息抜きに街へ。
目の前に広がるジオラマ。
鷹族の特殊能力のひとつが見たものを形に出来る能力。その能力を使いジオラマを作り上げた。
実はデジブルに戻ってから何回目かの会議をしたが特に進展はないまま行き詰まっていた。
今日もその会議が同じように行き詰まりだしたその時、鷹族がこれならばと満を辞して出してくれたのがこの「ジオラマ」だ。
見事な出来映えに歓声が上がり、これは!と張り切って数時間。
細やかな街並みの様子をいくら見ても何も浮かばないまま、段々と減る会話。
これって、ダメなパターンだな。
でもなぁ、こうやって見ると中々大きな国だなぁ。
山こそないが、人族の国よりも街並みに統一感があり進んだ文明の気がする。
しかし呼吸音だけの会議とかはダメだろ。
前世の会社の会議でもこのパターンは多かったし。
よーし、あれだな。
「な、提案がある。
あー、秘宝の方じゃない提案だよ。
行き詰まる難問の時は気分転換が大切。
たまには街に皆んなで出掛けよう。
ヒントがあるかもしれないし。」と。
息抜きを知らない真面目な鷹族が加わって余計に休憩も減りつつあったから。
どうだ?
。。。
息詰まるとはこの事だよ。
何。この沈黙。
いや、ダメならそう言って欲しいのにな。
「そうかもしれない。俺たちは、戦いの時以外は全く街に行く事もないままだ。
知らない街や暮らしの中にヒントがある可能性もあるからな。では行くか。」と、エドの助け船。
あ、有り難い。
他に意見もなく、これで決まった。
言い出しっぺの俺とエドだけが行く気で後はまだ調べ物したいとか残った。
でも何故だか、イーデンのオヤジだけが張り切り出して案内役を買って出てくれる。
美味しいお店を知ってるとか張り切っているよな。
ちなみにあのガードは今だにベッタリ付いたままだ。
はー。街の散策にも来るだろうなぁ。
だけど、初めての街へ出るとなるとちょっと浮かれるなあ。
正直俺の中では秘宝の事は忘れて一休みのつもりなんだけど、「ご苦労様です。ヒント期待しています。」とかドルーに言われてちょっと困惑。
まぁ、エドにはバレてそうだが。
街は、人族と変わらず沢山の人が楽しそうに食べたり買い物したりしてる。
デシブルの首都は、獅子族の街の割に狼族や鷹族など多種多様な人びとで溢れていた。
美味しそうな匂いや珍しい店屋など、思わずキョロキョロしちゃうや。
でも良かったよ。
建物や人の往来を見ると、魔人の破壊の跡はほとんど見られないから。
「そして、これがこの街一番の料理屋だ。
中々美味しいぞ。どうだ、食べてみるか?」
さっきから喋り続けているイーデンのお勧めのお店が見えて来た。
ここかぁ。だけど人が沢山並んでいて凄いな。
んー、もっと静かな場所がいいが。
イーデンに伝えると、それならばと裏道に案内される。裏道と言っても荒んだ感じは全くない。
人並みの疎らになった裏道は、意外にのんびりした雰囲気だった。
いいなぁ、この静けさがゆっくりするよ。
お、子供達も楽しそうに遊んでるな。
あの時は大勢避難して、街はほぼ無人だった。
ましてや、子供の姿なんて。
少しずつ避難していた人が戻って来てるとバイロンが言っていたのを思い出す。
やっぱり子供が遊んでたりする風景は平和の象徴だよな。
お、唄とか歌ってるぞ。
こっちの世界に来てからあんまり唄を聞かなかったからいいね。
獅子族は、唄を好きなのかな?
【赤の月と白の月♪
仲良しこよしはいつでしょう。いつでしょう。
仲良しこよしのその先は、鈴の音聞こえる山の街。山の街。
鈴の音持って帰るのは。
皆んなが待っているからよ。いるからよ。
重なる光のその場所は、内緒。内緒のデジナブル♪♪♪】
長閑な歌だな。
聞いてないのにイーデンがまた説明する。
「我が獅子族に古くから伝わる唄なのだ。
子供の頃、よく両親が唄ってくれた童唄だ。
いやぁ、子供らの元気な唄声は良いな。」
しみじみとしたイーデンの心持ちは理解出来る。
しかし、赤の月と白の月とは。
この世界は、二つの月があるから不思議はないが、確かによ〜く見れば赤と白かな?
うーん。
重なる…
持って帰るのは…
。。。
待てよ。こりゃひょっとして。
「イーデン。この唄の歌詞を今一度教えてくれ。」
俺の雰囲気が変わった事に気付いたイーデンが素早くもう一度繰り返してくれた。
「あの『デジナブル』と言うところだけど、本当にある街かな。」
「ある。だいぶここから離れている田舎町になるが、古くからある街だ。」
カチリと音がして何かがハマった気がした。
「ラル。何か思いついたな。」とエドの真剣な表情。
「一旦戻ろう。もしかするとヒントを見つけたかもしれない。」
俺の焦る気持ちが段々と早足になり最後は駆け出して戻る。
イーデンも全く口を開かず付いてくる。
秘宝特別部隊の皆んなを再び会議室に集まる。
それと、頼んで呼んだ専門家も。
「集まってくれてありがとう。
もしかしたらヒントが見つかったかもと皆んなを呼んだ。
もちろん、全くの見当違いかもしれない。
ヒントがどうか判断する為にももう少し情報が欲しいと、天文学者に来てもらった。
皆んなも一緒に考えて欲しい。」
まわりがざわめくが取り敢えず俺の予感が正しいのか確認する為にも聞かなきゃな。
俺が頼んだの二人の学者が緊張気味に目の前に立っている。
これだけのメンツだ。無理もない。
獣人各国の代表・参謀揃い踏みではな。
「質問はまずは二つの月の色について何か知っている事かあれば教えて欲しい。
もう一つは、月の軌道だ。特に重なる日があるかと、重なるならその日付も把握しているのかと。具体的には頼みます。」
1人が話し出す。
なんとなくホッとした表情だな。
たぶん、もっと難しい事を聞かれると思ってたな。
「まずは月の色についてお答えします。
一般的に月の色と言えば『赤』と『白』の二つに分類されます。我々学者から言えば厳密に言えば少々違いますが。
曇った日に滲む月の姿を見て太古の昔からその二つの色が月の色となってます。たぶん、昔から人々には、赤や白に見えたと言う事でしょう。
次に軌道の把握ですが完全に出来ています。
そして二つの月は重なります。年に二度。
もちろん本当に天文学的に重なるのではなく、その様に見えると言う事です。
その重なる日も分かっています。
それは一番日の長い日。もう一日は一番日の短い日です。ちなみに長い日の方は、あと三日後ですが。」
決まりだ。
俺はひとりで頷いた。
みんなは何のことか分からずポカンといている。
そりゃそうだ、あまりの説明不足。
「童唄。それがヒントだと俺は思いついたんだ。
今日街に出たら子供達が唄ってた童唄の事で、確か『月の唄』だったかな。
内容に注目して欲しい。
歌詞はこの紙を見てくれ。
普段から聞き慣れたデジブルの人には不信感もあると思う。取り敢えず説明するよ。
俺の考えでは、古代の人々が秘宝の在り処を秘密裡に子孫のみに伝えようとまずは考えた。
文献に無いのは秘密厳守の為と考えられる。
それでも、何とか伝えたいと考えてた古代人は童唄を選んだ。
誰もが知りながら、秘密も守れる。
きっとそう考えたのだろう。」
俺は、周りを見回して一呼吸おく。
今のところ、首を捻りながらも続きを期待する雰囲気だ。まぁ、まずまずかな。
よし。
「具体的にヒントの場所を説明すると。
まずは、『月の重なる光の場所』この部分に引っかかりを感じたんだ。
随分と具体的だなと。仲良しこよしが一気に地名まで行く。唐突感があって。
今天文学者が言う通り、具体的に日にちも確定出来る。場所も確定となれば。
まあ、ここまでは俺も何か違うかとも思った。
だが極め付けは『山の街』の一文だ!
なにせ、このデジブルは山のない国。
それなのに山の文字が入るのは何とも不自然だと。
もしかして、これこそが絶壁の山を指すのではと。
その上、『内緒、内緒のデジナブル。』だ。
そう思いながら聞いたら、段々と現実味を帯びてきて止まらなくなった。
まあ、所詮は俺の予感でしかないんだが、どうだろう。
膠着状態のままでは埒があかないから直接、デジナブルへ行って調査をしたい。どうかな?」
俺の勢いに押されたのか、はたまた行き詰まる現状に多少妥協したのか。
仲間達もデジナブル行きに賛同してくれた。
翌日、もう一度準備して「デジナブル」へ魔球で出発した。予測が正しいのなら猶予は三日だ。
魔球でデジブルの国を眺めながら考えた。
少し焦り過ぎたかと。
稚拙な推理に縋るのは俺自身も少し抵抗がある。
自問自答を繰り返しながらも旅は続く。
この世界に来て予感は何かと重要なのだ。
たぶん…