2日目の夜。
今度は街の様子は、ちょっと危ない雰囲気に変わっていた。目つきの悪いものが多い。
場末の雰囲気を醸し出している。
そのせいか、エドから皆に注意が飛ぶ。
「見た感じだが、盗賊らしき者達が大勢いるようだ。情報収集の為にあの酒場に入るが警戒を怠らないようにな。
それとラル。
とにかく顔をフードで隠してくれ。
あまりにも顔に考えた事が出る。
マトモな奴らはたぶんいない。我慢しろよ。」
むっ!
なんで俺だけ注意とか。
だけどエドの前職を考えれば納得もいくけど。
街の中心部にだけは、かろうじてまだ営業中の店が数軒あるだけで、民家などはほぼ無い。
これがあの街なのか?
荒んだ様子の酒場や宿屋が並ぶ中でもかなりの賑わいを見せるのが今から入る酒場だ。
「何だお前ら。
ここは、冒険者なんぞが来る場所じゃねえぞ!」
入った途端に絡まれる。
かなりの赤い顔だから、酔っ払い決定だな。
やっぱり柄が悪い。
「何だ、用事があるか?俺達は飲みに来ただけだよ。」
笑顔のエドの懐からはナイフが男の胸元に。
エドが放つちょっとドン引く殺気に男はずるずると後ずさる。
「な、なんだよ。ちょっと新参者に対する挨拶だろ。や、やめろよ。」
ヨロヨロしながら男は店の奥に逃げ出した。
それを周りの男達はニヤニヤして眺めながら酒を煽る。
な、なんか怖えーよ。
「よっ。威勢がいいねぇ。ニイちゃん達一杯奢ってやるからこっちに来いよ。」
エドが大柄の男に肩をガッと掴まれて顔を覗き込まれていた。
「お前に奢られる謂れはないぞ。」とエド。
「まぁまぁ。トンがるなよ。」エドの迫力にこの男はビビらないなぁ。冒険者かな?
何か成立したらしく、全員でテーブルについた。
ようやく、酒場中から注がれていた揶揄い混じりの視線から逃れてホッとする。
「お前ら、いったい何処から来た?
この街に冒険者が来るなんぞ前代未聞だからな。
この街は、一攫千金を夢見る者達が集う場所だ。」
なんと、一攫千金?
冒険者はダメって?
「俺達の事は詮索するな。ある者を追いかけて来ただけだ。
しかし、一攫千金とは…お前ら当てはあるのか?」
男とエドの会話は進む。
どうやら、この街は宝探しの拠点の一つらしい。
なんでも太古の昔、ある冒険者が秘宝を隠したとか。
この街は、彼等が最後に滞在した街である事から秘宝隠し場所の一つとして盗賊やらハンターを名乗る者達が集まるようになったわけだ。
しかし、なんで冒険者はダメなわけ?
「お前ら本当に物知らずだな。まあいい。教えてやるよ。
今から少し前だが、ある街に魔人が襲って来た。
街中が荒らされ被害は多数でた。
しかし、この魔人てのが問題だった。
そいつらは元は同じ人間や獣人だったんだ。
知っての通り魔人は毒素を出す。普通の人間ならイチコロよ。
だが、そこは冒険者だ。毒に耐える力が災いして魔人の毒に侵され人々を襲う者になる。
新しい魔人の誕生だよ。
最初は彼等だって気の毒だと思うやつもいたさ。
だが、被害は続出。ヤツらの数はどんどん増える一方だ。」
な、なんと!
薬の開発は、大事だな。あ、危なかった。
万能毒消し開発して良かったよ。
しかし今の話だと魔王はいないのかな?
封印はまだ有効なんだな。
「そこで、太古に魔王を封印した秘宝があるらしいと噂になった。
そのお宝ならおかしくなった冒険者を助けられるのではと思うヤツもいる。
賞金が掛けられてな。
まあ、ここいら辺のヤツらはその金目当てだ。」
話の流れでは、ハンターと呼ばれる者達は前職が冒険者である事が伺える。
たぶんこの大男も何らかの事情があるのだろう。
変質した冒険者の話のとき、少し暗い顔になったからな。
「ところで、そろそろ正体を現せよ。
冒険者じゃねえ。しかも、その殺気だ。
メンバーには、全然お荷物さんもいる。何が目的だ?」
おー、コイツも中々の殺気。
俺の足にも影響が…ふ、震えてなんてないから!
エドが顔を顰めたところを見ると何かやり合ってるみたいな。
このままでは不味いぞ。
よし。ここは俺がひとつ勇気を出して決めるか。
「俺達は、薬売りだ。凄く良い薬があるから買うか?」
あれっ?
下からめっちゃエドに服を引っ張られてる?
ドルンの顔が顰めっ面に。
リーヴァイは顔を手で覆うし。
やらかした?
大男は大笑いだよ。
「こりゃ、大した助け船だな。まさかの薬売りとは。いいだろう。良い物なら俺が買ってやろう。」
笑う顔も何処か寂しげだな。
何かある。
実はこの大男が気になってたんだ。
何か事情のあるのに違いない。ってさ。
たぶん知り合いに変質した冒険者がいるんだろ。
改良型のこの万能毒消しならたぶん…
「秘密守れるか?ならやるよ。って言いたいところだけど、俺は良くても仲間がなんて言うか。」
えー。何で?
いやぁ、仲間から殺気に近いものが何故か俺に向けられてるこの事実。
完璧に後で怒涛の説教タイムだー。
だけど、俺の中の何かがこの大男を助けたいと感じたんだ。
「ふう。仕方ない。
お前、隠密の魔法を掛けるから俺達がこの酒場を出てから10分後に中心部の花壇跡へ来い。」
エドの隠密魔法初めて見たよ。
そう言ったら、前から俺には掛けられてるらしい。
もちろんこの酒場へ入る前にも…
き、気がつかなかった。
今更だけど凄い威力だよ。だって掛けた途端に誰の目からも興味を失う感触があるし。
この『隠密魔法』は、エドと直弟子のグレタくらいしか使えない結構難しい魔法だ。
俺達は、無言のまま移動する。
しばらく花壇跡で待っていると、大男がやって来た。
半信半疑な顔は、慎重な性格を表してる。
なのにこのまま、言いなりになるにはやっぱり切羽詰まった事情があるだろう。
「これ。飲ませればたぶん変質した冒険者も治る。3人分ある。あんたの大事な誰かに飲ませたらいいよ。
酒代のお礼だ。」
男はまるでおかしな物でも見たような顔で俺を見る。
「お前。何者だ?この薬が本物なら世界がひっくり返るぞ。それをタダで俺にくれる。
変人でなければ、神の使いだな。」
半笑いで答えてるつもりみたいだけど、どこか必死だな。
「まぁ、試してみてよ。じゃ。」
俺達が立ち去ろうとしたその時、大男が待ったの声をかけて来た。
何だ?
「これをやる。好きに使えよ。」
押し付けるように俺に本らしき物を渡すと、サッサと酒場へと戻っていった。
題名は…えーまさかの読めない文字?
リーヴァイの肩にいるゼルを期待を込めた目で見る。
「これは我々でも良く分からない文字のようです。古代の街でも我々と同じ文字だったところを見ると、更に古いか。あっ。待って下さい。
今、長からこの文字について皆様にお伝えするようにと。この文字は暗号のようです。
秘宝の伝承と共に、我々に伝わる書付がありますがその文字に類似していると。
ただ、解読は海月族では無理なようです。」
俺はこれから海月族を百科事典と呼びたい。
この凄さなんだろ。
しかし、あの大男、凄いもの持ってたなぁ。
「ラル。俺が隠密魔法をかけた時にチラッと大男のサーチが掛かった。かなりガードが固かったのでチラリとしか分からなかったがSSランクの冒険者。更に言えば身体の一部に変質しかけてる場所があった。
たぶん、奴は魔人との戦いで毒素を浴びたんだろ。そして、変質が完成しない内にとこの辺境の地に来たと思う。
一筋の光をこの本に抱いて。」
どうやらあの瞬間のサーチでエドの目配せを受けた仲間は安心して俺とのやり取りを見守ってたらしい。言ってくれれば!!って詰め寄ったら逆に反撃を受ける。説教タイムが…
勝手をしたから仕方ないけどこの本が手に入ったから、結果オーライじゃね?
ため息と共に「そうだな。」と言うのを不満げに眺めてたらバイロンが叫ぶ。
「分かった!!」
どうやら暗号が解けたみたい。
手掛かりがようやく掴めた。
と、思ったら日が昇っていた。
どうやらここの時間はおかしいようだ。
まだ、真夜中過ぎだったはずなのに。
余計に焦る気持ちが増すばかりだ。
とうとう、あと1日となる。
もう、諦めていた。
右側は変質が始まり、いくら魔力で押さえても破壊衝動が起きる感覚が強くなるだけだ。
せめて、アイツだけでも助けたいとかなり無理をしてこの古書を手に入れた。
ふふ。何も読めない。
希望を無くした俺の最後の場所は決めていた。
今晩がラスト。
酒でもせめてと、酒場へ来たら冒険者らしき奴らが絡まれている。
このままでは、追い剥ぎに会うか、強盗にやられるな。
俺は、自分のテーブルに奴らを招いた。
やたらと魔力の強い集団の割に常識知らずが面白くいつもならやらないお節介をした。
ダラダラと話している内に、正体が気になった。
聞くと、今の今まで目立たなかった男が『薬売り』と自称する。
この時代に?
何のジョークだ?
お遊びに付き合うのも一興と薬売りの言われた場所に行くと、何とタダで『万能毒消し』なるものをくれると言う。
半笑いになりながらも、何処かに馬鹿げた期待を抱いてあの古書と交換した。
その後浴びるように酒を飲んでウッカリ寝込んでしまった。翌朝、酷い破壊衝動に助けを求めるようにあの薬を飲んだ。
結局、俺もアイツも助かった。
あり得ない。
あり得ないが本当だ。
秘密は固く守った。
だが、治った俺達に一筋の希望を、抱いて大勢の人間が押し寄せて来て分析をしていく。
やがてなんと早期なら変質した奴らを助けられる毒消しが生まれた。
正に奇跡だった。
無神論者の俺も神様に感謝した。
御使様をありがとうございますと。
名前も何もかも俺だけの胸に秘めて。




