならと異論が出る事は無かった。まあ,イクスもハトリも予定が有る訳ではないから断る理由が無いというのが最大の理由だ。話が決まったのでエラン達は町の東に向かって歩き出す。

 露店街に到着すると流石は貿易都市と言わんばかりに人で賑わっていた。フライア帝国は大帝国と言っても良い程に大きな国だから,わざわざ遠くから来たと思われる者がこの辺では見ない服を着ながら露店を出している程だ。見る物も午前中に見た露店街には無かった布製品や木造品が多く見られる。確かに午前中に見た物とは全く違う品揃えなのでエラン達は歩きながら露店を見て回る。

 冷やかしのように見て回るだけだからエランはある事に気付く,それは金属製品が全く無い事だ。露店はどれも木造品に陶芸品に布製品と多種多様だが金属製品を売っている露店は一つとして無かった。なのでエランはイブレに問い掛ける。

「ここの露店街だと剣や鎧を売ってない?」

 歩きながら問い掛けてきたエランに気付いたイブレはいつものように微笑みを浮かべて答える。

「なかなか良い着眼点だよ,エラン。タイケスト山脈は鉱山だけで成り立っているからね,そこにフライア帝国は幾つもの坑道こうどうを有しているから鉱石に困る事は無いし,有り余る程の採掘量を掘り出しているから輸出しても輸入する事は無い。そうなるとフライア帝国内では鉱石の値段が下がるから外から来た金属製品なんて捨て値でしか売れないという訳だよ」

「なるほど」

 イブレの説明を聞いて納得するエラン。すると別の事が気になったイクスが入れ替わるようにイブレに問い掛けるとハトリも感心を示す。

「そういやよ,午前中に見た露店街だと剣や鎧は結構な値段をしてたぜ。フライア帝国産なら分かるけどよ,どうやら外から来た金属製品がかなりの値段が付いてたのは何でだ?」

「それはミケナイ王国から来た製品だろうね。ミケナイ王国はタイケスト五国に数えられるけどタイケスト山脈の北東に位置して国土も五国の中では一番狭いからね,だからタイケスト山脈からの恩恵は低いんだよ。その代わりにミケナイ王国は高い金属加工技術を取り入れたんだ」

「生産量では敵わないから技術で補うって事ですよ?」

「その通りだよ。それに加えて軍事力でも隣国のハルバロス帝国やフライア帝国とは比べモノには成らない程の差が出ているからね,だから両国との同盟と不可侵条約を結ぶ事が出来たんだ。もちろん技術提供という切り札を使ってね」

「そうは言ってもよ,自分達の技術をそう簡単に他国に教えるとは思えないぞ」

「確かにね,だから技術提供と言っても技術を売るんじゃなくて技術を使って作った物を安値で売り返すという訳さ」

「下請けの町工場みたいですよ」

「ははっ,まあ間違ってはいないかな。ミケナイ王国は高い金属加工技術を切り札にして自国の安全と安定した貿易を獲得する事が出来たとも言えるんだ。だからハルバロス帝国とフライア帝国で採れた鉱石の殆どがミケナイ王国へと持ち込まれて注文通りに加工して,またハルバロス帝国とフライア帝国へと送られるという訳だね」

「要するにだ,自分の国だと大した量が採れない上に強い国に挟まれているからな。しかも相手の方が強い事が分かっているからな,戦えば必ず負けるのは目に見えているから自分から戦いを仕掛ける事はねえな,そうなると攻め込まれない為に下手に出ても不可侵条約を結ぶしか手がねえ訳だな」

「イクスの言い方は辛辣だけど的確だよ。ミケナイ王国は自国の金属加工技術を他国に使う事を約束して自国の安全と安定を手にする事が出来たんだ。それにミケナイ王国は更に技術を高める事を怠っていないからね,だから今ではハルバロス帝国とフライア帝国はミケナイ王国の技術に頼っている部分も有るから同盟を重視して,軍事力が必要なら提供するとまで言わせる程の同盟を結ぶ事が出来たんだ」

「逆に言うならですよ,自分を頼るならしっかりと守れと聞こえるですよ」

「まさにハトリが言った事がミケナイ王国の狙いと言えるだろうね。国力と軍事力で負けているミケナイ王国が下手な野心を持つのは自殺行為と言えるからね,それなら他国が持っていないモノを武器に交渉で対等に成れば良いというのがミケナイ王国がタイケスト五国に数えられる理由とも言えるよ」

「まっ,理には適っているな。高度な技術で作られた物なんて誰でも欲しがるからな,それに原材料がタダ同然で手に入るなら技術を磨く技師も育てられるときてら。そのミケナイ王国ってのは相当な外交上手だな」

「それに関しては僕もイクスと同意見だよ」

 言った後に軽く笑うイブレ,まあイブレとしてはこのような会話を出来る相手が少ないだけあってエラン達との会話を楽しんでいるとも言える。そもそもエラン達がイブレとこのような会話が出来るように成ったのもイブレが関係しているからと言える……。

 露店街を見て回るエラン達,時折珍しい民族衣装などが売られていてハトリがエランを呼び付けようとするがエランは既に逃げる程に嫌がっていたので,今回は素直に諦めるハトリ。イブレも珍しい木造製品に芸術性を見付けてじっくりと見るが,結局は見るだけで買う事はなかった。そんな感じでエラン達は露店街を楽しんでいる。

 エラン達が露店街を抜けると既に空が少し紅く染まっており,時計の針は夕刻を指し示していた。やはり貿易都市の露店街は見て回るだけで時間が過ぎるモノだとエランは感じていた。そしてその後の予定も無いので宿に戻ってのんびりする事にしたエラン達は宿に向かって歩き出す。

 町の中央にある大通りに差し掛かると人混みが壁と成っており,エラン達は大通りを抜ける事が出来なかった。なので人が集まっている理由は何なのかとイクスが興味本位で言って来たので,エランは人混みを掻き分けて前に進み抜けて一番前に出ると大通りを開けるように両脇に人が集まっている事が分かった。

 フライア軍の兵士と思われる者が道を開けるように指示してくるのがエランの所まで聞こえて来る。するといつの間にかエランの隣に居たハトリとイブレがエランに話し掛けて来る。

「どうやら待っていたフライア軍が到着したみたいだね」

「けどですよ,所詮は救援軍と言った探検部隊と同じですよ」

「ハトリは辛辣過ぎるね」

「ハトリ,本隊が来るから黙って」

「はいはいですよ」

 エランがハトリにそう言うと,大通りの右側からフライア軍が隊列を成して歩いて来るのが見えた。そしてフライア軍がエラン達の前を通り過ぎて行くのを見るとエランはある事に気付いた。流石は大国のフライア軍だけあって武装している鎧も各々が持っている武器も飾りではなく実戦に向いた造りに成っているとエランは感じた。

 隊列が通り過ぎるのを大人しく待っているエラン達,ロミアド山地に行く為に殆どが歩兵なので馬を連れていない事が見ているだけで分かる。その中でも騎乗した人物が遠くに見えると,あれがイブレが言っていたフライア帝国の将軍だとエランは感づいた。だからと言って今は何も出来ないと大人しくフライア軍が通り過ぎるのを待つエラン。そして騎乗している将軍がエランの前を通り過ぎようとした瞬間,ふとエランと目が合う。

 兜から流れ出ている金色の髪を揺らしながら澄んだような蒼い瞳でエランを見ながら馬を歩かせる。相手からもエランの白銀色をしている長い髪と金色の瞳が見えたからか二人が目が合った刹那,少しの時間だけ二人は視線を交わす。そしてフライア軍の将軍がいつまでもエランを見ている訳にはいかないので視線を戻すとイクスがエランは話し掛けて来た。

「あの将軍,かなりやるみたいだぜ。どうやら徒の将軍じゃないようだな」

「うん,それに若い」

 確かにエランが見たフライア軍の将軍は女性で十代後半か二十代前半とも言える年齢に見えた。それだけの若さで大国の将軍職に就いた程だから余程の実力者とエランとイクスには見えた。それはハトリとイブレも同意見であり,イブレとしては若い事に何かしらの考えた浮かんだように真剣な面持ちと成っていた。それから程なくしてフライア軍が通り過ぎたので再び自由に行き来する事が出来るように成ったのでエラン達は宿に向かって歩を進めるのだった。



 エラン達が宿に戻ると既に夕食時に成っていたので,エラン達はそのまま食堂へと行って夕食にする事に成った。そして食後の甘味までしっかりと味わったエランは部屋に戻る為に立ち上がって歩き出すと,途中でイブレと別れてエラン達は自分の部屋へと入って行くとそのまま隣室の寝室へと入った。そして早速とばかりにエランはハトリに話し掛ける。

「お風呂に入ってくる」

「着替えを持って来るから待っているですよ」

 既にハトリがエランの鎧を掛ける為の木組みを出していたので,エランはイクスを外して部屋の隅に置くと一つ一つ身に着けていた鎧を外していく。そして普段から来ている白い服だけに成るとハトリから着替えを受け取るが,服がいつものとは違うし色も少しだけ違った。

 昨日の寝間着も違和感は有ったモノの寝心地が悪い訳ではないし,なによりハトリが満面の笑みで着ろと言っているように見えたのでエランは着替えを受け取るとすぐに浴室へと向かうのは既にいろいろと諦めたからだ。なによりハトリこういう事に五月蠅い事は分かっているからエランは何も言わないのは経験から分かっているからだ。だからエランは何も言わずに浴室へと向かった。

 浴場で身体と髪をしっかりと洗ったエランは湯船に張ったお湯に浸る。程良く温められたお湯がエランの身体を芯から温めて心地良さを感じるエランだが,気になったのは先程視線を交えたフライア軍の将軍に関する事だ。だからその事について考えるエラン。

 あの目……戦う目だった。あの将軍は味方を救援するけど,それ以上に敵と戦うつもりかもしれない。……兵数が心許なくても,それを補うだけの地形がロミアド山地には有ると考えているのかもしれない。そう考えれば数百の兵でも勝てると考えてる,敵も同じように寡兵だと考えているのかも。そうなると……また戦争。

 再び戦場に身を置く事を実感するエランだが拒む事はしない。エランがスレデラーズを求めている限り,戦争は避けられないのは必須なのだから。そしてスレデラーズが使われるのは戦場が多いからこそ,エランは傭兵としての立場と戦場を求めた。全てはスレデラーズを手に入れる為に。だが,今日は露店街を回っていろいろと楽しかったのか違う事に自然と思考が向かっていた。

 また……戦いの日々が始まる。……けど,今日みたいな日は久しぶり。あそこに居た時には毎日がそう感じていた。特別な事は何一つとしてないけれど,何をしても楽しくて,心地良かった。あの時の私は……それが世界の全てだった。外も気にならなかったし,真実も知らなかった,だからあれが私の世界だった。あの頃に戻れるなら戻りたいけど……現実は……世界は……元に戻らない。それに戻れないように私は葬った,真実と名も無い姉妹達を……。それが私の決意……覚悟。

 天井の水滴が落ちて湯船のお湯を揺らすとエランの意識は思考から解き放たれて目の前の現実を見始める。湯船に移っている揺らいだ自分の顔を見たエランは洗うように湯船のお湯を顔に掛けたら頭から重さが消えるのを感じた。なのでエランは両手を組んで上に伸ばして力を入れて身体を伸ばす。そして力を抜いて両手を再び湯船の中に入れると再び心地良いお湯を感じる。

 長風呂はエランの専売特許という訳ではないが,三時間程お風呂に入っていたエランが出て来ると入れ替わるようにハトリがお風呂に入る。それからエランは寝室から客室に移されていたイクスと冷めた紅茶を飲みながら他愛ない会話をしているとイクスが不意に言ってきた。

「エランよ,さっきから気になってたんだが,何か暗いから昔の事でも思い出していたのか?」

 不意な問い掛けにエランはいつものように無表情で心も平静としながら答える。

「うん,少しだけ」

「思い出すなとは言わねえけどな,そうやって思い出すのは悪い癖だと思うぞ」

「……そうかもしれない」

「まっ,いろりろと有ったからな……いろいろとな」

「うん,けど私の決意と覚悟が変わっていない事だけは確か」

「そうか,そいつは良かった……というべきなんかな?」

「さあ,私にも分からない」

「だよな,あんま認めたくねえが,エランも俺様もまだまだ未熟って事だからな」

「うん,まだ第一段階すら出来ないからね」

「それに関しても少しずつやって行こうや,急いでやるのはエランらしくねえぞ」

「分かってる,だからイクス」

「気にすんな」

「うん,分かった」

 エランの言葉を遮るように声を発したイクスにはエランが何を言おうとしていたのか分かっていた。だからこそ遮った,あのままだとエランが素直に『ありがとう』と言いそうだからだ。エランと一緒に戦っているイクスだからこそ,その言葉は聞きたくないので遮った,それだけの理由だ。それがエランにも分かったからこそ,エランも短い返事で済ます。

 ハトリが入浴を終えてエランと対面するように座って冷めた紅茶で喉を潤す。それからしばらくはエラン達だけで会話して穏やかな時間を過ごすと,夜が更けて眠気が静かに歩み寄ってきたのでエランはイクスを持って寝室へと向かい,ハトリは既に寝室の扉を開けて中に入っていた。

 寝台の横にイクスを立て掛けるとエランは大きな窓に窓掛を掛けると,既に布団に入っているハトリの元へと歩いて行く。そして寝台に上がると照明の転換器を押して部屋の灯りを落とすとエラン達は暗闇に包まれるが窓掛を突き抜けて微かに届く月光を頼りにエランは布団に入るとイクスとハトリに向かって声を掛ける。

「おやすみ,イクス,ハトリ」

「おやすみですよ」

「ゆっくりと休みな」

 ハトリとイクスの声を聞いてからエランは,ハトリを抱き寄せるように腕を回すと温もりを確かめる。それから目を閉じたエランは意識を重力から解き放って宙へと漂わせるのだった。



 翌日の早朝,午前六時にしっかりと目を覚ましたエランは上半身を起こすと両手を組んで天へと向けて,力を入れると身体が伸びるのをしっかりと感じる。これで完全に身体の方も目を覚ました実感を得るエランは寝台から降りると窓の方へと歩き出した。

 大きな窓に掛けてある窓掛を一気に開けると朝日が一気に差し込むのと同時に朝の温もりを届ける。その日差しでハトリも目が覚めたようで上半身を起こして大きな欠伸をする。その間にエランは窓掛をまとめ終えると振り返って口を開く。

「おはよう,イクス,ハトリ」

「おはようさん」

「おはようですよ」

 未だに少し眠たげなハトリだが,エランがすぐに着替える事は分かっているので荷物の中から着替えを出すと布団の上に置いた。なのでエランはすぐに着替えが置いてある所まで行くと寝間着を脱いでいつもの白い服へと着替える。その後に脱いだ寝間着をハトリに渡してから鎧を身に着けるとイクスの元へと歩み寄り,イクスを背負ったら革紐をしっかりと締めて固定する。

 キッチリとイクスを背負ったエランは首の後ろから髪の下へと手を入れて,一気にイクスの下にあった髪を引っ張り出した勢いで横に広がるが,すぐに整うようにまとまっていった。これでエランの支度が終わったのでハトリの方を見るとハトリも支度を終えていつでも出られると頷いたのでエラン達は,まずは朝食と食堂へと向かう。

 案の定食堂にはイブレの姿が有ったのでイブレと合流するかのように同じ席に座るとすぐにエラン達の朝食が運ばれてきたので,しっかりと朝食を取るエラン達。エランだけはしっかりと食後の甘味を味わっていたが,ハトリとイブレはその間に朝の珈琲を堪能していた。そしてエランが完食すると立ち上がって声を掛ける。

「行くよ」

「はいですよ」

「精々俺様達を高く売りつけてやろうぜ」

「言うまでもないけど,相手は将軍だから礼節は欠かさないようにね。まあ,イクス以外は心配していないけどね」

「おう,イブレよ,朝から言ってくれるじゃねえか」

「ははっ,ほんの冗談だよ」

「テメーのは冗談に聞こえねえんだよ」

「それを真実と言うですよ」

「このガキも乗ってくんじゃねえよ」

「行くよ」

「はいですよ」

「けっ,わーったよ」

「じゃあ,行こうか」

 二度目の催促をしたエランの言葉を聞いて仕方なく黙り込むイクスにハトリとイブレはいつもの様子でエランと共に歩き出す。そして宿を出たエラン達はそのまま南の城門まで行き,通り過ぎるとフライア帝国軍が駐留している場所へと辿り着くのだった。




 さてさて,後書きです。何かここまで来るのにいろいろと寄り道をした気もしなくもないですが,まだまだ寄り道をしそうな気がするのは私だけですね。まあ,それは今後の展開なので気長にお待ちに成ってくださいな。

 さてはて,五月も終わりですね。まあ,今月の前半は殆ど更新が出来なかったので後半に一気に更新したつもりです。まあ,結果はどうあれ,それなりに書き進めたと思っております。なので六月からは,また周一ぐらいのペースに戻そうかと思っております。……いやね,本当に思い浮かばんのよ第四章のネタがね。短編集にしようとしている第四章なだけに,話を幾つも作らないといけないのですが……その話が全くもって思い浮かばんのよ~。まあ,第三章も始まったばかりなのでじっくりと作っていきたいと思っております。

 さてさて,明日からは六月ですよ,もう一年の半分が過ぎようとしているのですよっ!! 光陰矢のごとしとは良く言ったモノですね~。まあ,まだ半年もあると考えれば長いけど,もう半年も過ぎようとしていると考えれば短いモノですね~。それなのに本編の話が進んでいるのか,いないのか分からない現状。まあ,書いているからには進んでいる,と勝手に思い込みましょう。という事でそろそろ締めますね。

 ではでは,ここまで読んでくださりありがとうございます。そしてこれからも気長によろしくお願いします。

 以上,気が抜けているどころか成仏しているんじゃないかと思った葵嵐雪でした。



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