第二章 第十九話
エランが次の戦いにも契約してくれた事に豪快に笑ったケーイリオンの気が済むと,今度はエランの左に居るレルーンへと顔を向けて口を開く。
「さて,ヒャルムリル傭兵団代表よ」
「はっ,はいっ!」
傍目から見てもレルーンが未だに緊張している事が分かるので,ケーイリオンはそんなレルーンに配慮をしたようですぐに本題へと入らずにまずはと口から言葉を出す。
「我が軍の部隊と見事な連携でエランを補佐してくれた事,実に見事。その働きがあればこそエランはカンドを討ち取れたと言えよう。約定通りの報酬を出すのと同時にこのケーイリオン,心から感謝を述べさせてもらおう」
「……はっ! あっ,はい,ありがとうございます」
「うむ」
レルーンの返事にこれは緊張が解ける事が無いと判断したケーイリオンはやっと本題を出す事にした。
「そこでだ,次の戦いもヒャルムリル傭兵団の力を借りたい。エランと共に戦った其方達だ,次の戦いでもエランを補佐しながら戦ってくれると期待しているが,どうだ?」
「へっ,えっ,え~っと」
誰の目からしてもレルーンが返事に困っている事が分かった。その光景を遠くから見ていたハトリが溜息を漏らすと突如としてエラン達の後方から大声が轟いた。
「乗ったっ!」
大声でそんな言葉を出したカセンネが整列を成しているハルバロス兵の中から姿を現すと,ケーイリオンの方へと歩みを進めながら話を進める。
「次の戦いでもエランと共に戦う事を条件にしてくれるのなら,ヒャルムリル傭兵団は必ずやご期待に応えましょう。それと当然ながらエランに数倍の報酬を出すのなら私達にも数倍の報酬を出してもらいますよ」
「うむ,傭兵ならば当然な言い分だな,カセンネよ。ではこちらはその条件で契約を提示するがどうする?」
「なら契約成立ですね」
ケーイリオンの契約内容に即答したカセンネに満足したように大きく頷いたケーイリオン。それからカセンネは自分の役目は終わったとばかりに振り返って並んでいた場所へと戻って行くとケーイリオンは将兵達に向かって言葉を出す。
「では,我が軍はこのまま侵攻してゼレスダイト要塞攻略へと向かうっ! 次の戦いもかなりの激戦に成るだろうが忘れるなっ! 我が軍に白銀妖精が居る限り必ずや成し遂げられるっ! そしてその為には我が軍も全力を出し切らない! 次の戦いこそが真の総力戦と成る事を忘れるなっ! 我らの力をディアコスに見せ付けてやるぞっ! 良いなっ!」
『おぉ―――っ!!』
ケーイリオンの激励を受けてハルバロス兵達が鬨の声を一斉に上げると,大地を振るわす程の声がモラトスト平原へと響き渡った。その中にいるエランはそんな周囲の声を聞きながら,五月蠅い,と思いながらもケーイリオンの前に膝を付いていると,エランの心境を悟った訳ではないがケーイリオンは静まるように左手を勢い良く前に出すと,それを合図にハルバロス兵が口を閉ざしていくと,やっと元の静寂に戻るとケーイリオンは左手を戻してから口を開く。
「それでは,エランとヒャルムリル傭兵団代表は隊列に戻るがよい」
「はい」
「はっ,はい」
エランが返事をしたのでレルーンも慌てて返事をすると,レルーンの返事を聞いて立ち上がったのでレルーンも立ち上がるとエランが小声でレルーンに告げる。
「さっきの場所に戻る」
そんな言葉を出した後に歩き出したエランはレルーンを追い越して歩みを進めたので,レルーンも緊張しながらエランの後を追うように歩き出すと先程まで居た位置にまで戻ると再びケーイリオンの方へと身体を向けるエランと,そんなエランを見て真似をするレルーン。そしてエラン達が戻ったケーイリオンは再び揃っている全軍に届くような声で口を開く。
「ではエランと補佐に当たった者達は休むが良いっ! それと本陣をここに移しているので作業が残っている者は引き続き作業に当たれっ! 作業が終わった者から休む事を認めるっ! そして今夜だけは勝利の美酒に酔いしれる事を許可するっ! 明日からは新たな戦いを始めるからには今夜は気を緩めて明日から始まる戦いに備えよっ!」
『はっ』
言葉の最後に再び左手を前に出したケーイリオンを見て,ここに集まったハルバロス兵が一斉に返事をするとケーイリオンは満足そうに頷くと,再び左手を戻し今度はいつもより少し大きな声で告げる。
「では解散!」
『はっ』
ケーイリオンの言葉が聞こえたハルバロス兵が一斉に返事をすると集まっていたハルバロス兵はそれぞれに散っていくのと同時にエランも北に向かって歩き出した。未だに緊張して固まっているレルーンとそんなレルーンを元に戻そうと奮闘しているメルネーポを置き去りにして。
隣に居るハトリと共に歩みを進めるエラン達の前に待っていたかのようにカセンネが姿を見せるとエランに話し掛けて来た。
「おや,エラン,何処に行くつもりだい?」
「本陣の外」
「そうかい,なら戻るならここに戻ってきな」
「どうしてですよ?」
「本陣の半分はあたし達ヒャルムリル傭兵団が使わせて貰える事に許可が下りたからね。あたし達は今日はここで休むつもりだからね。それに次も一緒に戦うんだから,戦い以外でも一緒に居ても良いだろうよ。その方が喜ぶ者も居るからね」
「いろいろとチャッカリしてやがるな,この団長様はよ」
「分かった,そうする」
エランの言葉を聞いて満足げに頷いたカセンネを見ると,エランは再び歩き出してハトリもその隣で歩みを進める。そしてエラン達は今ではハルバロス軍の第二本陣と化した場所を出ると,エランは周囲を見渡して近くに小高い丘を見付けるとそこに向かった。 丘の上に立ったエランは天を仰ぐように空を見ると,西には紅色に染まっているがエランの真上は深淵のような暗く閉ざされたように漆黒が広がると,その中に一つだけ輝く小さな光を見付けた。エランがその小さな光を見つめるとイクスが声を発して来た。
「エラン,今日の事と明日の事,どっちを考えてんだ?」
イクスがそのような質問をしてくるとハトリが傍迷惑と言いたげな表情をしながら口を開く。
「この駄剣は繊細という事を知らないから困ったものですよ」
「うっせえな,暗くなってるよりかは良いだろ」
ハトリの言葉に反撃の言葉を発するイクス,するとエランが不意に口を開く。
「今日と昨日の事」
そんな言葉を発したエランが視線を天から下げて,何処までも続いているような地面へと目を向ける。そんなエランが向けた視線の先には戦争の後,敵味方が入り混じった数多くの屍が打ち棄てられていた。それを見ているエランにハトリが心配そうに声を掛ける。
「やっぱり気を掛けるですよ」
「うん,倒れてる者達の全てが私が斬ったとは思ってないけど,私が戦争に加わってからかなり斬ってきた。今日だけでも数多く斬った,そして私をカンドの元へ向かわせる為に敵を斬って味方が斬られた」
「……まっ,戦争に参加したからには仕方ねえだろ」
「うん,だけどこの気持ちだけは捨てたくないし,捨てられない」
「……エラン」
いつもと同じように見えるエランだがハトリだけはエランの中にあるものを心配していた。そんなハトリでもエランに掛ける言葉を失ったがエランと同様に戦場だった場所へと目を向けると,数多くの屍が夜の暗闇に呑まれて行く様子が見て取れた。そんな中でディアコス軍の鎧を身に纏った者達がかなり多く倒れている事にハトリは気付いた。そして,それはエランも気付いている事だ。
ここはディアコス軍の本陣だった所に近く。それだけにエランは自分達が斬ったと思われる者達が多く倒れているが,最後の最後まで味方を逃そうとしていたディアコス軍の殿軍を務めた者達も数多く倒れている。どちらにせよ,エランがハルバロス軍に参戦してから一気に戦局が動いた為にディアコス軍にかなりの損害を出した事は確かだ。それを物語るかのような光景がエラン達の前に広がっている。
これが戦争であり,戦争による爪痕だ。そんな現実にエラン達は傭兵として金銭目的で参戦したのが真実であり,だからこそエランは頭では分かっているものの,心にはどうしようもない重みを感じていた。多くの命を奪ったという重みを,そして責任をしっかりとエランは重く感じていた。
戦争だから敵を殺すのは仕方ない,という責任逃れだけはエランはしたくはないし,またするつもりもなかった。だからどんなに重くてもしっかりと心に乗せていた,戦争に参戦した事で多くの命を奪った責任を……。
多くの将兵,ハルバロス軍とディアコス軍も戦争によって失った味方だけは無念に思っている。が,誰一人として責任というものを感じる事は無いのも確かだ。軍隊という部隊に所属しているからには敵を殺すという行為に慣れてしまって何も感じなくなる,敵を殺す事が当然な行為に成るからだ。
戦争以外では人を殺せば罰せられるが,戦争で多くの敵を殺せば賞賛される。つまり戦争を行うという事は数多くの人殺しを認め,人を殺した責任を問わて罰せられる事がなく黙認されるのが当然だ。だからこそ争いと戦争が絶えない,この世界でエランは責任だけはしっかりと心に乗せる。それがエランに出来る唯一の事だから。それにエランがこのような事をするのは今回の戦いに限った事ではない。
白銀妖精,という呼び名まで付く程にエランはこのような戦場を渡り歩いてきた,幾度となく戦争に身を投じてきた。だからこそエランは戦争中は躊躇いも無く,イクスを振るって敵を殺す。そして一区切り付いたのなら,責任を実感する為に戦場を見る事にしていた。実際に殺した者達の屍を見る事で人殺しという責任を実感する事が出来るからだ。
イクスとハトリは何度もそんなエランを見てきたからこそ,今は何も言わずに唯々黙っている。エランが思っている事をほんの少しだけ理解しながらも,今は一緒に居る事しか出来ないと知っているからだ。そんなイクスとハトリでさえ,今のエランが感じている責任を理解が出来ない程に戦争に慣れてしまった。だからこそエランは自分だけは責任を忘れないようにしていた。
戦争の中で行われた行為を,それに伴いう責任を。そんなエランだからこそ敵味方を区別する事なく,戦場で命を落とした者達に向かって言葉を放つ事が出来る。
「死者に永遠の安息を,残った者には悲しみを乗り越える力を。皆が明日に向かって歩けるように,私は私の責任を背負ったままに歩き続ける。そして祈りが必要なら祈る,去った者達,残った者達の為に」
言葉を放った後にエランは両膝を付いて暗闇に呑まれて行く死者達に向かって胸の前で両手を組むと祈る。自分の責任から来る,去った者達と残った者達の為に……。そしてハトリとイクスはそんなエランを唯々黙りながら見守る。だがハトリの中では何かしらの特別なモノがあるようでエランを心配そうな目で見ていた。そして目を閉じたエランは瞳の奥で願いを煌めかせていた。
空の暗闇が広がり,小さな輝きが増えた頃にやっとエランが立ち上がると後ろから足音が聞こえて来たのでハトリが振り返るとイブレがこちらに向かって来るのが見えた。そしていち早くイブレの気配を察知したエランはゆっくりと振り返るとイブレはエラン達と合流した。そんなイブレから口を開いてくる。
「やっぱりこの様な場所に居たんだね,エラン」
「うん」
「また引きずっているのかい?」
「引きずってはいないけど責任は背負ってる。イブレ,戦争はこういうものだと教えてくれたのはイブレだけど」
「確かにね。剣が最も使われるのが戦争だからね,だからエラン達にはただ戦うだけの剣に成って欲しくないから僕はエラン達に最も大切な事を理解して欲しかったからね」
「分かってる」
即答したエランにイブレは優しい微笑みを向けると,エランとは正反対にハトリは再び振り返って戦場だった場所を見る。かなり少し悲しげな瞳をしながら口を開く。
「私はエランとは違うですよ。でも光景を見る度に考えるですよ,エランとユウリエはこんな事をする為に……違うはずですよ」
言葉には出来ない部分がある為にハトリは言葉を詰まらせながら,そう言い切るとイブレは優しい声で背を向けているハトリに向かって言葉を向ける。
「僕もそうであってほしいと思っているよ。エランなら大丈夫そうだけど……何故,あんな事に成ってしまったのかは僕にも分からない。だからエランには戦う為だけの剣には成ってほしくないし,それはユウリエに関しても同じだよ」
「ならなんでエラン達は戦っているですよっ!」
ハトリの中にあるモノが爆発したかのように大声を上げる。そんなハトリにイブレは掛ける言葉を失うと,エランがそっと優しくハトリの頭を撫で始めた。しばらくの間はハトリの頭を撫でていたエランだが,ハトリは涙を拭うような仕草を見てからエランが口を開く。
「私は自分の意思であそこを燃やして帰る場所を無くした。その時から私が祈り願う事には変わりない,けどその為には最強の剣に成らないといけいない,だから私は戦い続ける。いつかは私の祈り願う事が叶うように」
「……ごめんなさいですよ」
「ハトリが謝る必要はない。私が祈り願う事にはハトリが必要,だからハトリを巻き込んだのかもしれない」
「それは違うですよっ!」
ハッキリと断言しながらエランの手を振り払うかのように,エランの方へと身体を向けるハトリがハッキリとした言葉を口から出す。
「私は自分の意思でエランと一緒に居ると決めたですよ。それとあの時の事は私も知りたいですよ。それだけじゃなくてですよ,エランと駄剣の組み合わせなんて危なっかしくてしょうがないですよ」
「俺様が黙っている事を良い事にまたケチを付けやがったなっ!」
「やれやれですよ。また駄剣が吠え始めたですよ」
「俺様は犬じゃねえぞ」
「似たようなものですよ」
「っはん! さっきまでベソを掻いてたのに随分と言って来やがるじゃねえか」
「ちょっとだけ覚悟が揺らいだだけですよ」
「泣きたいんなら泣いても良いんだぜ,お子様らしくな」
「子供扱いは止めるですよっ!」
「なら俺様を犬扱いを止めやがれっ!」
いつものように口喧嘩のような事を始めるイクスとハトリに,イブレは安堵したかのような優しい微笑みになっており,エランも瞳の奥で優しさを注いでいた。そしてイクスとハトリの言い合いが一区切り付くと,今度はイクスとハトリがイブレを標的に言葉を出し始める。
「そういえばですよ,この軍師は何の用でここに来たですよ」
「サボりだろ,サボり,こいつの十八番なのは知ってんだろ」
「納得ですよ」
「ははっ,イクスもハトリも酷いな。伝える事があって探していただけだよ」
「ならさっさと言うですよ」
ハトリに促された訳ではないが,やっとイブレはここに来た目的を話し始める。
「言うまでもなく次は攻城戦,それに対してハルバロス軍は破城槌を一つしかない。そんな状況で明日には出立するそうだよ」
「おいおい,こっちは攻城兵器が一つだけなのに仕掛けるのかよ」
「そうみたいだね。僕が考えたうえで言わせてもらうと,必ずエラン達は破城槌を守りに付く事に成るだろうね」
「エランの噂はともかくですよ,スレデラーズの噂は限りが無いのはどうかと思うですよ」
「それを僕に言われても困るんだけどね。それにエランの実力を見極めたと思ったからこそ,ケーイリオン将軍は援軍を要請する事無く攻めると決めたようだよ」
「確かに白銀妖精頼みとか言っていたですよ」
「ってか,ここでは野戦だったろ,何で攻城兵器なんかが有るんだ?」
「ハルバロス軍は最初からゼレスダイト要塞を目指して侵攻して来たからだよ。もちろん,攻め込めばディアコス軍も黙っていないから軍を発し,両軍がぶつかったのがこのモラトスト平原というだけさ」
「そして膠着状態に成った」
「そう,エランの言う通りだよ。そしてエランの参戦によって膠着状態から一気に攻勢に出られるとケーイリオン将軍は判断したみたいだね」
「頼りにされ過ぎるのも問題ですよ」
「まあ,ハトリの言う通りだけど,逆に言えばそれだけケーイリオン将軍から信頼を得る事が出来たと思った方がいいね」
「物は言い様に聞こえるですよ」
「ははっ,そうかもね」
「ってか否定しねえのかよ」
「ははっ,その通りだからね」
「認めやがったですよ」
「あぁ,認めやがったな」
イクスとハトリから同じ言葉を聞いてもいつもの微笑みで返すイブレに,イクスとハトリは呆れるばかりで,それ以上の言葉を発しようとしなかった。これで会話が終わったと思ったらエランが口を開く。
「私だけでも城門は開けられる」
そんな事を言い出したエランに対してイブレは否定する事無く言葉を返す。
「確かにそうだけど破城槌が有ればエランの手間が減った分だけ他に当たる事が出来るからね。ケーイリオン将軍なら城壁の弓兵を何とかしてもらいたいと思っていると思うよ」
「分かった,破城槌を守りながら戦う。ハトリ」
「分かっているですよ。けど,破城槌の形状によっては守れないですよ」
「それなら心配は無いよ。僕が実際に見てきたけど,ハルバロス軍が用意していた破城槌は台形型で上に乗れるからね」
「んっ,ってか,なんでそんな形の破城槌に成ってるんだ?」
「城門を破壊した跡では破城槌は邪魔に成るからね,普通の破城槌なら一度後退させてから兵が突撃するモノだからね。けど,台形にする事でエラン達が乗る屋根の下には展開式の板を仕込む事で,破城槌の前後に坂道を作り出す事で道を作り,破城槌をどかす手間を無くして兵を城門内へと進ませる事が出来るんだよ」
「なるほどな」
イクスの疑問に事細かく答えたイブレの言葉にハトリも納得したように頷いており,エランもいつもの無表情ながらも瞳の奥では感心を引き出していた。そんなエランだからこそ要点を短くまとめる。
「つまり進軍途中で敵が奇襲してきても私が追い払う。攻城戦が始まったらまずは破城槌を守りながら進み,城門を突破したら一気に味方と共に攻め込む。という事?」
「そうなるだろうね」
エランの要点をまとめた質問にイブレは肯定する言葉を出すとイクスが乗じてくる。
「敵も馬鹿じゃねえから,要塞を背にして野戦なんてやらないからな」
「ついでに言うならですよ,ここから撤退した兵も要塞に居るからには城内を制する方が難しいですよ」
「そう,だから城門を破る前に出る損害は少なくしたい,というのがケーイリオン将軍の考えだろうね。まあ,僕としてもエランが参戦するなら同じ手段を執るかもしれないけど,それ以上の事を求めるだろうね」
「それ以上って?」
エランが尋ねるとその質問を待っていたかのような表情に成るイブレ,そんなイブレがエランに向かって話を続ける。
「城門の内側は敵で溢れかえっている。だからこそハルバロス軍が城門を突破する前から城内に居る敵を減らしてほしいのだろうね,ケーイリオン将軍は」
「ワザとらしいだけじゃなく思いっきり怪しいですよ」
「ここまで来ると変態と言っても良いんじゃねえか」
「ははっ,イクスもハトリも相変わらず酷いね」
そんな事を言いながらもイブレはいつもの微笑みを浮かべて,いつも通りの言葉を返すだけだった。するとエランの頭では一つの疑問が浮かび上がったので,その事をイブレにぶつけるエラン。
「イブレ,そうなるとこっちも兵力を一点に集中させる?」
そんな疑問を口に出して首を傾げるエランを見てからイブレはしっかりと考えてから答えを言葉にして口から出す。
「その通りだね。破城槌が一つしかないからには,そこを起点として一気に攻め込む事に成るだろうね。相手が城壁からこっちを見ているからには,こちらの破城槌が一つしかない事は分かるだろうからね。敵もまずは破城槌を破壊しようとするだろうね,そしてそれを守るハルバロス軍。敵から見れば破城槌を守る為に集まっているように見えるからには要塞を囲む戦略は執らないだろうね」
「分かった,イクス」
「あぁ,俺様達で城門を破る手伝いをした後に思いっきり暴れるんだろ」
「うん,手早く終わらせる」
イブレの細かい説明で次の戦いを理解したエランとイクスがそんな会話を交わすと,イブレも全てが上手く行っている事を示すかのように頷いた。そんなイブレを見ていたイクスが遂に反撃に出る。
「それにしても流石は流浪の大軍師様だな。こうも簡単に敵味方の動きを読んじまうとは恐れ入ったぜ。なあ,エラン」
「うん,流石はイブレ,いろいろと読んで考えて凄い」
ワザとエランに話を振った事に気付きもしないエランが瞳の奥で尊敬を光らせながらイクスに同意するような言葉を口にすると,そんなエランの横ではハトリが思いっきり溜息を付いていたがエランは気付きもしなかった。そしてイクスとエランから特にエランから掛けられた言葉と瞳の純粋さに,さしものイブレも照れくさそうに左手の中指で左頬を掻きながら口を開く。
「イクスも意地悪だね。エランを使ってまでいじめてくるのは止めてほしいかな」
「んっ,何の事だか俺様にはサッパリと分からんが,なあハトリ」
遂にハトリまで巻き込んで来たイクスに,先程までは溜息を付いていたが話を振られた事により機を得たと感づいたみたいでハトリは満面の笑顔で言葉を出す。
「過小評価は良くないですよ,イブレは凄いんだからもっと胸を張るべきですよ。エランもそう思うですよ?」
「うん,ハトリの言う通りだと思う」
ハトリもエランを使ってイブレに追撃し始めたので,すっかり慣れない言葉がエラン達から出ていつもの微笑みが消えているイブレは颯爽と振り返る。
「それじゃあ僕は仕事があるからこの辺で」
そんな言葉だけを残してイブレは去って行く。そんなイブレを見てイクスとハトリが言葉を出す。
「逃げやがったな」
「逃げたですよ」
同じ言葉を発するイクスとハトリに,やっぱり意味が分からないとばかりにエランは首を傾げる。まあエランは心底にはイクスやハトリが持っている意地悪が無いので,心からの言葉だけあって,さしものイブレも今は去る事が賢明だと判断したようだ。そしてエランは答えが出ないから未だに首を傾げて何の事かと考えてた。
イブレが去ってから天然のエランには答えが分からないと判断したようで,エランは再び振り返って天を仰ぐように見ると,空は既に暗闇に覆われており,月が大きく輝き小さな星々が無数に輝いていた。どうやらイブレと話をしている間にすっかり夜になっていたようだ。だからエランは再び振り返ると口を開く。
「イクス,ハトリ,戻るよ」
「はいよ」
「はいですよ」
エラン達は勝ち取った本陣に向けて歩みを進める。戦争の責任を数え切れない程に背負っているエランはいつも通りの歩調で歩みを進め,その隣をハトリが歩く。いつも通りの光景だが,傍から見れば重い物を背負っていると思えるのがエランの歩みは,その重みすら感じさせない程に軽やかだ。それだけエランが祈り願う事は折れる事が無い事を物語っている。
次の行き先はまた戦場だが,それでもエランが歩みを止めないのは祈り願う事を叶える事だけではなく,戦場での責任を全うする為でもあった。戦い続ける事がエランに出来る唯一の名も知らない命を奪った者に対する罰で有り,斬り捨てた者に対する弔いだ。自分が斬り捨てた命が無駄ではなかったと……。
さてさて,今回はかなり重い話に成ってしまいましたね~。……いやね,ここまで重くするつもりはなかったんですよ。そればかりか後々で出そうと思っていた事まで少しだしてしまいましたからね。いやはや,今回は何とかまとめましたが,いろいろと暴走しそうな感じで書いてしまった感がありますね。私的にはですけど。
それははておき,今回は戦争という事を私なりの考えを書かせてもらいました。そして,その考えは今でも現実で起きている事で有り,戦争は続けられるでしょう。何故なら……多数の失業者が出るから。戦争を無くす一番の方法は武器を無くす事だと私は考えております。けど,その武器を作る為に多くの人が生きていく為の賃金を得ているのも確かです。そんな中で武器や兵器の生産停止となれば多数の国から多くの失業者が出るからこそ,今でも武器や兵器は作られ続けているのでしょう。というのが私の考えですね。
さてさて,いろいろと語ってしまいましたが,あえて言うと今回は名詞だけは出て来たのは第五章,私がこの白銀妖精のプリエールを書き続けるか,区切りを付けて打ち切るかを決める章に登場っするのは今は忘れても結構ですよ,今後の予定でも一文字も出る予定はありませんからね。と,念の為に言い訳をし終えたので,そろそろ締めましょうか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そして,これからも気長によろしくお願いします。更に感想を頂けると私が歓喜しますので,お気軽にお書きください。
以上,もの凄く久しぶりの零をプレイしてて止める時が分からなくなり,久しぶりだから期待していたけど期待程のビビりは未だに無い事に,まだまだ途中と私自身がビビる事を期待している葵嵐雪でした。




