魔人現る!
「最近来たやつ、めっちゃ生意気だと思わないか?」俺の問いかけにミネルバがすぐ同意をした。
「そうよ。ザィラードの言う通りよ。」
はー。コイツの俺好きは正直俺がドン引くわ。
何でも賛成してくれて嬉しいよ。
嬉しいけどね。
「新しく来たノーランは、何でも魔石を使うやつらしいが。」ナイゼの低い声が答えた。珍しい。
コイツも最近は俺の近くには来ないのに。
魔王を倒してから周りの評価が変わった。
めっちゃ歓迎ムードで神殿で極楽生活だよ。
俺は、これで何もかも上手くいくと思った。
正直、楽勝ゲームだと。
そしたら、アイツは怒って出てくし、それからはナイゼも冷たくなった。
神殿の連中も丁寧だけど、よそよそしいし。
そうだよ。俺にはミネルバくらいしか。
「アイツ生意気よ。異名持ちなんてきっと嘘!」
ミネルバがノーランにマジギレしてる。
俺第一主義のミネルバにはノーランまで敵認定なのか?
確かに異名持ちだと売り込んできたから胡散臭いと思ってたけど。
「アイツ。私が見たら、殆ど魔力ないのよ。あり得ないわ。神殿長のクライヴさんが間違えたのよ。
なのに、あの威張った態度とかウチらを馬鹿にして来る目つきとかあり得ないー。」
魔力を調べるなんて簡単なのになんで騙されたかな?
しっかし、ノーランもよくやるよ。
首都「ロダイン」では魔人の噂で持ちきりだ。
最近じゃ、俺たち勇者一行が魔王を倒した事を疑う奴らまで増えた。
それからだよ。
扱いが雑になって、段々と皆んなが遠巻きにし始めたのは。
正直、勇者とか言われても前世のゲームでは、単なるSランクだった。Sランクなんて一般だよ。
廃人の皆様なんて異名持ちだらけで。
俺は、ノンビリライフでゲームしてただけで。
だから、「魔王討伐に」とかクライヴさんに言われた時はありえねーって。
勇気振り絞ってあんなに苦労して倒したのは何だったんだ?
もう、やっとこ倒したのに。
俺が、ブツブツと考え事をしてたら突然地面が揺れた。
じ、地震か?いやこっちの世界にあるわけないし。。
じゃ、まさか本当に魔人なのか?
地震らしき揺れは数回続いた。
爆発音もあちこちで聞こえてきた。
やがて神殿内も騒がしなった。
あちこちで悲鳴や呻き声らしきものも聞こえる。
バタン!
そんな中、あちこち焼け焦げた衣装の神官が飛び込んできた。
「ご案内します。
こちらは危険です。
ただ今、首都には多数の魔人の攻撃が始まり神殿も攻撃を受けています。
さ、急いで。」
慌てた様子の神官の後をついて外に出た。
そこにあったのはあり得ない景色だった。
ロダインのあちこちで火の手が上がり、空には魔人らしき羽の生えた者が魔法で破壊を繰り返してる。
王宮から兵隊の派遣は無いらしく、ただ人々が右往左往しながら逃げ惑う。
こんな風景が現実なのか?
マジか。
圧倒的な敵の攻撃にただ圧倒される。
敵わない。。
焦りが全身に纏わりつく。
「ねぇ、逃げましょう。早く。」とミネルバの身体が小刻みに震えてる。
無理もない。
「何を。ここで戦わないでどうするんだ!」と珍しいナイゼの怒声。
ナイゼの気持ちは、分かる。分かるけど。。
どうすればいいんだよ。
元高校生の俺にこんな時どうすればいいかなんて分かんない。
そんな俺たちに魔人が気がついて集まってきた。
15人もいる。 なんて数だ。
しかも、こいつら全員がこの間倒した魔王ぐらいの力に思える。マジか。
まさか、あの魔王はニセモノじゃ。。
「ははは。今頃ですか?
ニセモノに今頃気づくとは。
さあ、ニセモノの勇者一行とニセモノの異名持ちよ。
滅びがいい。」
振り返ると異名持ちを名乗るノーランが震えて後ろに立ってた。まさかのクライヴまで。
俺たちを盾に逃げる気だったな。
それも、難しいけどな。
ダメだ。ノーランなんて完全にびびってる。
一斉にあちこちの魔人からの攻撃が降り注ぐ。
させるか!俺も負けじと光魔法を打つ!
助かる道は、他にはない。
とにかく、攻撃あるのみ!
幾多もの闇魔法と俺の光魔法がぶつかり合う。
次々来る攻撃に、ナイゼの魔法が加勢してくれても数の違いがあまりにもキツイ。
!!
防ぎきれなかった一筋の闇魔法が俺の肩に当たる。
強い痛みに挫けそうになる。
なにせ、闇魔法は食らっただけでも身体に毒を受けた状態に近くなるのだから。横ではミネルバの回復魔法が辺りに飛び交う。
神官長もノーランも振り向けば全員傷だらけだ。
圧倒的に不利になった状態で敵の攻撃が止んだ。
ゆっくりと魔人達の中でも一番強そうなのが一歩前に出て来た。
「お判りですか?貴方と対面するのは二度目。
この間貴方が倒した魔王役は私ですよ。
まあ、最後ですから名前くらい教えてあげましょう。四天王のドルタとは私のこ…」
偉そうな魔人のセリフの最中にそれは起こった。
あまりの眩しさに目を閉じた。
後から何度思い出しても眩しかった事くらいしか思い出せない。
「馬鹿だなこの魔人。なんで戦いの途中に名乗るんだ?」聞いた事のない声。
眩しくて閉じた目を開いてびっくり。
二人の男性がノンビリと立っているだけ。
どこにも魔人の姿がない。
燃えてた街も煙は?何もなかったのような風景。
壊れた家々と、
逃げ惑う人々がただ立ち尽くすだけ。
「おい勇者。口が開いたままだぞ。
それからあの魔人達は全部倒したよ。
えー?知らないの?
あのね魔人とは最後は消滅って決まってるだろ。
知らないとはな。
それにお前、勇者スキルじゃないのでゲームしてたろ。
はー。無理だよSランクで魔王戦はさ。
とにかく、俺はエドを迎えに来ただけだから。じゃね。」
呆気にとられたまま、彼らは転移して消えた。
焼けた神殿に俺たちだけが残った。
数日後、俺とミネルバとナイゼで神殿を抜け出した。
いや、逃げ出した。
ノーランなんてその日の内に消えた。
街の被害はかなりのものだった。
何もしない王宮や、神殿への街の人々の不満は最高点に達した。
ところが、神殿も、王宮も手柄を申し立て始めた。
なんと、それぞれが自分達こそが魔人を倒したと主張してる。
勿論、人々の不信感は相当のもの。
信じる者はごく少数だ。
この状態では、俺たちへ風当たりも厳しくなった。
批判や不満も凄い。
世話をするはずの神官らもコソコソ悪口言うしな。
実は、俺には宛がある。
そう、たぶん。。
あの時のセリフは間違いなく転生者だよ。
それも元日本人。
彼の話をしていたら、ナイゼが彼のいる場所を知っているって。
そこしか行く場所もない。
ないけど。。
変装した俺たちは東へと向かった。