ロダインで。ーエドの視点ー
「だから俺が言った通りだろ。」
「悪かったよ。噂は所詮噂と馬鹿にしていたからな。まさか本物の『蜂』が現れるなんてな。」
「あぁ、俺も背筋がゾクっとしたぜ。あの『蜂』だぜ。もう王家もおわりだよな。」
「しっ!滅多なことを言うな!最近じゃ近衛隊が出張って不敬狩りしてるらしいじゃないか…ある意味『蜂』の言い伝えを1番怖いのは彼奴らなのかもな。」
「お前なぁ。俺より物騒だな。あーくわばらくわばら。俺もう帰るわ。」
ロダインの北に位置するこの酒場は、タチの悪い人間が出入りするので有名な場所だ。
だが、それだけに取れる情報の価値も高い。
グレタと顔を見合わせて宿へと戻る。
今日の収穫は満足の行くものだった。
「エド殿。これは不味い事態ですね。正直まさか『蜂』の話に発展するとは思ってもいませんでした。本当でしょうか?」
不安げな様子のグレタは久し振りだ。
流石のグレタも『蜂』の言い伝えには勝てないのだろう。
蜂の言い伝えとは。
『蜂現れ王家の終わりを告げる。蜂に勝てるもの無し。』
『蜂』は世の乱れの象徴。
また、あの毒に効く薬はない。
また、攻撃も効かないとは人々が恐怖するのは当然だ。
だが、俺の考えは違う。
確かに今まではそうだろう。
ラルがいなかったんだから。
とつい思う俺はかなりヤバイのかもしれない。
「間違いなく蜂は出ただろう。被害が広がっていなければここまでロダインが荒れている状況の説明はつかない。だが、本当に不味いのは近衛隊の方だな。」
蛇の穴時代の頃と変わりがなければドウェイン王の命令と言う事はないだろう。
大方、近衛のアレッサ辺りの独断だろうが、街の住人はそうは思わない。
蜂への恐怖を甘く見過ぎだ。
このままいくと、住人と近衛隊の衝突もあり得るのか?
どうするか。
二人とも無口になり考え込んでいるとドタバタと凄い物音が下の方から聞こえてきた。
何か宿屋にあったらしい…
一階に降りると、二人の子供を抱えた母親が泣き叫んでいる。
「ねーあんた!助けておくれよ。
うちの子達が蜂に刺されたんだよ。この宿屋にはAランクの冒険者様が泊まってるって聞いたんだよ。お医者にも見放されてもう行き場が無いんだよ!」
見れば真っ青な顔色でグッタリとしている。
不味い、時間がない。
騒ぐ母親から二人の子を引き離すと、『特性万能薬』を使う。
また、ジェルドが改良して更にラルも何かしたらしい。
どこまでやりゃ気がすむやら。
驚く母親をよそに、二人はパッと起き上がって母親に抱きつく。
「「お母さん!!」」
良かった。間に合ったか。
ラル曰く
「これさ!ジェルドが凄い事したんだよ。だから俺も少し付け加えてさ!
もー死にそうな人もすぐさま元気って薬。
いいだろう?」
得意げなラルの顔を思い出し笑いしてると、グレタに小声で声をかけられる。
「エド殿。なんか凄い事になってますよ。」
喜ぶ親子にばかり目をやると、周りに人垣が出来てる。
あー、こんな所を何もラルに似なくてもな。
やらかしたか。
それから、夜明けまでグレタと二人で医者の真似事。大量に持たされた『特性万能薬』は『無限大』と称する謎の袋に入ってる。
この袋まで注目されない様にグレタに補助を頼みながら薬を飲ませていく。
翌朝になり、宿屋の主人が声をかけて止めに入る。
「お前たち、この命の恩人を寝かさないつもりか!徹夜でしかもだ。無料で治療して下さる有り難い恩人様をだ。それで良いのか!」
大声の先には不満も多少上がる。
そりゃ命に関わる事だからな。
グレタに目配せしてかなりの量の薬を取り出すと宿屋の主人を呼んだ。
「ご主人、俺たちの為にありがとう。
だが、彼らも命がかかってるんだ。諦められないだろう。そこでだあんたに頼みがある。
ここにこれだけの薬がある。これを一人一つづつあげて欲しい。
いいか。
必ず一人一つだ。
その間、少し眠らせてもらう。頼んだぞ。」
主人は、いたく感激して必ずやこの任務をやり遂げると旨を叩くと薬を恭しく預かった。
こうして、いつの間にかラルに影響された俺達は、蜂の退治と治療の二本柱で大車輪の活躍をする事になる。
蜂の退治は『新攻撃鳥』の出番となる。
彼らは知能が高くなり、的確に蜂を駆使していた。
だから近衛隊の事も後回しになる。
これが後に事件へと発展する…
大雪の知らせが届く頃。
俺達は、新たな局面を迎える事となる。