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白銀妖精のプリエール  作者: 葵 嵐雪
第二章 戦場の白銀妖精
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第二章 第十話

 ハルバロス軍の中央がゆっくりと歩きながら押し上げてくる。これから敵陣の中央に向かって突撃をするのだから今の段階では隊列を乱したくないのと,最中央の最前線に居るエランとヒャルムリル傭兵団とメルネーポが率いるヘルメト隊の進軍にも支障を来さない事を考慮したからだ。

 一方のディアコス軍はまったく動こうとはしないのは自分達の不利を承知しているからこそ,今は耐え抜いて援軍を待つ為の防御陣形を成していた。そんなディアコス軍を率いるカンドはゆっくりと迫って来るハルバロス軍に自分で思い付く限りの万全を期していた。

 両軍の距離が少しずつ縮まる中で一際な輝きを放っていたのはエランだ。最前線に居るという事もあるだろうが,登って少し経った太陽の光がエランの鎧と髪,そして半透明な翅を輝かせる。そしてエランが握っているイクスから生えている翼からは時々ながら羽根が輝きながら舞い落ちていた。

 先頭とも言える場所を歩み続けるエランの姿をハルバロス軍の布陣よりも後ろの丘で見ていたケーイリオンにもエランの姿がはっきりと見えた。そしてディアコス軍のカンドにも最前線からの伝令で白銀妖精が先頭に居る事が伝えられた。その報告を聞いてもカンドはまったく動じる事はなかった。ケーイリオン,カンド,所属が違えど共にエランに注目していたからだ。そしてそのエランはというと……。

 イクスを手に周囲と歩調を合わせるようにゆっくりと歩いていた。あまりにも遅い進軍にイクスから声が発せられる。

「随分と焦らせやがるな」

「心理戦,防御陣形を成していても迫って来る敵に脅威を感じるのは当然」

 エランがそのような言葉を返すとイクスが会話を続けてくる。

「なるほどな,相手にとってはゆっくりと迫って来る方が怖いって訳か」

「それに進軍速度が遅いと罠があると警戒するですよ」

 遅い進軍に飽きてきたのかハトリも会話に加わってきた。

「つまり,このゆっくりとした進軍には心を折ろうという意図があるって訳だな」

「そう,だけど敵も負けてない」

「どういう事だ?」

「イクス,あれ」

 そう言ってエランはイクスで敵陣を指すように持ち上げると,敵陣の最前列には大盾を持った兵が並んでおり,その一人一人の目にはしっかりとした闘志が宿っていた。その事を確認したと思ったエランはイクスを下げると再びイクスが声を発する。

「どうやら敵さんもやる気満々みたいだな」

「うん,だから始まったら一気に行く」

「あいよ,まあ,それまではのんびりとしとけって事だな」

「もう少ししたらこっちが動く」

「んっ エランどういう意味だ?」

「あと少しで始まる」

「あいよ,ならしっかりと準備とこうや」

「準備なら既に済んでいるですよ」

「心のだよっ!」

「イクスがそんなに神経質だった事に驚いたですよ」

「このガキが」

「イクス,ハトリ」

「……」

「……」

 エランが黙るように名前を呼ぶと,仕方ないとばかりに黙り込むイクスとハトリ。そんな呑気な会話をしていた頃。ハルバロス軍の中央最後方では兵達が止まり,次々と準備を始める。それを示すかのように進軍している中央の後方から所々に煙が立ち上り,その煙を見たカンドも準備を始めるように兵に指示を出していた。

 後方でそのような動きをしてる事を雰囲気で感じ取っていたエランは歩調を緩めてレルーンとメルネーポに並ぶ位置へと移動した。それからエランは二人に挟まれながら口を開く。

「始まったら私は一気に動く」

 それだけを口から出すエランに対してメルネーポは兜で表情が見えないものの力強く頷き,レルーンは言葉を出す。

「分かったよ~,しっかりとエランに付いていくからね」

「うん」

 短い返事を返すとエランは再び前に出た。先頭に出て後方と歩調を合わせて前進するエランは後ろを見ないものの,雰囲気だけで後方に注意を向けていた。すると突如としてラキソスの号令が轟く。

「放てっ!」

 その言葉を合図に中央の最後方に居た長弓兵達が火矢をディアコス軍に向かって一斉に放つが,その程度の事は予想していたカンドが号令を出す。

「盾を上げろっ!」

 ディアコス軍が一斉に盾を上に挙げて飛んで来る火矢から身を守る。だが火矢の数が多かったのかディアコス軍の中央では火矢に射られた兵が所々で倒れるのをカンドは目にしたが第二矢に備えるように兵達に挙げた盾を少し重ねるように指示を出して,兵達の隙間を埋めるがそれより前にエランが動いていた。

 火矢によって最前線の兵までも大盾を上に挙げたおかげで斬り込む隙間が出来たエランはフェアリブリュームで一気に体重を下げて跳躍力を上げたエランが思いっきり大地を踏み込むと一気に飛び出し,ディアコス軍の最前線まで飛び込んだエランがイクスを振り上げて胴が空いている敵兵を斬り弾いた。数人のディアコス兵が屍と成って宙を舞う,こうしてエランにとって二日目の戦争が開戦した。



「メルヘト達,エランに続けっ!」

「皆っ! 一気にエランの所に行くよっ!」

 エランが一気に動いた事でメルネーポとレルーンはそれぞれに檄を飛ばして,自ら先頭に立って走り出すとメルヘト隊とヒャルムリル傭兵団の半分が続いた。だがそれよりも前に既にハトリが突き進んでおり,すぐにエランに合流するとイクスの間合いに入らないように次々とディアコス兵を髪で倒していた。

 真っ先に攻撃を仕掛けたエランはというとフェアリブリュームで今度は一気に体重を重くすると身体が浮かないように左足を軸に一回転して,イクスを振り抜いた状態で止まると今度は右足を前に出すのと同時に右足を軸にして回転するのと同時に数人のディアコス兵を再び斬り弾いた。

 今までとは全く違う戦い方をするエランは,敵がかなり密集しいる事に気付いたので空中を舞うよりかは地上で次々と斬り弾いた方が良いと判断した。その為に体重を重くしてイクスを振っても全く身体が浮かない程に体重を重くした。そんなエランの判断は正しくディアコス兵はエランの動きを捉えるどころか突如として斬り込んできたエランに対して混乱が生じ始めていた。

 狙っていた,少なくともエランとケーイリオンとイブレはこうなる事を狙っていたのだろう。ディアコス軍の最前線中央が混乱し始めた所にメルネーポが率いるヘルメト達とレルーンが率いるヒャルムリル傭兵団が突撃した。

 メルネーポも自ら片刃の大きな斧であるバルディッシュを振るって一人一人確実に息の根を止め,レルーンも槍斧のハルバートを使って敵の喉を突き刺して振り倒しては振り上げて斧を敵の頭上に食い込ませる。隊長であるメルネーポとレルーンが自ら先陣を切って戦っているのだからメルヘト隊とヒャルムリル傭兵団の士気は高く,エランが斬り込んだ所に道を造るかのように次々と敵兵を地に伏せていた。

 エランに続くように飛び込んだヒャルムリル傭兵団の半数,残りの半数は未だに戦闘は加わらずにカセンネが待機を命じていた。そんなカセンネがレルーンの戦いぶりを目にしながら独り言を呟く。

「まったく,レルーンの気分屋にも困ったもんだね。普段からこれぐらいの気迫で戦って欲しいもんだよ。……さて,こっちもそろそろかね」

 そう言うとカセンネは左右を交互に見ると左からも右からも砂塵が上がっているのを目にした。だからと言って動じるどころか待っていたかのようにカセンネは残って居るヒャルムリル傭兵団に向かって号令を出す。

「弓矢の準備は終わってるねっ!」

 その号令を聞いた一人の団員がカセンネに寄って来て報告するように口を開く。

「はい,団長。後方総員,準備は終わっています」

「なら左右から来る騎馬隊を叩くよっ! 無理に遠くの敵を狙わなくて良いから,確実に仕留められる所まで引き付けてから矢を放ちなっ!」

『はいっ!』

 カセンネの号令に一斉に返事をするヒャルムリル傭兵団員,エランとケーイリオンはもちろんの事ながらカセンネもしっかりとディアコス軍には騎兵が多い事をしっかりと把握していた。その為にカセンネ達の後ろに位置執っているラキソスも弓兵をしっかりと左右に展開していた。

 ディアコス軍としては混乱している中央最前線を落ち着かせる為に騎兵を突撃する事でハルバロス軍を押し戻そうとして騎兵を動かした。だが,その程度の事はカセンネでも分かるぐらいだからケーイリオンが理解していないはずがないので,先んじてラキソスに命じていた。そもそも最初に火矢を放ったのもエランに斬り込む機会を作るだけではなく,その後に来る騎馬隊に対処し易いように弓兵を最初から動かした。

 その事を分かっているのか分かっていないのかディアコス軍の騎馬隊はエラン達が斬り込んだ場所に向かって速度を上げる。そしてラキソスが布陣した長弓兵の射程へと入るとラキソスは声を轟かせる。

「放てっ!」

 中央最後方の左右に展開している弓兵が突撃して来たディアコス軍の騎馬隊に向かって矢を放つ,放たれた矢は半分ぐらい騎馬隊に当たり騎兵と馬を地面に倒していくがラキソスは構わずに矢を放ち続けるように命じる。なにしろ騎兵隊の奥に射るのは味方ではなく,未だに混乱が生じているディアコス軍の中央最前線だ。だから騎兵隊を外しても流れ矢が敵兵に突き刺さり,更なる混乱を生じる事が出来る。

 ハルバロス軍の弓兵が矢を放っている時にはカセンネが率いるヒャルムリル傭兵団員は未だに弓を構えたままだ。なにしろカセンネはエラン達,つまり突っ込んで行った部隊の後方に位置執っているのだからエラン達の邪魔をさせない為にも確実に騎馬隊を撃ち倒す必要があったからだ。そしてカセンネが命令を出す。

「狙えっ!」

 その言葉を聞いてヒャルムリル傭兵団の弓兵が一斉に向かって来る騎馬隊の先頭集団に狙いを定める。そして騎馬隊が横から矢を受けながらも突撃体勢に入るとカセンネが大声を上げる。

「撃てっ!」

 カセンネの声を聞いてヒャルムリル傭兵団の弓兵,その半分程が一斉に矢を放つと突撃をしてきた騎兵を次々と射貫いていく。そして矢を放った兵が真後ろに居る弓兵と入れ替わるとすぐに狙いを付けて矢を放った。

 騎馬隊の突撃は馬の実力が出る為にどうしても隊列が長くなってしまう。まあ,その分だけ攻撃回数が増えるとも言えるが,カセンネのように長くなった隊列の先頭だけを叩けば自然と突撃を防ぐ事が出来る。そのうえラキソスも弓兵を使っているので騎兵隊の数を減らしていたからカセンネ達はしっかりと狙いを付ければ一人の騎兵に数本の矢を刺す事が出来た。

 続ければ騎兵隊を全滅する事が出来ると思えた時,突如としてディアコス軍が動くと騎兵隊が撤退する為の道を造って騎兵隊は撤退した。流石にここまでされて幾度も騎兵隊を突撃させる程にカンドも甘くはないという事だ。そして予想通に騎兵隊を退けたカセンネは団員達に向かって次の命令を出す。

「さて,レルーンと合流するよっ! こっからが正念場だからしっかりと気合いをいれなっ!」

『はいっ!』

 カセンネの命令に一斉に返事をした団員達が弓を背負って団員の多くが使っている槍を取り出していると,カセンネは愛用の大きな両刃斧を肩に預けながら前に向かって歩き続ける。そして先頭に出ると振り返って団員達を確認すると,団員達は既に槍を手にしっかりと戦闘準備が出来ていた。それを見たカセンネは一度だけ大きく頷くと振り返って号令を出す。

「さあっ! あたしに付いてきなっ!」

『やあああぁぁぁ―――っ!」

 鬨の声を上げるヒャルムリル傭兵団はカセンネを戦闘にレルーン達と合流する為に敵味方が入り乱れる戦場へと突撃した。



 後方での戦いが終わった頃にはエラン達は最前線の部隊である第一軍と言えるディアコス軍の奥まで突き進んでいた。周囲は敵ばかりであり,エランが次々と薙ぎ払っているのでエランの周りに居るディアコス兵はすっかり及び腰に成っている。そして周囲に敵しかいない状況では後方が分からないと判断したエランは敵陣の右側を向いてイクスを右横に構えると左足を思いっきり地面を踏み締める。そして次の瞬間にエランが一気に動き出す。

 左足で思いっきり地面を蹴ると一飛で一気に右側のディアコス兵に迫ったエランはそのまま右からイクスを真横に振り抜くと数人のディアコス兵が斬り飛ぶ。そのまま身体を回転させながらエランは軸である右足を思いっきり踏み締めると,身体が先程より左に向いた時に今度は右足で地面を蹴り,左足で着地して回転の軸とした。その為,エランは左回転をしながら移動先に居たディアコス兵を斬り弾く。

 連続の回転攻撃にディアコス兵は身を守るどころか,エランの姿すら捉えられない程にエランは一気に周囲の敵を一掃すると一旦距離を取って広くなった囲みの中央へと降り立った。それからエランは戦場だからこそ叫ぶ。

「ハトリっ!」

「はいですよっ!」

 エランの声を聞いてハトリがすぐにエランの真横に移動してくる。その間にもディアコス兵達は攻撃を試みるが,相手が白銀妖精で噂を知っているだけではなく,昨日はスフィルファを討ち取った者だからかすっかりエランの静かな気迫に呑まれている。そんな状況だからこそエランはイクスをディアコス兵達に向けながらハトリに向かって話し掛ける。

「ハトリ,レルーンとメルネーポは?」

「少し後ろですよ」

「分かった,この部隊を率いてる隊長を倒すから一気に攻め上げるように伝えて」

「はいですよっ!」

 エランの言葉を聞いてハッキリと返事をしたハトリは後方へと走り出した。それと同時にエランはフェアリブリュームの能力で一気に体重を軽くして尋常ではない跳躍力で一気に空中へと舞い上がった。跳び上がる速度も尋常ではないのでディアコス兵達にはエランが消えたように見えた。そして空中に舞い上がったエランはイクスに向かって口を開く。

「イクス,一気に突破して一番後ろに居る騎乗している敵を倒す」

「おうよっ! 思いっきりやってやろうぜっ!」

 イクスが気合いの入った返事を聞いたエランは今度は一気に体重を重くして急降下する。そして地面とディアコス兵達が迫ると体重を元に戻してイクスを一気に振り下ろした。

 空中からの奇襲で数人のディアコス兵が地面に斬り倒されるのと同時にイクスの先端が地面ギリギリを通り過ぎるとエランは再び体重を軽くして,振り上がるイクスの勢いを利用して空中を移動しながら敵上に居る事を維持する。そして総じて一回転するとエランは次の狙いを定めて再びイクスを振り下ろす。

 空中を舞うように移動しながら攻撃を繰り返すエラン,これこそがデスティブとも死落舞とも言えるエランの戦いにおいて基礎と言える戦い方だ。だがディアコス兵達にはまったく未知な攻撃に為す術も無く,エランによって斬り伏せられて行く。そしてエランもなるべく一直線に敵陣の奥へ進むように舞い進む。そして遂にエランは第一陣の最後方で少し離れて他の兵に守られている,中央部隊の隊長と思われる人物の前に降り立った。

「何をしているっ! 相手はたった一人だぞ,すぐに斬れっ!」

 今までエランの戦いを見ていないのか,すっかり混乱しているのか分からない隊長が周囲の兵にそのような命令を出す。おそらくは後者であろうが,周囲の兵達も敵であるエランを斬る為に一斉に距離を詰める。そんな光景を見てエランが呟く。

「邪魔」

 言葉を発した後にエランは左足を引いてイクスを左下に向かって構える。そのままの構えで立ち続けるエラン,混乱しているディアコス兵達と違ってしっかりとイクスの間合いに入るまで引き付けている。そして恐れた殺気を出しながらディアコス兵達がイクスの間合いへと入った。そして次の瞬間,今まで動いていたディアコス兵達が止まるとディアコス兵達の上半身が血飛沫と共に飛び上がった。

 なのが起こったのか全く理解が出来ていない隊長は呆然とする。だからこそ目の前にエランの姿が無い事にまったく気付かなかった。そのエランはというと既に空中へと舞い上がり,隊長の頭上へと移動していた。

 身体を下にイクスを左上にしている状態で降下してくるエラン。そして隊長の首がイクスの間合いに入ると一気にイクスを振り抜いて,イクスが隊長の首を通過するとその勢いを利用して着地態勢を整えてエランは静かに地面へと足を付けるのと同時にイクスを振った勢いを殺す為にゆっくりと一回転するのと同時に残って居たディアコス兵と斬り伏せた。

 しっかりと地面に立ったエランはイクスで馬の尻を軽く刺すと,痛みで暴れ出す馬に既に亡骸に成っている隊長の身体が地面へと落ちる。馬の(いなな)きと地面に落ちる身体の音でやっとエラン方へと視線を向けてくるディアコス兵。すると空馬と成って味方後方へと走り去る馬とエランが着地と同時に斬り伏せた旗持ちの兵がディアコス国の旗と一緒に倒れていた。

 突如として現れたエランと既に死亡している中央部隊の隊長,命令系統を完全に失ったディアコス軍の中央部隊は更に混乱を生じる事に成った。だからと言って,ここで戦いを止める訳には行かないエランは,残って居る中央部隊の後方から攻撃を仕掛ける為に再びフェアリブリュームの能力で体重を一気に重くするとイクスを左横に構えてから右足で地面を蹴って突撃する。

 部隊隊長が既に討たれて命令系統が崩壊している事に気付いていないディアコス軍の中央部隊は,後方からはエランが前方からはレルーンとメルネーポが率いる部隊が一気に押し上がってくるので小隊長達がとにかく戦えと命じるばかりでまったく部隊として動く事が出来ないのでハルバロス軍を押し止める事など出来る訳が無い。そしてその切っ掛けを作ったエランは眼前の敵を斬り弾くと一気に視界が開けた。

 状況を把握したエランは左右に居るディアコス兵を一気に一掃すると,エランが進んできた所にはすっかり屍が引き詰められた道が出来ていた。そんなエランがゆっくりと振り返ると三人の人物がエランへと駆け寄ってきた。

「エラン,大丈夫だった?」

「無傷」

「さすがはエランだな」

「当たり前なのですよ」

 ハトリ,レルーン,メルネーポがエランに合流する形と成って,すぐにそのような会話をした後にエランはレルーンとメルネーポに尋ねる。

「レルーンとメルネーポの部隊はどのくらい前に来てる?」

「う~ん,まだ半分にも満たないかな」

「後続部隊が少し遅れているみたいだからな,こちらも似たようなものだ」

「分かった,レルーン,メルネーポ,それぞれの部隊だけで良いから集めて」

「後続部隊の到着を待たなくて良いのかっ!?」

 エランの言葉を聞いて驚きながらも問い掛けるメルネーポにエランはいつも通りの平静さで口を開く。

「二人の部隊が全て上がってくれれば後続部隊は自然と速く上がってくる。私達が作った好機を疎かにする程ケーイリオン将軍は遅くない」

「なるほど,言われればそうだな」

「じゃあ,私は戻ってすぐに皆を集めてくるよ」

 話が決まったとばかりに動き出すレルーン。そんなレルーンに遅れてメルネーポも慎重に周囲を確認してからエランに向かって言葉を出して動き出す。

「では,私もメルヘト達を集結させてくるからエラン,ここは任せたぞ」

「うん」

 走り去るメルネーポに短い返事をするエラン。そんなエランの眼前には先程エランが作った道を塞ぐようにディアコス兵が再び密集し始めていたので,エランはイクスを左横に構えるとハトリに向かって口を開く。

「行くよ,イクス,ハトリ」

「はいですよっ!」

「まだ始まったばかりだっ! ドンドン暴れようぜっ!」

 イクスとハトリの返事を聞いてからエランは前に出した右足をしっかりと地面に踏み込むと,今度は一気に蹴ってディアコス兵達との距離を一気に詰めて左足で着地する。そして一気にイクスを振り抜いてディアコス兵の胴体を二つにするのと同時にそのまま回転すると,今度は左足で地面を蹴ってイクスを振った勢いのままに前方の敵との距離を詰める。

 再び地面に足を付けながら,回転しつつ移動と攻撃を繰り返すエランにディアコス兵は次々と倒されて行く。そして前に進み続けるエランの後方を取ろうとディアコス兵達が回り込もうとするがハトリのマジックシールドに阻まれるのと同時にハトリが操った髪によって胸を貫かれていった。

 エランとハトリの猛攻撃に再び第一軍を抜けるだけの道が出来そうに成っていた時,さすがに目立ち過ぎたみたいでディアコス兵達が一斉にエラン達に向かって動き出す。

 エランを取り囲むように密集してくるディアコス兵達,すると突如として真横から首を折られるように斧を食い込まされた者と槍で突かれて屍と成って他の兵に当てられた者が居た。そしてディアコス兵を倒した者の後ろには二人の人影に続くように多数の軍勢,そして二人の人影は口を開く。

「メルヘト隊,このまま一気に進んでエランと合流するぞっ!」

「皆,エランの所まで一気に突き進むよっ!」

 メルネーポとレルーンがそれぞれに号令を出すとメルネーポとレルーンは先陣争いかのように自ら先頭に立ってエランを取り囲もうとするディアコス兵達に向かって行く。メルネーポはバルディッシュを振るって敵兵の首を叩き折るようにディアコス兵の首を地面へと転がし,レルーンはハルバートの切っ先で確実にディアコス兵の胸を貫くとすぐに引き抜いて右に居た兵の腕を斧で叩き切って地面へと落とす。

 レルーンとメルネーポに続くかのようにヒャルムリル傭兵団とメルヘト隊が一気に突っ込んでくる。既にエランによって数を減らされただけではなく,隊長まで討ち取られて命令系統が崩壊したディアコス軍の中央部隊に勢いがある二つの部隊を止める事が出来る訳もなく,中には逃げ出す者まで出る程の快進撃を見せたレルーンとメルネーポの部隊がエランと合流する頃には,エランが第一軍の最後続をかなり斬り伏せていたのでレルーンが率いるヒャルムリル傭兵団とメルネーポが率いるメルヘト隊は特に犠牲を出す事もなくエラン達と合流する事が出来た。

 エランも二人の部隊と合流するかのように周囲の敵を斬り弾くと静かに佇んでいた。そんなエランの元へ駆け寄るレルーンとメルネーポ,そしてエランの元へ着くとメルネーポが口を開く。

「まずは第一軍を突破だな」

「うん,次が既に臨戦態勢に入ってる」

「ん~,うわ~,完全に防御を固めてるよ~」

 レルーンが言った通りにエラン達の眼前に広がる第二軍とも言えるディアコス兵達はかなり密集して盾を前に押し出している。防御と迎撃,その二つを取り入れた陣形を成しているのだから普通に考えたら中央突破は難しいと考えるのが当然だ。だが,エランは当然ではない事を口に出す。

「第二軍の前を崩すから,そこに突撃して」

「あぁ,分かった」

「りょうか~い」

 エランの言葉に当然かのように返事をするレルーンとメルネーポ。既に二人もエランなら当然も当然でなくなるという事が理解しているのだろう。だからこそエラン言葉を聞いても驚かないし,先程メルネーポが懸念していた後続部隊だが流石とも言える対応でレルーンとメルネーポの部隊が一気に押し上げると隙を作る暇も与えずに兵力を投じてきて,今ではレルーンとメルネーポの部隊が小休止が出来る程の余裕を与える程に奮戦している。

 そんな状況をしっかりと理解しているエランは眼前と第二陣をしっかりと見ながらエランは左足を後ろにしてしっかりと踏み締めてイクスを左後ろに構えてから口を開く。

「それじゃあ,行くよ」

「いつでもいいぞ」

「こっちも準備出来てるよ~」

 そんなメルネーポとレルーンの声を聞いてエランは瞳の奥で何処かにある安心感を見せると,イクスを握り直して眼前に広がっている第二軍に向かって跳び出すのだった。




 さてさて,半年以上もほったらかしにしていた白銀妖精のプリエールですが……スランプって怖い。ってか,本当に頭が真っ白になって何も思い浮かばない状況が続くのはかなりしんどかったよ~。まあ,その為に休止していたので良い気分転換に結果的だけど成ったと勝手に思っております。

 それと,その間に少し考える事も出来たので報告させて頂くと,ちと更新速度を上げる為に一話の文字数を減らす事にしました。まあ,当初の目的は五千字程度でやって行こうと思ったんですけどね。実際に書いていたら一万字近くまで書く事になってましたよ,これが。まあ,それだけ長く書く事に慣れてしまったんでしょうかね。そんな訳ですので,出来れば周一ぐらいのペースで更新が出来れば良いなと判断した次第でございやす。

 さてはて,何か長らく読者の方を待たせてしまった結果となってしまいましたが,何とかこれからも白銀妖精のプリエールを書き続けますので引き続き気長なお付き合いをよろしくお願いします。そして長らく更新を途絶えた事を心よりお詫び申し上げます。今後は上記に記したとおりに頑張って行こうかと思っているので,またまた気長なお付き合いをよろしくお願いします。

 そんな訳で復活宣言をしたし,お詫びもしたのでそろそろ締めますか。

 ではでは,ここまでお付き合いくださりありがとうございます。今後も気長なお付き合いをよろしくお願いします。そして感想をお待ちしておりますし,宣伝してくださるとありがたいです。

 以上,他力本願なところはまったく変わっていない葵嵐雪でした。

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