第二章 第二十七話
同時に動き出したエランとファウビス,速さではエランの方に分があるのでエランから一気に距離を詰めるが,ファウビスは白銀妖精の情報を集めていた為か既に剣を振り上げていた。確かに上に振り上げればどの角度にも振り下ろせるので攻撃は出来る。
対してエランは右前に誰にも足場を作ると即座に移動する。ファウビスにはエランが消えたように見えたが,片足で足場に着地したエランの足は微かな物音を立てていた。音に反応するかのようにファウビスは身体をひねって無理矢理に身体を音がした方,つまりエランの方へと向ける。
完全にファウビスの死角を付いたと思ったエランは既に両手に持っているイクスを交差させて後ろに回すと斬り裂く準備へと掛かる。そしてエランが足場から跳び出した時だ。
ファウビスは上半身だけをエランの方へと向けて剣を振り下ろし始めていた。これには流石のエランも驚いて眉が動くが跳び出して一気に距離を詰めた為にここからの変化は難しい,なのでエランはより速くイクスを振るう。対してファウビスはかすれて見えるエランを辛うじて見付けたので剣を振り下ろす。そしてお互いの距離が近づきそして。
エランとファウビスが擦れ違う。
両足で地面に着地したエランは両手のイクスを胸の前で交差させながら止まった。そしてファウビスは血飛沫を上げながら地面へと倒れて行くのだった。地面へと倒れて行くファウビスを見送るように振り返ったエランはファウビスが正面に五つ,右脇に五つの斬り裂かれた傷から血飛沫を上げながら地面に倒れるまで見ていると次にイクスに話し掛ける。
「イクス,戻って」
「あいよ」
イクスが白銀色の魔力で包まれると二つの球体が出来上がり,その二つが結び付くと一振りの剣となり元のイクスに戻った瞬間にエランの右手に握られた。二人の実力差は明白でエランが勝利する事を信じ切っていたハトリは当然の様に勝ったエランに駆け寄る。そしてエランはすぐに右手のイクスを床に突き立てると左腕に右手をさするように向けたら,左腕には一本の斬り傷があって一筋の血が微かに流れていた。
「エランが怪我をしたですよっ!?」
エランが勝利した事よりも怪我をした事に驚くハトリ。それはそうだ,ハトリから見ればエランが無傷で勝てる程度の相手にしかファウビスは見えなかったからだ。だが現実はエランに一矢報いる形でファウビスは敗死した。その事が信じられないと言った表情をしているハトリにエランはいつもの冷静な声で話し掛ける。
「ハトリ,傷の手当てをお願い」
「は,はいですよ」
エランに言われてやっと自分がやるべき事に気付いたハトリは背負っていた荷物を降ろすとすぐに傷薬と包帯を取り出した。その間にエランは地面に突き立てたイクスの隣に両膝を少し広げて座るとハトリがやり易いように左腕を少し上げる。
慎重に傷薬を塗ると薬が広がらないように医療用の布を宛てがい丁寧に包帯で巻いてしっかりと縛って手当を終えたハトリの手付きからして慣れているようだ。そしてエランは包帯が巻かれた左腕を軽く動かすとすぐに立ち上がってイクスを抜き取る。するとハトリが話し掛けて来た。
「それにしてもエランが傷を負うなんて信じられないですよ」
「そんな事は無い,それだけ油断が出来ない相手だった」
「えっ! でも実力差は明白だったですよ?」
「うん,決意と覚悟が凄かった」
「決意と覚悟ですよ?」
エランの言葉を繰り返すハトリはいまいち理解が出来ていないようなので,ここぞとばかりにイクスが会話に入ってくる。
「ったく,こればかりは実力じゃねえんだよ。あの兄ちゃん,最初から相打ちを狙ってきやがったんだよ」
「……死ぬ覚悟が出来てたって事ですよ」
「うん,それだけに油断は出来なかった。けど負けるとも思えなかった,だから全力で行っただけ」
「まっ,結果的には掠り傷程度で済んだからな。けどエランが全力で行かなかったら確実に致命傷とは言わねえが,大怪我なのは間違いねえな」
「うん,危なかった」
「全く気付かなかったですよ」
「こればかりは対峙した者にしか分からないから,ハトリが分からないも仕方ない」
「だな」
「なるほどですよ。時には実力よりも精神が勝敗を決めると聞いた事があるですよ」
「その通りだな。俺様達とあの兄ちゃんじゃあ決定的な実力差が有ったが,それを死に物狂いな精神で埋めやがったんだから大したもんだ」
イクスにしては珍しく敵を褒める事にハトリは驚くが,それだけにエラン達が本気を出さなければ行けない程の戦いだった事に改めて気付くハトリにエランは構わずに会話を続ける。
「死ぬ覚悟が有ったからこそ私に傷を与えた,けど生きる意思を無くしたから負けて死んだ。死兵よりも死を覚悟しながらも生にしがみ付く者の方が強い,そんな風に感じる戦いだった」
「だな,何にしてもよ。良い経験を積ませて貰ったぜ。それでエランよ,そろそろ俺様達が動いた方が良いんじゃないのか?」
「うん,けどその前に」
それだけ言って歩き出したエランの先にはディアコス国の国旗が有った。だからハトリはファウビスの遺体に近づくと丁寧に手にしてる剣を取り,仰向けに寝かせて両手を胸の上で合わせると使っていた剣を握らせた。丁重に扱われたファウビスの遺体に国旗を覆い被せるエラン。エラン達なりにファウビスの名誉とそれに似つかわしい戦いのしたからこその弔いだ。やりたい事が済むとエラン達はすぐに次の行動に移る為に駆け出した。
部屋から駆け出たエラン達は真っ先にゼレスダイト要塞の最上階を目指した。まだディアコス兵が残って居ると思っていたが,エラン達を阻む者は現れなかったのですんなりとエラン達は展望台と成っているゼレスダイト要塞の最上階へと辿り着いた。そこにも誰も居なかったのでエラン達はすぐに作業へと移る。
ディアコス国の国旗が翻っている柱に掛けられている紐をエランが引いて国旗を降ろし,結び目を解いて外すとそのまま投げたのでディアコス国の国旗は無用とばかりに風に流されて展望台の外へと出て行った。そんな国旗を気にする事無くエラン達は続ける。
ハトリが既に荷物からハルバロス帝国の国旗を取り出していたので,エランは新たな国旗を紐に取り付けると掲げる為に再び反対側の紐を引いてハルバロス帝国の国旗を上に挙げていく。そしてゼレスダイト要塞の頂上でハルバロス帝国の国旗が風を受けて大きく掲げられた。そして陥落を知らせる為にエランとハトリはそれぞれ展望台から外に向かってハルバロス帝国の国旗を振り続けるのだった。
「ケーイリオン将軍っ! 要塞の頂上をっ!」
最後方でケーイリオンと共に指揮をしていたメルネーポが要塞の頂上から振られているハルバロス帝国の国旗に気付くとすぐにケーイリオンに向かって報告し,ケーイリオンは満足げに頷くと今度は大声を出す。
「ゼレスダイト要塞は陥落して我が軍の物に成ったっ! これ以上は双方共に血を流す必要はないっ! 降伏勧告をせよっ! それでも抗う者は武人として対処せよっ!」
『おぉ―――っ!』
ケーイリオンの言葉にハルバロス軍が勝利の声を挙げると共に伝令が一気に走り出して前線で戦っている指揮官の下へと急ぐ。それは城門付近で未だに指揮をしていたラキソスの下へと辿り着き陥落の報告を聞くとラキソスはすぐに上を見上げると,そこには確かにハルバロス帝国の国旗が振られていた。それを確認したラキソスは小声で『よしっ』と言うと次は両軍に向かって叫ぶ。
「両軍とも戦いを止めて上を見ろっ! ゼレスダイト要塞はハルバロス帝国によって陥落したっ! これ以上の戦いは意味が無いのでディアコス兵は降伏せよっ! 武器を捨てた者は決して危害を加えるなっ! それでも死にたい者は相手をしてやれっ!」
『おぉ―――っ!』
後方と同じくゼレスダイト要塞が落ちた事に勝利の声を挙げるハルバロス軍に守るべき物を失ったディアコス軍では雲泥の差があり,最前線で戦っていたディアコス兵は次々と武器を捨ててハルバロス軍に投降したが,後方に控えていた兵はゼレスダイト要塞から脱する為に逃げ戦をしていた。
特に先に脱している者達を守る為に残った殿軍がおり,必死の抵抗をしているのでラキソスが率いる部隊も相当な被害を出しつつも,投降を訴えかけながら戦い続ける。他にゼレスダイト要塞で閉じていた城門を開いてディアコス兵が散り散りに成って逃げ出していくがケーイリオンは追撃を命じたりはしなかった。この攻城戦でハルバロス軍もかなりの損害を出している為に野に逃げるディアコス兵を追うだけの余裕は無いし,そこまでやる理由も無かった。
他の城門が開いた事で入口が増えた事に気付いたケーイリオンは後方の軍を二つに別けて一方は副将軍であるメルネーポに任せて,もう一方はケーイリオンが自ら率いて北と南の両方から一気に攻め込むと逃げ遅れたディアコス兵は素直に投降したが,殿軍を任せされた者達は最後まで抵抗を続けて全滅した。そしてエラン達はというと。
ゼレスダイト要塞の頂上で旗を振り続けて一時間程が経過していた。その事にハトリが文句を言い出す。
「いつまで振ってれば良いですよ,落ちた事は敵味方共に分かっている筈ですよ」
「要塞だから入り組んでいる,だからすぐに来られないかもしれない」
「エランの言う事も分かるですよ,けど時間が掛かり過ぎですよ」
「ゴチャゴチャ言ってても仕方ねえだろ,こういうのはやり続けるのが大事なんだよ」
「エランに背負われているだけのイクスに言われたくはないですよ」
「だって俺様剣だし~」
「煽って来やがったですよ」
「ぎゃはははっ!」
「その笑い声が不快ですよ」
「イクス」
「んっ,なんだエラン?」
「私も不快に感じた」
「すみませんでしたっ!」
ハトリと同じく旗を振り続けているエランだからこそ説得力でイクスを黙らせると,エランとハトリは再び旗を振り続ける事に集中する。それからしばらくすると階段を駆け上がる甲冑の音が聞こえたのでエランとハトリは旗を引っ込めてから,エランはイクスを手にする。勝ったとはいえ敵が必死の抵抗をしているのが見えていたからこそ油断などせずにエランとハトリは敵襲に備えるが杞憂に終わった。
エラン達の下へ来たのは重装装備で胸にハルバロス帝国の国旗をはめ込んでいるハルバロス兵だ。そのハルバロス兵が階段を駆け上がったので息を切らしているが,エラン達の姿を確認してから息を整えるとエラン達の前に立って敬礼してから声を出す。
「伝令です。エラン殿とハトリ殿はこのまま上層階の警備に当たれとの事です」
「一つ聞きたい」
「はっ,何でしょうか?」
「どの程度まで制圧が完了している?」
「要塞内は殆どですが隠れている者が居る可能性が有ります。それと要塞の西側からディアコス軍が撤退しているので,殿軍と我が軍の前線が激突している状態です」
「分かった,ありがとう」
「はっ,それでは失礼します」
再びエラン達に敬礼をしたハルバロス兵が登って来た階段を駆け下りるのを見送ったエランはイクスとハトリに声を掛ける。
「イクス,ハトリ,行くよ」
「ってか,警備と言っても何処を警備するんだ?」
「しない」
「しないのかよっ!」
「ただ背負われている剣は黙っているですよ,こっちは旗を振り続けて疲れているですよ」
「そんな理由かよっ!」
「うん」
「即答かいっ!」
「うん,とりあえず休める場所を探してそこで休む。だからイクス,ハトリ,行くよ」
「まあ,俺様は構わねえがな」
「はいですよ」
イクスとハトリの返事を聞いて歩き出すエランは伝令が登って来た階段に向かって歩き出し,油断はしていないものの周囲に気を向けているハトリが横を歩きながらエラン達は階段を下っていく。
ファウビスを倒した階から更に三階程下がった階層に辿り着いたエランは廊下の装飾に目を向ける。すると豪華,としか言い様がないほどの装飾で彩られている事に気付いたエランはその廊下を進むと今度はそれぞれの扉に目を向ける。扉を見ながら歩き続けるエラン,すると一番豪華な装飾が成されている扉を見付けると扉を開く。
部屋の中には誰も居ないものの,まるで荒らされたように物が散乱している。どうやら城門を突破されてから慌てて逃げ出したようで,軍人では無く上級階級の人間が居た事を知らしめるように散らばっている物は値打ちが有る物ばかりだ。中には砕けた壺が有るのでかなり慌てて逃げたのが分かる。
エランは散らかっている部屋の中に入ると別の部屋に続く扉へと向かい開けた。そこにも人の気配は無いが代わりにしっかりと整えられている寝台があり,窓の近くには円卓が有り周囲に椅子と近くには紅茶が並んでいる棚があった。なのでエランは棚の中から紅茶を選ぶとしっかりとお湯と茶器を用意していたハトリの下へ向かって紅茶を煎れて椅子に座って一息付くかのように,紅茶を啜ると大きく息を吐くエランとハトリ。
流石に甘味は見付からなかったので,そこは諦めたエランが窓の外を見ると勝利に沸いているハルバロス軍が瞳に映った。そんなエランに気付いたようにハトリも窓の外に目を向けると感想を述べる。
「完全に勝敗は決したようですよ」
「うん,私達の役目も終わり」
「後は報酬を貰うだけですよ」
「うん」
短い返事だけをして再び紅茶を啜るエランを見て何かに気付いたハトリは黙ってエランと同じように紅茶を啜るが,気付いていても喋る剣であるイクスが会話を続ける。
「それでエランよ,久しぶりの大暴れはどうだったよ」
「まったくこの剣は余計な事を言い出すですよ」
「俺様は構わねえが,路銀が無いと困るんだろ」
「揚げ足を取ってきたですよ」
「世界の一部を感じた」
ふと答えて来たエランの言葉を聞いて黙り込むハトリとは正反対にイクスは問う。
「どういう意味だ?」
「戦争,戦う事,これが世界中にある訳じゃない。でも戦争や戦いで命を奪われる者が居るのも現実。だから今回の戦争で私達がやって来た事は世界の一部,多くの戦争と平和の中に埋もれた一部。そして戦うと決めた私の決断……だから振り返っても後悔はしない」
「だよな相棒」
「懐かしい呼び方」
「少し昔を思い出しただけだ。まっ,世界中で戦争をやってる訳じゃねえが,中には戦争ばっかりの所もあるからな。旅を続けるなら,スレデラーズを集めんなら戦うしかねえのも現実で世界の一部だな」
「うん,だからここでの出来事も旅の一部,わざわざそんな事を気にしてはいられないのが私の選択」
「……エラン」
少し心配そうにエランを呼んだハトリの頭を優しく撫でるエラン。そんな光景を見ていたイクスは懐かしい光景を思い出す。三人と二本が揃った景色を……。イクスはその光景を忘れるかのように無言で鞘の中に収まるとエランとハトリは未だに終わらない戦争を見ながら紅茶を堪能するのだった。
「いや~,今回の仕事は疲れたよ~」
そんな事を言っているのは上層階まで制圧してきたレルーンだ。ヒャルムリル傭兵団はエラン達を追って上層階まで登って来たが,既に敵と成る者はおらずに逃げたと思われたのでカセンネの命令で残って居る者が居ないか探していたらレルーンがのんびりと休んでいるのエラン達を見付けてチャッカリと合流してのんびりとしていた。
「まだ下では戦いの喧騒が聞こえるですよ」
「でもさ~,ここはすっかり終わってるでしょ~」
「言い訳にしか聞こえないですよ。後で怒られてもしらないですよ」
「ん~,その時はその時だね~」
「流石レルーンの姉ちゃんだな,すっかり開き直ってら」
「いや~,それほどでも~」
「褒めてないですよ」
まったりとした会話をしながら呑気に休んでいるレルーンを傍目にエランはチャッカリと紅茶を堪能する。そればかりか携帯用の昼食も持ち込んでエラン達と昼食まで一緒に取っていた。まあ,エラン達からすれば昼食の用意が無かったので,そこは助かったと言える。そんなこんなでのんびりとした時間を過ごしていると会話の内容が自然とこの後の事に成る。
「そういえばさ~,これでハルバロス軍からのお仕事は終わりでしょ。エラン達はこれからどうするの~?」
「次の目的地に行く」
レルーンの問い掛けに素直に答えるエラン。するとレルーンの好奇心に触れたみたいで更に聞こうとする。
「えっ,えっ,次の目的地ってどこ~?」
「なんでレルーンが気にするですよ」
「気になるから」
「そのまま返すなですよ」
「知ってどうするの?」
「えっ……」
エランが問い掛けると,ふと会話の内容が分からなくなってしまったレルーン。言葉に詰まったレルーンはエランの顔を見ると,まるでエランの瞳はレルーンの心底に有るモノをしっかりと見ているようにレルーンには思えた。そんな視線とも言えるモノに耐えきれなくなったレルーンは紅茶を一気に啜ると席を立つ。
「あんまりサボったら怒られるから戻るね」
そう言い残して部屋を後にしたレルーンにエランとハトリは無言で見送るのだった。
日が傾き空が少しだけ赤みがかる頃,ハルバロス軍は完全勝利を示すかのように各所で大きな声が上がった。どうやら完全にゼレスダイト要塞からディアコス兵を捕らえるのと追い出したのをやり遂げた証のように声が上がっている。何にせよこの戦争はこれで終わりなのは確かな事だ。
それから戦後処理で捕らえられたディアコス兵は要塞内にある牢屋に入れられ,備蓄して有った食料や武器,美術品や宝石までしっかりと数えられて価値を確かめた。エラン達はどうして要塞に美術品などがあると思ってしまったが,カセンネが言うにはゼレスダイト要塞は通商路の休息場に成っており,そこで賄賂のように要塞の者に渡して便宜をしてもらうらしい。
納得するエランと呆れた表情をするハトリ,だがこれでエラン達が休んでいた場所が豪華だった事が分かる。そう言った汚職役人が上級役職として,このゼレスダイト要塞に入っていたからこそ,あそこまで豪華な部屋が出来たと予想をするのは容易い事だ。それらの処理が終わると今度は負傷者が搬入されて要塞の設備と消耗品でしっかりと治療が成されると次は部屋の割り振りがされた。
エラン達はこの戦争における最大の功労者とされてゼレスダイト要塞の上層階にある部屋と成った。エランとしてはお風呂付きの部屋などで文句などが出ようもない。そして早速とばかりにエラン達は割り振られた部屋に行くと待っていたかのようにイブレの姿があった。
「やあ,おかえり,エラン,イクス,ハトリ」
「うん,ただいま」
「おかえりじゃないですよ」
「なんでお前がここに居るんだよ」
素直に挨拶を返すエランとは対照的にハトリとイクスは文句を言い出すと,こちらも相変わらず笑って誤魔化すイブレ。そのイブレは既に円卓に紅茶を置いて椅子に座っていたのでエランとハトリが無言で椅子に座るとイブレは立ち上がって二人分の紅茶を煎れて二人の前に出すと席に戻って再び紅茶を堪能する。するとエランがやっと本題を切り出してきた。
「それでイブレ,何の用?」
「今朝は慌ただしかったからね,詳しい話が出来なかったから話をする為にね。それに今朝も言った通りにここでの僕がやる仕事は終えたから時間があるからね,それについても詳しく話そうと思ったから待っていただけだよ」
「そうなんだ」
「その前になんで私達がこの部屋に成った事を知っているのかを知りたいですよ」
「まったくだ,こいつはどこで調べやがった」
「ハトリもイクスも人聞きが悪い,皆が戦っている最中に僕だけが呆然としているのは悪いと思ったからね。勝利した後の事を先に少しだけやっておいただけだよ」
「それでお風呂付き」
イブレの言葉を聞いて珍しく瞳の奥を漫然と輝かせながらイブレに問うエランに,イブレは微笑みながら頷くとエランは素直に礼を述べる。それからイクスとハトリがごちゃごちゃと言い出したが,それも終わるとイブレが本題を切り出した。
「それでエラン,いつスレデラーズを手に入れる為に発つつもりだい?」
「明朝」
と,ハッキリと答えるエランだった。
さてさて,後書きです。いや~,やっと佳境となるゼレスダイト要塞戦が終わりましたよ。予定的には第二章は残り数話程度ですね。……話数の計算が出来ないのはご愛敬という事で勘弁してくださいな。まあ,何にしても第二章は残り少しと成りますので,いつも通りに気長にお付き合いしてくださいな。
さてはて,そろそろ第三章について語っても良いかな~。とか思ったので少しだけ語りますと,やっとスレデラーズ対スレデラーズの戦いが起こりますね。まあ,第一章でもやったんですけどね,そちらは最初という事で控えめだったので,次は派手にやりたいな~,と思っております。まあ,そのスレデラーズ戦が始まるまでがね……。それは第三章で~。
さてさて,何か最近は周一ぐらいで更新が出来るように成ってきたのが良い事なのか分からなくなってきましたが,まあ読んでくださった方が楽しんで頂けるのなら幸いです。という事で,そろそろ締めましょうか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そしてこれからも気長によろしくお願いします。
以上,半月も残っているのに金銭という弾丸を使い果たした葵嵐雪でした。




