カエル変身!
クネクネの根っこは間違いなく足でした。
だって、今ものすごい勢いで走ってるからね!
しかも俺を拉致して逃走中。
最初は怒りで魔法をぶっ放しそうになったけど、『助け・兄弟』とくればそれも出来ないしな。
仕方なく行き先を尋ねたら、
『穴』
成る程、反対出来ねぇ。
大人しく周りの景色を見ると、赤茶色の土に草ひとつない異様な世界。
暇なので、ちょっと試しに。
『創造』
その名も『ダム』
まっ、前世の浅知恵だけど水と言えばねー。
スピードが早すぎて『無限大』から雪を出す暇もなかったけどね。
そうこうしているうちに、あっという間に泉の真ん中の穴に到着!
「しかし足が速い奴らよ。さすが『あの種』の兄弟だけはある。」
なんとヤーンが息を切らして追いついていた。
あっ。ヤーンの頭の上にカエル発見。
ヨロヨロしてるけど。
「で、何だってここに連れてこられたのかな。
ヤーン、分かる?」
すると、ヤーンではなくクネクネが肩を叩く。
クネクネが差し出したものは『赤い種』だった。
見下ろす穴はどこまでも深く暗い。
この場所にこの『赤い種』ひとつ投げるのも戸惑いもあり、もう二つ投げる事にした。
ぽいっと。
「あっ!ラルよ、お前そんな躊躇なく投げるのか?しかも他にも投げただろ。いったい何を投げたんだ。」
目が良いなヤーンはさすがだと思ってたら、またクネクネに拉致された。
ドドドドーー!!
走り去る俺達の後ろで爆音というか、地滑り音のした気がするがあまりのスピードに振り返れない。おいおい、行きよりめっちゃスピードが。
ちょっと揺れ過ぎて気持ち悪いかも。
「止まれ、ラル。」ヤーンが呼びかけるけど、それはこのクネクネに言えよ。
俺の自由は、気持ち悪くなる事くらいだから。
ちょうど半分に差し掛かろうとしたその時!
突風が吹きつけクネクネが倒れる。
倒れる寸前に、俺だけヤーンに向かって投げつけられた。
人型に変化していたヤーンが、俺を抱きとめると
『オーーーン!』とひと鳴きする。
上空に真っ黒な雲が沸き起こり稲光を放つ。
地上では、横殴りの突風が吹き荒れ立つ事もままならないが、ヤーンはその只中悠然と立ち尽くす。
空いっぱいに稲光が行き渡り、大粒の雨が降り出す。それはヤケクソに近いほどの雨が降る。もし当たれば小石を投げつけらたのと同じだ。
ヤーンがかなり俺を強く抱きとめるので、クネクネがどうしたのか?
あの穴のせいなのか?
何も様子を見る事が出来ない。
厳しい表情のヤーンに、事態の深刻さを感じて戸惑う。
あれを投げたからかな…
絶対、役に立つと思ったのにな。
海月族のゼルから貰った『月の雫』
赤い石と白い石。
だってゼルから『困った時にお使い下さい。』って渡されたからここだ!と思ったんだよね。
あっ!今気がついたよ。
『無限大』の蓋が開いてたよ。不味いかな?
あー、色んなものがこの風で飛ばされたような…
まーしょうがないか!
「もうすぐ収まるが、泉の方角から異様な気配を感じる。行くぞ!」
ヤーンは5mくらいある大きな犬の姿になると、背中に俺を乗せ走り出した。
風はだんだんと緩やかになっていた。
やがて泉に着いた頃には、青空にまた夏の太陽が眩しく光る夏の空になった。
が、こりゃどー言う事だ?
そりゃあの巨木の兄弟らしき赤い種だから泉の真ん中に巨木があるのは分かる。
でも泉が思ったより小さい。
それに泉の周りにクネクネが巨木になるのは分かるけど、地平線まで続くこの急成長中の『森』は?
ニョキニョキと音がする勢いで草や木が成長してる。ものの数十分で森完成ってカップラーメンかよ。
呆気に取られる俺の目の前に、ライナスが降り立つ。
「ラル殿。ご無事でしたか?」
ちょっ、抱き着くな!
数分遅れて皆んなが揃った。
「で、どうなったんだラル。まさかよく分からないとかでは無いよな!」
ハロルドの眼力が強いよ。
「いやー分かりません。俺のせいじゃないからな。あのクネクネと赤い種のせいだから!」
焦る俺にヤーンのトドメが。
「あの種だけではこうはならない。ラルは種以外も穴に入れたからな。」
う、裏切り者め。
秘密にしてくれれば良いのに。
「全ては、わしから説明しよう。」
誰?
白い長い髪と髭のロマンスグレーのそう、ギリシャの石像のようなハンサムがいたよ。
穏やかな表情で見てるけど、何でこの世界もハンサム率が高いのかね。
「ふふふ。お主は相変わらず頓珍漢な事を考えておるの。まあそれだからこの世界も救われたのだろう。
キョトンとした顔をしてどうした?
ラル以外の者達は薄々気づいておるがの。」
あー、俺にクイズは無理!簡単ななぞなぞも解けないから。
「カエルじゃよ。
この世界の神さま。雲の化身・天候を司る神よ。
まずは礼から言わせてくれ。
ワシの呪いを解いてくれて誠に有難う。
お陰でこの世界は、完全なる姿を取り戻したよ。」
なんと、カ、カエルとは。
やっぱ呪いを解いて現れるのは美女が定番だと思うのにーー!!
ま、説明が長いから簡潔にまとめると、
怒りを持つと神さまは力を失う。
次元の歪みは呪いを発症。さらに世界が荒れた。
そこへ泉の穴に入れたあの『赤い種』
きっちりと穴を塞いで緑の種が泉の周辺から徐々に緑を広げていく。これが本来のストーリー。
そこへ俺が別の物を投げたからさあ。大変。
しかも神さまの中でも最高峰の月の神さまの力の宿った石。
あまりの力の強さに一瞬で解呪されたが、反動で嵐を引き起こした。止められない困惑のその時!
地上から物凄い力の波動が起こり、その影響で漸く本来の姿に戻ると。
「いったい何を投げ入れたのですか?」とコーティ。
「ゼルに貰った石。」と俺。
「地上には何を撒いたのですか?」とゴウライ。
「あれ。あれは『無限大』の蓋の締め忘れたんだよ。色んな物を入れてたから何が飛んだのか分からないけどさ。ま、結果良ければ全て良しだしな!」
と胸を張る俺。
拍手をやたらするライナス以外は、疲れた表情で肩を落とした。
「ワ、ワシを止めたものが落し物…」
カエルは、ロマンスグレーになっても煩い。
とにかく、日も暮れてきたのでテントへと戻って明日から再度調査する事にした。
そう言えばジェルドとラースは、寝込んでるらしい。万能薬を使えない精神的疲労らしい。
ーその晩ジェルドとラースの寝室ではー
「起きておられるか。」
「ええ。目は冴えていて眠れません。」
「 私は考え違いをしていたようだ。植物こそこの世界の要だと。」
「ラース氏よ。私はその考えは間違ってないと今も思います。ただ、我々の腕は思ったより短かった。
未知の意味を理解出来てなかったのです。」
「全ては私の責任です。『春の国』から新種である意味も考えず持ち帰り沢山枯らしてしまいました。挙句にあれです。
あの緑の種は自分の意思で成長する。それも脅威のスピードで。あのままのスピードで成長したら3日のうちに我々の世界は全てあの緑の種の世界となったでしょう。」
「…」
「しかし、ラル殿のお力は凄い。
彼がこの世界に蒔いた色々な種が、万能肥料と融合して新種となり緑の種より勝る木々の森が生まれるとは。それも、うっかりで…」
「「…」」
バタン!
「あっ!寝てなくちゃダメだよ。
これさ、春の国の名物『紅茶』。
美味いから飲むといいよ。俺も落ち込む日はこれ飲んで元気出したから。じゃ!」
バタン!
ズズー。ズズー。
ふー。
その後、エルドの街に『心の薬』と題して『紅茶』が出回り流行ったのはしばらく後の事…