ハロルドの指令?
「ちょっと相談があるのだが。」
珍しい弱気な声を出して、ハロルドが訪ねて来た。
とにかく、彼の弱気などなんと珍しい事か。
いったい相談とは?
「ここの経理一般を急に任されて、早数週間。
慣れない仕事もようやく一通り順調に進んでいる。
ギルドセンターの開催も終わり、集めた村人も定着率が良い。
なんとか商店も形になってきた。
そこでだ。
大切な物が不足しているのに気づいた。
さて、なんだか分かるか?」
弱気は嘘か。段々とや畳み掛けてきて追い詰められた気がする。
正解はたぶん「馬。」よし、これで。。
「はい!正解です。
良かったよ。
こんなに馬不足に困窮してる状態でだ。
まさかリーダーともあろう人が知らない事はないと思ってたよ。
もちろん、ラルの事だ。対策は万全だよね。
おや、今何してたのかなぁ。
まさか緊急事態程のヤバさだと分からない訳ないよね。」
くーっ。いつもの来たー!
笑顔の目が完全に笑ってない奴。ヤバい合図だ。
「も、もちろんだよ。
今から、旅に出ようとしてたとこさ。
野生馬や家畜になる動物探しに出るって言いに行くとこさ。
あ、当たり前だろ。」
俺の苦手。
それは、詰め寄るハロルドと。
『創造』のチートスキルの効かない生物達だ。
結果。
西の方にあると言う野生馬達の草原へと向かう事になった。
だが、なんの不安もない。
なぜなら、長期の旅も可能にする発明をした。
その名も『防犯鳥』
これは、風見鶏みたく家や木々のてっぺんにつけるだけでOK。
魔人が近づくと
『叫ぶ。そして魔法で攻撃』と言う仕掛けだ。
更にもう一つの機能が重要なんだ。
それは魔人の出現を俺に連絡する機能。
これが一番重要な機能だ。
俺の転移は、かなりの距離が可能なんだ。
あんな事。。二度目は絶対にない!
西の方へ行くメンバーは、ララとベルン。
エドは、「訓練所」を作るって。
村人候補からパトロール隊を編成して街の諍いを無くす計画らしい。
んー。エドは中々優秀なんだよな。
なんであんな怪我をしたのかな?
ま、絶対口を割らないけどな。
プリモナは学校の先生してる。
結構、新人村人さん達にはお子さん連れが多い。
街中に大きな学校も作ったよ。もちろん、公園付き。
プリモナは活き活きしてる。
そして、グレタはギルド本部の責任者になった。
厳しい審査を出来る腕前を買ったんだ。
グレタとしては、神殿に連絡して戻りたいみたいだ。だけど何度連絡しても、梨の礫らしい。
おかしいよ、あの神殿。
なんかきな臭いんだよな。ま、関係ないけどな。
旅は、全て徒歩。
時間がかかるが、ハロルドが馬車を貸してくれるわけない。はー。
徒歩なので、色々な街を見かけるが何か暗いムードだ。やっぱ、魔人の噂のせいかな。
二人も何か感じてるみたいだけど。
強行軍の旅の結果、一週間でレモナ草原に到着。
うーん。
なんて広い大草原だろう。
野生馬も沢山いそうだ。よーし、やるぞー。
が、やる気が高まったのも一瞬だった。
餌や、仕掛け。
様々なの努力は無駄の一言。
はー、馬ってなんて頭いいんだ。
馬鹿にされてるよ、俺たち。
腹立つけど本当に困った。
疲れてしゃがみ込む我々に、馬鹿にした笑い声が聞こえた。
?なんだ?
振り返ると腰の少し曲がった爺さんがいた。
「お前ら、馬鹿だな。
ずっと見とったが、馬は素人なんぞに捕まえられん。さ、帰った、帰った。邪魔だよ。」
シッシッっと、追い払われる様に手を振る爺さんにベルンがキレた。
顔が真っ赤で手の中に魔力が溜まってる。
おー、ララもか?闇魔法の気配が強まってるぞ。
ま、不味いなぁ。
だがサラリーマン時代の上司の声が聞こえる。
この爺さんは、只者ではないと。
よし、必殺ワザを出すかぁ。
「お爺さん。我々は東の方の村の者です。
村に馬の数が少なくて困っています。
村は貧しくて、馬を買えないので捕まえに来たのです。
お爺さんは、プロの方とお見受けしました。
お願いです。
どうか、コツを御伝授下さい。」
そして、秘技『土下座』だ。
これで何件かの商談は決めたんだ。やれる!!
「ははは。馬鹿は馬鹿でも中々素直な馬鹿だな。
だが、断る。
ワシには何の利も無いじゃないか。
やなこった。」
と、言い放つと爺さんは自分の馬に乗って何処かへ駆けて行った。
なんとー。やっぱり菓子折り無しじゃな。。
振り返ると鬼の顔の二人が俺を睨んでる。
えー、何?
「土下座するなんて!しかも断られるなんて!」
ララは、余程悔しかったのか少し涙目だ。
え?そこまで?
「全くだ。あの爺さんは全く信用出来ない。
いいか。野宿の準備をする。
明日は何としても捕まえるぞ!」
ベルンは言い放つと野宿の準備に出かけた。
よっぽど腹立ったのかな。
だが、世の中やっぱり甘くない。
素人三人組では捕まえられません。
二人はムキになるし爺さんも度々現れては要らんチョッカイ出すし。
はー、もう大混乱だよ。
すでに、馬どころじゃない。
そんな数日後に本当の大混乱がやってきた。
その日は、なぜか朝から馬の姿を全く見かけなかった。
そこで馬を探す為、サーチの魔法をかけてる時に突如魔人の気配を感じだ。
その近くに爺さんの怒声が聞こえる。
「魔人が出た。あの爺さんや馬たちが襲われる。
俺は転移するから、この辺りで防御かけてくれ。」
俺は、ベルン達の返事も待たずに転移した。
空に浮かぶ魔人と爺さんは、睨み合っていた。
良かった。間に合った。
「ジジイ。この辺りは我らのものになるのだ。
くたばれ!!」魔人の叫び声。
さあ、魔人め。ここで会ったが百年目だぞ。
俺の怒りを受けてみろ。
俺は、即座に魔法を放つ。
「バラエス!!」当然魔石入りの最高レベル。
無詠唱で水・土も同時に放ち威力を倍増。
土魔法で爺さん防御。(もちろん馬も)
氷の刃を作ると光魔法とともに魔人目掛けて投げつけた!
「お前は!」一瞬の叫びの後に魔人の胴体に光の矢が刺さる。
矢が数本の光の筋を放つと爆発。
魔人は、文字通り木っ端微塵になった。
突然の出来事に騒然と立ち尽くす爺さんに声を掛けた。
「無事か?怪我は?」と。
数分は、一切身動きのないままだ。
大丈夫か?爺さん。。
やっとぎこちない動きで俺の方に振り向いて一言。
「な。なんでワシを助けた?」
今更だな。
「もちろん魔人嫌いだからだよ。
それにさ、爺さんも馬も守りたかったしな。」
首を傾げながら答えたら大笑いが返ってきた。
「ははは。あー、お前相手に意地を出すのは本当に馬鹿くさい。
やめだ、やめだ。
お前らは、噂の『エルドの森』の者らだろ。
ま、いい。
馬も牛もその他の家畜もお前らにくれてやろう。
わしはな、ルルド商会の会頭でルルドと言う者だ。
ま、これからも色々とよしなにな。」
それからの怒涛の展開にはついていけない。。
俺はルルド商会がこの国一番の馬売買の店だって知らなかったし。
このルルド爺さんが、この国一番の天才馬術師だとも初めて知った。
マジか。。
二日後には、四頭立ての馬車に乗って凱旋した。
言った通り、爺さんが用意してくれたものだ。
後から馬や牛など様々な家畜が街に来る。
俺は、やっと我に返ってしみじみと思う。
上には上がいると。
爺さんは、我々に馬や沢山の家畜を持ってきてくれた。
で、そのまま住み着いた。
なんで?俺の隣の部屋?
とにかく、ハロルドの指令が完了してホッとした。