本来の世界へ。
ここも同じか。
焦りの気持ちを抑えながらもヤーンの背中に乗って駆け回る。
どこも立ち枯れた木々と沼地だけで生命の痕跡さえ見えない。
焦って駆け回る俺の目に、ふと何か光が目に入る。何かが反射した光が様に思えてヤーンへそちらへと向かってもらう。
「待って!止まってくれ。」
それらしき場所で沼地に降り立ちしゃがみ込む。
すると、沼地に半分埋まった状態の半透明な石を発見し、掘り出した。
「それは!!」
ヤーンが叫びながら俺から遠く離れた。
ドクンッ!
何?
何か感じるような…
ドクンッ!!
やっぱり。
「ラル。ラル。飲み込まれるぞ!早くすて…」
叫び続けるヤーンの声も段々と遠くなりやがて消え失せた。
振り返ると、周りの景色が一変していた。
何が起きた?
ヤーンは?
ここどこだ?
美しい場所だった。
木々が紅葉して森には沢山の落ち葉がヒラヒラと降り積もって大地を様々な色に染めていた。
どうしてか、木々から言葉が聞こえてきた。
「落ち葉を助けて。」
「落ち葉が無いと世界が狂うわ。」
「落ち葉を盗む者を捕まえて。」
はっ?落ち葉を盗む??
何の事だ??
.混乱する俺の目の前から、落ち葉がゴッソリと突如消え失せた。
??
何が起きた?
何者が落ち葉をゴッソリ消えさせたのか?
だが、解決する目処も立たないまま落ち葉泥棒は何度も何度も盗む。
その間にも、木々から悲鳴に似た懇願が続く。
焦りから色々な魔法を使ってみたが全く変化なし。
サーチにも何も探知出来ない。
悲鳴は大きくなるばかり。
追い詰められた俺は、やがて魔力の殆どを使い果たした。
役立たずだ…気落ちしたせいか身体にも力が入らなくなりその場に座り込む。
俺なんて無力なんだ。
痛っ!!!!
突如、胸の真ん中から強い痛みが起こる。
あの種か?
胸に刺さって血が出てる。
ぼんやりその血を眺めてる内に意識が徐々にはっきりしてきて初めて気づいた。
全ては精神への攻撃だと。
気がついた途端に周りの景色は消え失せた。
何もない空間が広がるのみとなる。
嫌な予感に背筋に冷たい汗が流れる。
「ははは。気がついたか。
あの種は異種だからやっぱり君と同じで僕に従わないな。」
か、神さま?
確か俺を転生させた張本人では?
「なんと人聞きの悪い。させてあげたんだよ。
しかし、君は意外性の塊だな。諦めの悪さが特殊だよ。それにバカだ。
当たりを引いたのにこんな苦労ばかりで不思議に思わないとはな。」
なんだコイツ…
コイツの言う事は神さまっぽくない。
なんなんだ?
「今頃か?まあだから君は面白いね。
だけど、僕の計画に横槍ばかりではね。
世界を作りたかったけど、上手くいかないからやり直したかったんだ。」
横槍?俺の事かよ。
おい、神さまなら何でも許されるのか?
あり得ない。あり得ないだろ、こんな神さまは!!
「まあ、その足掻きもここいら辺で終わらせるから。あっ、言っておくけどあのヤーンとか言うのは上位精霊の仲間みたいなもんで我々とは違うからな。」
薄笑いの顔は、金髪碧眼の美男子のこの存在を歪めていた。
俺には醜悪にしか見えなかった。
敵わないけどそのまま敗けは無い。
戦おうとする俺を嘲笑して力を振るおうといたその時!!
ガラガラガッシャーーーン!!
まるで世界が壊れて振ってくるような破壊音と爆風で思わず身を屈めたがコロコロと転がされる。
凄い力だと戦慄したが、まだやる気までは失ってない。
回転が止まって目を開くと驚きの展開になっていた。
大きな手が空から伸びて目の前奴を摘んでいた。
奴は藻搔いていたがまるで相手にならなかった。
『すまんの。
悪餓鬼は捕まえたからお前さんは帰りなさい。
既に世界の手直しは私がしたから安心して戻ると良い。高橋桃次…」
最後は何と言ったのか聞き取れなかった。
ただ、その声こそが本当の神さまだとぼんやりと理解していたが。
気がついたら、紅葉した大地に寝転んだ俺をヤーンが心配そうに見ていた。
そこは、『秋の国』に相応しい色とりどりの紅葉が美しい森や山々。
「ただいま。ヤーン。」
ヤーンの遠吠えが、美しい山々に響き渡った。