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弥陀の剣~解縛で人を救う~  作者: SHO探偵事務所長
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尋ね人~消えた歌姫~

皆さま初めまして、今日から連載を始めました。


一般向けは初めてですが、最後まで頑張りますのでお付き合い頂けたら嬉しいです。




 私は東京の国立にある薄汚れたビルを前に躊躇していた。


 社命を受けて東奔西走し、最後に行きついたのがこのオンボロビルだった。


 『SHO探偵事務所』


 『ショー』と読むのか『エスエイチオー』と読むのかも分からない。


 学生街に探偵事務所というのも微妙に似つかわしくない気がする。


 本当にこんなところでいいのか?と不安になりながらも、既に方々手を尽くして問題が解決していない以上、引き返す選択肢はなかった。


 アポの時間も近く、遅れて印象を悪くすることもしたくない。


 ギギギと微妙に軋む音を立てて扉を開く。まるでバーの扉のように重厚な作りだ。


 中に入ると背の低い観葉植物が仕切り代わりになっていたが、直ぐに執務室になっていた。


 一番奥の席は所長席なのか他のデスクと違って少し大きめだ。


 真っ直ぐ入り口に正対する向きで、奥には40絡みの精悍な顔つきと逞しい体格の男が座ってパソコンに向かって何やら作業をしているようだ。


 手前には3つのデスクが向かい合わせで合計6個並んでいたが、一番手前の女性以外は全て空席だった。


 探偵事務所という仕事柄外出が多いのだろうと当たりをつける。


 私に気が付いた女性社員がスッと立ち上がってこちらに向き直り、朗らかに声をかけてきた。


 「SHO探偵事務所にようこそいらっしゃいました。ご用件をお伺いしてよろしいでしょうか?」


 そう言って声をかけてくれた女性社員はかなり若く、奥ゆかしい微笑みとスレンダーなスタイルが魅力的だった。


 仕事柄美しい女性達に触れる機会も多いのだが、その中でもかなりレベルが高い。


 「こんにちは。私、15時にアポイントをさせて頂いた小室と申します。」


 「小室様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ。」


 応接室に通され、席を勧められる。かなり質の良いソファーで座り心地は抜群だ。


 そう言えば事務所の什器もそれとなく高級感が溢れるものばかりだった。


 ビルの外側には金をかけないのだろうか等と考えていると、一度下がった女性がお茶を出してくれる。


 思わず連絡先を聞き出したくなる衝動をぐっと堪えてお礼を言って待つ。


 彼女の他に誰もいなかったのだから、きっと所長自ら対応してもらえるのだろう。


 お茶を一口啜って喉の渇きを癒すと、ノックと共に所長席に座っていた男性が入ってきた。


 「お待たせしました。私、SHO(ショウ)探偵事務所」の佐藤と申します。」


 そう言って差し出された名刺にはやはり所長の肩書が記載されていた。


 私も名刺を出して交換する。


 「初めまして、私プロダクション徳永の小室と申します。」


 お互いに挨拶を済ませて席に着く。


 自分の業界を棚に上げて探偵事務所の所長なんて半分やくざみたいなものかなと想像してきたが、佐藤の立ち居振る舞いは上品なサラリーマンのような印象が強い。


 「さて、本日はどのようなご相談でしょうか?」


 「はい。その前にここで話すことは秘密厳守でお願いします。


  なにぶん業界柄、風評が人生を左右することもありますので。」


 「当然のことです。我々も評判が大事ですから、よく分かります。」


 「ご理解頂きありがとうございます。それでは、早速本題に入らせて頂きます。」


 そう言って私はポケットから一枚の写真を取り出した。


 「このタレントはご存知でしょうか?」


 「ああ、歌手の『河原 友美』さんじゃないですか。


  有名なアイドル歌手ですからね。私も好きですよ。


  最近はあまりテレビも観ないのですが、どうかされました?」


 「実は今回のご相談は河原に関するものなのですが、彼女がもう1ヶ月も音信不通なんです。」


 「それは穏やかではありませんね。それでは、尋ね人ということでよろしいでしょうか?」


 「はい。ただ、それだけではなく、もう一つお願いがあるのです。


  噂で聞いたのですが、こちらでは通常の探偵業に加えて特殊な依頼もかなり受けて頂けるとか?」


 「よくご存じで。


  あまり大っぴらにはしていないのですが、確かに特殊なご相談に乗ることはございます。


  当所のモットーは『人を幸せに、ハッピーにしてお金を頂く』ことですから。」


 そう言って名刺を指し示すので見てみると、S(幸せ)H(Happy)O(Oro)と書かれている。


 「このO(オー)の部分は何ですか?」


 「それはイタリア語で黄金を意味します。


  単純にお金という意味もありますが、金は熱などで加工しやすい反面、錆びたり変質したりしない

 『不変』という特徴も持ち合わせています。


  幸せの形も人それぞれ、どんな形の依頼であっても人を幸せにできるならやり遂げたい、

  という当所の意気込みの表れでもあります。」


 「なるほど、深い意味があるんですね。」


 「いえいえ、話のネタにしたかっただけですよ。


  さて、脱線しました。小室さんがお考えの特殊なご相談とはどんなものでしょう?」


 「実は、河原が行方不明になった原因は失恋なんです。


  アイドル歌手という立場上秘密にしていたのですが、河原にはデビュー前から恋人がいました。


  その彼が河原の成功と共に徐々に荒れてきたらしく、最後に別に女を作った挙句に河原から大金を

  巻き上げて逃げてしまったようなんです。」


 「は~、それは大変でしたね。中々に酷い男のようですね。


  しかし、河原さんは諦め切れてなかったと?」


 「はい。芸能の道に進んでしまった自分が悪かったとか、


  歌手を辞めればまたやり直せるんじゃないかって思っているようでした。


  実は何度も他の探偵を使って探して連れ戻したのですが、このような状態だったので


  全く仕事に手が付けられず、結局また逃げてしまうということの繰り返しでして・・・」


 「なるほど、良く分かりました。それでは先ずは河原さんを探し出した上で男のことを吹っ切らせ、


  仕事に集中できるようにして欲しいということですね。」


 「その通りです。こんな依頼、本当に受けて頂けるのでしょうか?


  もう他に頼るところもなくて、今彼女に完全にこけられたら売上が激減するだけじゃなくて


  スポンサーからへの違約金も発生するので事務所は倒産してしまいます。」


 そう、本当にもう困り切っているのだ。


 彼女は今はドル箱と言える位稼いでくれているが、芸能界で人気を維持するにはスキャンダルは天敵だ。


 稼ぎ続けるには仕事を継続してスポンサーやスタッフとの関係を維持することが何よりも大切なのだ。


 誰もが上にいるものを追い落として自分が取って代わろうとしている中で隙を見せる訳にはいかない。


 今は体調不良で何とか乗り切っているが、既に訝しんでいる記者だって沢山いる。


 「もちろんです。但し、我々はあくまでも幸せを追求しますので、河原さんに実際にお会いして


  何が河原さんにとって本当に幸せなのかを良く見定める必要があります。


  ですので、まずはご本人を探した上で貴社と当所の三社でその後の方向性を決めるということでは


  いかがでしょうか?」


 むう、仕事を辞めさせて女の幸せを追求させることもあるというのか?


 そんなことは到底認められないが、確かに他人からの頼みで人の人生を左右するのは気が引けるか。


 「そうですね。まずは探して頂かないと、早まったことをされては困りますし・・・・」


 「畏まりました。では、書類を用意しますので少々お待ち下さい。


 そう言って出て行くと、2~3分で先ほどの美人事務員を連れて戻ってきた。


 「手続きを担当します牧原です。早速ですが、こちらの依頼書にご記入して頂きます。


  また費用としては尋ね人の場合、着手金として20万円、成功報酬で50万円に加えて経費を


  別途頂戴致しますが、宜しいでしょうか?


  因みに、この経費は旅費宿泊費等の実費のみです。領収証を添付の上でご請求します。」


 思ったより金額は良心的だった。


 これならリスクも殆どない。


 即決して早速依頼書を書いていくと、最後のご希望欄に『現場にご案内を希望する・場所の情報だけを希望する』という選択肢があった。


 怪訝に思って手が止まったのに気が付いたのか、所長が声をかけてきた。


 「最後の選択肢については今回は現場で皆集まるのが良いと思うので、案内の方に丸をつけておいて下さい。」


 確かに、単に見つかるだけでは駄目なのだ。


 仕事が続けられなければ意味がないのだ。


 最後の選択肢に言われた通り丸をつけ、鞄から現金を取り出して20万円数えて着手金として依頼書と一緒に渡す。


 億単位の金が動く案件なので数百万円程度なら自由に動かせるだけの権限をもらっている。


 依頼書の控えと領収証をもらい、契約が成立すると牧原さんの隣でパソコンを叩いていた所長が立ち上がった。


 「ご依頼ありがとうございます。それでは、早速河原さんのところへご案内しましょう。」


 「はい?」


 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。何を言っているんだこの男は?


 「心身ともに心配だから早い方がいいですよね?」


 「そりゃ当たり前だけどさ、そんな簡単に見つけられるんなら苦労しないよ!」


 思わず声を荒げてしまった。馬鹿にされている気分だ。


 「当所の所員は皆優秀ですからね。もう見つかりましたよ。


  こういうときばかりはITの発達に感謝ですね。


  いや、プライベートではパソコンも携帯もない方がいいと思ってるんですがね。ははは。」


 なんか訳の分からないことを言っているが、書類のやり取りをしている間に指示を出して早くも見つけたというのか?


 そうであればもちろんありがたい。この件で社長には酷く絞られているし、


 何より担当マネージャーとしてタレントのケアは営業やスケジュール管理に並ぶ大事な仕事だ。


 疑って問答している時間も惜しい。


 もし騙されたなら徹底的に顧問弁護士を使ってやっつければいいだけの話だ。


 「済みません、取り乱しました。直ぐに案内お願いします。」


 「はい。それでは参りましょう。確認ですが、お会いしてからの話はまたそこからですからね。」


 「ええ、分かっています。


  ですが、歌手になることを何よりも望んでいたことは私が誰よりも知っています。


  そのために頑張ってきたことも。だから大丈夫です。早く行きましょう。


  場所はどこですか?」


 「北海道です。」

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