第二章 第十八話
エランがカンドを討ち取った証としてメルネーポに渡したスネテのユニコーンが乗っているカンドの兜は既にケーイリオンの手に渡っていた。だからこそケーイリオンはカンドの兜を手に激戦が続く戦場を駆け回りカンドの死を伝えるのと同時にディアコス兵に投降するように呼び掛ける。だがほとんどのディアコス兵は撤退の準備をしていた為に,その身一つで逃げる者が多く出た。
激戦の中でカンドの死を知っても投降はせずに自害する者まで出たのは,カンドがどれ程まで部下に慕われていたかを物語っていた。中でも厄介なのが死を恐れなくなった死兵となった者達だ。カンドが死んだからには仇討ちは出来ないが,一矢報いようとより一層の激戦地に成る場所まで出現して両軍の被害を大きくした。重装備のハルバロス軍だが死兵を相手にしては流石に無事ではいられないのが現実だ。
日の光が少し赤み掛かって来る頃合いに成るとやっと戦場ならではの喧騒が聞こえなくなり,勝利したハルバロス軍は歓喜に沸いていた。そして一番の功労者とも言えるエランはというと……レルーンがヒャルムリル傭兵団を指揮して陣取ったディアコス軍本陣にある天幕でのんびりとしていた。そう,ここを乗っ取ってのんびりしようと提案してきたレルーンと一緒に……。
天幕の内装からかなり地位が高い人物が使っていた天幕だと分かる中でエランとハトリ,そしてレルーンは円卓を囲みながらのんびりと紅茶と何処からか見つけ出した甘い菓子を口にしながら呑気としか言い様ないありさまだ。エラン達はカセンネから休んで良いと言われているから問題は無いがレルーンはどうなのかはあえてイクスとハトリは聞かないことにした。エランはというと甘味が有るからにはそっちに意識が行くのは必然と言っても良い程に感心を持たなかった。そんな中でエランと同じくのんびりとしているレルーンが口を開く。
「いや~,今日の戦いは本当に疲れたよ~」
「確かに今目の前に居る人物が同じとは思えない程ですよ」
「どういう意味ハトリっ!」
「頑張って偉いという意味ですよ」
「なんだ,そっか~。って! 騙されないよっ!」
レルーンの言葉を聞いて静かに舌打ちをするハトリ,そんなハトリに気が付いたみたいでレルーンも自分の不機嫌さを強調してくるとイクスが会話に入ってくる。
「まっ,レルーンの姉ちゃんよ,このガキはクソ生意気なんだから気にすんなよ」
「イクスが誤解を生むような発言をしたですよ」
「本当のことだろうが」
「あははっ,確かにそうかも~」
「こっちもこっちで脳天気ですよ」
イクスとレルーンに言われて気晴らしとばかりに紅茶を飲んだ後に大きな溜息を付くハトリ。傍から見ればハトリがかなり気苦労しているように見えたのか,エランがいつの間にかハトリの頭を軽く撫でていた。もちろん甘味を咀嚼しながら甘みをしっかりと味わいながら。そんなエランの慰めもあり,ハトリが話題を変えてくる。
「そういえば戦況はどうなっているですよ」
「んっ? 私達が勝ったんじゃないの?」
ハトリの意図が全く分からないレルーンがそんな言葉を返してきたのでハトリは肘を円卓に付けて指を額に当てた。その態度だけでレルーンに対する不満を現していたが当の本人は全く気にせずに紅茶と甘味を楽しんでいるのだった。するとイクスが声を発する。
「もちろん詳しい事は分かんねえがよ,完全に戦いが終わっているのなら俺様達にも知らせがくるだろ。もしくはイブレが来てもおかしくはないな」
「そういえばそうですよ。という事はまだ続いているという事ですよ」
「まあ,そうなるわな。なにしろ敵さんは逃げる途中で総大将を失ったからには散り散りに成っていてもおかしくはないな」
「それは無い」
イクスの言葉を聞いてハッキリと断言するエラン,もちろん口の周りに甘味の食べかすを付けながら。だからエランは円卓の上に置いてあった口拭きで口周りを綺麗にしてから続きを話す。
「ディアコス軍は既に撤退をしていた。なら総大将を失っても撤退の手筈は済んでいるはずだから」
「なるほどですよ,だからカンドはただ一人でエランに立ち向かったって訳ですよ」
「だな,今頃はディアコス軍の将達が次々と味方を撤退させて為に大忙しって事だな」
「んっ? んっ? 何の話をしているの?」
「……これで傭兵団の副団長が務まるのが不思議で仕方ないですよ」
「これはハトリに同感だな」
「ハトリとイクスが酷い事を言い出したっ!」
再び叫ぶレルーンにイクスは面白そうな笑い声を発し,ハトリは大きな溜息をついてエランは甘味を味わいながらも瞳の奥で平穏の風を吹かせていた。そして実際に戦況がどうなっているかというと,戦いは未だに続いていた。
撤退するディアコス軍にケーイリオンは深追いしないように指示を出し,ハルバロス軍はしっかりと指揮統制が取れているのでケーイリオンの命令通りに撤退するディアコス兵を深追いすることはなかったのだが,味方を一人でも多く逃そうと殿を担うディアコス兵が必死の抵抗をしてきているのでハルバロス軍も押される訳には行かなかった。
ケーイリオンの命令は深追いしない事とであり,敵の全てを逃して良いという訳ではない。叩ける敵はこの場で叩こうとケーイリオンは残って居るディアコス兵は掃討するように命じていた。ケーイリオンが掃討命令を出したのにもしっかりとした理由があるのは当然の事で,ハルバロス軍は既に充分なディアコス兵を捕虜にしていたからだ。ハルバロス軍としてもケーイリオンの考えとしても,これ以上の捕虜は必要が無いからには残って居る敵を掃討するのは当然と言える。なにしろこれは……戦争なのだから。
カンドの死亡がディアコス軍に広がった時点でディアコス軍の中央は後退して撤退に移ろうとしていたのだが,それよりも早くケーイリオンが予備戦力を中央に投入して撤退の妨げにした。この時にはディアコス軍の両翼は既に後退していたのでケーイリオンはハルバロス軍の両翼も中央に向けて挟撃態勢を取ったが,それでも数多くの味方を救おうとディアコス軍の予備戦力が中央の後退を支援,更に残って居た両翼も伸ばして中央を挟撃してくるハルバロス軍の両翼に割り込もうとしていた。
ハルバロス側から見ればディアコス軍は逆三角形の布陣と成っているが,当然ながらエラン達が突破した中央の中央,言わば逆三角形の先端は完全にハルバロス軍が味方の為に活路を維持していた。だからこそ両翼に沿って撤退するディアコス軍をハルバロス軍が追うような形に成ったが,深追いを禁じられたハルバロス軍は戦場から逃れようとしているディアコス兵をあまり追わず,残って居るディアコス兵を相手にしていた。
このような形でしっかりと撤退が出来たのはカンドがあらかじめ自分がエランに敗れた時に備えて置いたからだろう。だからこそケーイリオンも一目置いていた存在だと言い切れる。だからと言って折角の攻勢を続ける機会を逃さないのもケーイリオンの将才と言える。そしてここで徹底的に叩くからこそ次の戦いでは更に優位になる事を見越してケーイリオンは徹底的にディアコス軍を叩くように命じた。そして遂にモラトストの戦いは終わりを迎えるのだった。
空が少し燃える頃,のんびりとしているエラン達の天幕外から走る甲冑音が鳴り続いていると,今度は勢い良くエラン達が居る天幕の布が勢い良く開かれた。すると兜を脱いだメルネーポが息を切らして現れるなり開口一番に言葉を出す。
「やっと見付けたぞっ!」
息を切らしながらも大声でそのような言葉を放ってきたメルネーポに自然とエラン達の視線が向くとメルネーポは少しだけ佇んで息を整えると,まだ呼吸が荒いままに続きを語り出す。
「ケーイリオン将軍が直々にお越しに成る,カンドの葬儀をする為だ。なのでエラン,カンドを討ち取ったのだから,葬儀に出席するように,との伝言だ」
エラン達を探して散々と駆け回ったのだろう,メルネーポは言葉を絶え絶えながもしっかりと伝言をエランに伝えるとエランが口を開く。
「分かった,時刻は?」
「そろそろだ」
「うわぁ~,そんなのに出席しないと行けないなんてエランも大変だね~」
会話とは異次元なレルーンがそんな発言をすると,今まで散々と探し回った事も有りメルネーポの額に血管が浮かび上がるとまるで苛立ちによる怒りを露わにする。そして息を整え終わったメルネーポがレルーンに向かって言葉を放つ。
「ならばレルーン,お前にはヒャルムリル傭兵団代表としてエランと共にカンドの葬儀と今回の勲功を賜ってもらうぞ」
「えっ,えっ,そういうのは団長の仕事でしょ?」
「カセンネ殿からお前を探すようにも言われていたついでだっ! そしてこんな所でエラン達はともかく,お前はサボっていたからなっ!」
「サボってないよ,終わったからゆっくりとしていただけだよ」
「それはカセンネ殿に言うのだな。とにかく,レルーンにはヒャルムリル傭兵団代表として出席してもらう。これは絶対だからなっ!!」
最後の言葉だけをもの凄く強調して放つとメルネーポは足早に天幕から出て行った。様子だけを見てもカセンネに確認をしに行った事は確かであり,レルーンもその事を察したようでいきなり慌て出す。
「へっ,えっ,どっ,どうしようエラン?」
そんなレルーンの言葉を無視してエランは立ち上がるとイクスとハトリに向かって言葉を放つ。
「行くよ,イクス,ハトリ」
「はいですよ」
「まっ,お堅い場みたいだからな,俺様は籠もっているぜ」
イクスはそんな言葉を出すと金属音を立てて鞘の中に完全に収まるとエランとハトリは歩き出し,慌てているレルーンはエラン達の後を追うように立ち上がるとエランに駆け寄って強引にエラン達を止めると会話を続ける。
「待ってよエラン。私そんな場所に出るなんて初めてなんだよ~」
「なら良い経験」
「そんな簡単に済まさないでっ!」
「じゃあ慣れ」
「だからそういう意味じゃないよっ!」
「はぁ,まったくいつまでもグチグチと言っているですよ。決まったからにはサッサと行くですよ」
「ハトリまでそう簡単に言わないでよ」
「ならダメ元でそちらの団長に意見してくるですよ。まっ,却下される事は確実に確かですよ」
「そうかもしれないけど~」
「行くよ」
会話を聞き飽きたエランが再び歩き出すとハトリも歩き出し,レルーンが再び後を追う形に成りながらもレルーンは足掻くように言葉を出してくる。
「ちょちょ,ちょっと待ってよ~」
その言葉を無視して天幕から出て歩いて行くエランに遅れてレルーンも天幕から出てエラン達に追い付くと再び口を開く。
「どうにか成らないの~」
余程このような場でしかも直に勲功を賜るのは避けたいレルーンは,そのような言葉を発してくるがエランは無視して少し歩くとレルーンも仕方なくエランに付いて行く。そしてエランとカンドが対峙した大通りに出ると沢山のハルバロス兵が中央を開けて整列していた。するとエランが歩みを止めてハルバロス兵達を指差しながらレルーンに向かって口を開く。
「ここまで揃っているのに無視する?」
「うっ,いきなり意地悪な質問だ~」
「それとですよ,レルーンが代表として出なかったらメルネーポが罰を受けるです。それでも良いですよ」
ハトリが追い打ちの言葉を発すると,レルーンはハルバロス兵を見ながら引き攣った笑いを浮かべると,今度は奈落の底に落ちたような表情に成るのと同時に頭を下げる。そしてエランに向かって言葉を出す。
「今度はエランが私の援護をしてくれる」
レルーンがそんな事を言い出すとエランは端的に答える。
「私と同じようにすれば良い」
「へっ,どういう事?」
レルーンがそんな質問をするがエランが隊列の前,つまりカンドを打ち倒した本陣奥へと歩み出すとレルーンは慌ててエランの横に並ぶとエランが答えた。
「ケーイリオン将軍なら,それぐらいの事は承知しているから最初に私に勲功を言う。次にレルーン,だから私を真似れば良い」
「あぁ,なるほど」
納得したような言葉を放ちながらもレルーンの表情は堅いままだ。余程に緊張しているのが横に居るエランとハトリにも雰囲気からでも分かる程にレルーンは思いっきり緊張していた。先程レルーンが言った通りにレルーンとしては初めての経験だから緊張するのは当然だが,これほど緊張するのはレルーンとしては今まで生きてきて初めての経験なのが窺える。
緊張が張り詰めて喋らなくなったレルーンと共にエラン達は隊列の先頭に向かうと,エランの姿に気付いたイブレが隊列から離れてエラン達を出迎えた。
「やあ,随分と遅かったね」
「うん,連絡が遅れたから」
「あぁ,それでメルネーポ殿は慌ただしかったんだね」
「うん,それで?」
「すぐに始まりそうだから並んだ方が良いよ」
「なら出て来なくても良かったですよ」
「ははっ,ハトリも酷い事をいうね。僕はただ遅れたエラン達を心配しただけだよ」
「はいはいですよ,ならさっさと戻って私達も行くですよ」
「うん,またね,イブレ」
「うん,また」
会話を済ませたイブレが戻って行くとエラン達は再び歩みを進め,遂に隊列の先頭に辿り着くと,そこにはすっかり落ち着いたメルネーポの姿があった。そして隊列の前には三段の階段を上がると白い棺が置かれており,その後方では二つのディアコス国の旗が立っていた。その棺桶を分け目にハルバロス兵達が隊列を成して中央に道を作って厳粛な雰囲気に成っていた。それでもエランは堂々と先頭に並ぶと次にハトリ,レルーン,メルネーポの順に並んでいたのでレルーンはメルネーポに向かって小声で話し掛ける。
「ねえ,メルネーポ」
「んっ,何だ?」
メルネーポも場の雰囲気をレルーンの緊張が見えたので小声で返す。
「メルネーポも私達と一緒に勲功を賜るんでしょ」
「残念ながら違う,私は帝都に帰ってから皇帝陛下から直々に賜るそうだ」
「そうなの」
「うむ,エランのおかげで私も一つ功績を積み上げる事が出来た事には感謝している」
「いやいや,そういう事じゃなくて。勲功を賜るってどうやれば良いの?」
「んっ?」
レルーンの言葉を聞いて返事だけを返して考え込むメルネーポ。そもそも勲功授与などといった騎士としての儀礼作法は騎士となる前から教えられるモノで,特にメルネーポのような騎士の家系として生まれた者は親から教わる事が多い。しかも言葉ではなくて場を再現した模倣で教わるのだから,メルネーポとしては言葉にするのは難しい。だからこと簡潔に答える。
「ケーイリオン将軍の前で膝を座して応答,それから物を受け取る場合は天から授かるように手を伸ばすだな」
「もっと細かくだよ」
「そう言われてもな」
レルーンとメルネーポがそのような会話をしていると突如として大声が轟いた。
「ケーイリオン将軍ご来場っ!!」
声を聞いて一斉に姿勢を正して中央の道に向かって敬礼をするハルバロス兵,その中にはメルネーポも含まれていた為にレルーンはそれ以上の事を聞けない事を察した。そして追い込まれたレルーンは成るように成れとばかりに覚悟を決める。そんな中でエランとハトリは静かに中央の道に身体を向けながら立っていた。
甲冑で歩く音が徐々に近づいてくる。見なくてもケーイリオンが側近を連れてハルバロス兵で築かれた道を進んでいる事が良く分かる。そしてエランのすぐ傍にまで歩みを進めるケーイリオンはエラン達には目を向ける事無く,ただ真っ直ぐに歩みを進めてケーイリオンが階段を上ると側近達は階段の脇へと並んだ。階段を上ったケーイリオンは棺桶の所まで歩みを進めると,棺に眠るカンドの姿を目にした後に膝を付いたケーイリオンがカンドに話し掛けるように口を開く。
「我が宿敵よ,其方の覚悟は見事としか言い様のないものだ。其方の生き様と死に様はディアコス国の規範と成り,其方の意思も受け継がれ儂の前に立ちはだかるだろう。その時には儂が討たれてるやもしれんが,それも戦場に生きる者の誇りであり信念。その信念を貫いたカンドに儂は最大限の敬意を賞賛するのと同時に魂の安らぎを願わん」
ケーイリオンは立ち上がると振り返って数歩進むと段下に居る側近からカンドの兜を受け取ると再びカンドの棺を前にして膝を折り,カンドの兜を棺に入れると祈るように手を会わせて再び口を開く。
「スネテのユニコーンよ,カンドに永遠の栄光と安らぎを」
ケーイリオンがその言葉を発した後に側近達が一斉に大声を出す。
『総員黙祷っ!!』
その声を聞いてハルバロス兵達は一斉に左手を胸にして目を閉じた。そしてエランも目を閉じると瞳の奥に唯々風を吹かせていた。こうしてハルバロス帝国によるカンドの弔いは終わりを迎えるとケーイリオンが立ち上がるのと同時に再び側近達が大声を出す。
『総員休め』
ハルバロス兵は黙祷の姿勢を解いて,軽く足を開いて踵から頭まで真っ直ぐに成るように立った。まあ,軍隊であるからにはこういう場で休めと言われてだらける兵は居ないのは当然だ。それからケーイリオンは視線をカンドの葬儀場から少し離れていた兵に目を向けると,その兵は敬礼をしてからすぐ近くの天幕へと入って行った。
入ったと思ったらすぐに出て来たハルバロス兵は一人ではなく,十人以上は居る武装を解かれた者達と武装して監視をしていた者達と一緒に出て来た。見るからにして武装を解かれた者達は投降したディアコス兵だ。そんなディアコス兵はカンドの棺がある段上に居るケーイリオンの前に連れて行かれると,ケーイリオンはディアコス兵に向かって語り掛ける。
「カンドの遺体は其方達に託そう。カンドと共に首都まで帰り,手厚く葬ってやるがよい。それが我が軍に投降した其方達の命だ,良いな」
ケーイリオンがそんな言葉を掛けるとディアコス兵達は涙し,その中の一人が涙しながらもケーイリオンに向かって口を開く。
「ケーイリオン殿には感謝致します。カンド将軍もスネテのユニコーンに導かれて安寧の地へと赴かれたでしょう。そのうえ我らにそのような命を頂き,投降した身には有り余る処遇に言葉がありません」
「うむ,ではカンドの葬送は其方らに任せたぞ」
「はい,またいずれ,戦場で」
「うむ,戦場で相見える時を待っておるぞ」
「はっ」
会話が終わるとケーイリオンは腰に下げてあったディアコス国の旗を取り出すと,それを広げてカンドの棺に覆い被せる。するとケーイリオンの側近と監視に当たっていた兵から数人がケーイリオンが居る段上に登るとカンドの棺を持ち上げてしっかりと旗を括り付けた。
後方に有ったディアコス国の旗も撤去され,棺は奥に移動させて既にそこで待っていたディアコス兵達に棺とディアコス国の旗を渡し。更に手が空いた者達に食料と護身用の武器だけを渡して旅の用意を完了させるとケーイリオンはディアコス兵達に旅の無事を願う言葉を発して,ディアコス兵達はケーイリオンに深く頭を下げてから歩み出し,ハルバロス軍はそんなディアコス兵達を見送った。
こうしてカンドの葬儀は終わった。するとケーイリオンは振り返って,その場に居る全員に向かって大声で口を開く。
「今回は皆良くやってくれたっ! 其方達の働きがあればこそ我が軍は勝てたと言っても過言ではないっ! このケーイリオン心底から感謝するのと同時にこれからも皆の働きに期待するっ! これからも戦いは続くやもしれんが奮闘せよっ! その分だけ報われる事はこのケーイリオンが保証しようっ! 良いなっ!!」
『はっ』
ケーイリオンの労いと期待感を持たせる言葉にハルバロス兵達は一斉に返事をすると,ケーイリオンは満足そうに大きく頷いた。そしてケーイリオンは次に移る為に口を開く。
「それではこれより勲功に対する褒賞を与える」
「ついに出番」
思わずレルーンが小声で驚くがそれを聞いていたハトリが小声で返す。
「ここに居るからには逃げられないから覚悟するですよ」
「うっ,ちゃんとやれるかな」
「心配を口にしている暇はないですよ」
「へっ」
レルーンが何の事と言いたげな表情で返事をすると,ケーイリオンが先に口を開いた。
「それではエラン=シーソルとヒャルムリル傭兵団の代表は我が前に出よ」
「はい」
返事をしていつも通りの雰囲気で歩み出すエラン,そしてすっかり混乱した事により呼ばれた事に気付いていないレルーンにハトリが小声で促す。
「何してるですよ,さっさと返事をしてエランに続くですよ」
ハトリの助言を聞いてやっと少しだけ混乱が解けたレルーンが声を上げる。
「はっ,はい」
エランの後を追って歩み出すレルーン,その歩き方でもかなり緊張しているのが,その場に居る誰の目にも分かった。それでもエランの後を追って歩みを進めるレルーン。エランもレルーンの緊張が分かっていたのでゆっくりと歩いていた。そしてレルーンが追い付くと歩みを止めて左側に身体を向けるとレルーンも真似して身体を左に向けて初めてケーイリオンの前まで進んで来た事に気付いた。それからエランが膝を付いて左手を握り締めて地面へと付けて頭を下げる。だからレルーンも緊張と混乱が入り交じる中でエランと同じようにするとケーイリオンが話し出す。
「両名とも表を上げよ」
「はい」
「はっ,はい」
ケーイリオンの言葉に返事をして顔を上げるエランとレルーン,それからエランとレルーンの顔をしっかりと見たケーイリオンはまずエランに顔を向けて話し出した。
「エランよ,其方が我が軍に来てはいうもの一気に勝利に導いてくれた事に感謝する」
「それもケーイリオン将軍の采配によるものです」
「ふっ,世辞を言っても出せるのは報酬だけだぞ」
「充分です」
「なれば追加報酬として十金レルスを授ける……が,更に稼ぐつもりはないか?」
「と言いますと」
「其方も分かっておろう,我が軍は勝利したこのモラトストの戦いで。そして我が軍は何を得た,勝利という栄光だけだけで我らが欲しい物は何一つとして得てはいない。だからこそ,それを得る為に進軍する予定だ。カンドが味方を逃がした要所,ゼレスダイト要塞へとな。エラン,そこを攻略するまで共に戦って欲しい,どうか?」
「答える前に一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「うむ,許可する」
「私がその件を断った場合はどうなさるおつもりですか?」
エランの質問にケーイリオンはすぐに答えはしなかった。それどころか満足げな笑みまで浮かべて最後には豪快に笑い出すとやっとエランの問いに答える。
「がはははっ! 随分と痛い所を突く問いよな。だがエラン,其方が考えているその通りだ,言うなれば白銀妖精頼みの攻城戦よ。エラン,其方とイクス,それにハトリは我が軍にとっては勝利への道標だ。更に攻城戦と成れば今の戦力では心許ないからには白銀妖精に頼むのが最前の一手よ,だからこそ更に数倍の報酬を出そう。どうだ?」
「承知しました,契約成立です」
今回はすぐさまにケーイリオンの提案を受け入れるエランにハルバロス軍はにわかにざわめき出す。攻城戦と成れば敵の三倍から五倍の兵数が必要なのが定石だが,エランが承諾したという事は今のハルバロス軍に足りない兵数を自分だけで補うという事だからこそハルバロス軍の中で驚き,ざわめきが起こる事も不思議ではないし当然とも言える。
そんな周囲をまったく気にする気配の無いエランを見ていたケーイリオンは満足げな笑みを浮かべると再び豪快に笑うのだった。
さてさて,今月の前半は更新が出来なかったから更新を急ぎましたけど……うん,次は月末ぐらいに更新して今月はおりかな~,とか思っている次第でございます。まあ,やっと中盤が終わるので頑張りたいと思ってはいるんですけど,なかなか作業がはかどらないのが現状でございますが,月末までにはもう一つ話を上げるのは確実に予定しております。
さてはて,ここまで十八話も使ってますよ。更にまだ終盤にまで至っていない……本当にどれだけの話数を使うのだろうと本気で心配しております。まあ,ここまで来ると成るように成れと,気にしない事にしましょうか。
さてさて,本音を申しますと……そろそろ感想が欲しいです。簡単で良いので面白いのか,まだ何か足りないのか,それともつまらないのかを知りたいです。なので本当に簡単で良いので感想を頂けるとありがたいです。そんな訳で簡単で良いので感想をお待ちしております。と懇願したところでそろそろ締めましょうか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そしてこれからも気長なお付き合いをよろしくお願いします。更に感想もお待ちしておりますので,お気軽にかいてください。
以上,死にゲーよりも無双系にハマる葵嵐雪でした。……俺強え―――っ!!




