第二章 第二十一話
後にモラトストの戦いと言われる戦いが終わってから翌日の昼に成るとエラン達はヒャルムリル傭兵団の天幕内でそのまま配給された昼食を取り,特に命令も無いのでそのままのんびりとくつろいでいた。エラン自身もやるべき事はしっかりと分かっていたが周り,というよりもハルバロス軍の進軍準備が終えていないので今は待つしかないので待っている,と言った感じだ。そしてのんびりとしているのはエラン達だけではなくカセンネやレルーンを含めたヒャルムリル傭兵団の全員が同じ事を言えた。
のんびりとした雰囲気に成っている為かエランは身体を横にし丸めて,すっかりお昼寝態勢に成っており,その隣に居るハトリはレルーンに絡まれて少し騒いでいるがそれ以外はすっかりのんびりとしている。イクスも刀身を少しだけ出してエランの背中に居るのだから大人しいものだ。そんなのんびりとした雰囲気を壊すようにメルネーポが現れると大声を発した。
「エラン達とヒャルムリル傭兵団はすぐに出立準備をせよっ!」
待ちに待ったという訳ではないがいきなりの命令にレルーンはハトリから離れてメルネーポに向かって不満を口にする。
「あのさ~,なんかいろいろと急過ぎるよ~」
「今日の予定は既に伝えておいただろ」
「そうだけどさ~,今まで放っておいて急に出立準備をしろと言われてもね~」
「まだ準備が出来ていないのはあんただけだよ」
「なんでっ!」
カセンネが衝撃の事実を聞いたレルーンが驚いていると,お昼寝態勢から起き上がったエランはゆっくりと立ち上がり,イクスの位置を正してからイクスとハトリに向かって口を開く。
「イクス,ハトリ,行くよ」
「はいですよ」
「まっ,こんな時間に成ったからには今日は大して進まないだろうからのんびりと行こうや」
「うん,分かってる」
「って,なんでエラン達は既に行こうとしてるの~っ!」
エラン達の会話に入れなかったレルーンが文句を言うかのように強引に割り込んでくるとエランは首を傾げ,ハトリが思いっきり溜息を付いて見せるとカセンネが仕方ないとばかりに口を出してくる。
「何言ってんだい,荷物が少ないエラン達は既に進軍準備が出来ているのは当然だろうね。あんたも文句ばかり言ってないでちっとは動きな,本当に置いて行くよ」
「はいは~い」
カセンネからお怒りの言葉をもらったレルーンがやっと立ち上がると,そのまま駆け出してメルネーポの横を通り過ぎると天幕から急いで出て行った。レルーンが出て行った事で触発された訳ではないが,それを合図にヒャルムリル傭兵団員が動き出すとエランはメルネーポの横にまで歩みを進めて話し掛ける。
「先に破城槌が見たい」
「んっ,あぁ,分かった。それなら私が案内しよう」
「うん,お願い」
「なら行くか」
「うん」
エランが大きく頷くとメルネーポが先導するように歩み出したのでエランも後に続くとそのまま天幕から出る。外に出てみるとエランは何かに気付いたように顔をそちらに向けると,その方向から騒がしいとは言えないが飛び交っている声が聞こえて来た。声を聞いただけでもハルバロス軍が既に動いている事が分かるのでエランはメルネーポに尋ねる。
「進軍状況は?」
「あぁ,進軍は五部隊に別れて進軍するのでエラン達は破城槌と移動する第三軍として出立してもらう。既に第一軍と第二軍は進軍しているから慌てて呼びに来たという訳だ」
「んで,メルネーポの姉ちゃんがのんびりしているって事は今回は後ろって事か」
「まあ,私はここで動きすぎたからな。少しは自重しろとケーイリオン将軍に言われてしまった」
「そのケーイリオン将軍は?」
「第四軍として破城槌が出た後に進軍を開始する予定だ」
「それにしても私達が出るのが遅いですよ。これなら進軍しない方が良いかと思う程ですよ」
「それはすまない。なにしろ破城槌の組み立てに時間を食ってしまってな,それでも進まないよりは進んだ方が良いとイブレ殿が進言したようだ」
「イブレが真面目に仕事をしていた事に驚くですよ」
「まったくだ」
人使いが荒いとも言える判断を促したイブレに文句を垂れるハトリと同意するイクス。別にこの判断に文句を垂れる訳ではないがイブレが関わっていると文句の一つでも言いたくなるハトリとイクスだった。そしてイブレの話題に成って事でメルネーポが何かを思い出したみたいでエラン達に伝えてくる。
「そういえばイブレ殿がエラン達に話がしたいと呼ぶように聞いているぞ」
「イブレが?」
エランが簡潔に尋ねるとメルネーポは大きく頷いた。この状況でイブレの方から話がしたいと言われるとは思っていなかったエランは瞳の奥で間欠泉からお湯を吹き出してるとハトリが何事だと言い出してきた。
「まったくイブレはこの状況で何を言いやがるですよ」
「そいつは分からねえが,イブレの事だからこの状況だから話した方が良いと判断したんだろうぜ」
「それは分からなくもないですよ,それにイブレの事だからあっちから来てもおかしくはないですよ」
「あぁ,そいつは充分に有り得るな」
「分かった,後でイブレと話す」
「まあ,そうなるわな」
「聞いてみないと分からない事は確かですよ,いくらイブレの話でも」
「あぁ,イブレの話でもな」
本人が聞いていない事を良い事に好き放題言い出すイクスとハトリ,そんなイクスとハトリの言葉を聞いて軽く笑ったメルネーポが思った事を言い出す。
「イブレ殿も大変だな」
微笑みながらそのような言葉を出してきたメルネーポにエランはただ黙って頷いた。頷くエランを見てメルネーポは再び静かに笑うと更にエランに言ってくる。
「やっぱりイブレ殿は大変だな」
改めて同じような言葉を発してくるメルネーポに今度は首を傾げるエラン,相も変わらず意味が分からなかったので首を傾げる様子を見せる。なのでエランはメルネーポに問い掛けようとするが,当のメルネーポはエランの仕草に再び笑っていたのでエランは黙る事にした。そんな会話をしつつも目的地に着いたのでメルネーポは組み立てが終わった破城槌を指差す。
「ほら,あれが組み立て終わった破城槌だ」
「本当に見た事が無い形の破城槌だな」
「んっ,そうなのか。私達から見ればあれが普通なのだが,余所から見ると珍しいのだな」
「そういう事は言われないと分からないですよ」
「ふっ,それもそうだな」
鼻で軽く笑ったメルネーポは満足げな表情を見せる。どうやらハトリの言葉に納得してしまった自分がおかしかったのだ。そして役目を終えたメルネーポはまだ残っている仕事があるのでエラン達の方へと身体ごと向ける。
「それでは私はそろそろ失礼するよ。最後尾とも成ればいろいろとやるべき事があるのでな」
「うん,ありがとう,メルネーポ」
「この程度で礼など要らぬさ,ではな」
メルネーポはそれだけ言うと踵を返して歩きながら背中越しにエラン達の手を振りながら自らの仕事に戻って行った。そして残ったエランは破城槌へと目を向けてしっかりと確認すると何かに気付いたハトリが言葉を出す。
「破城槌の側面に塗られているのは泥ですよ?」
「たぶん火矢対策」
「まっ,たった一つしかない破城槌だからハルバロス軍としても下手をこいて失いたくはねえんだろうな」
台形の形を成している破城槌の側面にはエラン達の会話通りに泥が塗られており,それによって例え火矢が刺さっても泥に阻まれて燃えにくいように施されいた。破城槌の周囲には人が居ないのでエラン達が近づいて行くがハルバロス兵に阻まれる事はない。なにしろ破城槌はハルバロス軍の本陣にあって先の戦いで敵を撤退に追い込んだのだから今になって厳重に警戒をする必要が無い。
破城槌の後ろ側に回ったエラン達は中を確認する。予想通りに台形の中に強固な門を破る振り子型の大きな木槌がぶら下がっており,中には十人程が入れる大きさで木槌の他に破城槌を押す為の渡し木が有った。それからエラン達は少し離れる。
破城槌の天板はエラン達からはよく見えないのでエランはイクスに話し掛ける。
「イクス」
「はいはい,見てくればいいんだろ」
短い会話の後にエランは右手を上に挙げるとイクスが鞘から勢い良く飛び出して,空中で半回転すると勢いのままにエランの右手に握られた。エランにしっかりと握られたイクスの刃が破城槌の方を向いてほんの少しだけの間があるとイクスが声を発し出す。
「上はそのまま木造だぜ。他は何にもしてねえぞ」
エランの身長に腕の長さ,それにイクスの刀身が加わればかなりの長さになるのでイクスからは破城槌を見下ろす事が出来たので見えたモノをそのままエランに報告するとエランは右手を肩まで下ろし再びイクスに話しかける。
「分かった,イクス」
「はいよ」
エランが右手を軽く開くとイクスが再び宙に舞い半回転すると,エランが背負っている鞘に向かって一直線に飛び出すと一気に鞘に収まった。それからイクスが疑問に思った事を声に出す。
「そういや上は特に無いもしていないって感じだったが,上なんて最も火矢が刺さる所だろ」
「イブレの助言」
「なるほどですよ,確かに昨日はそんな話をしたですよ」
「つまり最初はあの上で破城槌を守れって事だな」
「うん」
ケーイリオンが昨日も言ったとおりに白銀妖精頼みの攻城戦だからこそハトリすらも期待されているが,イブレが破城槌の上にハトリが居れば完璧に守り切るとでもイブレがケーイリオンに吹き込んだ事が簡単に想像が出来るイクスとハトリ。文句が出ないのはイクスもハトリもそれが最善だと考えたこそだ。そしてエランはそのまま破城槌の周りを回って今度は破城槌の前に来る。
「こういうのを見ると思うですよ」
「何?」
ハトリが発した言葉にエランが短く問い掛けるハトリは破城槌の中に吊されている木槌の先端を指差す。
「どうして攻城兵器の先端には何かしらの装飾をしているですよ。普通に鉄で覆えば良いだけですよ?」
「あぁ,言われてみりゃあそうだな」
ハトリの疑問にイクスが同意する声を上げたがエランは意味が分からないとばかりに首を傾げる。確かにハトリが指摘した通りにハルバロス軍の破城槌には先端に鳥の頭を模した金属が取り付けられていた。これなら鳥のくちばし部分に力が集中して穴が空きやすい。
装飾はともかく木槌の先端に金属を取り付けるのはしっかりとした理由がある。第一に破壊力を得る為,なにしろぶら下がった木槌をぶつけるのだから接触する面が堅い事に越した事はない。第二に強度を得る為,木槌と言うより丸太をぶつけるからこそ先端にヒビが入れば一気に裂ける事が有る。衝撃が掛かる部分を金属で補強する事で何度もぶつけても木槌への破損は最小限にすむからだ。そんな破城槌を見ていたエラン達に声が掛けられた。
「来たみたいだね,エラン,イクス,ハトリ」
振り返るとイブレが微笑んでいたのでエランとハトリは身体を返してイブレと向き合うとエランが真っ先に口を開く。
「うん,とりあえず破城槌を見に来たけどイブレからも話があるって聞いた」
「まったくですよ,話があるならすぐに済ますですよ」
「だな,大した用件じゃねえんだろ」
「大した用件だと言ったら」
『……』
イブレの言葉を聞いて黙り込むイクスとハトリ。いつものイブレなら笑って言い返しそうなものだが,今のイブレは穏やかな表情をしているが瞳から感じられるモノは真剣さが窺える。エランもそれを感じっていたので話を進める。
「イブレ,どこで?」
相変わらず短い質問だがエランの問い掛けを聞いたイブレは少しだけ微笑みを見せると口を開く。
「近くに僕の天幕があるからそこでね」
それだけ言って振り返ったイブレが歩き出すとエランとハトリもイブレの後を追うように続いた。
軍師として迎えられたイブレの天幕は厚遇以上の待遇みたいでかなり格式が高い天幕と成っていた。その中にある円卓を前に椅子に座るエランとハトリに紅茶を煎れて出したイブレが席に着くと,茶飲みの取っ手を手に取り口元で香りを楽しんだ後に味を楽しんだ。エラン達も同じく紅茶を一口啜るとイブレが紅茶を置いたのでエランとハトリも茶飲みを置いたのを確認したイブレが話し出す。
「誰にも聞かれたくないからエラン達に来てもらったからね,率直言うとスレデラーズの所在が分かったよ」
『っ!』
放たれた言葉に驚くイクスとハトリだがエランは至って自然に冷静で言葉を返す。
「場所は?」
「今は秘密にしておくよ。次のゼレスダイト要塞攻略がハルバロス軍からの依頼は最後になるだろうからね。今はそちらに専念するべきだからね,それに詳しい事はまだ分かってはいないんだよ。まあ,僕としては実際に行ってみないと分からない事が多いというのが実情だからね,だから次は僕も一緒に行くよ」
「分かった」
エランの返事を聞いてやっと微笑んだイブレは再び茶飲みの取っ手を掴むと軽く紅茶を口の中に入れて堪能すると,何かしら納得が行かないイクスとハトリ口を開く。
「それにしてもですよ,毎回毎回どうやってそんな情報を持ってくるですよ」
「まったくだ,こうなってくるとイブレに踊らされている気分だぜ」
「ははっ,気のせいだよ,気のせい」
「そんな訳あるかですよっ!」
「そんな訳あるかっ!」
異口同音的な事を言い出したハトリとイクスにイブレは笑い,エランは涼しげに紅茶を堪能している。そして笑って誤魔化されたイブレにイクスとハトリは追及を開始する。
「せめて情報を得た経緯ぐらい話しやがれ」
「まったくですよ」
「う~ん,そんなに深みがある話じゃないんだけどね」
「私が納得するですよ」
「俺様もな」
「イクスとハトリにそう言われたら仕方ないね。元からタイケスト五国の何処かにスレデラーズがある事は知っていたんだ。だからと言って五カ国も調べるのには時間が掛かるからね,そこでハルバロス軍が進軍する事を耳にして諜報員を借りる事を条件にこの戦いに参加したんだよ」
「だから私を呼んだ」
「そう,エランが一緒の戦場に居ればすぐに伝える事が出来るからね。それに僕の計算ではハトリが路銀の事で嘆いている思ったからね,これぞ一石二鳥って訳だね」
「なんか最後だけ頭に来るですよ」
「ハトリ,俺様を使って良いから叩き斬れ」
「分かったですよ」
「ははっ,イクスもハトリも酷いな」
「イクス,ハトリ」
「ちっ,仕方ねえ」
「エランがそう言うのなら引き下がるですよ,その代わりに後で何か持ってくるですよ」
「それなら喜んで」
イブレが微笑みながらそう言うと天幕の外から金管楽器の音が鳴り響き,その後に第三軍が集まるように声が響いて再び高らかに金管楽器が鳴り響いた。その音を聞いたエランが立ち上がるとイブレに向かって言葉を出す。
「この戦いが終わったらすぐに発つ」
「分かったよ,僕も準備しておくから。それでどれだけの日数でゼレスダイト要塞を落とすつもりだい?」
「一気に」
「あまり無理をしないようにね」
「自分の弱さは理解してる」
「それなら良いけど,エランに勝てるのも数える程だと理解していて欲しいかな」
「……分かった」
短い会話を終えて歩き出すエランと追うように席を立ってエランの隣を行くハトリ,そんなエラン達を見送って一人と成ったイブレが思考を巡らす。
さて,ここでの目的は終わりだね。問題は次だね,なにしろ次のスレデラーズは厄介な所にあるからね。どうしたものかと頭が重いね,こちらの思惑通りの展開に成っていればやり方はいくつも有るんだけどね。そうならない場合も考えないと……何にしても戦場に出てくれるのが一番かな。そうじゃない場合は……得意じゃないけど侵入するしかないな。まあ,今は戦場に釣り出す策を練るのが一番かな。なにしろスレデラーズの使い手に関しては何も分からなかったし,戦いが佳境に成っている今ではこれ以上ハルバロスの偵察兵も使えないからね。今度ばかりは出たとこ勝負かな……。
結論が出ないという結論にイブレは紅茶を啜って頭を休めると,今はゼレスダイト要塞を攻略する事に専念しようと思考を切り替えるのだった。
エラン達が破城槌の所に戻ると既にヒャルムリル傭兵団が集まっていたのでエランは合流するとカセンネの姿を見付けたので歩み寄ると声を掛ける。
「どれくらい集まっている?」
「んっ」
エランが近づいて来るのに気付かない程に心を空にしていたので,カセンネは誰だと言わんばかりに顔を向けたらエランだったので自分を呼び戻すと笑顔をエランに向けながら先程の質問に答える。
「あぁ,エランかい,集まるにはもう少し時間が掛かるみたいだね」
「そう,それで何が気になる?」
エランがカセンネの様子を見て直球で質問するとカセンネは破城槌を親指で指し示した。
「あいつと一緒に行くと成ると暇になりそうでね」
「敵襲は無いと踏んでいるですよ」
「偵察部隊どころか斥候も出していないだろうよ」
「随分と断言するじゃねえか,カセンネの団長様よ」
「退けば良し,来るなら一つ」
「そういう事だね,敵としてもあたし達が目指す場所は知っているから無駄に兵は出さない,それに来なければ来ないで良いと思っているだろうさね」
「わざわざ有利になる砦の兵を減らさないって事だな」
「砦だからこそ城壁もあるからね,敵襲があると分かっている今では城壁からの監視だけで充分だろうね」
「普通に考えたら難攻不落ですよ,普通ならですよ」
「あぁ,普通ならね」
それだけ言って横目でエランを見るカセンネに満足げに頷くハトリ。ハトリに関してはどんな要塞だろうとも落とせると考えているからだ。もちろん相手に警戒する程の強者が居なければの話だ。そんな事を話している間にイクスが何かに気付いたので声を発する。
「そういやレルーンの姉ちゃんはどうしたんだ?」
「あぁ,あの子なら荷造りが遅かったからね。そのまま後片付けも指揮するように言ってやったからそろそろ来ると思うよ」
「身から出た錆ですよ」
「まったくだね,そろそろバ……バカが治らないものかね」
「今本音を隠そうとして諦めたですよ」
「世の中にはどうしようもない事があるものさ」
「そんな悟りを開いたような目で言われても困るですよ」
「神様お願いします」
「そのお願い事は神様も迷惑ですよ」
「はははっ,ハトリが傍に居るといい暇潰しになるね」
自分で遊ぶな言わんばかりに大きな溜息を付くハトリに対してカセンネは楽しげに笑っている。打てば確実に響くハトリとの会話が楽しくてしょうがないようだ。まあ,ハトリとしてもこのような位置取りは楽しんでいるのも確かだ。そんな会話をしているうちに聞き覚えがある声がエラン達の耳に届いた。
「あっ,エラ~~~ン」
歓喜の叫びを上げながらエランに突っ込んでくるレルーン,そしてレルーンがエランに抱き付こうとした瞬間にエランは左足を軸に半回転した。すると既に前のめりになって行き場を無くしていたレルーンはエランが居なくなった事でそのまま顔から突っ込み地面に強烈なキスをした。
地面に突っ伏して軽い痙攣を起こしてるレルーンにカセンネは呆れたと言わんばかりに溜息を付いた後にレルーンに向かって言葉を放つ。
「まったく,あんたは何をやってるんだい」
カセンネの言葉を聞いてやっと上半身を勢い良く起こして立ち上がったレルーンは少し涙目に成りながら訴える。
「だって~,エランが避けるからだよ~」
「エランに抱き付かれる相手は決まっているですよ」
「私じゃダメって事!」
「うん」
「はっきりさんっ!」
「エランに抱き付いて良い相手は決まっているですよ」
「えっ,それって」
「イブレではないですよ,そんな事をしたら犯罪ですよ」
「あははっ,ハトリは散々に言うね」
「はいはい,そこまでにしな」
いい加減にしろと言いたげに手を叩きながら場を静めるカセンネ,だからこそ黙るレルーンにカセンネに注目するエラン達。そして場の中心となったカセンネが話を続ける。
「それで,破城槌は見てきたかい?」
「うん」
「こっちの攻城兵器はあれだけだよ」
「心配ない,私達が守る」
「あいよ,それで私達の役目は?」
「門が開いたら突入」
「なら給金分だけ働くとするか」
「えっ,えっ,どういう事?」
短いやり取りでしっかりとエランの考えを理解したカセンネに対してレルーンは未だに理解が出来ていない。そんなレルーンにカセンネは納得が出来る言葉を放つ。
「つまりエランを信じろって事だよ」
「それなら了解で~す」
「何も分かっていないのに納得したですよ」
「いろいろな意味で単純だな,このレルーンの姉ちゃんはよ」
「む~,ハトリもイクスも酷いよ」
「レルーンがカブになった」
「もっと可愛い例えをしてよ~」
エランの言葉に文句を付けるレルーン。確かにレルーンが拗ねて頬を少し膨らませていたので丸くなっていたのは確かだ。それをしっかりと指摘したエランに同意する様に周囲のヒャルムリル傭兵団から笑い声が上がり,一時的に心が緩むと穏やか雰囲気になるハルバロス兵が大声を上げてくる。
「第三軍整列っ!」
声を聞いて一斉に動き出すハルバロス軍,それと同じくヒャルムリル傭兵団も動き出す。そんな周囲と遅れてエラン達も動き出すとまばらだった第三軍が徐々に行軍態勢へと変わって行く。当然ながらレルーンはエラン達の隣に位置取っていた。
破城槌にも十人程が中に入って押しての棒をしっかりと握ると思いっきり足を踏ん張る,そして破城槌が徐々に動き出しゆっくりと進んで行く。動き出した破城槌を確認すると第三軍の司令官が号令を出す。
「第三軍出立っ!」
その声が轟くとエランを含む第三軍が動き出した。次のスレデラーズが分かったからには決着を付けたいエランは自然と強く歩を進める,今はスレデラーズを後回しに,スレデラーズを手にする為に今はただ歩き続ける決戦の地へと。エラン達は次なる戦場になるゼレスダイト要塞への進軍を開始するのだった。
えっと……とりあえず……すみませんでしたっ!! いやね,なんか持病が一気に悪化して何も出来へんかった。ってか,ずっと死んでたわ~~~。そんなこんなですっかり書けなくなって更新が滞ってしまったのですよ。いや~,持病持ちなのでキツイっすわ。そして……本当に申し訳ございませんでしたっ!!
さてさて,お詫びという訳ではないですが,このまま次も一気に書こうかと思っています。まあ,更新をしていなかったですからね。少しだけ挽回しようかと思っています。……一話だけだけどね。それに第三章のプロットも書かないとだからね~。作業は山積みなのですよ。
それにしても,やっぱり持病持ちなのはあれですわ,いろいろと読んでくださる方にはやきもきさせて申し訳ないです。だからと言って私自身には無理なく頑張る事しか出来なくて,申し訳ないやら,どうしようもないやらで困惑しております。まあ,それでも私なりに頑張って行こうかと思っている次第でございます。という言い訳をしたところでそろそろ締めますか。
ではでは,ここまで読んでくださりありがとうございます。そしてこれからも気長によろしくお願いします。
以上,気力の上げ下げが激しい葵嵐雪でした。




