エルド・ギルドセンター本部にて
「これがあの有名なエルドの街なんだなぁ。
俺。今めっちゃ感動してる。わーー。門がデカすぎるだろう。どれだけの長さがあるんだ?」
俺の上擦る声に、落ち着いた返事がかえる。
「タッド!何度も言ってるだろ。高さは80m長さは10kmにも及ぶ巨大な大門なんだって。
それに門って言っても、その中には簡易の宿屋や、取調室。それに牢獄もあるって噂だ。
だけど、取り調べ自体は簡易であっという間らしい。どんなんだか分かんないけど。」
シャノンのエルド情報は確かだ。
とにかく暇さえあればエルド・エルドと言い続けてきたんだから。
「お前さん達、エルドは初めてかい?
そうか。よし、このルルド商会と取引もあるレンベル商会のレンベル様が教えてやろう。
いいか、よく聞けよ。
第一にこのエルドの街の防御体制は完璧だからこの街に入る事自体は難しいこっちゃない。
あっという間よ。
大門での取り調べは、『調べ鳥』がやる。
聞いた事ないだろう。
これが凄いんだよ。
ただ通り過ぎるだけで取り調べ終了なのに、絶対に不審者を逃さない。
いやぁーさすがエルドの加工部だよな。
まあ、緊張しないで楽しんで来いよ。」
小さな馬車を引く若い男は、自慢気にエルドの街を紹介して去って行った。
二人は顔を見合わせる。
あのルルド商会と取引のある人なんて。
自分達も凄い人物に出会えたと手放しで喜ぶ。
男の言う通り確かに一瞬で取り調べは終了。
ただ単に歩いて通り過ぎただけなんだから。
門から出てシャノンが手帳を開く。
「確か、門から少し歩いて右へ曲がるって。
大きな建物だからすぐ分かるみたいだよ。」
『エルド手帳』と書かれた黒い表紙の手帳には街の見取り図や施設の名前。
それにお土産品などあらゆる情報を書き留めてある。これなら迷わない筈だとシャノンが笑う。
とにかく広い街だと大人達が口を酸っぱくして言っていたから。
美しい並木道には色んな色の石が引き詰められている。石畳みの美しさに驚きながらも、忍び足で先へと進む。うっかり強く踏むと怒られそうな綺麗な石畳だから。
「おい!あそこだよ。たぶんだけど。」
シャノンの声に、一層の高揚感が宿る。
憧れのエルドの街のギルドセンター本部。
見上げるほど大きな建物のその中には、本格的な訓練所・武器商会や防具屋。宿屋に下宿屋まである。
もちろん、酒場や食事処なんかも数軒あってどこも絶品料理だとか。
だが、大きな扉は、重厚な装飾が施され自分達の村の側のギルドセンターとはまるで違う。
ボロボロの木の扉くらいしか見た事のない二人には手で触る事さえ緊張してなかなか出来ずにいた。
その時!!
「おい、何やってるんだ?早く中に入れよ。」
と後ろから声をかけて来る人物がいたから、びっくりして数ミリ飛び上がった。
「な、なんだよ。急にこえを掛けてくるなよ!」
強がりの怒声を飛ばしながら振り返るとひとりの少年が立っていた。
背は平均からすると結構低いし、筋肉もなさそうだ。しかも年が若い。たぶん自分達と同じくらいだろう。
「あっ、ごめんごめん。驚かして悪かったよ。
それより中に用事があるんじゃあないのか?」
あっさり謝る少年に、トンがった自分が恥ずかしくなり「いや、俺も怒って悪かった。」と素直に詫びた。
少年は、このギルドセンターに一緒に入ろうと言い出した。
「いや、だからね。俺は何度もここに登録しに来てるんだけど受付済ます前に邪魔が入るからさぁ。全然受付終わらなくてさぁ。
だから、今日はこっそりとやってきた訳。
お前達も冒険者に登録しに来たんだろ?」
少年の問いかけに素直に頷くと、何故か嬉しそうに笑う。
「いやぁ、他の村や街でも評判良いのかぁ。
嬉しいなぁ。」
とか言いながら。
まあ、分からないでもない。自分の住む村や街が褒められるとウキウキするから。
たぶんこの少年は、地下都市の住人だろう。
肌の色が焼けてないから。自分達は畑の手伝いで真っ黒に日焼けしてるのに。
少年と一緒に扉を開けて入ると、中は受付カウンターが長く幾つもある。
あまりの大きさに戸惑わないように、看板が受付の前に下がっていた。
買取カウンター
冒険者受付センター
調査依頼書一覧(ランク別)
初心者受付センター
ランク昇降検査センター
ランク試験受付
ランク試験合否発表所 等
今まで見た事もない厳つい冒険者達がそれぞれ自分の目的の場所へと向かうのを見ながら頬を赤く染める。なんてカッコいい。
もしかしたら、BランクやAランクの人かも。
完全なるおのぼりさんの出来上がりだった。
だって…
ここには、あの伝説のSSランクも所属しているらしいし。更に噂では勇者ザィラード様さえ出入りしているとか。
生唾を飲み込みながら俺とシャノンは初心者受付センターへ向かう。
するとあの少年がこっちを見て手を振っていた。
「おーい。こっちだよ!」
大きい声過ぎるのか、一斉に皆がこっちを見る。
あれっ?
まさに凝視されてる。あの少年は何度も来たって言っていた。それでここでは有名になったのか?
少年を見る皆んなの目が、これまで一度も見た事のないものだ。
戸惑いはシャノンも同じだったらしい。
「おい。やばい奴なのかもしれないぞ。
どうする?俺たちには、時間がないし。
2日後には種まきがあるからそれまでに戻れって親父から厳命でさぁ。」
あぁシャノンもか。
二人でとにかく少年は無視して受付に向かう。
「「あのー。」」
「はい。初心者の方ですか?こちらの用紙に必要事項を記入して下さい。」
俺たちの説明の横で少年がゴネていた。
「だから、なんで俺が受付られないの?
だって年齢も成人してるし能力だって充分だろ。
俺、明日には出かけなくちゃいけないから今日こそは絶対受付して冒険者になりたいんだよ!」
俺たちは、粘る少年の横で用紙を出す。
係りの人がチェックするのを緊張の面持ちで待つ。
「いいですよ。タッドにシャノンですね。
Fランクからになります。ランク外の挑戦は一切取り扱っていません。無理は禁止です。」
諸注意を何度も頷きながら聞いていると、
「いましたね。捜しましたよラル!!
だから無断で転移するのはおやめくださいと。
それに明日の出発の事でエドが探していましたよ。いいのですか?かなりお 怒りモードでしたが…」
「「ハロルドセンター長!!」」
受付の人の悲鳴にも似た叫びとハロルドセンター長の少年への言葉が重なり俺たちには、何を話してるのか聞こえない。
「やっべー。分かったよ一旦戻るけど諦めないからな。ギルドに入るのが長年の夢だったんだから!」
捨てゼリフで少年の姿がかき消えた。
えっ?
転移??まさか…
「貴方方にも迷惑をかけましたね。あの人も諦めの悪い。」受付の人にハロルドさんが謝っていた。やっぱり偉い人は凄い腰が低いなぁ。
「いえ。私共も受付て差し上げたいのですが、なにぶんランクが。」
「ふん。神ランクなんて聞いた事もない。どうやって登録すればいいやら。だいたいランク昇格なんて、もうあり得ないのに。」
ハロルドさんがブツブツと呟く。
神ランク??
何の事???
「お前達、ここは初めてだな。
あの消えた人が有名な『救世のラル殿』だよ。
ああやって、受付に来ては揉めてるのもここの風物詩だ。あれから数ヶ月。
今となってはまるで夢の中のような感覚だよな。
魔王が封印されたのも、海が出来たのも。
この街も彼が特別な力でここまで整えたらしいよ。」
最後の方は全く耳に入っていなかった。
なぜなら、人はあまりの衝撃に出会うと気が遠くなるらしい。
そして俺たちはその通りに気絶した。
気絶した俺たちには、ハロルドさんから丁寧な謝罪がありお詫びの品として、Aランクの防具を贈られた。何度も断ったがハロルドさんは引かなかった。
「本来ならラル自身が詫びを入れるところですが、西の大森林に向かったものですから。」
獣人国と人族の間に出来た『大森林』。
『海』出現から数ヶ月後。
突如としてその姿を現したと言う。
調査隊はラル殿達一行らしい。だが、ハロルドさんは最後は置いてけぼりを食ったようだ。
何だか最後は文句と言うより愚痴になっていたような…
数日後、俺達は沢山のお土産を持って村へと戻った。そして、冒険者となった俺には新たな目標が出来た。
無謀な夢だと思う。
この防具に合う冒険者となって、あのラル殿を手助けしようと言うものだから。
部屋に不釣り合いな防具を眺めながら俺は何度もそう誓った。




