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白銀妖精のプリエール  作者: 葵 嵐雪
第二章 戦場の白銀妖精
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第二章 第十七話

 遂にディアコス軍の本陣へと辿り着いたエラン達だが予想外な事に驚いた。なにしろハルバロス軍は中央突破をして一気に勝負を仕掛けて来たのだから,ディアコス軍も万が一に備えて本陣にも相当な兵を置いていると思っていたからだ。だが現実はディアコス軍の本陣には天幕が数多く並んでいるが兵が潜んでいる気配どこか,人の気配すら感じる事が出来ない程に静まり返っていた。

 エラン達の後方では中央突破をしたハルバロス軍とディアコス軍が未だに戦っているのに,それを指揮する本陣にはまったく人が居ない事にエラン達は驚いた。だからこそイクスが声を発してくる。

「逃げられたか」

 イクスの声を聞いてからも周囲を窺うエランとハトリ。それでも兵が潜んでいるどころか人がたてる物音や呼吸する音すら聞こえてこない程に静かだ。だからこそハトリが口を開く。

「どうやらイクスが言ったとおりですよ」

 それはエランがカンドを討ち漏らした事を意味するが,当のエランは何かを感じ取っていたようでハトリの言葉を否定するように言葉を口から出す。

「奥に一人,誰か居る」

「まさかカンドですよ!?」

「あぁ,そういやメルネーポの姉ちゃんが思い当たる事を言ってたな」

「うん,だからたぶんそう」

「結局どっちですよ」

「行けば分かる」

「確かにここまで来たからにはですよ」

「進む以外にはねえやな」

「うん,イクス,ハトリ,行くよ」

「はいですよ」

「決着をつけるとするかっ!」

 ハトリとイクスの返事を聞いてから駆け出すエラン,それに続くハトリが迷路のように成っている天幕の間を一気に突き進んでいく。エランもハトリも途中で隠れているディアコス兵が出て来ても警戒はしているが今のところはまったくもってそのような気配は無い。そして天幕の迷路を出ると大きな通りのような場所に出るとハトリも人の気配を感じてそちらを向く,大通りの奥に一人の人物が鞘に入った剣を前に突き立てながら静かに佇んでいた。

 エランは真っ先にその人物を目指して更に速度を上げるとハトリも何とか付いて行ける速度で一気に突き進むが,やはり周囲からはディアコス兵が襲ってくるどころか人が居る気配すらエランは感じ取る事が出来なかった。そしてとうとうエランがディアコス軍の天幕,その一番奥で立っている人物の前に辿り着いた。するとその人物は静かに目を開いてエランを姿を足下から髪先まで見ると口を開く。

「その髪色とその鎧の色,其方が白銀妖精だな」

 その言葉を聞いてエランは一度イクスを下ろして,ただ静かに背筋を伸ばすように立つと口を開く。

「そう呼ばれる事は多いけど,その呼ばれ方は好きじゃない。名はエラン=シーソル,貴方は?」

「ディアコス軍,軍事将軍カンド=サトワサだ。今回の出兵では総大将を担っているからには私の首を取れば第一勲功だぞ」

「最初からそのつもり」

「やはりか。ケーイリオンが白銀妖精をここによこしたという事は,最初からこうなる算段だったようだな」

「その割には随分と余裕じゃねえか」

 イクスがそのような声を発するとカンドは驚きの表情を見せるが,すぐに頭の中を整理したみたいで納得した表情を見せた。次にカンドが満足げな笑みを浮かべると会話を再開させる。

「白銀妖精はスレデラーズの使い手との噂を聞いてはいたが,その通りのようだな」

「おうよっ! 俺様がスレデラーズの一本,イクスエス様だっ! あの世に行く前に覚えておきやがれっ!」

 挑発とも言えるイクスの言葉を聞いてもカンドは動じるどころか,先程と同じように満足げな笑みを浮かべたままだ。そんなカンドがエラン達に向かって再び口を開く。

「剣が喋るとはな,それだけでもスレデラーズで間違いはないと言ったところか。だがそのスレデラーズはただ喋るだけではないだろう」

「当たり前だっ!」

「ふっ,それでこそ残って良かったというもの。最後にケーイリオンに一矢報いる事が出来るのだからな」

「まさかとは思うけどですよ,無理なのにエランに勝つつもりですよ」

「愚かと笑いたければ笑うがいい。私は既に敗軍の将だからこそ騎士として,戦士として最大限の戦いをするだけだ」

「笑いはしない,それが貴方の覚悟」

「同じ戦いに生きる者同士だから分かるという事か」

「うん」

「武将として,武人として,これ以上の喜びはないな」

「そう,それで?」

 エランが短い言葉で尋ねるとカンドは地面に突き立てていた剣を持ち上げると,鞘から剣を抜き始める。ゆっくりと静かにカンドの剣が光を浴びて鈍く光りながらその姿を現すと,完全に鞘から抜かれた剣をカンドはエランに向かって突き付けるように前に出すのと同時に鞘を左に投げ捨てた。

「武人としてスレデラーズの使い手と戦えるのは最大限の喜び,だが一軍の将として負ける訳には行かぬっ! ステネのユニコーンが我を加護しているからには相手がスレデラーズの使い手が相手でも負けはしないっ!」

「最後の言葉で既に負けてる」

 カンドの言葉を聞いてエランがそんな言葉で返すが,エランの言葉を聞いたすぐ後にカンドは自らの身体で隠していた後ろにある麻紐を剣で一気に切り裂いた。その直後にエランの左右にある天幕を突き破って何かがエランに向かって来るが,それがエランに届く事はなかった。

「びっくりしたですよ」

 そんな言葉を発しながらもハトリは両腕を広げて左右に大きなマジックシールドを展開していた。そして天幕を突き破って来た物はハトリのマジックシールドに阻まれて,金属音を立てながら地面に転がる。その音を聞いてエランは右側を見ると,その地面には全てが鉄製の槍,いや,矢羽根のような物が付いているから巨大な鉄製の矢が転がっていた。

 更に鉄の矢が天幕を突き破ったので天幕の中が少しだけ光が差し込んで中が見えるように成っていたので視線だけで覗き込むと,そこには大型弩砲が数多く設置してあった。エラン達はそれを見た時点で何が起こったのか理解した。カンドが切った麻紐は大型弩砲の発射装置に繋がれており,麻紐を切る事で槍のような矢が一斉にエラン達に向かって放たれた。

 当たれば確実に仕留める事が出来るような罠だが,いち早く危機を察知したハトリが無意識のうちにマジックシールドを危険がある方へ,なるべく大きく強固に作り出した為にエランは難を逃れた。だからと言って黙っていられれないのがイクスであった為に声を発する。

「てめぇ,随分と手の込んだ事をしやがるじゃねえかっ! こんな罠なんて仕掛けやがって正面から戦わねえのかよっ!」

「罠は相手を引っかける為に使う物,故に罠に引っ掛かる方が悪い」

「なんだ」

「確かに」

 イクスの言葉を遮ってエランがカンドの言い分を認めてしまったので,仕方なく黙る事にしたイクス。エランはイクスが黙った事を確認するとイクスを左後ろに構えるとカンドに向かって言葉を放つ。

「次は」

「次か……これで始末が出来れば良かったのだがな。だが防がれたからには次にやる事は決まっている。スネテのユニコーンよっ! 我に加護を授け眼前の敵を打ち破る力を授けたまえっ!」

「祈りだけで私は打ち破れない」

「ならばスネテのユニコーンの加護を受けし我が力を剣を交えて感じるがいいっ!」

 言葉を発した後に剣を前に構えるカンドにイクスはかなり苛立った声を発する。

「何が罠を仕掛けといて剣を交えるだっ! やるんだったら最初っからかかってきやがれってんだっ!」

「黙れっ! 最早言葉は無用っ!」

「同感,イクス,行くよ」

「一気に決めてやろうぜっ!」

 イクスの言葉を最後に戦いに突入するが,流石に歴戦の将であるカンドは無謀にも突っ込む等と愚かな行動は取らなかった。エランとカンドはお互いに構えながら相手を窺っている為に静かなディアコス軍の本陣が更に静けさを増しながらお互いに機会を待つ。カンドとしては相手がスレデラーズの使い手であるからには,そう簡単に自らは仕掛けては来ないようだ。

 少しの間だけ静寂が場を支配するとエランが動いた。速いがカンドにも見える速度で右足を出して駆け出そうとするエランに対してカンドは剣を振り上げた。そして次の瞬間,カンドの目の前からエランが消えた。

 エランとしては隙を作り出したかった訳ではない,最も斬り易い姿勢を取ってもらう為にワザとカンドにも見える速度で動き出しただけだ。そしてカンドが剣を振り上げた瞬間にはカンドの横が最も斬り易いのでフェアリブリュームの能力で一気に加速してカンドの左前に移動すると左足で踏み込みながらイクスを振るう。

 白銀の閃光がカンドの左腹から右肩まで残ると,エランはそのまま前に向かって倒れるように一回転すると膝を曲げて勢いを殺すのと同時に地面に両足をしっかりと付けて止まった。そしてカンドは最早言葉を発する事が出来ないので,唯々血飛沫をを上げながら右側に倒れて行く。そしてカンドは地面に倒れるとカンドの身体が二つに別れて自らの血溜まりに身を沈める。

 エランはゆっくりと立ち上がると振り返ってカンドの死を確認すると,カンドの亡骸に向かって歩き出した。そして未だに戦い続けているようなカンドの頭近くに立つと,兜を結ぶ紐をイクスで断ち切ってカンドからスネテのユニコーンが飾られている金色の兜を取るとハトリに向かって言葉を放つ。

「ハトリ,旗を入れ替える」

「はいですよ」

 ハルバロス国旗をカセンネに受け取った事は既にハトリから聞いていたエランはカンドの遺体をそのままに,まずは本陣のそこら中に立っているディアコス国の国旗をハルバロス帝国の国旗に取り替えた。手持ちが少ない為になるべく敵から見えるように本陣の入口付近から次々とエランとハトリは旗を取り替えた。そして手持ちのハルバロス国旗が無くなると次は本陣から少し出た場所にエランは立つとカンドから奪った兜を高々と上げるとハトリが大声を上げる。

「敵将カンドは白銀妖精が討ち取ったですよっ! ハルバロス軍は勝利してディアコス軍は負けたですよっ! なのでこれ以上の戦いは必要無いからには投降するですよっ! 両軍とも戦いを止めるですよっ!」

 出来る限りの声で勝利宣言と降伏勧告をするハトリ。それを聞いた近くに居るヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊から歓喜の声が上がり,エランが掲げている兜を目にしたディアコス軍は次々と武器を手放す。だがそれもエランの近く,つまり中央最後方の一部だけでハトリの声とエランの姿が見えない所では戦いは続いていた。そしてハトリは確認するようにエランに尋ねる。

「これで良かったですよ?」

 その問い掛けにエランは躊躇いなく答える。

「うん,これ以上戦いで命を失う必要は無い」

「まっ,勝手に降伏勧告をした件はイブレがなんとかしてくれるだろぜ。それよりも気を付けた方が良いぞ」

「イクスは何を」

『エランっ!』

 ハトリの勝利宣言とエランが掲げている兜を見て戦う意思を無くしたディアコス兵に対して,これ以上の傷を負わせる事をしなかったヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊がレルーンとメルネーポを先頭にエランに向かって突っ込んで来た。その為に一気にエランの周りには人集りが出来上がり,それぞれにエランに声を掛けるが多過ぎてエランは誰が何を言っているのかまったく分からなかった。すると人集りの後ろから声が轟いた。

「あんた達は少し下がりなっ! ついでに道を開けなっ!」

 そんな声が轟くと自然と人集りが別れて道が出来るとカセンネの姿がエランにも見えた。そんなカセンネが足早にエランの元へ歩み寄って辿り着くと周囲に向かって大声を出す。

「勝ったとしてもまだ戦いは続いてんだよっ! 少しは周りにも気を付けなっ! それとこんなに大勢がエランの周囲に集まって喋り出すとエランが困るだろっ! 話なら後で出来るから後にしなっ! 今はやるべき事をやりなっ!」

 カセンネの言葉でやっと場が静まり返る。その事にエランは瞳の奥で安堵の地平を広げるとメルネーポに歩み寄った。そしてカンドの兜を差し出して口を開く。

「メルネーポ,これをケーイリオン将軍に」

 それだけ言うとメルネーポはしっかりと頷いてからカンドの兜を受け取ると,振り返ってヘルメト隊に向かって命令を出す。

「まだ戦える余力がある者は私と一緒に来いっ! 戻ってケーイリオン将軍にエランがカンドを討ち取った事を報告するっ! 他の者はカセンネ殿に従ってディアコス軍の本陣を守れっ! たった今からここが我らの有する第二の本陣だっ!」

『はっ!』

 メルネーポの命令を聞いて一斉に返事をするヘルメト隊,そしてメルネーポが未だに激戦が続く戦場に向かって歩き出すと何人ものヘルメト隊がメルネーポの後に続いた。そんなメルネーポの行動を確認したカセンネがエランに向かって話し掛ける。

「さてエラン,この中にはどのぐらいの敵が残っているんだい?」

「今は誰も居ない,最初からカンドだけが待ってた」

「んっ,何で総大将のカンドだけなの~」

「レルーン,呑気な話は後にしな。さて,ヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊の負傷者はこの本陣の中に入りなっ! この中の物はもうあたし達の物だから遠慮せずに治療が必要な奴には処置をしてやりなっ! それと聞いていたと思うけどヘルメト隊の残りは本陣の入口を守るのと同時に入口付近を探りなっ! ヒャルムリル傭兵団は本陣奥を調べるよっ! 言っておくけど勝手な事をするんじゃないよっ! 必要な物は使って良いけど盗むとなれば面倒だしあたしも容赦しないよっ! 分かったねっ!」

『はいっ!』

『はっ!』

 カセンネの号令を聞いて一斉に返事をするヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊はすぐに動き出すと,カセンネはエランに向けて今までとはまったく違う優しい微笑みを浮かべるとエランに向かって口を開く。

「ご苦労だったね,エラン。あんた達は休んで良いよ,後はあたし達に任せな」

 カセンネの表情にエランはある人物の微笑みが重なったように見えた。エランはすぐに頭からその事を消すと,すぐに何事も無かったかのように口を開く。

「分かった,この奥で休ませてもらう」

「あぁ,そうしな」

「イクス,ハトリ,行くよ」

「はいですよ。それじゃあ,後はよろしくですよ」

「じゃあ,後は任せたぜ」

 イクスとハトリがそのような言葉を残して再びディアコス軍の本陣だった場所へと入っていく。そしてカンドの遺体が見える場所にまで進むとエランはイクスを前に出して口を開く。

「イクス,戻って」

「はいよ」

 イクスが白銀色の輝きを放つと翼が消えて,いつもの姿に戻った。そして続け様にエランは口を開く。

「納刀,フェアリブリューム」

 エランの身体が白銀色の輝きに包まれるとエランの中で剣が鞘の中に収まっていく。それと同時にエランの背中から生えているように形を成している翅にヒビが入ると,剣が完全に鞘に収まった途端に翅は弾け消えた。そしてエランの身体を包むように輝きを放っていた白銀色の光りも消えた。エランもイクスも元の姿に戻った途端にイクスがとんでもない事を言い出す。

「なあエランよ,俺様にもご褒美があっても良いんじゃねえか」

「盗むなと言われたことをすっかり忘れているですよ」

「別に良いじゃねえか。ここは敵の本陣だったんだぜ,そうなりゃ俺様のご馳走があっても不思議じゃねえだろ」

「良くないですよ,それとイクスのご馳走とは関係ないですよ」

「イクス」

「なんだエラン」

「一本だけ」

「ぎゃはははっ! やっぱり最高だなエラン」

「エラ~ン」

 エランの言葉に歓喜の笑い声を上げるイクスに対してハトリは気が抜けた声を上げる。それからエラン達は誰にも気付かれないように周囲の天幕を探ると,カンド程ではないにしろそれなりに地位が高い将が使っている天幕を見付けると,エラン達はひっそりと入り何本もある剣をエランは一つずつ抜いて剣の出来を確かめる。

 調べた中で一番出来が良い剣を選ぶとエランは地面に突き刺していたイクスを引き抜くと剣が収まっていた鞘を上へと投げた。そして次の瞬間に出来る限りイクスを振るって鞘を斬り刻むと,エランが地面に足を付けた時には粉々に成った鞘も地面へと落ちていた。それからエランはイクスを右手だけで持つと選んだ剣の元へと行き,左手で剣を取ってイクスと並べるように前に出す。

 イクスが白く光り出すと溶けるように形を崩すと左側の剣に向かって行く。そしてイクスが完全に左側の剣を包み込むと,エランの左手から剣の重みが消えた。それからまた溶けるように元の形に戻るイクス。そして元の形に戻ったイクスは真っ先に声を発する。

「こいつは一級品だな,こってりとしながらも切れのある」

「周囲に居る者は集まれっ!」

「誰だ食後の感想を邪魔ました奴はっ!?」

 イクスとしては剣を食した後の感想をしっかろと述べないと気が済まないが,聞き覚えがある声にエランがイクスを制して黙らせると外に向かって行く。そしてカンドの遺体が見える通りまで出るとそこには騎乗した騎士が居た。見覚えがある鎧から,その人物がラキソスだという事がすぐに分かった。そこで未だに気が済まないイクスが真っ先に声を発する。

「誰かと思えばラキソスの兄ちゃんじゃねえか,こっちは一仕事終えたのに随分と騒がしいじゃねえか」

「あぁ,すまない,重要な伝達事項があってな」

「そいつはケーイリオン将軍からの伝達かい?」

 質問と同時に姿を現したカセンネが歩み寄って来る。この辺の調べがすんだみたいで表情からすっかり戦いの鋭さが消えていた。そんなカセンネが両刃斧を右肩に担ぎながらラキソスの元へ歩み寄るとラキソスもカセンネがここを指揮している事を知っているようでカセンネに向かって話を続ける。

「その通りです,ケーイリオン将軍からカンドの遺体は丁重に扱うように伝言を承っております」

「カンドの遺体をね,ケーイリオン将軍はどうしようってんだい」

「そこまでは聞いていません。なにしろカンドを失って統制が取れていないディアコス軍を相手に戦いが続いていますから詳しくは言いませんでした」

「なるほどね,分かったよ。そいつは正規軍のヘルメト隊の奴らにやらせるから,あんたは戻って頑張りな。メルネーポに負けてはいられないだろ」

「痛い事を仰いますね。けど,その通りなので,お心遣いに感謝致します。それでは任せますので私は失礼します」

「あぁ,頑張ってきな」

「はっ」

 カセンネに対してすっかり上官に対する態度に成っているラキソスは敬礼をしないものの返事だけは上官に対するモノに成っていた。そんなラキソスが馬を返して再び駆けて行くとカセンネはこの辺まで調べに来たヘルメト隊の数人を呼び出して,すぐにカンドの遺体に対する処置を命令したのでヘルメト隊の数人がすぐにカンドの遺体に向けて駆け出すのを見送るとカセンネはエランの元にまでやってきた。

「流石はエランだね,見事なもんだよ」

「いきなりなんですよ?」

 カセンネの言い分にワケが分からないとばかりに返事をするハトリに,カセンネは軽く笑ってから会話を続ける。

「はははっ,悪い悪い,分かり辛かったね。あたしもカンドの遺体を見たからね,だから分かるのさ,一撃でカンドをやったってね」

「カセンネの団長さんよ,まるで見ていたような言い方じゃねえか」

「そいつは違うね。戦いが長引いたのなら,それだけ地面に残るってもんだよ。けどカンドが倒れている周辺は綺麗なもんだからね,そしてカンドは剣を振り上げた状態で倒れてる。つまりエランはカンドが振り上げた剣を振り下ろす前に倒した,そして遺体は綺麗に真っ二つで他に傷は無い。そしてエランの力を知っているからこそ一撃で倒したと分かるというものだよ」

「エランだけじゃなく俺様もな」

「はははっ,そいつはすまなかったね。エランとイクスの力を知っているからカンドを一撃で倒した事が分かるって訂正しておくよ」

「ぎゃはははっ! 分かりゃあ良いんだよ,分かりゃあな」

「この駄剣だけんはまた調子に乗り始めるから持ち上げないでほしいですよ」

「このクソガキがっ! また俺様を侮辱しやがったなっ!」

「侮辱じゃなく本音ですよ」

「どっちにしてもクソ生意気なんだよっ!」

「イクス,ハトリ,そこまで」

「くそっ!」

「はいですよ」

 不機嫌な声を出すイクスとは正反対に上機嫌な返事をするハトリ。これだけで口論ではハトリが勝った事が分かる。そしてイクスとハトリの口論が終わった事で話し易くなったカセンネがエランに向かって言葉を出す。まあ,エランもカセンネが自分と話がしたいと思っていた事を察したからこそイクスとハトリを止めた。

「それでエラン,カンドはどうだった?」

「どうとは?」

「何か感じるモノはあったかい?」

「……信仰,あるいは崇拝,それにすがっているようにも見えた。その正反対に武将としての誇りもあった。自分の力を知っていながらも心はすがってた,それが私との戦いに誘いた」

「なるほどね,自分の力を知っているのならエランとの戦いは避けた。けどカンドはスネテのユニコーンを心から崇拝しているつもりが,いつの間にかすがってた,スネテのユニコーンに祈りを捧げている限りは負けないと思い込んでいたみたいだね」

「うん,そう感じた」

「まっ,それでこそ人間らしいと言えるもんさ。どんなに肉体を鍛えようとも心はそう簡単には鍛えられないからね。いつの間にか何かに頼ったり,すがったり,しているもんだよ」

「そうかもしれない」

「……そういうエランも何かあるのかい?」

「……過去……」

 単語だけ出して黙り込むエランにカセンネはそれ以上の事を聞こうとはしなかった。カセンネにも分かったのだろう,エランの中にも頼ってもすがっても手にしたい理想があるという事を。そしてそれを祈りながら戦っている事を……。

 何にしても大役を果たしたエラン達には嫌われたくないカセンネは自分の役目を果たす為に動き出すことにした。

「それじゃあ,あたしは戻るよ。エラン達はゆっくりと休みな」

 言葉だけを残して振り返って歩き出すカセンネ。エランはそんなカセンネを見送ると口を開く。

「イクス,ハトリ,行くよ」

「はいですよ」

「終わった事だしのんびりしようや」

 そんな事を言いながら歩き出したエラン達だったがすぐに声が聞こえて来た。

「エラン」

 激戦を終えたからにはのんびりと休みたいのだが,呼ばれては振り返らずにはいられないのが一般常識だからこそエランは振り返る。だが振り返ったからこそエラン達はのんびりと休む事が出来るのだった。




 さてさて,今月の前半はいろいろと有ったので,すっかり更新が遅れたから埋め合わせというワケではないですが,すぐに次の話を書こうと思っている次第でおります。いやはや更新が月の半分を過ぎてだからね。だからちと足早でも良いかな~,とか思った次第でございます。

 いやはや,それにしても第二章もやっと中盤の終わりに差し掛かりましたね~。まあ,察しが良い人は気付いていると思いますけど,まだまだ第二章は続きますよ~。そんな訳で……本当に話数をどれだけ使う事に成るんだろうと思っている次第でございます。まあ,話数を減らしても良いんだけど,その分だけ更新が遅れるし,文字数が凄いことに成りますからね~。今のペースを守って頑張って行こうと思っております。

 そんな訳で第二章もそろそろ終盤に入りそうなんですが……第三章のプロットは中盤にも入ってない程の遅さ。……どないせいとっ!! と叫んだところでそろそろ締めますか。

 ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そいてこれからも気長によろしくお願いします。更に感想などを頂ければ私が喜びますので,気楽に書いてください。

 以上,タバコの税金がまた上がったので,違う方面のタバコへと手を出してみた葵嵐雪でした。



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