『迷いの森』で(視点 ドルー )
鬱蒼とした木々が細い道を作る。
空を見上げても何処までも伸びる枝に阻まれ空の色すら見えはしない。
「うーん。」
振り返るとラル殿達が気がついたところだった。
「大丈夫ですか?何処か痛めたりしていませんか?」
「大丈夫だよ。ドルーも平気?」
「はい。全く問題ありません。」
ふふふ。
いつも人を一番に気遣うラル殿。
我ら獣人の身体スキルは、別物と分かっていても声を掛けるのがラル殿流。
それにしても、無事で何より。
ラル殿は、魔力もそのスキルも、ましてや頭脳なんて全く桁の違う天才なのだが身体の鍛え方があまりに足りてない。
おそらく、魔力で解決する事が多かったからだろう。
「不味いよ。またサーチが使えない。最近このパターンが多いよね。エドのスキルはどう?」
「いや、俺も同じだ。アナベルもか?」
頷くアナベル。
どちらが前なのか分からない状況だが、ラル殿には何か手掛かりがあるらしい。
「何度も言ってるけど、遠吠えがね聞こえるんだよ。だから皆んなはついて来て!」
サクサクと進むラル殿の姿に、少し不安を覚える。エド殿が目配せをして来た。
「ドルー。たぶんラルを引き寄せようと考えているここの主の声だろう。となると俺たちは邪魔。かなりの用心が必要だぞ。」
やはり同じ結論に達していたか。
ラル殿を常に支えるエド殿の機転と指示の確かさは俺には非常に勉強になる。
出来れば将来狼族を率いていきたい者として、なるべく学びたいと今回も参加を申し出た。
まぁ、かなりの高倍率で父の力を少し利用したのは否めないが選ばれて本当に幸運だ。
考え事をしていたら、ラル殿の声が響く。
「腹減ったよ。飯にしよう。
俺、ララのご馳走また持ってきた。あっ!!
やられた。
また空間魔法が開かないよ。」
しょんぼり落ち込むラル殿。
コト、ご飯に関しては執着心の物凄く強いラルをは、何よりララ殿のご飯が好物。
食べると途端にご機嫌になるから分かりやすい。
「ほら、これを食べとけよ。」
エド殿はこんな場合を見越して我々の装備に食糧や薬を持たせていた。
ラル殿の目が釘付けに。
「あー、これ大切に取ってたマフィンじゃん!
勿体ないような、いやでも今こそ食べる時だよね!」
自己完結を呟きながらマフィンを笑顔でパクつく。
俺たちも手渡されたマフィンを頂く。
確かにララ殿のご飯は格別。ブームになるのも頷ける。
少し先に進むと二股の道が現れた。
どうした事か、ラル殿が突然立ち止まった。
「エド。どうしよう…何も聞こえなくなったよ。
どっちに行けばいいのか分からない。」
「印を付けて取り敢えず進むしかない。はぐれないように。」
気を取り直したラル殿の掛け声に全員が頷くと先程より慎重に進む。
ガサガサ。
木々の出す音が不気味さを増す中、キャッ!とアナベルの短い悲鳴が聞こえて慌てて振り返った。
いない。
ライナスと俺の間を歩いていたはずなのに。
ライナスまでいないとは。
「ラル殿!後ろが居なくなって」
俺の言葉もそのまま途切れた。何故なら前もまた、誰もいないから。
なぜ?
先程まで全員いて。
エド殿の危惧が現実のものとなった。
せめてラル殿とエド殿は一緒であると良いのだが…
一旦止まって、考えを纏めようとしたその時!
「あぁ、ドルーはいつまで経っても父親の影から抜け出らないな。」
声がして振り向いて驚いた。
信じられない事に、ぼんやりとした靄の中にボロゾアの司令本部が見える。
こんな事って。
「そう言っては、ドルー殿に失礼ですよ。彼なりに頑張ってラル殿から何か得ようと模索中なのですから。」コーティーの声だ。
庇うのはいつも彼。だからこそかえって傷つく事もある。今がそれだ。
「ですが、ここ一番に 頼りするにはね。いつも誰かの賛同や指示を待ってる。自分の責任で指示を出す事がない。あれではついて行く者がいないのも無理はない思いませんか?」ゲイル。
「ええ、自信のなさが丸見えでついて行く私自身が不安に襲われます。」セシリア君もか。
そこに居る皆の肯定を受けてコーティーの話で締めくくる。
「責任は重いもの。だからこその代表です。
能力よりも、先見性よりも判断する責任に気がついて貰いたい。
彼の成長を待ちましょう。」コーティーが締めくくる。
その後、俺についての話は終わったようで、それぞれの配置場所へと離れていく
やがて靄は消えた。
そこには、まだ元の細長い道があるだけ。
今見たものが頭から離れずその場に座り込む。
真実は何と深く刺さるのだろう。
しばらく動けなかった。
責任。
責任とは?
今の自分の責任とはラル殿。
そうだ、彼を探さなくては。
迷いを飲み込んで、前へと進む。
程なくしてアナベルを発見!眠らされてる。
怪我はないようで安心したけど目を覚ます気配がない。万能薬も役立たずとなってる。
バラバラにされた俺たちに、様々なアプローチを仕掛ける。
ここの主の力の強さとラル殿への執着心を改めて感じる。
アナベルを背負い先に進もうとする俺の耳にエド殿の呻き声が短く聞こえた。
狼族の耳を立て、音のした方へ。
いた!
エド殿と誰かが戦っていた。
「しつこいぞ。ルーティーの姿を借りて襲って来るとは。おい、ラルはどうした?」
相手側は、人族の男だ。ナイフを独断のポーズで握り隙を狙う。
「裏切り者よ。黙れ!お前を育てた蛇の穴を抜けて、勇者の仲間入りか?
お前の悪行を知ったら、あのラル殿とてどうかな?」
「ふふふ。幻影よ。俺の心を読むか。
まあいい。ラルは知っているさ。俺自身の事もルーティーが蛇の穴の刺客だと言う事も。
そんな事今更恐れたりするものか!」
エド殿の態度は、先程の幻影に捕まった俺とは違い、落ち着いている。
その後二人は激しく戦うものの、ラル殿の与えたエド殿の装備に一点の曇りもない。
完璧に相手の攻撃を防ぐ。余裕のエド殿が躱すので決着が先延ばしなのだろう。
「このやろう!情けをかけてるつもりか。
何様だ!!」
「情けなどではない。幻影の中にここの主のヒントを探したまで。流石に見つからぬな。
では!」
エド殿の投げた小型ナイフが其の者を捉えた。
足を刺され倒れる。間違いなく毒だな。
容赦のなさが、エド殿の本領だ。
ジワジワ効くタイプの毒に倒れた相手に重ねて尋ねる。
「ラルを何処へやった!」
ルーティーという者が、靄の中に消えゆく瞬間
『ラルは、私のところだ。』
全く聞き覚えのない声が答えた。
「ドルー、待たせたな。」
振り返ると俺に笑顔のエド。
「今のところラルに危険はないだろう。
俺たちが主の元へ行くのを阻む気だ。どうするか。」
考え込むエド殿に先程の幻影との対決を思い出していた。
これが覚悟の差なのかもしれないと。
「まずは、ライナスを探そう。」
俺の提案に。
「そうだな。ラルへの道より早期に発見出来る可能性があるし。さすがドルー。ラルばかりの俺とは違って落ち着いてるな。」
それからまもなくライナスが暴れているのを発見。幻影と戦って傷だらけになっていた。
ラルが、ライナスに毒ナイフを掠らせ気絶。
「この毒は、眠りにつくのみだから。安全だぞ!」
苦笑いのエド。
二人で作戦を立て直す為に立ち止まる。
「闇雲に歩き回るのは危険だな。」エド。
「二人の目覚めを待って、あの祠から持ってきた物を今こそ使う時かと。」
祠にあった一房の毛。
匂いを辿れば…たぶん。
「ドルー頼むよ。」
今こそ狼族の特質を生かす時だろう。
二人の目覚めを待ちながら、今一度考える。
代表になるのでない。
狼族の中にあって何が出来るのか。
何が求められてるのか。
自分の中に生まれた、新しい思いを今一度噛み締めながらライナスの手当てをした。




