序章
夜の暗闇を邪魔するかのようにオレンジ色の光が広がり赤い光が揺らいで光は巨大な建物を覆い尽くし大量の熱を発しているのだから巨大な建物が炎に包まれて燃え上がっている事が分かる。
燃え上がっている建物の周囲には大地しかない荒野が広がっており他には目立つものは無いが炎の光からかなり遠のいた所に三人の人影があった。
夜の暗闇で三人の姿ははっきりと分からないものの大きく伸びきった影が炎の光で三人を照らしている事が分かる。一人は男性で杖を持っている,一人は少女で背中には身の丈ぐらいの剣を背負っていた,最後の一人は女の子のようであり少女にすがるように身を寄せていた。
「本当にこうして良かったんだね?」
男性が少女に尋ねると少女は目を細くする。それだけでも悲しげな表情にも見えたが少女は瞳を閉じてすぐに開くと頷いて決意が籠もった声で答える。
「私達が帰る場所はもう無い。だけど……名も無い姉妹達の為にここを焼き尽くす事が彼女たちの弔いになると思うから」
その言葉を聞いた男性が改めて燃え上がる建物を見上げる。
「確かにこうすれば数日程燃え続けて残るのは崩れ落ちた残骸だけになるだけど,それが彼女たちの墓標になるね」
「そう,それだけが真実を知った私に出来る事」
そんな少女の言葉を聞いた女の子が更に強く少女の腰に身を寄せると少女の背中から金属音が鳴ると少女の隣に居る男性とは違った男性の声が言葉を発してきた。
「まぁ,ここまでやっちまったものはしょうがねぇだろ。それにこうする事に意味があるからやったんだろ」
「……うん」
力が無い声で返事をする少女だが炎を見つめる瞳にはしっかりとした決意と覚悟が宿っていた。だからこそ少女は身を寄せている女の子を安心させるように右手で抱き寄せると軽く背中を撫でながら声を掛ける。
「今の私達に帰る場所は必要ない。追わないといけないから,だからケジメだけは付けておかないと」
「それは……分かっているですよ。けど……」
少女の言葉に女の子も言葉を発するが言葉を聞いただけでも分かるように不安に包まれている。そんな女の子に目を向けた男性が優しくもどこか聞こえが悪い声を掛ける。
「頭で分かっているのなら今はそれで良いと思うよ。心の方は時間が経てば少しずつ整理が出来てくるから」
「……分かったですよ」
「それにいろいろな事が一度に起こりすぎたからね。僕としても何と言って良いのか分からないし何でこうなったのかも分からない」
「……」
男性の言葉を追い掛けるように沈黙が支配すると炎に包まれた建物の一部が崩れ落ちた音が少女達が居る所まで轟いて来た。その音に驚いた女の子はとっさに少女から少し離れるが少女は安心させるかのように女の子を再び抱き寄せるとまた少女の背中から声が出てくる
「ったく,大体あいつらはなんであんな事をしやがったんだ。それに俺達にほとんど何も言わないで消えやがって」
明らかに誰かに関する文句なのだろうが言葉から察するにその文句に効果が無い事だけは確かだ。そんな文句を聞いていた少女が女の子を抱いていた手を離して今度は背中に背負っている剣の柄を軽く数回だけ撫でるともう一度女の子を抱き寄せてから少女は口を開いた。
「今は考えても意味は無いから追い掛けたいけど足りないものが多すぎる」
その言葉を隣で聞いていた男性の表情が少しだけ安心したかのように緩む,それは少女が自分自身をしっかりと理解している証拠でもあり,これからの事をする為には絶対に必要な事だから。そう感じたからこそ男性が少女に声を掛ける。
「こうなった責任は僕にもある。だから僕も協力するよ,それにこれからの事をする為に最初は僕も同行するから」
「うん,ありがとう」
男性の言葉に感謝の言葉を述べる少女だが暗闇ではっきりとは見えないものの表情がまったく変わってはいないと女の子だけには分かったようで男性もそれは察しているようだ。だがそれには意味すら存在しないからこそ誰も何も言わないので再び沈黙と炎に焼かれる音だけが少女の耳に入って来る。
沈黙に耐えられないのか気が立っているのか両方かもしれないけど再び少女の背中から声が響く。
「それで,これからやる事は決まってんだろ。どうすんだよ」
そんな声が響くと少女は女の子の背中を軽く叩くと女の子は少女から離れて袖で目を拭い少女は踵を返すと言い放つ。
「うん,もうここに居ても意味は無い,だから……行くよ」
未だに盛大に燃え上がっている炎を背にして少女は炎の光が届かない暗闇に瞳を向けると女の子が少女に続き男性が確認するかのように尋ねる。
「覚悟と準備は出来てるんだね?」
「大丈夫……とはまだ言えないけど決意だけは出来てる」
「というと?」
男性が再び聞き返すと少女は決意を込めた瞳で眼前に広がる暗闇を睨み付けるとはっきりと決意を口にする。
「私達は最強の剣になる」