ラル殿の『種』ージェルド視点ー
「こんな!こんな馬鹿な!」
叫び声はドアの外まで聞こえてくる。
続いては、呻き声だ。
どうしよう。
ドアを開けるのを躊躇してしまう。
「誰だ!!ドアの外で様子を伺ってる奴は!
また興味半分に覗きに来たか!!」
しまった。
躊躇したいるうちに怒らせてしまうなんて。
今更だけどノックをして入る決意を固めた。
トン…
ガチャ。ノックの途中でドアは向こう側から開いたが、それと同時に水が降り注ぐ。
バジャン!
「お前たちいい加減に…」
怒声は段々と静まり沈黙が流れる。
「あのー。は、初めまして。
私の名前は…」
またまた言いかけて途中で早口でまくし立てられる。
「あー、なんていう事だ。
あのジェルド氏にお越し頂いたのに私はなんて事を!!こんな事ってあんまりだ!
私の尊敬してやまないあのジェルド氏が来て下さったのに水をぶっ掛けるなんて!!」
頭を抱えた大柄な獅子族のその人は、座り込んで動かなくなってしまった。
「先生。いい加減にしないと本当にジェルド氏に風邪引かせますよ。
さあ、このトンマは放っておいてこちらへどうぞ。あっ、私の名はクリフと言います。このトンマの弟子です。よろしくお願いします。」
奥から進み出て来たのは、獅子族の子供だ。
ラース氏を乱暴に退かせると私を奥に招いた。
風魔法が心地よくびしょ濡れの身体を乾かしていく。口は悪いがチラチラ、ラース氏を横目に見て気にしてるのが微笑ましい。
思わず笑ったら、ラース氏が突然立ち上がって叫んだ。
「おー、ジェルド氏の笑みとはなんと貴重なものを。これは植物学者連盟ジェルド氏愛好会に報告しなくては。」
何?小声で聞こえにくかったけど。
立ち直ったラース氏は立ち上がると2m以上はある巨体だ。筋肉の鎧で出来た戦士のそれだ。
興奮する緑の目はキョロキョロ動き私を見つめる。
ようやく驚きの連続から立ち直って、ラース氏に手を伸ばして挨拶をする。
「あの。初めまして。
エルドの街で薬草研究をしており…」
「いーや。皆まで言われるな!
ジェルド氏の事を知らない植物学者は、モグリ。
私は、獅子族で植物学者をしておりますラースと言うもの。先程は手違いとは言え水をぶっ掛けるなんてこの通りです。お許し願いたい。」
土下座をしようとするラース殿を押し留め慌てて話しかける。
「ま、待って!!
土下座は勘弁してください。
獅子族で冒険者としても名高いラース殿の事は私の方こそ存じております。
今日突然伺ったのはラル殿から異世界の植物を持ち帰られたと聞いて出来れば拝見したいとお邪魔した次第です。」
土下座しかけていたラース氏は植物の話になった途端、目を輝かせたと思ったらまた、しょげた。
「この度、念願叶ってラル殿達に同行させて貰える事となりました。異世界の植物は全て新種というあり得ない状況に胸躍らせて採取に明け暮れました。
ところが。この有様です。」
彼の指差した方向には、机の上に枯れた草が多数置かれている。
やはりか。
次元を超えられる植物はなかなかいないのか。
「ですがたった二つだけ種の状態で生きたまま次元を超えました。見てください!」
小さいけれど艶々した緑色と真っ赤な種。
希望の種だな。
二人でしみじみ眺めていたら、突然ノック無しでラル殿が入って来た。
「見てくれ!これ、俺のポケットの中に入ってたんだよ。たぶん春の国のものだと思うんだけど、何の種かな?」
小さな真っ白な種は、何か独特な雰囲気を感じ二人で顔を見合わせた。
「ラル殿。良ければ預からせてください。」
ラースの問いかけに「頼んだよ。」答えると足早に部屋を出て行く。
ふー、いつでも嵐なような人だな。
あれ?いつもラル殿と一緒に行動するヤーン様が立ち止まってこちらを見ていた。
「お前たち。
その種を舐めると大変な事になるぞ。気をつけろ。」
そう言い終えると、悠然と部屋から出て行くヤーン様。後にはキョトンとした我々が残った。
そう。
この忠告は大変重要なのでものだったのだ。
それから数日後、ラース氏の呼び出しに再び訪ねると憔悴した顔色のラース殿が待っていた。
原因はあの『種』だった。
「こんな事、植物学者になってはじめてのことです。間違いなくこの『種』は生きています。しかも厳然とした意志を持っている。」
机に置かれた『種』は、双葉も出すことなく変化は見られない。
そっと手を伸ばして、驚く事になる。
逃げた!!
間違いなく、こちらが認識出来ている。
もう一度。
やっぱり逃げた。まさか…
ラース氏がやっぱりと小声で呟いた。
聞けば研究室中を逃げ回り、触れる事すら出来ないと。
二人で顔を見合わせたその時!
「おーい、俺の預けたあの植物はどうした?何か分かったか?」
と言いながらラル殿が入って来た。
!!
二人はびっくり顔で固まった。
「どうしたんだよ。ジェルドまで変な顔して。」
苦笑いのラル殿に指を指す。
隣を見るとラース氏も同じ場所を指している。
「ん?なんだよ。何か付いてるのか?」
ラル殿の胸元には、あの『種』があった。
間違いないあの『種』の方からララ殿目掛けて飛び込んだ。
脂汗が流れる。
「ラル殿。その種は危険です。そのまま廃棄する方が。」とラース氏が言いかけると『種』の色が変化した。真っ赤になったのを見て慌てて付け加えた。
「ラル殿。その種を大切に空間魔法でしまってください。」
キョトンとした顔をしつつもラル殿が仕舞うと、空気が変わった。
呼吸までしやすくなるなんて。
何で力を持った『種』なんだ。
「で、どうしたんだ?」とラル殿。
「お願いです。絶対にあの種を使わないで下さい。危険ですから。約束して下さい。」
懇願する我々に苦笑いのラル殿。
はー。果たして分かってくれたのだろうか?
それからしばらくして、再びラル殿は次元の向こうに…
あの『種』に選ばれたラル殿だ。
大丈夫だろう…と、思いたい…
その後、私とラース殿はあの二つの種を育ててまた、新たな事態に遭遇する。




