海へ帰る者達。。そして
ーエドの視点ー
どこまでも続く青い水平線。
真っ白な砂浜。
楽園とも言える風景は、一番大切なのものを欠いていてエドの心には何も届かない。
散々してきた自分の悪行なら自分を罰して欲しかった。
こんな…
「ホアン。いや今はフィーリアだったか。
なぜラルが犠牲にならなきゃいけなかったんだ?
なぜ…」
責めるべき相手ではない。
分かっている。
「桃次は、消えてはいない。
ちょっと別の場所にいるだけ。」
静かに首を振る。
別の場所って。何だよ。
そんなの…
ポチャン。。
リーヴァイ殿がかなり小さくなったゼルを海へとそっと入れた。
どうやらゼル自身の希望のようだ。
今はゼルの声はあまりにも微かでリーヴァイ殿くらいしか聞き取れない。
海に入ってしばらくすると、ゼル殿が動き出す。
良かった。あのまま消える運命かと全員が危惧していたから。
水際でフルフル身をくねらせて、ゼル殿が本来の姿を取り戻す様を眺めていた。
しかし。
大きな笠。大量の足。
海月とはこんな不可思議な生物なのか。
見つめているとゼル殿の身体が急にブワッと膨らみだす。
何が?
いったい何をしようとしてるのか。
「来ます。」フィーリアの呟き。
何が来るのかと問いかけようと思ったその時、信じられないものが空中を飛ぶ姿を見た。
西の空から飛んできたのは、海月族。
しかも団体さんと来た。
目を疑う。
海月は空を飛べるのかと思わず思い込みそうになるが違う。絶対違う。
何だ?このあり得ない景色は?
水際にいたゼル殿が浮かび上がり団体と一体になる。誰もがただ唖然と見上げるしか出来ず立ち尽くす。
『リーヴァイ殿久しいですな。
この東の海こそ、我等の故郷。
ようやく悲願が叶いました。
ここでなら、我等の本来の能力もまた生かせるというもの。
さあ、今度は我々が力を尽くす番です。』
多分、代表のアガタ殿だろう声は、故郷に帰れる喜びに溢れたものだった。
当たり前だ。どれほどの長きに渡りこの海が失われていたのか。
しかし感慨に耽る間もなく海月族はこの突如空中で回転を始める。
円を描く回転のあまりの速さに最早一つの環に見える。
環の中心部に向かって海の水が吸い上げられる。下から上へと。
噴水のように大量の飛沫を上げて更にスピードが増す。
「おい、やめてくれ。目が回るよ。」
トボけたいつもの声がした。
姿は見えないが、確かに奴の声だ。
ポッチャーン。
環の中心部からこぼれ落ちるようにひとりの男が海に落下した。
「うっうー。しょっぺい。
やっぱ海の水なんだなぁ。ま、当然かぁ。
アガタ。ありがとさん、もう帰って大丈夫だよ。」
水辺でびしょ濡れのラルは、海月族の環に向かって手を振る。相変わらず、ズレてる。
「ラル。お前…」
絶句した俺は、気がつけばラルに駆け寄り抱きしめていた。
しまった。
こんなはずじゃあなかったのに。
ただ、その存在を感じたくて身体が勝手に動いていたのだ。
(後で散々ラルに揶揄われる人生最大の汚点となるがこの時はそんな事関係なかった。馬鹿だな俺…)
「なんだよ、エド。エドの癖に泣くなよ。
皆んな心配かけてごめん。
身体が魔力解放で消滅したと思ったら違ってさ、他の時空に飛ばされただけだったんだ。
秘宝はやっぱり凄いよ。
だって、この世界を元に戻したのも最後に残った『永遠の石』だったんだから。
パカっと割れて石の中から海が溢れ出したんだ。
ほんとだって!!
要するにあの石には、本来のこの世界が隠されてたんだよ。
で、その影響で他世界に飛ばされてた俺は海月族の力を借りて戻ってきた訳。
海月族は、この海さえあれば永遠の時を生きる特別な存在なんだって。」
あー、またか。
『なんだって。』で終わるような内容じゃないだろ。
簡単な言い方でこの世界の常識をぶち壊す。
ま、いつもの事だが。
そうか。
いつもの事が戻ってきたんだな。
信じられないが、魔王も完全に封印されたのか。
「とにかくさ。腹減ったからエルドの街へ戻ろう。ベルン達も待ってるよ。」
この言葉を受けて、レンドルが数体巨大化する。
背中に俺達を乗せると風のような速さでエルドの街へ。
ーベルン視点ー
あまりの展開に不安こそあれ頭がついていかない。
地下都市への避難民の移動はほぼ何事もなく終わったと報告が入る。
ザィラード達も、ジジンゾンや攻撃鳥の助力で大量の魔人を蹴散らしたと。怪我人はいるものの重傷者はない。
東の空を見つめて、先程の出来事を思い返す。
連絡を取り合っていたら、突然フィーリアが乱入してきた。
所属不明のフィーリアは、グレタがマークしていたはず。それを躱して来たと言う事か。
やれやれ、今この時に反乱か?
『ベルン。私を桃次が呼んでいます。
この街をしばらくお願いね。』
と言うなり飛び出して行ったではないか。
ア然とする俺に遅れて入ってきたララが
「内緒って言われてたけどフィーリアは、大人になったホアンよ。
地下街のお陰で消滅を免れて、この後地下都市の出現で大人になったってラルが言ってた。」
秘密って…流石に呆れる。
ラル。なんで言わなかったんだ?
フィーリアは、ラルに呼ばれたって。
東の空に広がるあの暗雲と関係があるんだろうが。無事でいてくれ。
しばらくしてそれは起こった。
あれは爆発とか地震とかそんな生易しいものではなかった。
身体の芯の奥深い部分がガタガタと揺さぶられる。そんな表現がぴったりだ。
何かあった。
それはここにいる誰もが思っているところだ。
魔王側にか、それともラル達にか。
ジリジリとする時間が流れる。
すると誰かが叫ぶ声がした。
「あれ!あれを見てくれ!」
地表にはラルの仕掛けた『のぞき窓』とか言うものがある。
そこから見える風景は一面の真っ青な空。
何と言う美しい空の色だ。
魔人が現れてから、灰色の空以外見た事のなかったのに。
調査隊を何度も出して確かめたが、地表には魔人どころか、毒風すらない。
青空で確信していたものが本物へと変わる。
ラル達は勝利したのだ。
全員で地上へと向かう。
暖かい。
久しぶりの太陽の日差しに眩しさを堪えられず目を閉じる。
「ベルン殿!あれを!」
またか、今度は何だ?
ようやく目をこじ開けて見ると、目の錯覚かと思う風景が見えた。
東の空からレンドルを先頭にして沢山の幻獣が群れをなして空を駆けて来るのがみえた。
しかも、先頭のレンドルの背にはラルの姿もある。
無事だった。
信じていた。信じていたが視界がぼやける。
くっそー。
「お帰りなさい。ラル〜。フィーリア〜。」
ララの手が大きく振られているのを眺めながら、ラル達の到着を待つ。
ラルの手が大きく振られているのが見えた。
ようやく終わったのだ。
ー今より少し前の話ー
「いいか。ホアンだと皆んなに知られるなよ。驚かせたいんだよ。」
『うーん…何でかは分からないけど分かったわ。あっ!ララにだけ言うからね。心配掛けたもの。それと精霊の仲間達もラルと契約したいって。
今度お願いね。』
「えー。またあの名前でかよ。」
『契約すれば、桃次が困った時必ず助けに行けるからって。
私も必ず行くから呼んでね。』
「うー。まあ有り難い事だよな。
分かったよ。
今夜こっそりやるから地下街の外れに呼んでくれ。」
『もう!桃次は分かってない。精霊と契約するのって凄い事なんだよ!』
『桃次!聞いてる?』
「あぁ聞いてるよ。
なあ、フィーリア。
いや違うな。ホアン。
生きててくれてありがとな。」
『。。。』




