第二章 第六話
戦場ならではの独特な雰囲気がある中で一騎打ちという戦場の華とも言える舞台が幕開けば尚更に雰囲気が独特となり,当人達のみならず見守る者達にも緊張感が包み込み雰囲気に呑まれて静寂が一時的に張り詰める戦場でエランとスフィルファはお互いに歩みを進めて行く。
エランは巨大になったイクス,ブレイクスレッドホースと成ったイクスを右肩に預けるように歩き続け,スフィルファも馬に乗りながら愛用の突撃槍を下の方に向けてゆっくりと馬を歩かせる。エランとスフィルファ,お互いの距離が近づく度に周囲の者達は緊張感を増していくが当人達は至って涼しい顔をしている。そしてお互いの距離が声の届く所まで詰まるとエランは足を止め,スフィルファは手綱を軽く引いて馬を止める。
お互いに止まった事により,いよいよ一騎打ちが始まると周囲の者達が更に緊張感を高めるがエランとスフィルファはお互いに爪先から頭の天辺まで相手を見るとスフィルファは笑顔を浮かべ,エランも瞳の奥では静かに闘争心の爪を出す。するとスフィルファがエランに向かって話し掛けて来た。
「始める前に貴殿の名前を伺おう」
これから戦う相手だというのに丁重な言葉を出してきたスフィルファ,これがスフィルファなりの流儀と言った所だろう。だからスフィルファはエランに愛用の突撃槍を向ける事なく,まずは言葉を出してきたのでエランも言葉で応える。
「エラン=シーソル」
相変わらず必要最低限の言葉しか発しないエランだが,スフィルファは未だに笑みを浮かべているからにはエランの言葉を聞いても不機嫌に成る程に器が小さい訳ではないようだ。そんなスフィルファが会話を続ける。
「見たところハルバロス正規軍ではないようですね」
「うん,傭兵」
「そうでしょうね,今となってはハルバロス正規軍は私が一騎打ちを申し込むと逃げるばかりで受ける者が居ない。それを知っての捨て駒か,それとも私に勝る実力を持っている者か,どちらでしょうね」
「私の方が勝ってる」
エランの言葉を聞いてスフィルファの表情が呆気にとられた様に成るが,すぐに笑い出してすぐに笑いが収まるとスフィルファは会話を続ける。
「これは失礼,まさか私の言葉を聞いてそこまでハッキリと言い切った者は久しぶりなので,つい嬉しさのあまりに笑ってしまいました」
「そう,それで?」
「短気な方ですね」
「違う,もしかしたらやるべき事が増えるかもしれないから早めに終わらせたいだけ」
「なるほど,私としてはもう少し貴殿と話していたいのですが,貴殿がそう仰るのなら始めましょうか。準備はよろしいですか?」
問い掛けながら突撃槍を構えるスフィルファにエランは右肩に預けていたイクスを下ろして右後ろにイクスを構える。さすがにエランよりも大きな剣と成ったイクスだけに後ろに,そして切っ先が地面に付きそうなぐらいに落とした構えがエランとしてもイクスを振りやすい。そしてイクスを構えたエランが口を開く。
「いつでも」
エランの言葉を聞くとスフィルファの顔から笑みが消えて,目が鋭くなり殺気と闘争心が溢れ出る。それは表情だけではなく,しっかりと突撃槍を構えたスフィルファの全身から闘争心が溢れ出て,手にした突撃槍にはしっかりと殺気が籠もっている。そんなスフィルファに対してエランはイクスを握っているが表面上には何も出してはいないが瞳の奥では牙を剥き,爪を立たせる。そしてスフィルファが口を開く。
「では,いざ尋常に勝負っ!」
その言葉を発した直後にスフィルファは馬の腹を蹴って,馬を走り始めるとエランに向かって思いっきり馬を走らせる。走り始めた馬の速度は一気に最高速に達するとエランに迫ったので,スフィルファはエランを間合いに捉えると一気に突撃槍を突き出してきた。
エランは馬とスフィルファが迫って来ても一歩も動かず静かに佇んでいた。だかエランの瞳にはしっかりとスフィルファの突撃槍が映っていたので,スフィルファが突撃槍を突き出してきたのと同時にエランはイクスを後ろから振り上げていた。
エランとスフィルファが交差するとイクスがスフィルファの突撃槍を押し上げており,突撃槍がエランに届く事は無かったが,イクスの刃も突撃槍を押し上げただけでスフィルファに届く事は無かった。そしてスフィルファがエランの右側を通過すると,エランは振り上げたイクスが円を描くような軌跡で地面へと叩き付ける。その衝撃は凄まじいモノでイクスがめり込んでいる地面は斬り裂いただけでは無く,その周囲の土を掘り返したようにひっくり返っていた。
エランは地面にめり込んだイクスをすぐに引き出して振り返りスフィルファの姿を探す為に周囲を見回すと,スフィルファはエランの右側を通過した後に少し走ってから大きく左に旋回して馬を回していた。そんなスフィルファが再びエランに向かって突撃を始めるとエランも向かって来るスフィルファを真正面になるように身体を向けると先程と同じようにイクスを右後ろに構える。
再び両者が交差するとまたしてもイクスがスフィルファの突撃槍を押し上げてエランへの直撃を回避しただけでスフィルファがエランの右側を通過すると,イクスを振り上げた勢いのまま地面へと叩き付けるエラン。それから両者は二度,三度と同じような展開を繰り返した。
エランが戦っているのを遠くで見ていたカセンネは感心したような顔をした後に隣に居るハトリに話し掛けた。
「さすがは白銀妖精と言われてるだけだけあるね,あのスフィルファを相手に一撃も入れさせないとはね」
カセンネの言葉を聞いてハトリはカセンネに聞こえるように大きな溜息を付いた後に口を開く。
「エランの実力なら当然ですよ,それよりも気付いていないですよ」
「何にだい?」
「エランが行っている布石にですよ」
「ほう,そいつは興味深いね。ハトリにはエランが何を考えているのか分かっているみたいだからね,少しは教えて欲しいもんだね」
「別に教える程特別なモノではないですよ,エランは突撃槍を押し上げた後に確実にスフィルファを倒せるように準備をしているだけですよ」
「つまり必殺の一撃を放つ為の準備という訳かい,なるほどねえ。このままハトリに教えて貰っても良いけど,見ていた方がよっぽど面白そうだね」
「そこまで分かっているのなら見てれば良いですよ,そして次に備える事ですよ」
「その心配なら要らないよ,既に準備は終わっているからね」
「チャッカリしているですよ」
「当然だね,こっちもエランを信じて乗ってるからにはあたしらも戦功を上げさせて貰うってものさ」
「まあですよ,それでエランの助けになるのなら私は何も言わないですよ」
「そうかい。さて,エランの方は決着が付きそうかな」
「すぐに決着が付くですよ」
ハッキリと断言したハトリの言葉にカセンネは笑みを浮かべると近くに居る団員を静かに呼び寄せると何かを伝え,その団員は他の団員達が集まっている方へと静かに駆けて行くのだった。
エランがイクスを振り上げると突撃槍に当たって,エランを貫くはずの槍先は上へと逸らされる。そしてスフィルファが乗っている馬がエランの右側を走り抜けるとエランはイクスを振り上げた勢いのままに地面へと叩き付ける。再び地面は斬り裂かれ,その周囲は掘り返したようになった。これで八度目の攻撃を凌いだエランがイクスに話し掛ける。
「イクス,次で決める」
「あいよ」
エランの言葉にいつも通りに返事をするイクス,そしてエランは今まで右後ろに構えていたイクスを今度は左後ろに構えた。そして振り返ると丁度ディアコス軍の右翼を後ろにした位置でスフィルファは馬を回して再び突撃体勢を取る。
九度目の突撃をしてくるスフィルファにエランは,今までと同じく全く動かずにただスフィルファが攻撃をしてくるのを待っている。そんなエランにスフィルファは今までに無い程の速度で突撃を仕掛けてきた。さすがに八回も攻撃を完璧に避けられたからにはスフィルファなりに戦術を変えてきた。それでもエランはただイクスを構えながら立ち続ける。
再び両者の距離が一気に詰まる。その時だった,エランが突如として更に腰を落として体勢を低くするのと同時に左後ろに構えたイクスを思いっきり握り締めた。突然のエランが行った変化にスフィルファも気付いてはいるが,もう少しで突撃槍の間合いに入りそうなので自分を優先して馬をしっかりと操りながら走らせる。そしてエランが撒いた布石が一気に効力を発揮する。
スフィルファが突撃槍を突き出そうとした瞬間,突如として馬が暴れるように速度を落とした。その事にスフィルファが驚いている瞬間にエランが一気に動く。
エランは一気に馬の左側に向かって跳ぶのと同時にイクスを円を描くように一気に振り上げた。突如として失速した馬の左側にエランが移動するのと同時にイクスが馬の首とスフィルファの胴体を通り抜ける。そしてエランがイクスを振り抜いた時に両者は再び交差する。
エランが地面に足を付けるとゆっくりと振り返る。そんなエランの瞳にはゆっくりと駆けて行く馬と騎乗してるスフィルファの姿が映るが,すぐに馬が右側に傾くとそのまま倒れた。その衝撃により馬の首は胴体から離れ,騎乗していたスフィルファも左腹から一気に血飛沫を上げた。
突如として付いた決着に一騎打ちを見ていた者達は未だに一騎打ちが終わった事を認識する事が出来ていない。そんな中でエランはゆっくりと歩き出し,倒れたスフィルファに向かって歩いて行く。
エランが屍と化したスフィルファの元へ辿り着いた時には,スフィルファが自らの血と馬から出た血の中に沈んでいた。元より赤い鎧を赤黒いモノが塗りつぶすように成っている。そんなスフィルファの兜を締める紐をエランはイクスで斬り裂くと自然とスフィルファの頭から少しだけ転げ落ちる。その兜を引き剥がすように取り出したエランはゆっくりと周囲を見渡した。
周りを見ても未だに一騎打ちでエランが勝った事を信じられなかったハルバロス軍とディアコス軍は静寂に包まれている。その中でハトリとカセンネだけは最初から冷静で決着が付いた事によりカセンネはハトリに話し掛けた。
「地面をあんなにするとはね,あれがハトリが言っていたエランが仕掛けた布石かい」
「その通りですよ。エランはイクスで突撃槍を弾き防いだだけじゃないですよ,そこから自然な流れで地面を荒くする事で平地を駆けていた馬が急に荒れた地面に足を取られて馬を失速されるのと同時に一瞬だけ隙を作ったですよ」
「その隙に突撃槍が無い方の左側に移動して馬の首ごとスフィルファを斬り裂いたという訳だね。こうして言うだけなら簡単だろうけど,実際にやってのけるのはかなり大変だよ。一瞬の隙を突くだけならともかく,あんなにバカでかい剣をその一瞬の隙で振り抜いたんだからね」
「それは違うですよ」
「違うって,何がだい?」
「イクスはどんな形に成ってもスレデラーズですよ,今のイクスはブレイクスレッドホースという名で呼ばれるスレデラーズですよ。その能力の一つは軽量化,ブレイクスレッドホースはどんなに大きく成っても重さはまったく変わらないですよ」
「それはつまり,どんなに大きく成っても元の重さだからエランとしては長さと大きさだけを考慮して振れば良いだけ,って事かい?」
「そういう事ですよ。イクスもああ見えてスレデラーズですよ,本当はこんな事は言いたくないけどイクスも甘く見ない方が良いですよ」
「なるほどねぇ,それはそうと,そろそろあちらさんが動きそうだよ」
「分かっているですよ,それはそうと昨日はスフィルファを倒した後に助けてくれるって言っていたですよ」
「あぁ,確かに言ったから何とかこの左翼の端ぐらいまでは頑張りな。そこから助けるよ」
「なら期待してるですよ」
「まあ,任せな。それじゃあ,始めるとしようか」
カセンネはそんな言葉でハトリとの会話を終えると今度は振り返って大声を上げる。
「この一騎打ちっ! ハルバロス側の勝ちだっ!」
カセンネの言葉を聞いてやっと一騎打ちの勝敗を決した事を理解するハルバロス軍とディアコス軍。その言葉を聞いてハルバロス正規軍からは勝ち鬨が上がり,ヒャルムリル傭兵団の団員達はエランの勝利に歓喜の声を上げる。エランはハルバロス側から上がる声を聞いて少しだけ息を吐いて次に備える。
ハルバロス側からエランの勝利に声を上げていると突如してディアコス側よりも前,つまり遊走騎馬隊から大声が上がる。
「スフィルファ隊長の仇討ちだっ! 絶対にあやつを無事に返すなっ! 遊走騎馬隊は突撃してスフィルファ隊長の仇を討てっ!」
その声を聞いて遊走騎馬隊から鬨の声が上がると遊走騎馬隊は我先にとエランを目指して突撃をしていく。その様子を見ていたカセンネがハトリに話し掛ける。
「やっぱりこう来たかい。正々堂々の一騎打ちに水を差しやがったよ,その行為がスフィルファの名誉に泥を塗る事だと分かってるんだか」
カセンネはその様な言葉を発したがハトリからは返事が無い。そこでカセンネは隣に居るハトリに目を向けると,そこにハトリの姿は既に無かった。カセンネはその事に驚きながらも自分がやるべき事をやる為に振り返ってヒャルムリル傭兵団をまとめる。その一方でエランは左手にスフィルファの兜を持ちながら,右手を下ろしてイクスを真横して立っていた。
遊走騎馬隊が一塊に成ってエランへと迫るが,エランは攻撃して来いと言わんばかりにスフィルファの遺体から離れた場所でいつもの無表情のままに迫り来る遊走騎馬隊を見詰めていた。そして遊走騎馬隊の先頭がエランに迫って来た途端,エランは一気に跳び上がり宙へと舞い上がった。
体重変化で羽のように軽くなった身体で宙に舞い上がっているエランの真下を遊走騎馬隊が駆け抜けていく。エランの視界に遊走騎馬隊の最後尾が見えると今度は一気に体重を元の数倍にして一気に降下する。
右足を前に出しながら一気に降下する事によってエランの髪は全て吹き上がり風よって舞い踊る。そしてエランは狙った最後尾の騎兵にそのまま突っ込むと,蹴りによって騎乗していた兵が蹴り落とされた。それからエランは再び体重を軽くすると騎兵を蹴り落とした反動を使って空馬と成った馬の鞍に舞い降りるとそのまま馬にまたがって両手で手綱を引いて一気に馬を止めた。そしてエランが叫ぶ。
「ハトリっ!」
「ここですよっ!」
既に遠回りに駆けて来たハトリが返事をするのと同時に馬に飛び乗り,エランの後ろにまたがるとエランはハトリにスフィルファの兜を渡してから馬の腹を蹴って一気に走らせる。右手には大きなイクスを持っているので左手だけで手綱を持ちながら馬を走らせるエラン,そんなエランへの報復を果たそうと遊走騎馬隊は一度二手に分かれて迂回するとエランの後ろで合流する。
再びまとまった遊走騎馬隊がエランの追走を始めると馬の扱いに慣れていないエランを取り囲むように迫るが,エランは横から迫って来た騎兵を右手だけで持っているブレイクスレッドホースに成っているイクスで馬ごと斬り伏せる。そして後ろから迫って来た騎兵がエランに向かって突撃槍を突き出すがハトリのマジックシールドによってことごとく阻まれ,ハトリの髪が動き出すとマジックシールドを通過してシールドと同じ硬さに変化するとまとまった髪の先端が尖り,敵の心臓を貫く。
エランはこれまでの経験で馬に乗った事はあるが騎乗したまま戦った事はほとんど無い。だから追い付かれるのは当然で攻撃を受けても不思議ではないが,イクスのおかげで左右にいる騎兵からの攻撃が少ない。何しろエランよりも長く大きな剣なだけに下手に近づけばイクスに斬られるだけだ。それが分かっているからこそ遊走騎馬隊は左右同時攻撃を狙うが,ことごとくイクスによって斬り伏せられている。それだけエランがイクスを振るう速度が速い。その為に遊走騎馬隊は下手に攻撃は出来ずにエランを取り囲んだままエランと共に駆け続けるという妙な状態を維持するしかなかった。
エランは馬の扱いは出来るものの遊走騎馬隊のように自由自在に馬を操る事が出来ない,それに大きすぎるイクスのおかげで左右の敵を斬り伏せられて,ハトリのおかげで後ろを気にしなくて済む。だからエランとしても遊走騎馬隊の囲みを抜け出したいが,それも出来ない状況が続くという現状に成った。つまりどちらも決め手が無いからにはエランがこのままハルバロス軍の左翼後方へ行ってしまえば遊走騎馬隊としては追撃が出来ない,なので速く逃げたいエランと速く仕留めたい遊走騎馬隊が伴走するような状況となった。
何とかハルバロス軍の後方へ行く為に馬を走らせるエランとそれを阻止しようとする遊走騎馬隊。そしてそれは突如として起こった。
エランの左右に居た騎兵に五本もの矢が刺さり,馬は失速して兵は矢を受けた衝撃で落馬をするのと同時に即死していた。矢はエランの両隣に居た二騎だけを倒しただけではなく,エランの周囲に居る騎兵達にも矢が刺さり,当たり所が悪かった者はそのまま命と共に馬から落ちた。そして矢は前方から一定の間隔を置いて放たれた。
突然の事態にエランが前方をよく見ると遠く離れた所から矢を放つレルーンの姿が見えた。レルーンの周囲にも弓矢を持つ兵が多く居るからにはあれがヒャルムリル傭兵団の別働隊であり,カセンネが言っていた手助けだと理解したエランは周囲を気にする事なく,一気にハルバロス軍の最左翼に向かって馬を走らせる。時同じくレルーンが居るヒャルムリル傭兵団の別働隊は副団長のレルーンが声を上げていた。
「狙うのはエランの周囲に居る兵だけで良いっ! とにかくエランに当てないようにエランの周囲に矢を放って敵をエランに近づけないでっ!」
『はいっ』
レルーンの命令にヒャルムリル傭兵団の別働隊はエランの周辺に向かって次々と矢を放つと,流石の遊走騎馬隊もエランの囲みを緩めて広げるしかなかった。それでも何とかエランに近づこうとする騎兵が居たが,エランに斬られる前にレルーン達が放った矢によって倒れ逝くのだった。おかげでエランは馬を操る事だけに集中する事が出来て,少しずつ遊走騎馬隊の包囲を抜ける事が出来た。
レルーン達のすぐ横の右側にはハルバロス正規軍が布陣しているのでエランはレルーン達の左側を目指して馬を走らせる。その間にもレルーン達の援護射撃もありエランは緩まった包囲から抜け出たが,それでも追いすがってくる遊走騎馬隊。そんな遊走騎馬隊の副隊長が左側に布陣しているハルバロス正規軍が目に映ると手綱を握り締めて号令を出す。
「遊走騎馬隊っ! ハルバロス正規軍が迫ってるので右舷回頭して撤退するっ!」
その声には怒りと仕方ないという無念が込められていたが,このままエランを追走すればレルーン達の矢に射られるか,敵陣深くに侵入して孤立するかのどちらかだ。副隊長にはそれが分かっているからこそ,わざわざハルバロス正規軍が迫っている事も告げた。だが中には命に代えてもとばかりにエランを追走する兵が何騎か居たがことごとくレルーン達の矢によって倒れて行った。こうして遊走騎馬隊はエランの追走を諦めて離れていくがエランは速度を落とさずに馬を走らせる。
遊走騎馬隊が居なくなったとはいえ,ここは戦場の真っ只中でのんびりしていてはハルバロス正規軍の邪魔に成る。現にエランが振り返ると既にヒャルムリル傭兵団は崩れているディアコス軍の右翼に向かって進軍している。そんなヒャルムリル傭兵団に続くかのようにハルバロス正規軍も動き出しているのでエラン達は速やかに,この戦場から離れなければいけなかった。だからエランが乗っている馬がレルーン達の左側を速やかに駆けて行く時にエランとハトリは声を上げる。
「レルーンありがとうっ!」
「ありがとうですよっ!」
その声を聞いてレルーンは笑顔で手を振るがすぐに別働隊を動かしてカセンネが居る本体へ合流するように命令を出していた。そんなレルーンの別働隊とハルバロス正規軍を左に見ながら駆け抜けていくと遂に最左翼の最後方にまで達したのでエランは一安心したかのように馬の速度を少しずつ落としていくのだった。
レルーン達の援護により完全に戦線から離脱したエランは馬をのんびりと歩かせるとエランはイクスに向かって話し掛けた。
「イクス,戻って」
「はいよ,思いっきり暴れて楽しかったぜ」
そんな感想を言いながらイクスが白銀色の光りに包まれると少しずつ細く,少し短く成っていく。いつもの形に戻ると白銀色の光は割れた散っていき欠片は地面に落ちながら消えて行く。光が消えると完全にいつものイクスに成ったのでエランはイクスを右上に上げるとイクスはエランの手から離れて鞘の中にほとんど収まった。イクスが元に戻るとエランは静かに口を開く。
「納刀,フェアリブリューム」
今度は馬に乗っているエランの身体が白銀色の光りに包まれるとエランの背中から生えている翅が割れたように崩れていくと白銀色の欠片は包まれている光と共に消えて行く,それからエランを包んでいた白銀色の光りも消えるといつものエランに戻った。
こうして無事に命令を成し遂げたエランは両手で手綱を取ると再び馬を少し走らせようとするが,前方からエランに向かってくる騎兵が居た。重装装備の鎧に馬にも重装備をしているからにはハルバロス軍に属している事はすぐに分かった。問題はエランに向かって来る目的だ。だからエランはのんびりと馬を歩かせて行き,騎兵がこちらに来るのを待った。そして騎兵はエランの前で止まったのでエランも馬を止める。
馬を止めた騎兵が兜を取ると見覚えがある顔が現れた。茶色の短い髪に赤みがかった瞳で鋭い目付きをしている容姿はケーイリオンとの謁見した時にエランの無礼に敏感に反応したメルネーポと呼ばれた人物が脱いだ兜を鞍に掛けてエランを見詰めると突然として頭を下げて一気に口を開いてきた。
「すまなかったっ!」
突然の謝罪にハトリは何事かと驚くがエランはいつもの無表情のままにメルネーポの言葉を聞くのでメルネーポは続け様に言葉を放つ。
「私はケーイリオン将軍程の慧眼を持っていないから白銀妖精の実力を見極めようとしているケーイリオン将軍の意図すら察する事が出来なかった。それに白銀妖精も私達を見定めた事に気付かされた,白銀妖精はケーイリオン将軍との謁見で将軍の器を見抜いたからこそ,あの様な事をしたのだろう。それに引き換え私は白銀妖精の上面ばかり見て何一つとして見抜けなかったので怒鳴り散らしてしまった。先程の白銀妖精とスフィルファとの戦いを見て私はやっと自分の愚かさに気付かされた。だから許してくれとは言わないが謝罪だけは受け取って欲しい」
頭を下げながら一気に思った事を口に出して謝罪するメルネーポに向かってエランはゆっくりと口を開く。
「エラン」
「えっ?」
エランが突然に名乗ったのでメルネーポは頭を上げて不思議そうな表情を見せるがエランはそんなメルネーポ状態を無視して再び口を開く。
「エラン,私の名前。白銀妖精と呼ばれるより名前で呼んでもらった方が分かり易い」
メルネーポの謝罪を思いっきり無視して自分を名前で呼ぶように要求するエランにメルネーポは少し混乱するが,それでも頭と心の整理が付くと軽く一笑いしてからから口を開く。
「それはすまなかった,エラン。それと先程は長々と喋ってしまいすまなかった。改めて昨日の事を謝罪させて貰う,エラン昨日はすまなかった」
メルネーポはそんな言葉を出すと再び頭を下げるが今度はすぐに頭を上げてエランを見詰めるとエランが口を開いて会話を始める。
「別に気にしていないから,これ以上謝る必要はない」
「そうか,だがこの程度では私の気が済まないのは確かだ」
「それを言われても困る」
「だろうな,私としても誠意を受け取って欲しいのだが」
「さっきの言葉でしっかりと誠意がこもっていたから受け取ったのと同じ」
「エランがそう言ってくれるのは嬉しいが,それだけに私は私自身に納得が出来ない」
「それは私が関係しないメルネーポの問題だと思う」
「エランの言う通りだろうが,それでもエランに私が無礼を働いたという事実があるからには私の問題でもエランが関わっているとも言えるから私はしっかりとエランに謝罪がしたい」
「謝罪の言葉と心はしっかりと受け取ったと思うけど」
「そうかもしれないが,こうもすんなりとエランに受け入れられると謝罪をした感じがしない」
「それもメルネーポがどう感じたかの問題だと思う」
「そうかもしれないけど」
「あ~,ゴチャゴチャとうっせえなっ!」
メルネーポの言葉を遮ってイクスが声を発してくるとエランとメルネーポに口を出す暇を与えずにイクスが喋り出す。
「メルネーポの姉ちゃんよ,エランが良いって言ってんだから良いじゃねえか。それで気が済まねぇんなら,言葉じゃなく行動で示したらどうだい。今後の事はこれからケーイリオン将軍様に会わねえと分からねえが,エランに次の仕事が来たのなら手助けしても良いんじゃねえか」
「イクスが珍しく良い事を言っているですよ」
「ハトリは黙ってろや!」
「けどイクスの言う通りですよ。ケーイリオン将軍の話だとエランが活躍したのなら次の仕事を頼みたいと言っていたですよ,だからこの兜を届けた後にエランに次の仕事を命じても不思議ではないですよ。そうなった時にイクスが言った通りに私達の手助けをしてですよ,自分が納得するまで私達の手助けをするですよ」
「このクソガキ,俺様が言いたい事を横取りしやがって」
「さすが戦場ですよ,騒音がうるさいですよ」
「俺様は騒音かっ!」
イクスとハトリの会話を聞いてメルネーポの中では何か感じるモノがあった。だが今はそれ以上にイクスとハトリの会話が面白くてメルネーポは笑みを浮かべていた。そんなメルネーポがエランに向かって再び口を開く。
「なかなか面白い仲間だな,だがその通りだ。エラン,そのスフィルファの兜をケーイリオン将軍に届けた後に次の仕事を依頼されるかもしれない。その時は私はエランと共に戦う事で謝罪と共にエランとの仲を深められたら良いと思った。だからエラン,次があるのなら私はエランの手助けをする為に共に戦う事を約束しよう」
「分かった,その誠意と約束をしっかりと覚えてる」
「ありがとう」
エランに対して素直に感謝の言葉を口にするメルネーポの表情は穏やかで優しい顔をしていた。それを見たエランはメルネーポが自分に正直だと想い,信頼に値する人物だからこそケーイリオンに見出されて傍に置いて貰っているのだろうと思った。エランがそんな事を考えているとイクスが声を発して来た。
「そういやメルネーポの姉ちゃんよ,その豪勢な鎧といい,謁見の時に総大将様の側に居た事といい,立場的にも相当上なんじゃないか?」
イクスが相も変わらず不躾な質問をいきなりぶつけるとメルネーポは少し照れたような笑みを浮かべて軽く笑ってから質問に答える。
「一応立場的には副将軍と成っている」
「もの凄く上だなっ!」
「そんなに驚かないでくれ,エランの件もあるように私は若輩者でいろいろと足りていない事は分かっているつもりだ」
「それでも見た目で判断して失礼なのは承知ですよ,その若さで副将軍を任じられるのは凄い事ですよ」
イクスに続いてハトリまでもそんな事を言い出したのでメルネーポは顔を伏せてしまった。そんなメルネーポに向かってエランが口を開く。
「そこまで照れる事ではないと思う,それだけの実力と可能性があるからこそケーイリオン将軍はメルネーポを副将軍にして傍に置いていると思うから」
そんなエランの言葉を聞いてやっと顔を上げたメルネーポだが,未だに顔の赤らみが消えていないが顔をエランに向けて会話を続ける。
「実力と可能性は私には分からないが,ケーイリオン将軍が私に副将軍を任じて傍に置いて貰っているのは確かだ。だからこそ,そんなケーイリオン将軍を師事しながらも期待をされているのなら期待に応えたいとも思っている」
「うん,メルネーポなら良い将軍になると思う」
「そこまでおだてないでくれ」
「そお?」
メルネーポの言葉を聞いてエランは疑問の言葉を口にして首を傾げるとイクスとハトリが会話を続けてくる。
「ったく,エランもエランでいつもこうだな」
「全くですよ,どうしてこうも時折に肝心な所で察しが悪く成るですよ」
「そうなの?」
「……」
「……」
「……」
エランの質問に未だにエランがメルネーポの心情を察していない事に言葉を失うイクスにハトリ,そして話の中心と成っているメルネーポもエランの鈍さに気付いて出る言葉を無くしている。するといつものようにお喋りなイクスが勢いだけで会話を続ける。
「とにかくだっ! メルネーポの姉ちゃんよ,副将軍なら俺様達みたいな一介の傭兵とそんなに気に掛けなくても良いんじゃねえか」
「っと,そんな訳には行かない。例え相手が誰であろうと非がこちらにあり,共に戦う仲間だからこそキッチリとするべきだ」
イクスの言葉を聞いて自分を取り戻したメルネーポがそんな言葉を発するとハトリは溜息を付いてから口を開く。
「こっちはこっちで凄く生真面目ですよ。けどですよ,それがメルネーポの良い所だと思うですよ」
「私としては自分が生真面目とは思えないんだがな」
「自分の事だから余計に分かり辛い」
「どうしてだ,エラン?」
エランの言葉がよっぽど気になったのだろう。エランに問い掛けるメルネーポにエランはいつも通りの無表情な顔を向けて,しっかりとメルネーポの目を見ながら話を続ける。
「自分以外の他人は相手を見て観察して,聞いて相手の考えを理解する事が出来る。けど自分は見る事も出来ないし,聞く事も出来ない」
「なるほどな,言われてみればその通りだ。以前にケーイリオン将軍からも他人は分かり易いが,自分は分かり辛いと言ってたが,そういう事か」
「メルネーポが答えと思った事が答え」
「んっ,エラン,それはどういう意味だ?」
「それは自分で考えた方が良いですよ」
「ハトリの言う通り」
「そうか分かった」
「ってか,随分とすんなり受け入れるな」
「エランとハトリが私の為に言ってくれた言葉だろ,私は私の為に言ってくれた言葉を弾く程に器が小さくないつもりだ」
「はいはい,そうかよ」
少し拗ねたような声を出したイクスにハトリとメルネーポが軽く笑うとエランも瞳の奥で微笑み映った欠片を散りばめていた。すっかり賑やかでのどかに為ったが何かを思い出したメルネーポは兜を手に取るとエランに向かって口を開く。
「つい長々と話してしまったな。それでは私は左翼の指揮をしに行かねば成らないのでな,エラン達も早くそのスフィルファの兜をケーイリオン将軍に届けると良い」
「うん,分かった。気を付けて」
「ありがとう,それではな」
そう言うとメルネーポは顔まで覆い尽くす兜を身につけると馬の鞍に括り付けてあったバルッディッシュを右手に持つと左手だけで手綱を操り馬を回すと,今度は馬の腹を蹴って馬を走らせてエラン達の前から駆けて行く。メルネーポを見送るとエランがイクスとハトリに向かって口を開く。
「私達もそろそろ行くよ」
「あぁ,さっさと将軍様に報告と行こうぜ」
「はいですよ」
イクスとハトリが返事をするとエランは両手でしっかりと手綱を握ると馬の腹を蹴ってハルバロス軍の本陣に向かって馬を走らせるのだった。
エラン達がハルバロス軍の本陣が置かれている場所は組み立て式に成っている木組みの柵で覆われており出入り口が一つしかないからエランが馬に乗りながら出入り口へ向かうと,イブレが待っていたかのようにエラン達を出迎えたのでエランはイブレの傍にまで馬を進めると馬から下りるとイブレがエラン達に向かって口を開く。
「お疲れ様」
「うん」
「いやいや,ハルバロス軍の補佐軍師様がこんな所に居る事自体が不自然だろ」
イブレの出迎えに全くいつも通りのエランにイクスは思わず,そんな言葉を発するがイブレは軽く笑ってから答える。
「ははっ,エランのおかげでハルバロス軍は一気に攻勢に出たからね。こうなると僕の仕事はエランを出迎える事だけだよ」
「サボってやがるな」
「サボりですよ」
「イクスもハトリも意地悪だね。それはそうと馬は僕が厩舎に連れて行くからエラン達はスフィルファの兜を持ってケーイリオン将軍の所に行ってくれないかい」
「うん,分かった」
エランはそれだけ言うと手綱をイブレに預けて天幕が立ち並ぶハルバロス軍の本陣へと足を踏み入れる。本陣に入る前からエランは気付いていたが,ハルバロス軍の本陣はかなり慌ただしく動く兵が多く,かなり騒がしくなっていた。そんな中をエラン達は平然と歩みを進める。
昨日も来たのでエラン達は迷わずにケーイリオンが居る天幕が見える所まで来たが,かなりの兵が本陣内で慌ただしく動いている為に途中で前を見ていない兵とぶつかりそうになったがエラン達は何の問題を起こす事が無く,ケーイリオンが居る天幕へ辿り着くと見張り兵が入口に二人,入口の両脇に立っていたのでエランはその一方に話し掛けようとすると兵の方からエランに話し掛けて来た。しかも律儀に敬礼してからだ。
「エラン=シーソル様ですね」
「はい」
「ケーイリオン将軍がお待ちですので,お入りください」
と促すのはあらかじめケーイリオンがエラン達が来たら入るように言っておいたからだろう。何にしても見張りの兵から入ってくれと言われたのだからエランはハトリの方に振り向くとハトリがスフィルファの兜を差し出してきたのでエランは兜を受け取ると左腕に抱えるように持ちながらケーイリオンが居る天幕へと入って行った。
「がはははっ! 来たかエラン,さあこちらに来ると良い」
天幕に入るとケーイリオンだけが居り,他の将などは全く見られなかった。そして天幕に入って来たエラン達を見てケーイリオンの第一声があのような言葉だからエラン達はケーイリオンの前まで進み出ると膝を付く前にケーイリオンが口を開く。
「よいよい,立ったままで良いぞ」
「はい,それではお言葉に甘えて」
ケーイリオンの言葉にエランが言葉を返すとスフィルファの兜をケーイリオンに差し出しながらエランの口が開く。
「ご命令通に,スフィルファを倒しました。首を取っている暇が無かったので兜だけを持ち帰りましたので,これをスフィルファを討ち取った証としてお渡しします」
エランがそう言うとケーイリオンはスフィルファの兜を受け取ると少しだけ兜を見詰めてすぐに横にある机の上に置いてしまった。それからケーイリオンは再び一笑いしてから口を開く。
「がはははっ! スフィルファを釣り出す為に最前線よりも前で奮闘した事も,そしてスフィルファとの一騎打ちも見事としか言い様が無い程だ。エランよ,其方の働きは実に見事だったぞ」
「ありがとうございます」
エランが礼儀正しくしていると何かを感じたイクスが声を発して来た。
「ってか,ケーイリオンの将軍様よ。その言い方だとまるで俺様達の戦いを見ていたかのように聞こえるぞ」
「イクス」
相変わらず礼儀という言葉すら知らないとばかりにイクスがそんな事を言い出してきたのでエランが制するとイクスは黙り込むが,ケーイリオンから驚きの言葉が出て来た。
「今日は誰も居ないからな,イクスを咎める必要は無いぞ。それにイクスが言った通りに実際にエランの戦いを見ていたのだからな,間違ってはいないぞ」
「見てたんかいっ!」
「別に構わぬだろ,それに途中でメルネーポと会っただろう,メルネーポもエランの実力を目の当たりにして態度を変えた筈だ。だからここでも今は気兼ねなく,気楽にしてくれ」
「そう言われてもな,その前にその言葉はとても軍の総大将様とは思えない言葉だぞ」
「構わぬさ,今はな」
「今なら良いんだとさ,エラン」
「確認しなくても分かってる」
調子に乗ったイクスがお仕置きが無い事と分かっているからこそエランに確認するように声を掛けるが,エランもそれは分かっているみたいで機嫌が悪くする事無く,いつものように平然と話す。
「連れの無礼を許してくれて感謝致します」
改めてケーイリオンに感謝を述べるエランにケーイリオンは上機嫌とばかりに一笑いしてから話を続ける。
「がはははっ! 別に構わぬ,其方の働きによる戦功に比べれば,その程度の無礼などは無いに等しいからな」
「イクスの事はどうでも良いですよ,それよりもケーイリオン将軍はよっぽど機嫌が良いですよ」
「エランの実力を目の当たりにしたのだから当然だな,がはははっ!」
イクスの無礼が許された事によりハトリも今だけは口を出してきたので,ケーイリオンはそんなハトリの言葉も全く気にせずに笑って流した。というよりも,この姿こそがケーイリオンの立場を捨てた本当の姿なのだろう。だからこそケーイリオンは将兵に慕われるのではないのかとエランが考えているとケーイリオンがエランに向かって口を開く。
「さて,エランよ。其方達の活躍は見事の一言に尽きる。スフィルファを倒すだけではなく,敵の右翼に大打撃を与えた事はスフィルファを倒す事と同じぐらい大きな戦功とも言えよう」
「はい,ありがとうございます。それと今回の戦功を上げるに至って私達だけでは無くヒャルムリル傭兵団にも大いに助けられましたので,そちらにも追加報酬を出すようにお願いします」
「ほう,流石はカセンネだな,既にエランに目を付けて共に戦っていたか」
「お知り合いでしたか」
「まあな,カセンネが駆け出しの頃に共に最前線で何度も戦った。それからハルバロス軍を贔屓にしてくれてな,立場は違えど戦友とも言える程だ」
「そうでしたか,それで私達への報酬はどうなりますか?」
「うむ,当然ながら追加報酬を出そう……だが,その前に更に我が軍で働く気はないか」
「契約内容によります」
「うむ」
エランの言葉に何故だか満足げな笑みを浮かべるケーイリオン,エランはそんなケーイリオンを見ながらも心は凪いでいた。まあ,エランは路銀を稼ぎにハルバロス軍に参戦したのだから稼げる時には稼いでおきたいという心理が働いてもおかしくはない。ケーイリオンはそんなエランの心理を読んだ訳ではなく,エランの実力を自らの目で見たからこそ話を切り出した,と言った方が正確だ。そんなケーイリオンの口から驚きの契約内容が提示される。
「ではエランよ。次はディアコス軍の総大将を倒せ,と言ったらどうする」
「っ!」
「って!」
ケーイリオンの言葉に驚きを示すハトリに思わす声を上げたイクス。まあ,それも仕方ないだろう。ハルバロス軍の将兵ならともかく一介の傭兵であるエランに敵軍の総大将を討ち取れなんて命令は傍から見るとハルバロス軍に泥を塗るような行為に見えるからだ。だが,そんな事を平然と口に出来るからこそ,今のケーイリオンがある。そしてその命令とも言える契約内容を聞いたエランが平然と当然の様に口を開く。
「承知しました」
と……。
さてさて,こうして無事に第六話の更新が終わりました。なので私としては一安心しているところですね。それに今回は久しぶりに昔使っていた表現を使ってみたので,以前の私が持っている良さが出れば良いなと思っている次第でございます。
さてはて,それにしても本編を書くスピードが一気に上がった気がするのは以前のように戻って来た証拠なのかもしれないですね~。まあ,やっと第二章のプロットも書き終わって,今では第三章の設定資料も作り終わったので次は第三章のプロットを並行して書いているところです。
さてさて,お気付きな方も居るかもしれませんが,今回はかなり珍しい所で区切りを付けました。まあ,あのまま区切りが良い所まで書いても良かったんですけどね。あそこで区切って次への期待感を与えられたらな~,と思った次第です。何にしても私の小説ではかなり珍しい終わり方ですね。まあ,これで期待通りに次の楽しみにしてくれたのなら私としては幸いです。
まあ,何にしても次も頑張りますって事でそろそろ書く事が無くなってきたので締めましょうか。
ではでは,ここまで読んでくださり,ありがとうございます。そしてこれからも気長なお付き合いをよろしくお願いします。更に感想などを頂けると幸いです。
以上,クーラーで25度に設定しているのに室温の温度計が27度を示している中で,この部屋はどうなっているんだろう,とか思った葵嵐雪でした。




