ロダインで。
薄暗い居酒屋の片隅でその男は待っていた。
「ほら報酬だ。いいか。秘密は必ず守れよ。」
革の袋を投げると足早に待ち人は去ってゆく。
後ろ姿に声を掛ける。
「クライブ殿。お任せ下さい。」と。
振り返った男の顔は赤黒く怒りに燃えたいた。
だが、口を開く事なくドアから消えた。
ま、二度と会わないだろうが。
しかし、人間とは何という愚か者。
頼んだ相手が誰だかもわかっていないとは。
このロンダレル様に金の袋とはな。
クククッ。
全てはブルギゼア様の思惑通りに運んでいる。
噂を起こしてエルドの街を孤立させる作戦。
愚かなクライブは自分の名案だと疑ってはいまいが。
二、三日後の王都ロダインの酒場では。
「おい、聞いたか!二日ほど前に近くのカメベの街に魔人の来襲があったらしいな。」
「またか。これで幾つめだい。
やっぱりあの噂は本当かい?」
顔を近づけあっての話には隣の男も加わる。
「間違いないよ。エルドの街だけがまるっきり魔人の来襲がないなんておかしいよ。
だいたいあそこは、珍しい薬草や食べ物に溢れてていて変なとこだらけさ。」
「「そうか。やっぱりな。」」
今やこの国のどこにでも魔人の来襲し破壊を繰り返していた。
近衛隊や国境警備隊などの軍隊ではその威力を防ぐ手段とてなく為すすべもない。
ましてや巫女姫と勇者一行を失った神殿の信用は地に落ち見る影もない。
そんな中でエルドの街だけが無傷だともっぱらの噂だ。
人々の心の中で疑心暗鬼が芽生えたとしても不思議はない。
酒場の話はそこで終わる筈だった。
だが…
バシャン!!
噂を語る男達に店主がバケツで水をかけた。
ビショビショの男達は怒りを露わにして怒鳴った!
「何すんだ!お前俺に喧嘩売ってんのか!」
ひとりが怒鳴ると隣の男も負けじと怒鳴る。
「分かってんのか!俺は冒険者レベルBランクのデイブと言うんだ。この辺りでは知らない者もいない冒険者だぞ!」
男は傍の剣に手を掛けた所で周りの異様さに気がつく。
どうした事か店主のみならず、飲んでいた店の人間全員が彼らを睨んでいたからだ。
「いいか。俺は恩知らずに呑ませる酒はない。出てってくれ。カネはいらん!」
睨まれた挙句店を追い出される。
真っ赤な顔で憤る三人をよそに、店の中では大喝采が沸き起こるのが聞こえた。
「店主、よくやった。俺はこの店をこれからも贔屓にするよ。」
「いやぁ、俺もだよ。よくぞBランクの冒険者に逆らったよ。」
次々と聞こえてくる言葉に三人は怒りより戸惑いが増す。
いったい何がそんなに彼らを怒らせたのか。
寒空に濡れた身体で立ち尽くす。
「アンタ達は物知らずなんだよ。そんなに濡れちゃ風邪を引く。ついて来な!」
まだ少年の面差しを残す男が三人を近くの自宅へと招く。
三人はそこで驚愕の事実を知る事になる。
「だから、それが事実なんだよ。この街で恩恵を受けた事のない奴はいないよ。」
聞かされた話に三人の口はポカンと開いたままだ。
エルドの街は、一度魔人の来襲で地表の殆どが破壊された。
だが、そのすぐ後ある組織が出来上がる。
それこそが
『魔人対抗隊』とかいう組織だ。
地下街へ逃れた住民はこのままでは自分達以外の人間が攻撃を受けても助からないと考えた。
それほど、攻撃は凄まじかったのだ。
準備に準備を重ねた我々ですら身一つで逃げ出したのだから。と。
そこで、自分達が立ち向かう為のアイテムや知恵をドンドン提供し始めた。
避難場所の確保
備蓄食料の調達
避難訓練の実施など次々と提案。
そして協力の名の下、人材と備蓄品が届く。
無論、攻撃鳥に始まる対魔人用品や薬草の配布なども含まれる。
皆んな思った。
あり得ない情報と品物が届いた。と。
もし、それが無ければ。
いやもう少し遅かったら間に合わなかったかもしれない。
必死な様子のリーダーのザィラードを始め他にもルルド商会の見慣れた男達が説得にまわる。
その為、襲われて被害はかなり激しいが人的被害はかなり抑えられた。
この事実こそ何より人々の信頼を集めた。
それが余計に力となりエルドの街の援助は今も続いている。
「それじゃあ俺達が追い出されたのも無理はないな。」
「じゃあそんな俺達に何で声をかけてきたんだ?」
「昔、俺もエルドの街を嫌って悪口を言って同じ目に遭ったからな。そんな俺をあの街の冒険者が命懸けで助けてくれたんだ。
有り難いけど、恥ずかしい思い出だよ。」
少し照れた様子の男は、その後真顔で続けた。
「それにあの噂は悪意がある気がするんだ。
ふふふ。
だけど無駄だね。下らない悪意如きでは我々のエルドの街に対する評価は変わらない。」
その夜、暖かな布団まで借りた三人が改めてエルドの街ファンの仲間入りしたのは言うまでもない。
その後、小さな張り紙が神殿の前に出た。
「この度、神殿長の交代がありました事をお知らせします。」
と。




