第二章 第十三話
後方から轟いた声を聞いてエラン達がそちらへ目を向けると,後方でエラン達の為に指揮を執っているはずのラキソスが姿を現した。てっきり後方での指揮で忙しいと思っていたメルネーポはラキソスに向かって駆け出してエラン達も後に続いた。そしてラキソスの元へ辿り着くと真っ先にメルネーポが口を開く。
「ラキソスっ! お前はこんな所にまで来て何を言い出すっ! 今は我らが有利だぞっ! それなのに撤退だとっ!」
口早にそのような言葉を出してきたメルネーポに顔を覆い尽くす程の兜から大きな溜息が漏れると,ラキソスは冷静に言葉を出す。
「今はケーイリオン将軍が指揮を執っているので心配はない。それに我が軍が有利でも兵は人だ,疲れもするし腹も減る。だから一度撤退して休息と昼食を取ってから最前線に戻ってもらうだけだ」
「なるほどね,それであんたがあたしの代わりをやるという事かい」
両刃斧を両肩に担いで両腕を掛けながら歩いてきたカセンネがそのような言葉を口に出すとラキソスは馬の上から大きく頷いた。そしてそれを聞いていたエランが口を開く。
「分かった,一時撤退する」
「あぁ~,もうお昼か。どおりで力が入らないと思ったよ~」
エランの言葉を聞いてレルーンが遠回しに撤退に賛成の意味を込めた言葉を放ってきたので,やっとメルネーポも冷静さを取り戻した。そんなメルネーポが再びラキソスに向かって口を開く。
「一時撤退と言っても,ここまで突き進んだ事を無駄にするのか。ここで私達が撤退すると折角押し開いてきた事が無駄になるぞ」
「それなら心配はない,既に代わりとなる部隊がここに向かってる。既に後方に見えているだろう」
ラキソスの言葉を聞いてメルネーポは自軍の後方が見える位置へと移動すると,そこには確かに戦闘に巻き込まれないように前進してくる部隊がすぐ近くまで来ていた。それを確認したメルネーポが会話を再開する。
「確かに来ているがエランまで抜いて前に進めるのか?」
「ケーイリオン将軍から無理に前に進む必要はないと命令が下っている。それにエランも人なのだから体力にも限界があるし,疲れもあるからこそ撤退させるんだ」
「突破ではなく現状を維持する部隊」
今までの話を聞いていたエランが短く簡潔な言葉を出すとメルネーポもやっと理解したみたいで,ようやく次の話題に入る。
「なら上手く兵を入れ替えないとだな,何かしらの合図でも有ればやりやすいんだが」
「それなら既に決まっている。私が『ファニール』と叫んだら真後ろに後退してくれ,それと同時にあの部隊が貴殿らの前に出る」
「ファニールとはな,かつてスネテのユニコーンが持つ輝く角を折った竜の名前だな。それを合図とするのはケーイリオン将軍はエランがカンドを討ち取る事を確信しているらしい」
「なんか気になる話が混じってやがったな」
「今は撤退で忙しいから後にするですよ」
今までの会話を聞いていたイクスの興味をそそったみたいで,そんな言葉を放つとすぐさハトリによって遮られてしまった。そんな話をしている中でエランは空を見上げていた。少し南の真上ぐらいにまで登った太陽を確認していた。エランが会話を耳に入れずに空を見ていたら微かな時間が過ぎており,その間にカセンネが話をまとめたみたいで確認するかのようにカセンネは言葉を発する。
「それじゃあ,レルーンとメルネーポは少数だけ残して自分の部隊を撤退させな,エランとハトリには悪いが一番前が最も時間が掛かるからね,少しだけ踏ん張ってもらうよ,その後ろにはうちとヘルメト隊から少数の兵を出してあたしが指揮を執る。そして後続が到着次第交代と手筈はそんな感じだね。それじゃあ,とっとと引き上げる為にもう一仕事と行こうじゃないかっ!」
「りょうか~いで~す」
「あぁ,最後まで気を抜かずに行こう」
「後続はそのまま私に任せろ」
「さっさと引き上げてお昼にするですよ」
「うん,分かった」
カセンネの言葉にそれぞれ返事をしたらすぐにレルーンとメルネーポは駆け出しラキソスも後続部隊を指揮する為に馬を走らせる。なにしろ少数を残すという事は残る大勢を一斉に動かさないといけないのだから準備も当然ながら動きを完璧にする為にしっかりと指揮を執る為に,今から準備をしても後続部隊が先にここに来そうなくらいだから遅いぐらいだからこそ三人とも急いだ。
後に残った残ったエラン,ハトリ,カセンネだが,皆が動き出した事と敵がまだ騎馬隊が全滅した事で前進を躊躇している事が重なって幸いとばかりにイクスが声を発する。
「おいおい,カセンネの団長さんよ」
「んっ,なんだい?」
「さっきから俺様の事を忘れてねえか」
「駄剣の鳴き声に耳を傾けなくてもいいですよ」
「俺様は無駄に叫ぶ犬かっ!」
「はははっ! 悪い悪いすっかりイクスの事を忘れてたね。そんな訳でイクス,エランと一緒にもう少しよろしく頼むよ」
「それだけかよ,と言いたいところだが,もう喋ってる時間はねえみたいだな」
「うん」
「騎馬隊をぶっ潰したのに,その屍を越えて敵が迫ってきてら」
イクスが言った通りにディアコス軍は既に統制を取り戻しており,しっかりとした指揮系統を復帰させた命令に沿ってエランが斬り拓いた道を塞ぐ為に兵を前進させている。そしてイクスが言った通りにエランが斬り伏せて屍が連なっている所を足下に注意しながら確実に進軍している。それを見たからこそエランはイクスに向かって声を出す。
「イクス,行くよ」
「あいよ,ついでに俺様が好みそうな剣でも用意してくれねえかな」
「愚痴は後」
「はいはい」
エランがイクスを左後ろにして右足を踏み込んで構えると,次の瞬間にはカセンネの前から消えていた。それを合図にハトリが駆け出したのですっかり慣れたカセンネはエランの動きに動じる事もなく,両側からカセンネの方へと向かって来る兵に注意を向けていた。
空中から奇襲を仕掛けるエランに動じなく成ったディアコス軍はそのままエランを相手にする兵と前進する兵に別けてエランが斬り拓いた道を塞ごうとする。そんなディアコス軍の動きは一番前で戦っているエランが一番分かっている,分かっているからこそその場で戦い続ける。なにしろエランの後ろにはハトリが居るのだから。
エランの攻撃が届かなかった兵がエランに構わず二手に分かれて前進するが,その一方の前に壁とも言える巨大なマジックシールドが展開されるのと同時に先頭を進んでいた十人程が胸を何かに貫かれて仰向けに倒れた。後に続いていた兵は敵からの攻撃があると盾を構えるが,周囲からは戦いの喧騒が聞こえるが攻撃は来なかった。するともう一方を進んでいた兵達の前にも同じような事が起こった。
二手に分かれて進んでいた兵達の前に突如として壁のように現れたマジックシールドにディアコス軍も最初の攻撃を受けて足を止めた。だが次の攻撃が来ないので遂にマジックシールドを壊そうと武器や魔法を叩き付けるが,マジックシールドが弱まる事は決してなかった。そしてまた最前線に居た兵士が倒された。
ハトリは敵を貫いた髪を操り,元の長さに戻すと右に向かって走る。その先にも先程ハトリによって展開された巨大なマジックシールドがあるのでハトリはそこを目指して一気に駆け抜ける。そしてこっちでもマジックシールドを壊そうと躍起になっていたディアコス兵の先頭に居る兵の何名かに狙いを定めると,ハトリの髪が持ち上げられたかのように上がるとマジックシールドに向かって一気に伸びる。狙った数が多いのか,ハトリの髪は先端がハリのように鋭くなっていた。そしてマジックシールドを通過するとマジックシールドと同じ硬さになり敵を貫いた。
エランの後方でこのように同じ事を何度かやっていると突如としてマジックシールドが消えた。これで前進が出来るとディアコス兵が安心……する暇を与えずにヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊の混合部隊が突撃して来た。マジックシールドに気を取られていた為に虚を執られたディアコス軍は進んでいた前方が一気に崩された。そして中央を一気に駆け上がってきたカセンネが大声を上げる。
「ハトリっ!」
エラン以外に大声で名前を呼ばれるとは思っていたかったハトリは驚いたが,その声がカセンネが発したモノだとすぐに分かったのでハトリはカセンネに向かって駆け出して一気に合流する。
「何ですよ?」
「時間が無いから簡単に言うと,あたしが左でハトリが右だ」
「私でもしっかりと動いてくれるですよ?」
「あぁ,しっかりと叩き込んできた。っで,やれるかい?」
「問題は無いですよ」
「なら頼んだよ」
「そっちもよろしくですよ」
会話を終えるとカセンネは左へ,ハトリは右へと駆け出す。もちろん左右に分かれた味方を指揮する為だ。実を言えばハトリは部隊の指揮なんてやった事はない,だが数々の戦場を渡り歩いてきたハトリの頭は賢く,教本ではなく実際の戦場からいろいろな事を数々学んでいた。なので右の部隊に辿り着いたハトリは先頭に立ちながらも攻撃を控えて防御に徹しながら指揮を執る。とても初めてとは言えないような速さで命令を出し続けるハトリに指揮下の混成兵も的確に動いたので,ハトリが指揮する所は押し止めるどころか押し進めていた。すると後方から声が轟く。
「ファニールっ!」
後続部隊が完全に前進してきたのだろうエラン達が戦っている後ろでは後続部隊とヒャルムリル傭兵団とヘルメト隊が見事な部隊運用によって遅れも被害も出さずに入れ替わる事が出来た。それでも一番前に兵を届けるのには時間が掛かるのは確かだからこそエランは戦い続けて前進してくるディアコス軍を止めていた。
前に行こうとすれば確実に行けるのだが,味方が一時撤退するからには向かって来る敵だけを倒して押し止めた方が良い事は分かりきっている。それにエランも少しだけ空腹を感じていたのも理由の一つだ。そして最大の理由としては甘味が有るかもしれないというエランなりの勝手な要望があるからこそ今は向かって来る敵を的確に斬り伏せる。
エランが動き回っていた所には多くの屍が重なっており,高いところではエランの太股ぐらいにまで積み重なっていた。それでもエランの動きが制限されないのはエランが空中を移動し,敵の上から攻撃をしているからだ。エランの周囲を見ただけもディアコス軍は多大な犠牲を出しているが,奥深くに行く程にディアコス軍の士気は下がるどころか上がっている事にエランは気付いた。だが,その時と同じく右後ろからハトリの声が響いた。
「エランっ!」
声を聞いたエランは狙った敵を仕留めると後方に向かって大きく跳ぶと,空中で一回転してから地面へ膝を曲げなら足を付けた。そんなエランの姿を確かめたかのように後方から再び声が響く。
「突撃っ! 白銀妖精の撤退を支援しろっ!」
ラキソスの号令が聞こえたのでエランは膝を伸ばして立ち上がるとイクスを左後ろに構えて立ち続ける。そんなエランにディアコス兵が向かって来るが,ハルバロス軍がエランを追い越す方が早かった。そしてエランの前でディアコス軍とハルバロス軍が激突する。そんな光景をエランは目にしているとすぐ横にまで馬を進めてきたラキソスがエランに向かって言葉を放つ。
「待たせたな,ここは任せてしばし休んでくれ」
「分かった」
相変わらず短い返事をするとエランは振り向いて一気に駆け出した。このまま自分がここに居ては押し出してきたハルバロス軍の邪魔に成ると分かっていたので素早く後退したしたエランは同じ考えだったハトリとカセンネ達と合流する。そして未だに戦いの喧騒が鳴り響く戦場から出る為にエラン達はハルバロス軍の後方に向かって駆け出すのだった。
エラン達がレルーンやメルネーポと合流したのは戦場より少し後方に築かれた休息所だった。戦場からそれなりの距離を取っているので流れ矢が等が向かって来る事は無いと思われるが,こんな所に休息所を作ったのは一旦戻るとしても天幕がある本陣まで戻ると行き来が遅くなり,遅ければ遅い程にディアコス軍に立て直す時間を与えてしまうからだ。
戦いの要とも言えるエランをわざわざ本陣にまで引き返しては再出撃に時間が掛かり過ぎるので,わざわざエラン達の為に休息所という物を設置した。戦えない程の負傷者は既に本陣にまで戻って治療に当たっているとヒャルムリル傭兵団員から聞くとエラン達も一休みする為に剣を納める。
「納刀,フェアリブリューム」
エランがその言葉を出すと,エランの背中から生えているかのように見えていた白銀色の翅が砕け散るように弾けると欠片は地面に落ちる前に消えた。それからエランはイクスを前に突きだすと再び口を開く。
「イクス,戻って」
「はいはい」
今度はイクスが白銀色の輝きを煌めかせるとイクスから生えていた翼が端から消えるように無くなっていく。羽根を地面に落としながらイクスから消えて行く翼は輝きながらも,どこか儚いように消えて行き,地面に落ちていく羽根も地面に辿り着く前に消えた。これで休む準備が出来たと言わんばかりにエランは休息所に足を踏み入れる。
休息所の下にはしっかりとした布地が引かれており,流石に屋根はないもの壁もないので風通しが良い。というよりもわざわざ戦場の熱を持っているエラン達に涼んでもらおうと風が通る場所を選んだ事を聞いた。そして休息所の奥では既に昼食を取っている者も居たのでエラン達も休める場所を探す為に少し歩く。
敷かれた布地はエランが土足で踏んでも感触で座り心地も悪くはないと思う程に上質ではないものの,戦場では使い勝手が良い布地の上をエラン達は歩くとすぐに他の兵達が座っているのでエランが座るとエランを取り囲むように座り,メルネーポは兜を取って清々したかのように女性としては短めの茶色な髪が蒸せている為に,頭を振るい風を髪の中に入れる。
重装備ならではの暑さから少しだけ解放されたメルネーポはそのまま赤みが掛かった瞳で微笑むと,レルーンは青白い髪の先端が引いてある布地に付く程に後ろに反り返ってから蒼い瞳を閉じると口を開く。
「つっかれた~,久々の激戦だよ~」
「戦場から離れた所と言ってもその為体はどうかと思うですよ」
「ハトリが厳しいよ~」
「厳しい以前の問題ですよ。ここが戦場から離れていると言っても戦場に近い事は確かですよ,そんな場所で呑気にしているから言ったですよ」
「えぇ~,そこまで呑気にしている気はなかったんだけどな~」
「なら気を抜きすぎって事だな」
「イクスまでそんな事を言い出したっ!」
「じゃあ脳天気」
「エランっ! じゃあってなにじゃあってっ!」
「もしくはお気楽気分」
「いやいや会話が噛み合ってないよっ!」
「……気のせい」
「気のせいじゃないしっ! 最初の沈黙は何!?」
「無意味」
「さっきからエランとの会話が成立してないよっ!」
「エランは天然なところがあるから気にしなくていいですよ」
「だな,エランの天然が発生すると意味が分かりゃあしねえぜ」
「……私は天然なの?」
「何でエランは私にその問い掛けをするのっ!」
エランの問い掛けに大声を上げるレルーンはすっかりエランにいじられてるみたいだが,エランにその認識が無いのでレルーンは大声で叫び続けるがエランは首を傾げるだけだ。そんなエラン達の会話に自然と周囲から笑い声が広がる。そしてレルーンが叫び続けて疲れたように座り直した時,丁度良くエラン達の昼食が運ばれてきた。それぞれに食器が乗っている板を手にして自分の前に置くとレルーンとカセンネは早速とばかりに昼食を口にし,エランとハトリは両手を合わせる。
『いただきます』
いつものように礼儀正しい言葉を口にしてから昼食を口にした。そしてメルネーポはというと,流石に昼食中も重い鎧を纏っているのも大変みたいで簡単に外せる部分だけ外して身軽になるのと同時にモラトスト平原を駆け抜ける風を感じてから昼食へと手を伸ばした。
未だに戦いは続いており,その後方での昼食だがしっかりと栄養と疲れが取れるように野菜を中心にした昼食を口へと運んで行くエラン達。そして昼食が終わりそうな頃に戦場では聞く事が無い,ゆっくりした足音がしてきたのでエランはそちらの方へと顔を向けるとこちらに向かってくるイブレの姿があった。そしてイブレもエラン達を見付けたようで微笑みながらエラン達の元へ来ると言葉を出す。
「僕もお邪魔させてもらっていいかな?」
わざわざそんな事を確かめるイブレにエランは首を縦に振るだけで,レルーンとカセンネは歓迎し,メルネーポは少しだけ畏まるのは現状のイブレが軍師という地位にいるから敬意を示した。そしてイブレはエランの近くに座るとすぐさまエランが口を開いた。
「イブレ,それは私へのお土産?」
いきなりそんな事を問い掛けたエランに対してイブレは微笑むが,他の者達は何の事かと頭の上に問い掛けのマークが浮いている。そんな状況を無視してイブレは軽く笑ってから持ってきた物をエランの前に大きな布で包まれた何かを差し出した。
「ははっ,流石はエランだね,これにはしっかりと鼻が利くみたいだね」
そう言ってイブレはエランの置いた布を解いて広げると甘い香りが広がり,広げた拍子に一口大の丸い粒が転がる。それを見たハトリが溜息を付いてからイブレに向かって口を開く。
「あまりエランを甘やかすのはどうかと思うですよ」
そんなハトリの言葉を聞いたイブレが言葉を返す。
「別に甘やかしてる気は無いよ,今日はかなりの激戦だからね。僕からエランへの差し入れって事だよ。まあ,流石にここに居る全員分を用意する事は出来ないからね」
「それでエランを含めた周囲に居る者達への差し入れと成ったですよ」
「まあ,そういう事だね」
イブレの言葉を聞いて再び溜息を付いたハトリがエランの前に広がっている粒を一つだけ摘まむと,その一粒をまじまじと見ながら口を開く。
「それにしてもですよ,よくこれだけの桜桃が手に入ったですよ」
「まあ,それに関しては兵糧を管理している人と仲良くなったからね」
「騙したの間違いじゃねえか?」
「ははっ,イクスも酷い事を言ってくるね。まあ,僕としても否定しないでおこう」
「肯定しやがったですよ」
「おや,否定しない事が肯定する事に成るとは限らないと僕は思うけどね」
「屁理屈はどうでもいいですよ。まあ,ここに捨てる訳には行かないから頂くですよ」
そう言ってハトリは手にした一粒の桜桃を口に中に入れる。それからハトリは食べかけの昼食を口にし始めるが,イブレの差し入れを見たエランとレルーンは既に昼食が入った食器を空にして桜桃を手にしては口へと運んでいた。そして今までの会話を聞いていたカセンネとメルネーポは,部下達には申し訳ないが役得とばかりに空になった食器を前にしてエランの前に広がっている桜桃へと手を伸ばした。そうしてエランの周囲に居る者達がイブレが持って来た甘味を味わっているとメルネーポがイブレに向かって口を開く。
「それはそうとイブレ殿,戦局がどうなっているのか分かりますか?」
雇われ軍師と言っても立場が上だからしっかりとした言葉遣いで尋ねるメルネーポの問い掛けに,イブレはいつもの微笑みが消えて真剣な眼差しになると口を開いてしっかりと言葉を出す。
「どうやらディアコス軍はここから撤退をしているみたいだ。ケーイリオン将軍が放った斥候が敵の両翼が奥の方から撤退するのを確認したとの報告を受けたからね,カンドはこのモラトスト平原での戦いで負けを認めたと考えるべきだね」
「では,げほっ! げほっ!」
余程慌てたのかメルネーポは口の中に有った桜桃を喉に詰まらせて,むせるように咳をするとイブレは脅かしすぎたといつもの微笑みを浮かべて軽く笑ってから口を開く。
「ははっ,だからと言ってエラン達が慌てる必要なんてどこにもないよ」
イブレの言葉を聞いたイクスが声を発してくる。
「だがイブレよ,敵が撤退してるって事は既に敵の総大将が逃げててもおかしくはねえだろ」
「まあ,その可能性は有ると僕は思うけど,ケーイリオン将軍はそう考えてはいないようだね。その証拠にエラン達にここでしっかりと休憩をさせているからね」
「つまりこっちの総大将様は敵の総大将が簡単に逃げないと踏んでいるって訳だ」
「うん,イクスの言う通りだね。まあ,僕は逃げても可能性があると考えているけどケーイリオン将軍にはカンドがすぐに逃げないと考える根拠があるみただね」
「その理由は?」
相も変わらず短い言葉で問い掛けるエランにイブレは軽く笑ってから答える。
「理由は僕にも分からないから尋ねてみたけど,しっかりとはぐらかされてしまったよ」
「大事なところで役に立たないですよ」
「ハトリは手厳しいね」
「私には何となくだが分かるような気がする」
今までの会話を聞いていたメルネーポがそのような言葉を出すと,イブレを含めて視線がメルネーポに集中したのでメルネーポは言葉を続ける。
「あくまでも私自身の考えだが」
そのような言葉で切り出したのは自分の考えが未だにケーイリオンに及ばないと知っているからだ。そしてそんな前振りをしてからメルネーポはやっと思い付いた事を言葉にして出してくる。
「カンドはディアコス軍の総大将ではあるが,それ以上に武将だと聞いた覚えがある。それに以前には最前線でケーイリオン将軍と激闘となったが決着は付かなかったとも聞いている。そんなカンドだからこそ自軍の負けを認めてもケーイリオン将軍にまでむざむざと負けたくはないのだろう」
「何か周りくさい言い方だな,つまりどういう事なんだ?」
メルネーポの言葉を聞いていたイクスが簡潔な言葉での解答を求めると,メルネーポは少し考え当てはまる言葉を探し,その言葉が見付かるとやっと口開く。
「つまりカンドは武将としての意地を捨てられない,と私は考えてる」
あくまでも自分の考えと主張するかのように最後に言葉を付け加えたメルネーポが発した言葉に,エランにも何となくだが感じ入るモノがあったのでメルネーポの言葉を聞いて納得したように頷くエランだった。
さてさて……うん,すっかりバテてしまって書くどころではなかったんですよ。いやはや,キツイっすね,夏バテってのは……なので,更新が遅れた事は全く気にしないでくださいっ!! 次から頑張ってみますが保証は出来ないのでそこも含めてよろしくお願いします。
さてはて,自分で周一更新とか言っといた事に関しての謝罪しましたので水に流してくれると幸いです。さてさて,第二章も中盤の中休みまで進んだと言ったところですね~。まあ,第二章はまだまだ続くので未だに先は全く見えませんけど,何とか頑張って書いて行きたいと思っております。ってか,本当にどこまで続くんだろうと私自身が思っている程ですから,本当にどうなるのか私にもさっぱり分かりません。
さてさて,私自身は勝手に更新速度が上がってると思い込んでいるので,このまま調子を上げつつ頑張って行こうかと思っている次第でございます。と,今後の抱負を語った所でそろそろ締めますか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございました。そして今後も気長によろしくお願いします。更に感想もお待ちしておりますので,どうぞお気楽に書いてくださいな。
以上,人が少なったモンハンワールドで今でも活動している葵嵐雪でした。ってか,スイッチ版は簡単になっているみたいだし,そもそもスイッチを持っていない。




