表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/100

ある新人村人の独り言

村はもうお終いだ。

ひとり去り、二人去りしていつの間にか、村には俺たちのみとなった。

荷物をまとめて、馬車に積み込み目指す場所もない旅に出ようとしてたその時!


「噂を聞いたぞ。

確かではないが、ここから東の方へ向かった先に新しい村が出来て村人を募集してるって。」


信じた訳ではない。

が、行く場所すらない俺たちには東のその噂の村へ行く以外になかった。


「なあ、ここがその村の入り口らしいけど、凄い長い行列だ。無理かも知れねえ。どうする?」

弱気な言葉に頷くも行く当てはないし、取り敢えず並ぶのはやめない。


随分時間がかかる。

あれから二日だ。ようやく見えてきた入り口のあまりの大きさに良からぬ想像が働く。

だが、この村に入らずに戻って行く人々の言葉に勇気を得てこのまま進む。


「やっぱ、無理だったよ。

あまりの好条件に店をサボって来たのにどうしたか、店をサボった事がここの人達にバレてさ。」

「あいつ、何で合格したんだろう?何の特技もない村から売られてった奴なのに。

目的とか聞かれてるのに『行く宛がないんです』ってさ。

俺は絶対ダメだと思ったよ。」

「いやぁ、俺なんて超美人の受付だったけど。

目的が違うって言われてさ。目的って何だ?」

「王様から言われて潜り込もうとして、幾日。

誰一人入れぬとは。」


人々の呟きは様々だが、厳しい審査であった事は確かだ。

待ち時間は不安を誘う。訳ありの我々ではやはりむりでは。


「はい。次!」

いよいよ、我々の番だ。


呼ばれて進むと大門の一室に通される。

大門の大きさにも驚いたがこの部屋の豪華さはどうだ。

床に張られた木材の色合いと家具は、見事な調和を見せていた。

座った椅子の柔らかさに驚いて思わず、また立ち上がりかけたくらいだ。

椅子に座ると正面に 二人の男性がいるのに気づいた。

ひとりは若者で、もうひとりは、足の不自由な30代くらいの男性だ。


「どうしてここに?」と若者にきかれた。


「行く場所がなかったので。」

取り敢えず、そう答えた。

事実でもあるが実際は、少々訳ありだ。


「ラル。この人達は、合格で大丈夫だ。」

と即答に全員が驚いた。

「じゃ、合格!」

若者だけは、驚いた様子もなくこれまた即答だ。


「えっ?」思わず口を突いて出た。


自分達でも信じられない。

こんな怪しげな男の三人組をいいのか?


「エド。俺が案内してくる!」

張り切った様子で若者が立ち上がる。


「いや待て。ここは俺が行く。

次の面接は少し待てよ。交代ですぐにグレタが来てからにしてくれ。」


二人の会話を聞きながら、エドと言う人は若者の上司だと認識した。


「こっちだ。」と案内される。


整えられた道には、煉瓦が引き詰められ見事な街並みが広がっていた。

左右に植えられた木々には、色とりどりの花が色を添える。

我々は、見たこともない風景に息を呑みながら進む。

だがひとつだけ不思議な事があった。

それはエドと言う人が我々の乗ってきた馬車に乗り込んで来て、その馬車を使って進んでると言う事。

そう言えば、あまり馬車を見ないが。


「移動は距離がある。馬車はいいぞ。」とエドさん。

こんな豊かな街並みを誇るのに、馬車不足なのか?


そう言えば、大門の近くに巨大な建築物を発見した!

俺たちは見た事の無いが、王宮と同じぐらいの大きさにまた驚く。


「ここはこの村で経営するギルド本部だ。

ま、一応説明すると、宿泊施設や食堂などここだけで全てが揃う。便利なもんだ。」


無口な案内人の口調が少し呆れ気味だが。


そこから、かなり長い一本道が続いた。

大門から街中まで、馬車でなければ確かに何時間もかかったろう。しかし、一々大きさに驚いてしまう。


やがて何軒もの家々が並ぶ街中らしき場所にやってきた。


これまた、全員で絶句した。

「これはいったい何だ?」

あまりの事につい声に出たらしい。


「いや。驚くのは理解出来る。

これは、村の中心にある俺達の家だ。

そして、あちこちに点在するのが農家の人の家。

中央に揃って並んでいるのが商店などだ。

他にも色々あるが説明は追々な。」


中心にある「エドさん達の家」は少しおかしい。

外壁らしき石壁は、どこまでも続き終わりが見えない。

これが一件の家の壁とは。

それだけでも充分驚きなのにあの御殿のような家。

エドさんは、やはりここの偉い人だな。


馬車が停まり、降りた先で指差してエドさんの一言。


「ここが今日から君らの家だ。」

「「「えっ。」」」


俺達の思わず叫んだ。だってあり得ないだろう。

これは農夫の家とか、言う話じゃない。

正直予想を通り越して、呆れた。

あまりに立派な家だ。

こんな家、見た事もない。。


完全なる新品の石壁の家はだいたい20人くらいで住む大きさの二階建ての家だった。

部屋数は、驚きの15部屋。全てにベット・箪笥付き。

これだけでも充分おかしいがまだある。

内装は全て木材使用。

木で出来ているためか、暖かみのある雰囲気だ。

家具も全て一点もの手作りように豪華なものだ。

テーブル・椅子・暖炉もその立派さにまるで貴族の物のように感じて触れられない。

驚きは、更に続く。

風呂や台所には水関係の蛇口らしきものも。もちろんトイレも上下にある。

もちろん水は出た。汲み上げ式でもないのに、蛇口ひとつで。


絶句している場合ではない。

本当の驚きはこれからだった。


「あ、畑もある。もちろん種や道具も一式揃ってる。それと家賃は無しだ。」さらりとエドさんの言葉。


えっ、家賃無しなんて。。

「ま、待ってくれ。あまりにおかしい。これだけの施設を無料なんて。」俺は、慌ててそう言った。


当たり前だ。正直、辞退を考えていた。

家賃をとても払えないからと。

それを。。

まさかの『タダ』とは。。


エドと言う人が、少し笑って話し出した。


「お前達。マチエレ村の者だよな。

よくぞ、あの村で。。。

あの辺りは、この国の王宮から見放された場所。

砂漠が隣にあって段々と飲み込まれる所。

そして。。罪人の行く場所。」


今度こそ、全員が息を呑み一斉に武器を構えた。

バレてる。

マチエレ村を知ってるなんて。

罪人だとバレたからには仕方ない。武力で脱出するしか。。


ヒュン!!

構えた途端に俺達の真横にナイフが刺さる。


「お前達3人は、元国境警備隊の者。

王に進言をしようとして、反逆罪に問われてあの村へ流されたのだろう。

いいか。

この村はラルと言う、ひとりの馬鹿が作った。

単なる馬鹿の村だ。

だが、この馬鹿はたった一人の世界の番人になるだろう、馬鹿だ。

追々分かるよ。アンタラにはたぶんお似合いの村だ。」


捨てゼリフのように、それだけ言って彼は去って行った。


置き去りにされたまま、しばらく動けなかった。

それ程、衝撃は凄かった。

俺たちの事をそこまで知っていて、この待遇とは。

だが、疑心暗鬼はあっという間に溶けた。

そう、あの若者が、ラルさんだったのだ。

全ては、ラルに会って話をして解決した。

納得したのだ。エドの言う言葉に。


ラルって人は大概おかしい。おかしいが面白い。と。



俺は、思う。

もう一度。

もう一度だけ、ここで頑張ってみようかと。

広大すぎる畑に種を植えながら、そう考えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ