Good times Bad times
構内でウンコを漏らした本間は家に引きこもった、
しかし、そこで本間は終わらない。自分との戦いに打ち勝った本間は再び歩き始める。そして出会った「ロックンロール研究会」
果たして本間に光は差すのか
本間は震えていた。
本間は悩んでいた。
開けるべきか否か。
いや、開けるべきに決まっている。開けない方がよっぽど不自然だ。でも・・・
怖い。
本間は扉のドアノブを握っては放しを十分以上繰り返していた。部屋の中からはグルービーな演奏が聞こえてくる。
かっこいい。本間は素直にそう思った。早く入って近くで聞きたい。
本間はここに至るまでの経緯を思い出し、自分の正当性を確認しようとした。
本間は友人を作る第一の機会を既に失っていた。クラスメートという一番はじめに接することになる人種とのコンタクトに失敗したのだ。
ウンコのせいで。
先日トイレでウンコを漏らしてしまった本間は、なんとか人目を避けて、ウンコ漏らしをばれることなく家路についた。まではよかったが、元来の悪癖の一つである被害妄想にとり付かれてしまった。
次の日に大学に行った本間であったが、胸中穏やかではない。
{みんな僕を見て笑っている。ああ、今すれ違った女の子が僕を見てウンコって言った}
常識的に考えれば、たとえウンコを漏らしたことを知っていたとしても、露骨に笑ったり、ウンコ呼ばわりする奴は滅多にいないだろう。
しかし、友人と呼べる存在が中高を通して一人もいなかった為、そういった一般的な感性が欠落しているのだ。
{もう駄目だ}
絶望に飲み込まれ、本間は自分の部屋へ引きこもった。そこで、本間は葛藤した。
{このままじゃ、今までとなにも変わらない。ずっと一人ぼっちで生きていくのか・・・そんなのいやだ}
{でも、誰がウンコたらしと友達になりたいって思うんだ。一緒にいて、ウンコたらされたらどうするんだ}
ウワァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!
苦悩、悶絶。苦悩、死のう。いや、生きよう。本間はどうにかこうにか自分との戦いに打ち勝った。
ウンコ漏らしてなにが悪い。おまえらだって子供のころはしょっちゅう漏らしてたじゃないか。笑うなら勝手に笑え。
本間は強くなった。しかし、そこまでの心境に行き着くまでに二週間もの時間を要してしまった。
授業の選択等は母親がわざわざ東京に出てきてやってくれた。
情けなかった。感謝した。変わらなければいけない。本間は強く思った。
大学に行った。クラスごとに行われている英会話の授業に出た。教室の中に知った顔は一人もいない。当たり前だ。
他の生徒達はそれぞれグループになって楽しげに談笑している。
本間に話しかける者は最後までいなかった。
落ち込んだ気分であてもなく校内を歩いた。こんなんじゃ駄目だ。そう思って顔を上げた、その目の前にカオスティックなチラシが貼ってあった。
ジョニーロットンとフレディーマーキュリーがマイクを持って歌っているその後ろで、なんとジョンボーナムがドラムを叩いているのだ。
その上に白文字で
「ロックンロール研究会」
ロック好きな奴らが集まって、語ったり、バンドやったり、イベント打ったりします。
初心者
歓迎。ロック馬鹿集まれーーーー!!!!
連絡先 代表 福部芳郎 090−〇〇〇〇ー〇〇〇〇
と書かれていた。
本間の胸は恋する乙女のように、独身イケメン弁護士と知り合った独り身三十過ぎ女のようにときめいた。
{これだ。これしかない}
本間は九割九分空白の手帳を取り出して、チラシに書いてある電話番号を書き込んだ。
{よし、善は急げだ。早速電話しよう}
本間は全力で家に帰った。携帯を持っていないのを少し後悔した。親にいらないのかと問われたが断ってしまった。携帯がうんともすんとも言わず、孤独を実感させられることを恐れたのだ。
家に着き電話に飛びついた。びくつく手でなんとか番号をプッシュするとすぐに相手が出た。
「はい、もしもし」
遊び人のような軽い口調で福部芳郎が電話に出た。
本間は名前から、眼鏡をした堅い感じをイメージしていたので動揺した。
「あ、あああああああああの、チラシを見たんすけど」
「あー、はいはい。新入生ね。見学希望でしょ?」
「え、えーと、は、はい」
本間は見学などという行為をするとは思ってもみなかった。
「じゃあ、今週の金曜の三時から俺らが部室で練習してっからきなよ。オッケー?」
「あ、ああはい。オッケーです」
「は〜い。じゃあね」
「はい、はい。さようなら」
話しが急展開しすぎて、頭がぼやけている。本間はもっと慇懃に規則とか、注意事項とか、今こんなバンドがいますといった説明などを受けると思っていたのだ。
{でも、これで一歩前に進んだ}
そう考えると本間は無性にうれしくなった。無意味に飛び上がったり、レスポールギターを首からかけて回したりした。そして
「イエーーーーーーーーー!!」とロバートプラントばりにシャウトした。
{そうだ。そもそも僕は約束しているんだ。なにをためらうことがあるんだ}
本間は回想を終えて心が軽くなった。
{なにも難しく考えることはないんだ。ただ、このドアノブを回せば、中で演奏している福部さんが僕を歓迎してくれる}
ドアノブに手をかけ、いざ回さんとしたその瞬間、本間の体は後方へぶっ飛んだ。
「てめえ、いい加減にしろよ、この野郎」
皮ジャンを着たリーゼント頭のごつい男が本間を見下ろし、怒気を含んだ声で言い放った。
本間はなにがなんだか分からずおろおろするしかなかった。
「おまえまじで死にてーのかよ」
リーゼントが拳を突き出して言った。
本間はピンクローターばりの振動で首を左右に振った。