第二章 第十四話
今すぐにモラトスト平原から逃げ出せば,それはカンドが自ら総大将ではなくて武将として負けた事を意味する。それはカンドがケーイリオンに対して完敗を意味する事であり,武将という一個人としてもケーイリオンに負けた事を意味している。
エランが今までの話を聞いていて自分の頭でそのような解釈をしていると,レルーンも今の状況を理解して少し自棄になったような声を出してくる。
「つまり私達が苦労させられてるのは敵の総大将がこっちの総大将に負けたくないからって事なの~」
レルーンの言葉を聞いたメルネーポがすぐに返事をする。
「まあ大体はそのような見解で合っていると思うぞ」
「だからこそディアコス軍は中央に投入する事が出来る全戦力を集めて,普通なら両翼で包み込むところを撤退して次に備えようとしているんだろうね」
イブレがそのような私見を出してくるとエランを始め,カセンネとメルネーポも一緒に頷いた。そしてイブレの言葉に気になる事が有ったハトリが会話に加わる。
「次と言ってもハルバロス軍が相手の思惑通りに動くとは限らないと思うですよ」
「いや,僕としてはケーイリオン将軍はモラトストの戦いが終わっても進軍すると考えているけど,どうかな?」
と,わざわざメルネーポの方に顔を向けるイブレに対して,いきなり話を振られたにも関わらずにメルネーポは少しだけ考えると会話を続ける。
「確かにイブレ殿の言う通りかもしれない。まあこれ以上は箝口令が出ているから私からは何も言えないがな」
「軍事機密を持っているってのも大変そうだな」
「ふふっ,その通りかもしれないな」
会話に参加してきたイクスの言葉にメルネーポは珍しく笑った。予想外の反応にイクスは黙り込んでいるとイブレが会話を再開させる。
「まあ一番大事なのはエランがカンドを討ち取る事だからね。僕が言えた事じゃないけど,ここに居る皆にはエランと共に頑張って欲しいかな」
「もちろんだ」
「あたしもここで降りる気は無いさね」
イブレの要望とも言える言葉に応えるように,すぐに同意する返事を返したメルネーポとカセンネ。そのカセンネの隣に居るレルーンはまた激戦の最前線に突入する事が分かっているだけに少しだけ愚痴を出す。
「でもさ~,これだけ分厚い布陣を抜けて行くなんて,いつ終わるのか分からないよ~」
「今日中」
「……へにょ」
素っ頓狂な声を出して驚いているレルーンを前にしながら,エランは目の前に有る桜桃を一定の間隔で口に中に放り込んでいた。とても先程の言葉が出たとは思えない程のいつも通りで,それが当たり前のようにしているエランにイクスが笑い声を発する。
「ぎゃはははっ! そうこないとエランらしくないからなっ! 俺様は大歓迎だぜっ!」
「いやいやイクス~。敵はまだまだ前に居るんだよ,それを今日中に突破するなんて無理だと思うけど~」
「やれやれ,レルーン,あんたは間違えてるよ」
「へっ,何をです団長?」
「あたし達,特にエランは中央の全てを相手にする必要は無いんだよ。エラン達が通り抜けるだけの道を塞いでいる敵だけを倒せばいいだけなんだよ,その後は敵がエランを追えないようにするだけなのさ。分かったかい?」
「う~ん,う~ん,う~ん」
レルーンが考えているのか,唸るような声を出し続けるとハトリが口を開く。
「ここまで唸ると頭を振れば音が鳴りそうですよ」
「ハトリが酷い事を言い出したっ!」
「言われても仕方ないですよ」
「じゃあ説明をお願いします,ハトリ先生っ!」
「誰が先生ですよ,それにこういう事に長けているのがそこに居るですよ」
そう言ってハトリがイブレを指差すとエランを除いた視線がイブレに集まる。状況として詳しく話すしかなくなったイブレは少し笑ってから話し出す。
「ははっ,ハトリからの指名とあっては仕方ないかな。そうだね……例えるのならば何枚も重ねた紙に針で穴を開けるって事だね。穴が出来ればそこから出る事が出来る,全ての紙を切り刻む必要は無いって事だね」
「そして穴からエラン達が飛び出してカンドの所に向かい,あたし達がエランを追う敵を阻むって事だよ」
「あぁっ! そういう事か~」
「やっと理解したですよ」
「というよりも,元から中央突破をしている事は告げていたと思うのだが,今更に成って確認する事なのか?」
最後にメルネーポがそのような問い掛けをするとレルーンは思い出したみたいで誤魔化すように笑い声を上げるとハトリとカセンネは呆れたように溜息を付き,イブレはいつもように楽しそうに微笑み,エランも通常運転で会話よりも目の前にある甘味を味わっていた。すっかり戦争中である事を忘れてると思える程に穏やかな雰囲気に成るとイクスが何かを思い出したかのように声を発する。
「あっ,そういやよう。撤退の時に使ったファニールってのは何なんだ?」
イクスがそんな事を言い出すとレルーンとカセンネも知らないみたいで黙り込んでいるとメルネーポが口を開く。
「この地に伝わる伝説に出て来る竜の名だな」
「その竜が,あのスネテのユニコーンに関わるって事みたいだな」
「あぁ,話すとかなり長くなるが聞くか?」
「聞く聞く~」
「何でレルーンが乗り気になるですよ」
「えっ,だって気になるし~,もう少し休んでても良いんでしょ?」
レルーンがそんな問い掛けをすると誰が答えて良いのか分からないように困惑の雰囲気に成るが,イブレだけはいつも通りの微笑みを浮かべているので少しだけこの雰囲気を楽しむとやっと口を開いた。
「そこは大丈夫だよ。さっきまで激戦だったからね,しっかりと身体を休める時間はあるよ。それに再出撃の時が来れば伝令が来るけど,今の戦況を見ても充分な休息を取るだけの時間は有ると見て良いだろうね」
「おっ,それならメルネーポの姉ちゃんよ,俺様も聞きたいから話してくれや」
「まあ,そこまで言うのなら。だが私もしっかりとは覚えていないので概要だけになるぞ,それでも良いか?」
「あぁ,構わねえぜ」
「メルネーポ~,話して話して」
「子供のようなねだり方ですよ」
「分かった,それでは……」
レルーンに対するハトリのツッコミを無視してメルネーポが語り出したので,自然と皆が黙り込むとメルネーポは語り出す。
遠い昔,人間に知性が無かった頃は巨人達が人間達を奴隷として従えており,人間達も巨人達に仕える事が当たり前だった。そして巨人達の頂点に立っていた巨大な竜,山をもある太い足を四本,空を覆い尽くす程の翼を持っており,巨大な頭は岩山ぐらいの角が生え口から出る吐息だけで焼き尽くす事も氷付けにする事も出来たという。それだけではなく無限の知識を持っており,その知識を使って巨人達を従え,人間達を従える術を教えたと言われている。それが原初の王竜ファニールだ。
ファニールは完璧とも言える治世を行っていたと言われている。外敵が現れれば巨人と共に出撃しては討ち滅ぼし,内心にも敵を作る事は無かった。これが出来たのもファニールが無限の知識を持っていたからと言われている。だがファニールの下に居た巨人達は違った。
人間を都合の良い道具としか思っていなかったからだ。だが人間が巨人に抗う事は無かった。ファニールが巨人達にしたように巨人達も人間に反抗心を与えなかったからだ。よって不満や屈辱と言ったモノがなかったから,何をされても何も感じないままに人間は巨人に,巨人はファニールに従った。その為に巨人達は更に人間に対しての横行が時が経つ程に酷くなっていった。
巨人達が人間に対する横行にファニールは人間を哀れみ悲しんだ。かと言って人間に反抗,抗う術を与えては自分の治世が崩れる事が分かっていたファニールは無限の知識を使っても人間達を救う事は出来なかった。それに自分を神と信じて疑わなかったファニールは人間に対する情よりも神としての治世を大事にしていた。だから巨人達が人間に行っている横行,非道に涙する時があった。
巨人達に作らせた自分の城から首を乗り出して,巨人達の行いに人間を哀れむファニールは涙し,その涙が貯まり大きな湖と成った。湖は不思議な現象が起こるように成っており,月明かりが湖に差し込むと様々な色に輝いたという。その為にファニールが住む近くに出来た湖には夜に成ると輝きを求めて巨人と人間が集まったという。だが人間を奴隷としてる巨人は湖に人間が来られないように,人間では乗り越えられない壁で取り囲んでしまった。
湖の事はファニールも知っていたが,それを自分達のモノにしてしまった巨人達に更に涙する事になった。湖の存在は人間の希望と成り得たからだ。それを奪ってしまった巨人に再び涙する日々を過ごすファニール。そんなファニールの気持ちを知る術を知らない巨人は湖をスネテと名付けて自分達の楽しみにしていた。その事は人間も知る事になり,スネテの湖を見たいと思って夜に湖に入ろうとした人間が居たが,巨人達に見付かると身体を引き裂かれて食われたという。そして巨人達は更に人間を下に追いやる。
巨人達はファニールが住むところを上層,巨人達の大地を中層,人間達が居る所を下層と呼び地上から地下に住むように命じた。反抗心が無い人間達はこのような命令にも不平不満を感じる事無く従うまでだった。こうして地上は完全に巨人のモノになった。そしてスネテの湖も。
ファニールは見えなく成った人間達に想いを馳せたが,これはこれで仕方ないと自分自身の心に区切りを付ける事にした。そしてスネテの湖は完全に巨人達のモノになった。スネテの湖が誕生してから千の昼と夜が過ぎた千と一日目の夜,スネテの湖には月が真上に来て湖面には移したかのように月が映り込んだ時,スネテの湖は今までに無い程に輝いた。
輝きは次第に増して行き,立ち上る光と共に湖の水が少しずつ月を真似るかのように浮かび上がって行った。そして湖の水が全て立ち上ると月のように丸くなり,月よりも輝いた。その輝きに巨人達が心を奪われていると突如として水が弾け飛び,その中から光り輝く角を持つ馬が現れた。それがユニコーンという生物だという事は巨人達はすぐに理解したが,ユニコーンは駆け出すと七色に輝く蹄の後を残して巨人が作った壁を突き破ると,そのまま宙を駆けて何処かに行ってしまった。巨人達は輝く角を持つユニコーンを必死になって探したが見付ける事は出来なかった。それもそのはず,ユニコーンは地下に追いやられた人間達の元へ行ったのだから。
真夜中に突如として現れたユニコーンに人間達も驚いたが,ユニコーンは輝く角を使って人間達に話し掛けた。心と知恵を授ける,故に巨人に抗えと。そして人間は反抗心を与えられ不平不満や屈辱が宿った。だが巨人は人間に比べると踏み潰される程に大きい,そこで知恵を授かった人間達は密かにユニコーンから授かった知恵で武器と鎧を作り始めた。
巨人は大きいからこそ武器や鎧を必要としなかった。その拳は木々を薙ぎ倒し,巨大な岩すら軽々と持ち上げられた。それだけの巨体を維持する為に強固な皮膚と筋肉で骨と一緒に身体を支えていたからだ。そんな巨人を倒す為に良く斬れて折れない剣を作り,巨人の心臓を貫く為の槍も作られた。それに弓矢と巨人の攻撃にも耐えられる鎧と大楯も作られた。大楯の表面には大きな棘が無数にあり巨人といえども踏み付ける前に痛さで倒れるとユニコーンに教えられた。
人間に様々な知恵を授けたユニコーンが巨人達が独占していたスネテの湖から生まれた事を知った人間はスネテのユニコーンと呼び,自分達を導くように頼んだ。だがユニコーンはこう答えた,貴方達は考えるという事を知らない,私が授けた知恵を使って考えるのです,と。それから人間はどうやったら巨人達を倒せるかを考え始め,次第に戦術や戦略が生み出された。そして人間の反逆が始まる。
人間は巨人を全て殺す事を決めていたので最初は夜襲から始まった。夜中に巨人の家に忍び込んで床で寝ている巨人の首を数人掛かりで斬り,複数の槍で心臓を貫いた。巨人は悲鳴を上げる事が出来ずに息絶えた。そして人間達は確実に巨人達を数を減らしていった。
当然ながら巨人達も殺された同胞が人間達によるものだと探り当てると夜になると警戒した,この時はまだ巨人は人間を見くびっていたからだ。それでも巨人は死んで逝った。人間達は数人の仲間が巨人に殺されると次の作戦に移行していたからだ。巨人は自分の身を案じていたが,それ以外は無頓着だった。そこでスネテのユニコーンから毒の作り方を教えてもらった毒を巨人の食材や調味料に混ぜ込み,毒殺に切り替えたから次々と巨人は食事中に死んで逝った。
ここまで来ると巨人達も従えていた人間達に怒りを覚え,集団で人間達に身分の違いを教えろとばかりに怒り心頭に赴くが人間達が仕掛けていた罠に掛かり身動きが取れなくなると殺された。そんな事が何度が続くと遂には戦争だと巨人達は騒ぎだし,人間達を全て殺す事にすると決した。そして機が熟したとばかりに人間達は地下から地上へと出て大地を取り戻す為に侵攻を開始した。
怒りだけの巨人と耐えてきた事による冷静さが初戦の戦いでは勝敗を決した。だが,それ以上に巨人達が驚いたのは人間達の上には自分達が見た光り輝く角を持つユニコーンが居たからだ。スネテのユニコーンは巨人が岩を人間達に投げつければ,宙を駆けて力強い蹄で粉々にし,巨人が大地を踏み叩く事で生じる地震や地割れを角の輝きによって無力化した。
輝く角を持つユニコーンが人間の味方をして巨人と戦っている事にファニールは激怒した。あのユニコーンはファニールの涙,つまりファニール自身が生み出した存在だと言っても良いのに自分に従う巨人を殺し,反逆をしてる人間の味方をしている。そこでファニールは全ての巨人達に更なる力を与えて力強くしたが徒労に終わった。何しろ人間達は真っ先に弓矢で巨人の目を射貫き,剣で足を切り立てなくなって倒れた所に槍を持った数人が素早く登って巨人の心臓を槍で貫いたからだ。
人間が自ら考えた戦略と戦術によって,より力強く強固になった巨人達も為す術も無く倒されて行くのをファニールは見守るしかなかった。そんなファニールは心で感じていた自分が作り上げた治世が崩れていくのを,だが自分の治世を壊しているのは今まで涙する程に情を抱いていた人間だ。何もしなかった自分が悪いのか,それとも人間を作った事が間違いなのか,ファニールは迷い涙する。それでもファニールには自らを神とする自負と責任が有るからには人間の反逆を見ているだけには行かないと行動に出る。
ファニールは残って居る巨人を全て自分の元へと集めた。巨人はファニールに逆らえないがファニールにとっては最も頼りになる兵なのは違いないからだ。そして神としての自分を人間達に見せ付ける必要があると決心した。だからこそ自分が居る,この城での決戦を決断した。
一方で人間達は大地を取り戻す度に,領土へと分けるとそれぞれに責任者を置いて農作物を作らせた。兵糧確保も戦争にとっては大事な事だ,それもスネテのユニコーンがもたらした知恵を元に考えた戦略で有る。こうして数年掛かって巨人達の撤退と人間達の侵攻が始まり,戦いの場には常にスネテのユニコーンが姿を現し人間を守りながら戦った。
巨人達は各地からファニールの元へ集まった頃には数年が経ち,人間達もスネテのユニコーンが加護を得て着々と大地を取り戻して領土を拡大していった。そして遂に人間達はファニールが居る城にまで戻る事になり,そこには数え切れない程の巨人達が集まっていた。
相手は巨大であり強大,更に数が集まっているので人間達は恐れを抱く者が多く居たがスネテのユニコーンは人間達に言った。決断の時です,再びファニールと巨人達にひれ伏して主と仰ぐか,自分自身を主とするか,決めるのは貴方達です。そう言われた人間達は恐怖を勇気に,服従心を知恵に,経験を自信に変えて,今まで自分達を虐げていた巨人達と今でも巨人を従えているファニールを倒す為に歩み出す。
巨人達もファニールの元で人間達が侵攻してくるのを迎撃する為にそれぞれに気合いを入れていた。人間達に巨人達,そして人間達をここまで導いたスネテのユニコーンはそれぞれ戦う意思を示すがファニールだけは未だに迷いの中にいた。
ファニールにとって許せないのはスネテのユニコーンだけであって,人間達とは戦いたくはない,という想いが心に有ったからだ。それは今まで巨人達に虐げられていた人間達を見ていたからファニールはそういう想いを抱いていたが,人間達から見れば巨人達は決して許せない存在で,そんな巨人達をまとめているファニールも人間達からすれ見れば元悪と見られていた。そしてファニールが迷っている間に人間と巨人の戦争が幕を開けた。
最初に動いたのは人間達の方,人間達は自分達とは比べものにならない程の巨体を持つ巨人達に恐れる事無く突撃していく。そんな人間達に対して巨人達は両腕を広げて地面を掴むと持てる分だけ持ち上げて人間達へと投げつけた。今まで岩や崖から掴み取った大地を投げるのは巨人達のやり方であり,それを熟知していた人間達はしっかりと準備していた。それが魔法と兵器。
人間達は魔法で飛んで来る大地を砕くと巨人達から見れば小さな大地が人間達に降り注ぐが,人間達は魔法で降り注ぐ大地から自分達を守った。それから人間達は数人掛かりで砕けた大地を人間でも持てるだけの大きさにすると投石機で巨人達を攻撃した。まさか自分達が投げた大地を別な方法で投げ返してくるとは思っていなかった巨人達は次々と岩が当たり攻撃どころではなかった。
巨人達の攻撃が止まった時に人間達は一気に攻めかかり,足と足裏の腱を剣で何度も斬り付けて巨人が立てなくなって倒れるまで集中攻撃をした。そして巨人が倒れると今度は何度も首を斬り,心臓に向かって槍を何度も振り下ろした。こうして人間達の猛攻が続いた。そして夜を迎える。
夜になれば人間も動物も巨人すらも眠くなり眠る。だから自然と戦いが収まると考えていた巨人達だが,人間達は夜になっても攻撃を続けてきた。人間達が最初に巨人を殺したのも夜だから,人間達は朝に攻撃をする部隊,昼に攻撃をする部隊,夜に攻撃をする部隊と別けて巨人達を攻撃し続けた。その為に夜に眠れなくなった巨人達は次第に弱っていき,まともに戦えなくなった。
三部隊に別けて一日中攻撃をする方法は人間達が巨人に勝つ為に自ら考え出した戦略だ。だがその根源にあるのはスネテのユニコーンが授けた知恵が有るのはファニールにも分かった。だからこそファニールはスネテのユニコーンに対して更なる怒りを増すと巨人達から睡眠欲を取り除き,眠れないようにした。だが,それが更に巨人達を疲弊する事になった。
巨人はその巨体から屈強な体力もあるが,流石に何日も眠らずにいれば自然と弱っていく。それだけはなく,人間と巨人が戦い始めてから一ヶ月以上も経つと巨人達の食料が無くなった。今まで人間達に自分達の食料を作らせてた為に巨人は食料を確保する事が出来なくなっていた。なので腹を空かせた巨人達が次々と人間に倒されると,今度は巨人から食欲を取り除くファニール。
眠れない,食べられない,そんな状況に追いやられた巨人達は遂に衰弱して死んで逝く者が出て来た。これを好機と見た人間達は更に攻撃を強めて次々と巨人達を殺し,屍の山を築いていく。そして遂に人間達は巨人達を全滅させてファニールの元へと進軍してきた。
城の前にまで来た人間達にファニールは問い掛けた。お前達が行っているのは正しい事なのか,私までも殺す事に正当な理由があるのか,と。すると人間達は今まで受けてきた不平不満と屈辱を次々と口にした。その言葉を聞いたファニールは次に提案をしてきた。巨人達が居なくなった今,お前達を私の僕にしてやろう,と。その提案に対しても決して従わないと言い続ける人間達にファニールは遂に激怒した。
ならばお前達も巨人と共にこの地から消え去れっ! そうファニールが言葉を轟かせると翼を広げ自らの城を破壊するのと同時に跳び下りて城壁を踏み潰して人間達の前に立つ。そしてファニールは人間を加護してきたスネテのユニコーンを睨むと怒号を発する。
ユニコーンよっ! お前は私が生み出した存在だっ! それなのに私に逆らうのかっ! その後の事も考えずにっ! そのような言葉を発したファニールにスネテのユニコーンはこう答える。私は貴方の哀しみから生まれたからこそ,貴方の哀しみを癒やす為に人間に力を貸すのです。そして人間達が貴方と戦う事を望んだから戦うのです,と。その言葉を聞いたファニールは大きく叫ぶ,愚かっ! と。そしてファニールは大きな口を開けて人間達に向かって炎を放つ。
ファニールから放たれた炎は大地をも溶かしたがスネテのユニコーンが半分,人間達の盾が半分,ファニールの炎から人間は自らの身を守った。ファニールも永遠に炎をはき続ける事は出来ない,だから放てるだけの炎を放つとやっと口を閉じたファニールは驚いた。今までファニールの炎で滅せない者は居なかったが,自らが生み出した人間達とスネテのユニコーンが今でも目の前に居るからだ。そして人間達の隊長がファニールを倒せと声を轟かせると人間達は一斉にファニールに向かって駆け出した。
人間達はファニールの足下にまで一気に駆け上がると自分達が作り出した武器でファニールの足を攻撃するが,どんな武器でもファニールには傷一つとも与える事が出来なかった。するとスネテのユニコーンが角を輝かせると,その輝きが人間達の武器にも宿ってファニールに傷と痛みを与える事が出来るように成った。そしてスネテのユニコーンが人間達に向かって叫ぶ。さあ自由を勝ち取るのですっ! と。
ファニールの足下で武器を振るう人間達,ファニールにとっては足下の蟻と同じく踏み潰そうとするが踏み潰されても人間達が自ら作った大楯で難を逃れた。人間達の攻撃は更に続く,両手に剣を持ち,それをファニールの足に交互に刺す事でファニールの身体をよじ登り,遂に背中に辿り着いた人間がファニールの翼を斬り落とそうとする。ファニールは自分の身体に群がる人間に成す術を無くしていた。そして人間とファニールの戦いは十年も続いた。
戦い続けたファニールは徐々に弱っていき,最後には一人の人間がファニールの頭に剣を突き立てるとファニールはその大きな巨体を地面へと倒す事に成った。ファニールが倒れた事でやっと勝利で歓喜する人間達,だがファニールは息絶えておらず,最後の力を振り絞って一番憎いスネテのユニコーンに向かって長い首を伸ばして大きく口を開く。
スネテのユニコーンも油断しており,迫って来たファニールの頭を避ける為に宙を駆け出すが間に合わず,スネテのユニコーンが持つ輝く角がファニールの牙に挟まれる。そしてファニールは一気に角を噛み砕くとスネテのユニコーンは力尽きたように地面へと落ちる。スネテのユニコーンが持つ光り輝く角は力の源であり,命そのモノでもあった。
地に落ちたスネテのユニコーンを見てファニールは笑み浮かべると,息絶えるように頭が地面へと落ちる。こうして人間達は自由を勝ち取ったがスネテのユニコーンを失う事になった。そしてスネテのユニコーンがもたらしてくれた恩恵を忘れない為に人間達は命尽きたスネテのユニコーンを丁重に葬り,恩恵を忘れない為に祭り上げる事にした。こうしてスネテのユニコーンは勝利をもたらす神獣として崇められ,ファニールと巨人達の屍は人間に富をもたらすタイケスト山脈に成ったのだった。
「これで話は終わりだ。だが流石に話しすぎて喉が渇いたな」
そう言ってメルネーポは目の前にある水筒に手を伸ばして,中に入っている水を一気に口の中に注ぎ込んだ。そんなメルネーポに対してレルーンは面白かったとばかりに軽く拍手をしているとイクスが声を発する。
「どうやらお子様はレルーンだけだな」
「イクスがいきなり酷い事を言い出したっ!」
「言われても仕方ないですよ」
「まったくだよ,少しはエランを見てみな」
カセンネに言われてレルーンはエランの方へと目を向けると,エランは目を閉じて身動き一つとしてしない。そんなエランを見てもレルーンが首を傾げるだけなのでハトリとカセンネは思いっきり溜息を付く。それが聞こえたのかエランがゆっくり目を開けた後に口を開く。
「いろいろと考える話」
「へっ,どういう事?」
相も変わらずエランの短い言葉にレルーンは意味が分からないとばかりに問い掛けると,それを無視してメルネーポが会話に割り込んでくる。
「あぁ,確かにエランの言った通りだ。だから私も概要が覚えるぐらい読んでいるし,今でも読み返しては新たな疑問と答えが出て来る程だ」
「え~っと,つまりただのお話しじゃなくて意味深な話だったって事~?」
「やっと分かったのかい。あんたも話を聞きながら疑問を抱けるような頭を持って欲しいもんだね」
「団長,私は肉体派」
「ならまだ続く戦いで頑張りな」
「どっちも不正解だったっ!」
レルーンがそんな声を轟かせると自然と周囲から笑い声が広がり,再び訪れた穏やかな雰囲気にエランも瞳の奥で穏やかな風を吹かせていた。
先程まで激戦をやっていたとは思えない程の穏やかさが広がる中でレルーンはいじける為にハトリの不意を突いて髪をいじり始める。そのような雰囲気に成っている休憩所から少し離れた戦場,その後方で全体の指揮を執っていたケーイリオンは側に居たハルバロス兵に何かを命じると,命令を受けたハルバロス兵はケーイリオンに敬礼をしてから駆け出すのだった。
さてさて……今回はいろいろとやらかしました。曜日を間違えて更新が遅れるは,朝に起きたは良いがいつの間にか寝ていて夜に成ってた。そして一番やらかしたのは……プロットでも設定でもスネテのユニコーンに対しては深く語らないつもりだった事ですっ!!
いやね,今回はほとんどスネテのユニコーンにまつわる話に成ったのですが,設定の段階からスネテのユニコーンに関してはほとんど語らないつもりだったんですよ,これが。それが前々回にファニールという思い付きでスネテのユニコーンにまつわるモノを出してしまったので,ほんの少しだけメルネーポが語るつもりで終わらせるかと思って書いていたんですよ。
けど……長くなった,なんかむっちゃ長くなった。いやいや,私としてはこんなにも長くする気はなかったんですけどね。気が付いたらこの有様ですよ,どうしてこうなったっ!! と今更に成って叫んでも仕方ないのでもう叫びませんけどね。まあ,それでも,それなりに内容が良いように成ったと思っておりますし,自分でもそれなりに書けてたと思っている次第でございやす。
さてさて,このようにやらかしてしまったけど,これはこれで有りだと思い込む事で,やらかしたけど良しとしましょう。ってか,メルネーポが語る話については設定すら作っていないので,当然ながらプロットにもありません。即興で書きました。まあ,長い話に成るといろいろと問題が出て来ると思うけど,この程度の長さなら我ながら即興でも上手く書けたと決め付けています。という事でそろそろ締めましょうか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございました。そしてこれからも気長によろしくお願いします。更に感想もお待ちしておりますので,お気軽に書いてください。
以上,次こそは予定通りに進めようと,気持ちだけはある葵嵐雪でした。




