『大森林』へ。
ここは、西の砂漠の入り口『フトナ村』。
砂嵐が有名なこの街は、今では『大森林』への入り口として宿場ばかりが栄えていた。
無謀なる冒険者は何処にでもいて、だからこそ生存確率は低い。だが、この『大森林』に限っては完全なる0%だ。
戻って来たものは未だない。
そんな街の外れの民家に一塊の集団の姿があった。
だが、昨日街中まで押し寄せた魔獣らしきものの被害に街は騒然としており気にする者もいない。
「ライナス殿が来られました。これで全員が揃ったようです。」
ナイゼの声掛けに一同が頷く。
「早速だが、鷹族の調査結果を発表して貰いたい。」
エドの声にライナスが頷く。
肩で息をしているところを見るとかなりの無理をして来たようだ。
「鷹族総出の調査は、かなりの精度を上げたつもりです。それでも細部は全く手付かずの状態である事を最初にお詫びしておきます。」
軽く頭を下げて、話を続ける。
「この『大森林』は、大きく四つの区画に分けられます。その基準は季節です。
あり得ない状況ですが、春夏秋冬に分かれてそれぞれの森の状況もかなりの変化が見られます。
また、密集しているとは言え今まで存在していたオアシスや廃墟のあった痕跡は一切ありません。
まるで、異世界のような感覚を覚えます。」
ライナスの言葉に辺りが騒つく。
「植物学者として申し上げたい。」と切り込んだのはラース。
今回初参加の植物学者ラースは、デジブルの出身だ。厳つい身体に見合わず細やかな調査に定評があるらしい。
「入り口付近の調査のみですが、今回ハッキリと言える事があります。
この『大森林』の全ての植物はこの世界に今まで存在していないもの。
とにかく現存するどの植物の性質すらない。
ライナス殿のおっしゃる異世界の意味が良く分かります。」
やっぱりあの時の…
ラルの脳裏に魔王との戦いで飛ばされた、あの記憶が脳裏に浮かんだ。
あれは高校の図書館だった。
だがこれが現実の筈はないと断言出来る。
何故なら自分の出た高校は既にないからだ。校舎すら取り壊しになってない筈なのに。
なぜ?
通い慣れた図書館には、いつも読んでいたSF小説が並んでいる。変わらない風景はあの頃の記憶を呼び起こす。
懐かしい…
ハマりにハマった小説に目が行く。
ロングヒットのその本は100巻を超える巻数が発行されている。
背表紙に触れながらあの頃の自分を思い出す。
たぶん自分の本好きはこの時から始まったのだろうと。
しかし何でここ?
天国って思い出の場所なの?
「君の記憶の中にある場所にしたんだよ。
どうだい。当たりを引いて良かっただろう。楽しんでたよなぁ。」
振り返ると金髪の少年がこっちを見てる。
か、神さま??
「ふーん。少しは記憶があるのか。
あのね、そりゃ当たりだからそこそこチートも付けてあげたさ。だけどやり過ぎ!
あぁ派手だと空間がねぇ、 歪むんだよ。
だから、後の事頼んだよ!」
何?
色々不満はあれど、それより疑問が!
『後の事頼んだ』って何だ!!
おい。消えるなよ。
どうすりゃいいんだ??
『だから異変が起きる前に対処してね。』
既にその姿はなく頭の中に言葉だけが響く。
しかも図書館であった空間すら歪みだし、自分の身体もそれと同じく人間とは思えない角度で身体が捻れていく。
だ、大丈夫か?俺!
その有り様を見てあまりの光景に、もどしそうになる。
やめろー。視界の暴力だよ。
勘弁してくれーー!!
でも俺の叫びは、虚しく辺りに響くのみ。
突如出現した空間の裂け目に、身体を引っ張られて結局海に落ちた。
思い出しながらも、その事を誰にも言えずにいる。なにせ、口止めの魔法らしきものがかかって俺が言おうとすると口が開かなくなる。
うー。
エドにすら打ち明けられず今に至る。
だが出発の時が迫る。せめて。
何も言えない悔しさから俺はある発明をした。
力を借りる皆んなの安全をどうしても確保したかったから。
「これ。皆んな身につけてくれ。」
小さな耳飾りは、前に俺が貰ったものを参考に作った。
首を傾げる皆んなにこの発明品の性能を発表する。
「『万能君』だよ。
これの性能は、まず何処にいても通信が可能。
地下・海・建物。あらゆる場面で双方向に通話出来る。因みに場所特定も可能。
続いては、バリアシステム。全自動バリアが0.001秒の速さで掛かる。
物理的・魔法的・毒や状態異常などあやゆる場面でバリア作動。
万が一の怪我や病気も自動システムで治癒。
それに意識喪失時は、エルドの地下都市へ自動転送装置ともなる。
便利だろう。人数分あるから配ってくれ。」
エドの諦めた顔以外のびっくり顔が俺を一斉に見つめる。
とにかく全員が無事に帰還する事が重要。
その他の諸注意を互いに確認してとうとう『大森林』へ。
道なき道を切り開くのは、ドルーとナイゼと俺。
魔法を温存しつつ、刀で森を切り開く。
最後尾には、アナベルとライナス。
刀は、土竜族から贈られたロングソードを使用中。他の皆も同じように土竜族の刀を持つ。
形は色々だが土竜族の作った刀には、ある特徴が。
それは主人を選び・守り・己で動く。まさに精霊の宿る刀となる。
つまり、俺はロングソードを持つだけで良し!
あっさり、武人の仲間入りなのだ。
ちょっと嬉しい。
そんな訳でサクサク進んでいると、やがて拓けた場所に出る。
「あり得ない。上空から全く感知出来ない空間とか。」ライナスの呻き声が聞こえ全員で警戒態勢を強める。
丘のような場所を進むと、やがて石畳のある道となり遂には並木道が現れる。
並木道の先には、小さな煉瓦造りの建物がある街が見えてくる頃になるとあまりの異様さに引き返そうと思いつく。
「戻ろう。このまま進むのは良くない。」
エドの言葉に全員で駆け出す。
だが、どんなに走っても並木道は終わらない。
丘も森も既に何処にも見当たらない。
やがて隣町らしき場所に到着する。
ここまで来ると全く別の空間に入ったと気がついた。
「我ら『春の国』へようこそ。」突然の声掛けに全員が振り向く。
街の正面に一人の人物が待っていたのだ。
いや、人物と言うのはちょっと語弊がある。
眼鏡をかけ赤いベストを着こなし、パイプを片手に持つその姿はなんと二本足で立つ犬。
獣人ではなく、全身『犬』。
街を見わたせば、様々な犬種の犬が二本足で行き来をしている。
唖然とする俺たちに迎えに来た犬が喋る。
「貴方方もここに閉じ込められましたな。まあ、こちらへどうぞ。美味いお茶などご馳走しましょう。」
全くついていかない頭の中身に更なる打撃が一発!
閉じ込められた??
えーーー!!!




