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白銀妖精のプリエール  作者: 葵 嵐雪
第二章 戦場の白銀妖精
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第二章 第十六話

 エランが舞い降りた激戦地では突如として出て来たエランにディアコス兵が躊躇しているとエランがイクスに向かって口を開く。

「イクス,一気に行くよ」

「おうよっ! 思いっきり暴れてやろうぜっ!」

 会話を交わした直後にエランによって数人のディアコス兵が一気に白銀色の閃光だけを残して斬り弾かれた。そこに丁度良く突撃して来たレルーンとメルネーポも加わり一気に攻勢が強まるハルバロス軍,それに比べてディアコス軍はかなり弱っていた。

 最前線なのだから今までラキソスが率いるハルバロス軍と戦っていたから疲れが溜まっている。そこに休憩を終えて英気を養ったヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊が突撃をしてきたのだから,戦い続ける事を強いられたディアコス軍は脆いが戦線を崩さないようにするのが限界だ。そこを見極めた訳ではないが撤退してきたラキソスが後方で指揮を執っているカセンネを見付けると馬を寄せて話し掛けた。

「ハルバロス軍,ケーイリオン将軍の側近として副将軍をしているラキソスだ。カセンネ殿とお見受けする」

「その堅苦しい物言いを聞けば分かるよ。それで激戦に成っているのに何の用だい?」

「なら手っ取り早く本音を言うと私達で突破したかったのだがな,無理だったのでこれを託したい」

 そう言ってラキソスが布で包まれた物を差し出したので,受け取ってからカセンネは中身について尋ねる。

「っで,こいつは何だい?」

「ハルバロス帝国の国旗だ」

「あいよ,しっかりと渡しておくからあんたはすぐに退きな」

「感謝する」

 そんな短い会話でしっかりと相手の意思をお互いに理解したカセンネは前に出るのと同時にラキソスは撤退している部隊を指揮する為に後退する。そしてカセンネは激戦で様々な音が響いている戦場に向かって,周囲の音に負けないぐらいの声を出す。

「ハトリはすぐにあたしの所に来なっ!!」

 腹の底から声を出したカセンネに必然と周囲で戦っていたディアコス兵が注意を向ける。ディアコス側としては何をするにしても防いだ方が良い事は決まっているから,必死になってハルバロス軍を突破したディアコス兵が数人カセンネに向かって来る。もちろんカセンネもそんな状況に気付いている,だからこそ鼻で笑うと片手で両刃斧を持って左右から来た敵を手際良く始末する。

 更にディアコス兵がハルバロス軍の隙間を突いて突破してくるとカセンネに迫る。だがカセンネは愛用の両刃斧を地面に突き立てて,ただただ立っているだけだ。ディアコス兵から見れば隙だらけと見えただろう,一斉にカセンネに向かって武器で攻撃する準備に取り掛かるが,その全員が黄色い物に身体を貫かれると地面へと倒れた。

 倒れて行くディアコス兵を見てカセンネは敵兵に向ける笑みを浮かべると,そんなカセンネの元へハトリが到着した早々にハトリは文句を言い出す。

「まったくですよ,こんな忙しい中で何の用ですよ」

「こいつを預かったんでね,なるべく早くあんたに渡さないと思ったからだよ」

 そう言ってカセンネはラキソスから受け取った布の包みをハトリに向けて差し出す。何の事か分からないが取り敢えず受け取るハトリにカセンネは続け様に言葉を出す。

「そいつはハルバロス帝国の国旗だよ。エランがカンドを討ち取ったら敵の本営に有るディアコス国の国旗と取り替えな」

「なるほどですよ。けどですよ,そういう事はもっと早くやって欲しいですよ」

「まっ,あたしはあんたに渡す為に預かっただけだよ。そいつを持っていた奴にしてみればカンドは討ち取れなくても突破して本営に乗り込む気だったんだろうね」

「随分と自分を過大評価しているですよ」

「あたしから言わせれば未熟って事だよ」

「何にしても分かったですよ。忙しいから私はすぐにエランの元に戻るですよ」

「あいよ」

 そのような会話を交わした後にハトリは受け取った布の包みを手際良く,自分の服の中に入れるとカセンネの元から最前線を目掛けて駆け出した。そんなハトリを見送ったカセンネは地面に突き立てた両刃斧を引き抜いて両手で持つと呟くように言葉を出す。

「さて,あたしも行くかね」

 その直後に最前線に向けて一気に駆け出したカセンネはエラン達の後方でエランの後ろを取ろうと奮戦しているディアコス兵を薙ぎ払うと再び大声を出す。

「エランは遠慮せずに前に進みなっ! あたし達には時間が無いんだよっ! レルーンとメルネーポは遅れるんじゃないよっ! あたし達はただ前に進む事だけを考えて進み続けなっ! 前に居るエランと後ろに居る味方を信じて突き破りなっ!」

 命令と同時に激励も飛ばしたカセンネは直後に迫って来たディアコス兵を薙ぎ払い,カセンネの声を聞いたレルーンとメルネーポも横に居る敵は適当に受け流して前に居る敵を確実に仕留めて進み始めた。そしてエランはというとカセンネの声が聞こえた直後に少し後ろに退がってハトリと合流するとハトリに向かって話し掛ける。

「ハトリ,少しの間だけ防いで」

「分かったですよ」

「イクス,ホワイトストームブレイド」

『っ!』

 エランの言葉を聞いて,いつもなら威勢が良い声を発するイクスといつもなら冷静なハトリさえも驚きを示した。そしてイクスから声が発せられる。

「おいおいエランよ,俺様達だけが突破しても意味がないぞ」

「分かってる,だから使う」

「それでハトリ達はどうすれば良いですよ?」

「大丈夫,今までやった事は無いけど一気に突き進むならこれしかない」

「けどよ,エラン」

「イクス,お願い」

「……本当に良いんだな?」

 イクスがそんな問い掛けをするとエランはしっかりと頷いた。

「うん,ハトリはレルーンとメルネーポを補佐しながら上がってきて」

「はぁ,分かったですよ。ここはエランは信じるですよ」

「イクス」

「分かったよ,それじゃあ一丁やってやるかっ!」

「うん,納刀,フェアリブリューム」

 エランが白銀色の光りに包まれると背中から生えていた翅が弾け飛ぶように壊れて,欠片が地面に落ちていく頃にはイクスも白銀色の輝きを放ち白銀色の翼が羽根を舞い落としながら消えた。その間にも攻撃が来るとハトリは周囲を警戒していたが,ディアコス側はエランが一旦退いた事を好機に戦線を戻そうと動いているのでエラン達に襲い掛かって来る者は居なかった。だからこそ再びエランの口から同じ言葉が出る。

「イクス,ホワイトストームブレイド」

「行くぜっ!」

 エランとイクスが白銀では無く,白い色の魔力に包まれるとエランの中で剣が抜かれるて魔力が放出される勢いを受けてえエランの髪が吹き上げられたように舞い上がる。それからエランの肩から少ししたの背中から真横に向かって楕円形の翅が左右に二枚,四枚羽の真っ白な翅が生えると今度はイクスの刀身が白い魔力に包まれるのと同時に刀身が白く染まっていき,イクスの刀身は真っ白になった。そして白い魔力はイクスを一回り大きくしたようにイクスと同じ形に成った。

 エランの中で抜かれた剣が準備が整ったように剣先が天に向いて置かれるように止まると,エラン達から放出されていた魔力も止まって,舞い上がっていたエランの髪がゆっくりと舞い落ちる。そして金色の瞳で眼前の敵を鋭く突き刺すとエランはイクスを左の真横に構えてからハトリに話し掛けた。

「ハトリ,後ろはお願い」

「はいですよ,エランも充分に気を付けるですよ」

「大丈夫だから行って」

「分かったですよ」

 ハトリがエランから離れるように後退するとエランはイクスに話し掛ける。

「イクス,行くよ」

「あぁ,行くかっ!」

 いつものようにイクスの威勢が良い声を聞いたエランは瞳の奥で少しの安心感を得るのと同時に猛り燃える覚悟を最頂点まで熱するとエランは一気に駆け出した。白い後だけを残して。

 次の瞬間にはエランはディアコス軍の最前線まで駆け上がっていた。そしてイクスを振るい出すとイクスを包み込んでいる白い魔力が一気に伸びて,エランはそんなイクスを一気に振り抜くと,今までは数人程だったが今の攻撃で数十人程が一気に斬り弾かれた。エランは振り抜いたイクスの刃を返して今度は右横に構えると再び前に向かって駆け出し,エランに斬られて舞い上がってるディアコス兵の身体と血飛沫が舞っている所を一気に駆け抜ける。

 先の攻撃が届かなかった敵前まで駆け抜けたエランは再びイクスを振るい,再び多くのディアコス兵が斬り弾かれる。ディアコス軍はエランの動きを捉えるどころか何が起こっているのかも理解が出来ない。それ程までにエランの動きは今まで見せない程に早く,今までとは違って回転をするデスティブや死落舞という戦い方をする事もなかった。

 白い後だけ残して一気にディアコス兵を斬り弾きながら突き進むエラン。それは後方から見ていたレルーンやメルネーポ,それにカセンネにもエランの動きが見えない程に早いモノだった。そんな所にハトリが駆け付けると口早に言葉を出す。

「エランが一気に進んでいるから一気に進むですよっ!」

 口早に言ってきたハトリの言葉を聞いてはいたが,エランの動きが全く見えない事も合い重なって三人とも理解が追い付かないでいた。そんな中で最も早く自分を取り戻したカセンネがハトリに尋ねる。

「ハトリ,あれは本当にエランなのかい?」

「今に成って何を言っているですよっ! あの状態に成ったエランは私でも追い付けないですよ,でもエランがあれで味方を押し上げる言っていたからにはここで止まってはいけないですよ」

「……分かった。レルーンにメルネーポはしっかりとしなっ! そしてヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊は一気に前進しなっ! 横から来る敵は適当に受け流して後続の味方に任せて一気に前に進みなっ! エランを信じるからにはあたし達がここで止まっては意味がないから皆前に進み続けなっ!」

 カセンネの号令によりやっと自分の役割を思い出したレルーンとメルネーポがそれぞれに言葉を出す。

「皆っ! 一気にエランの所まで突き進むよっ!」

『はいっ!』

「ヘルメト隊全力前進,盾兵で横の敵を防ぎながら一気に前に突き進めっ!」

『おぉ―――っ!』

 レルーンとメルネーポがそれぞれに号令を出したのでヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊も一気に動き出した。その先頭をレルーンとメルネーポが競うように駆けて行き,その後方でハトリが中央に位置取りながらも左右の部隊を援護攻撃しながら駆け上がる。その最後方でカセンネは後方の味方と連携が取れるようにしながらハルバロス軍が一気に押し上げるようにする。エランに続くかのように一気に動き出したハルバロス軍に対してディアコス軍は激戦続きですっかり疲れ果てて,中央突破をしていくハルバロス軍を止める事は出来なかった。そしてその切っ掛けを作ったエランはというと。

 地面にしっかりと足を交互に付けながら駆け続けては攻撃を続ける。前進をしていたエランだが,しっかりとどれぐらい進んだのかを考えながら侵攻していた。そしてある程度突き進んだら動きを止めて振り返ると,今度は後退しながら敵を斬り弾き続けた。ディアコス軍はそんなエランに手も足も出ない状態に陥っていた。それもそうだ,何しろエランの動きすら捉えられない程にエランが駆ける速度が速いのだから。そしてこれこそが今のエラン,ホワイトストームブレイドが持つ能力と言える。

 ホワイトストームブレイドはエランとイクスの剣,その能力はエランの脚力強化にイクスの軽量化,そして魔力斬撃である。順に説明するとエランの脚力強化はそのままに脚力を強化する能力。簡単に言えば人間では出して得ない程の異常な速度で駆ける事が出来るように成る。ハトリが今のエランには追い付けないと言ったのも,この脚力強化でエランはデスティブや死落舞と言った回転を使った速度よりも駆ける事が出来るうえ常に地面に足を付けているから隊列を成している軍では後方からではエランの姿が見えない。そしてエランが迫った時には斬られている,という事だ。

 次にイクスの軽量化,エランは駆け抜けながらイクスを振るって敵を斬り弾いても駆け続ける事が出来るのはイクスが軽くなったからだ。普段ならイクスを振るった重みから発生する遠心力を使って舞い上がるデスティブや死落舞という戦い方をするエランだが,今のエランは単純にイクスを左右に振っているだけだ。イクスを振っても重さが無いから身体を持って行かれる事は無い。それに軽いからこそ振り抜いたイクスを止めて刃を返して反対側に振れる。だからこそエランは駆けながら敵を斬り弾く事が出来る。

 最後に魔力斬撃,これを簡単に言えばイクスの刀身を長くする役目を魔力が行っているというだけだ。イクスが伸びている訳ではないが,イクスと同等の切れ味と強度を持つ魔力が伸びて敵を斬り裂いている。つまりイクスの刀身が伸びているのと同等の力を発揮している。これによりイクスの斬撃は今まで数人程度を斬り弾くだけだったが,数十人程度まで一振りで斬り弾く事が出来るように成った。イクスもスレデラーズの一本であり,その切れ味と強度は通常の剣を遥かに凌駕している。そんなイクスの刀身が伸びて襲い掛かって来るものだから相手をするのには脅威と言える。

 これらがホワイトストームブレイドの能力だが,エランがこの剣を口にした時にイクスとハトリが驚いたのは利点ばかりに思えるホワイトストームブレイドの能力にも欠点が有るからだ。それはエランの動きが速くなり過ぎる事,エランの動きが速すぎてハトリすら付いて行けないのだから,後続の味方が付いて行ける訳がない。つまりホワイトストームブレイドの能力はエランが単騎駆け,または単騎突破の時に用いる剣であり,味方と歩調を合わせて使う剣にしては全く向かないからこそイクスとハトリは驚いたのだ。とはいえエランも考え無しにホワイトストームブレイドを抜いた訳ではない。

 エランが攻撃を開始してから,ある地点まで行くとエランは眼前の敵に背を見せて横に居る敵をイクスで斬り弾くと,今度はそこから最前線まで戻っている。つまり単騎で敵の奥に行った後に別の敵を斬りながら戻っている。これを繰り返している為かディアコス軍中央の前は崩れきっている。そこにやっとハトリの呼び掛けで冷静さを取り戻したレルーンとメルネーポがヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊を率いて突撃して来たのだから最前線が一気に崩れるどころか,白い後しか残さないエランの攻撃にディアコス軍の隊列すら崩れかかっている。

 先程までは拮抗状態を維持してきたディアコス軍だからこそ,いきなり崩された事で混乱が生じて,そこに乗じるようにレルーンとメルネーポ達が突っ込む事で戦線どこか陣形すら崩して崩壊に追い込んでいる。だがエラン達の目的はディアコス軍を討伐する事では無く,敵総大将のカンドを討ち取る事だ。だからこそ後続の味方が来たらエランは更に敵陣深くへと一気に攻撃を仕掛ける。

 布陣の後ろに居たとは言え戦場に居続ける事で兵は心から疲労する。それに対してエラン達はケーイリオンの計らいでしっかりと休息を取ったので気力も体力もしっかりと回復をしている。ここに来て,それが大きく出て来た。

 エランの異常なまでの高速攻撃もあるがヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊がエランに追い付く為に前進を優先しているからこそ,ディアコス軍の布陣は乱れだしているのでエランは一気に突破する為に攻勢を強める。その為にエランはイクスに向かって話し掛けた。

「イクス,突破する」

「もうかよ。まっ,俺様達が往復しているおかげで味方もしっかりと付いて来てるからな,仕掛けてもいいわな」

「うん,一気に斬り拓くよ」

「あいよっ!」

 そんな会話を交わした後にエランは味方が居る後方まで退がると,すぐに白い後だけを残してディアコス軍に向かって駆け出す。そして一気に距離を詰めたエランはイクスを振るうとディアコス兵が束になって斬り弾かれる。前が開かれた分だけを再び前進してイクスを振るうエラン,そして遂にディアコス軍の中央を突破した。

 周囲をすぐに見回したエランはある人物を見付ける。一人だけ豪勢な鎧に立派な馬を飾り立てて騎乗している人物が眼前のディアコス軍に向かって声を荒げているからにはあの人物が中央の指揮を執っているのは明らかだった。だからこそエランはその者を目指して一気に駆け出す。

 流石に激戦地を抜けた後方だけあって少しだけ静かになっている。だからこそ脚力が上がって異常なまでの速度で駆けてくる音に気付く騎乗の将だが既に遅かった。騎乗の将が音がしてきた方へと顔を向けた時には何も見えず,次の瞬間には意識と命が暗闇に落ちた。

 エランは一気に騎乗している将に近づくと,そのまま跳び上がり将の顔に蹴りを入れた。脚力が上がっているからこそ蹴りが騎乗した将まで届いたが,体重は変化していない為にそれ以上は跳び上がれない。それでも充分だからこそエランは蹴りを入れた。駆ける速度が異常な程に速いのなら,蹴りの威力も異常なまでに上がっている。そして敵将だからこそ馬から蹴り落とす事で敵にも知らしめる事が出来ると考えたから,エランはイクスを使わずに蹴り落とす事にした。

 見事にエランの蹴りが敵将の顔に当たると,エランは蹴りを入れた反動を利用して後方へ一回転しながら着地する。それからエランは突破してきた道が塞がれないように,道をしっかりと確保する為に戻って行く。

 ディアコス兵が後ろから何かが落ちる音を聞いた時には既にエランの姿は無かった。認識が出来たのは自軍の将が落馬したという事実だけ,その為に数人の兵が将に近づくが既に息絶えていた事に驚いた。いったい何がこの将に起こったのか,それは死んだ将にも分からない程の早業だからこそ将の死亡を確認した兵達は混乱するばかりだ。それに伴いハルバロス軍は一気に中央を突破しようと攻勢を強める。

 エランが道を広げる為に再び敵が密集している所に斬り込んだ時だ。イクスから伸びた魔力斬撃が途中で何かに防がれた。だがエランは慌てる事無く,振り抜いたイクスを下ろして後方へ軽く跳ぶとエランが斬り拓いた道からハトリを先頭にレルーンにメルネーポに続いてヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊が一気に突破してきた。そしてレルーンとメルネーポはすぐに口を開く。

「エラン行ってっ! 皆っ! 絶対にエランの後を追わせないようにするよっ!」

『はいっ!』

「エランこっちは気にするなっ! カンドの首を取って来ると信じてるぞ。ヘルメト隊っ! ここが最後の正念場だっ! 誰一人としてエランの元へ向かわせるなっ!」

『おぉ―――っ!』

 レルーンとメルネーポの号令にヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊がそれぞれ気合いが入った声を出して,中央を突破してきた者達から左右へと広がり中央の後ろを突く形と成るが,これは中央を攻めているワケではなく後退をさせない為だ。それもこれもエランをカンドの元へと行かせる為にだ。そしてそんな光景を見ていたエランは振り向いて味方に背を向けるとイクスに向かって話し掛ける。

「イクス,戻って」

「あいよっ」

 イクスが白銀色に輝くのと同時にエランも白銀色の光りに包まれると,エランの中で抜かれた剣が鞘に戻り,エランの背中から生えるように見えていた真っ白な翅も砕け散って消えて行く。いつも通りに戻ったエランとイクスだが,すぐにエランは口を開く。

「抜刀,フェアリブリューム」

 再びエランの中で剣が抜かれるとエランの身体が白銀色の輝きに包まれて,エランの背中から翅が生えたように魔力が形を成す。自分の準備が出来たエランはイクスに向かって口を開く。

「イクス,オブライトウィング」

「はいよっ!」

 イクスが白銀色の魔力に包まれると再びイクスの刀身から翼が生えて,一回だけ羽ばたいて羽根が舞い消えるとイクスを包んでいた白銀色の魔力が消えた。そして今度は既に合流していたハトリとイクスに向かって言葉を出す。

「行くよ,イクス,ハトリ」

「準備は万端ですよ」

「決着を付けるとするか」

 イクスとハトリの声を聞いてエランは瞳の奥にここでの戦いを終わらせる事を誓うという意思を露わにすると,今度は振り返って大声でレルーンとメルネーポの名前を呼んだ。エランの声を聞いて眼前の敵を倒して振り返るレルーンとメルネーポ。エランはそんな二人の瞳をしっかりと見ながら言葉を出す。

「行ってくる」

 とだけ伝えるとレルーンとメルネーポも言葉を返す。

「うん,信じてるよ」

「あぁ,行ってこい」

 レルーンとメルネーポの言葉を聞いたエランは再び振り返ると少し遠くにあるディアコス軍の本陣を目掛けて駆け出すとハトリもその隣に続いた。そしてエラン達を見送ったメルネーポはレルーンに話し掛ける。

「それにしても不思議なものだな」

「んっ,何が?」

「エランがカンドを討ち取ると信じて疑わない自分自身の心がな」

「あははっ,確かに。うん,エランなら絶対にやり遂げるよ」

「そうだな,そして私達は」

「誰一人としてエランの元へは行かせないよ」

 会話を終えた後に再び激戦地へと駆けて行くレルーンとメルネーポ。ディアコス軍としては中央部隊の両端を動かしてヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊を包み込もうとしてもおかしくはないが,その命令を出す者は既にこの世には居ないのだから中央のディアコス軍は中央突破を食い止めようと個々に必死になるだけだ。そんな激戦を後ろにしてエラン達は一気に突き進む。

 途中でディアコス兵と激突すると思っていたエランだが,その予想は外れてエラン達は妨害を受ける事無くディアコス軍の本陣へと辿り着いた。そして遂にエラン達はディアコス軍の本陣へと足を踏み入れるのだった。




 さてさて……驚いた。いやはや,まさか一日で一気に書き終えるとは思っていなかったからね。そんな訳で少し説明すると,今回の話は丸一日掛けて一気に書き終えました。ちなみに文字数は約8700字を一気に書き終えるとは自分でも思っていなかったよ。

 更に更に,実を言いますと今回が初登場の剣である,ホワイトストームブレイドは書いている途中で思い付いたので,詳しく設定を作って書き記しているので,それも含めると一万字に近い文字数を一日だけで書き終わるとは私自身でも思っていなかったのですよ,これが。いやはや,何とか今月はかなり頑張れたと実感している次第でごぜえやす。

 さてさて,後は第三章のプロットですがページ数的には中盤に入っても良い頃なのですが……未だに入れません。ってか,いろいろと書き付けては増えているので第三章も何か長くなる事が必須だと思っている次第でございます。まあ,第三章までは結構シリアスな展開が続いたので,第四章は少し息抜きを兼ねてオチを付ける予定です。まあ,今は第三章のプロットを優先するべきですね。と思い直したところで締めますか。

 ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そして,これからも気長によろしくお願いします。更に感想もお待ちしておりますので,お気軽に書いてくれると私がとっても喜びます。

 以上,書くのも貯まっているけど,読む物も貯まっているなと今に成って気が付いた葵嵐雪でした。

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