元・悪役令嬢鬼邪殺戮怒《キャサリン》の地球最強の男がまた転生した
コレの続き→地球最強の悪役令嬢鬼邪殺戮怒 https://ncode.syosetu.com/n6967er/
俺は地球最強だ。
どんな奴が来ても・・・いや、それはもういいか。
一度は剣と魔法の乙女ゲームの世界で悪役令嬢鬼邪殺戮怒に転生した俺だったが、好きに鍛えていた結果全キャラ攻略後に出てくるトゥルールートでのみ現れるはずの裏ボスに当たる世界の破壊者が出てきて、激闘の末に魔法をミックスした魂の拳で100の多次元存在ごと永久に消滅させたところ、なんだか知らないが現世に帰ることが出来た。
衝撃でクォーツまで分解されてしまっては流石に俺であっても無事では済まなかったが、気が付いたら100万台のトラックがスクラップになっていたその山の頂点に寝ていたのである。
全裸で。
どうやらあちらの世界に居る間は時間が進んでいなかったようだが、期せずして猥褻物陳列罪という重罪を犯した俺は自首、メガ=アバシリ絶対無敵プリズンに収監されて一週間臭いメシを食う事になった。
監獄は初体験だったがあそこもある意味異世界だ。
二つの異世界からシャバの自宅に帰還すると、妹がまた新しいゲームを買っていた。
また似たような乙女ゲームか、と言ったら蹴られた。
地球最強であるこの俺に平気で打撃を食らわせる奴は他にいない。
どうやら今回は魔法無しの剣の世界に巨大ロボと言う要素を盛り込んだ『月と黒鉄のラプソディー』と言うタイトルらしい。
恋愛SLGであることに変わりは無いが、クォリティと同時に敷居も難度も高いロボット戦闘には異常にやり込みがいのあるカスタマイズ要素があり、クリア時点の能力では攻略もままならないほどに手強く豊富な闘技場やランダムダンジョンが用意されているという完全に購買層のターゲットを間違った造りになっている。
なお妹は悪食なのでこういうのが大好きだ。
さて、そろそろ展開も予想が付いた事だろう。
俺は今度はこの「月と黒鉄のラプソディー」の世界に転生する事になった。
ロードワーク中にいきなり隕石が一万発も俺の頭上から落ちてきたのだ。
隕石は一発当たりトラック千台分の打撃力があり、×10000では前回転生させられた時の十倍の威力と言う事になる。
そりゃ死ぬわ。
前回は骨格的に限界のある女に転生してしまったため使えない技などがいくつか出てしまったが、今回の転生先は男だった。
しかし俺としての意識を持った時点では既に菓子や御馳走を好き放題に食べまくったのが体型に出た幼い男児であり、しかも高位の貴族の子として傍若無人にふるまう性格の悪さが顔に出てしまっていた。
このキャラの名前はピギーと言い、確か作中におけるヘイトを一身に集めるために作られたような存在の、見た目も性格も言動も数々のやらかしもそれはもう酷い物だったと記憶している。
そして大抵のルートで因果応報な目に遭いざまぁされる事になり、奴隷落ちしたり色んな死因で死んだりする。
一番ひどいのはバナナで滑って隕石が落ちてくるやつだ。
一定のファンがいたためにリメイク版では友人として救済するルートもあるとかないとか言われるキャサリンとは違う。
さて、この世界の巨大ロボットである≪月光機≫を操縦するためには導力と呼ばれる先天的な能力が必要で、貴族はこれを強く持っているとされ攻略対象キャラとなると英雄クラスの力があるという。
この導力をピギーは貴族にもかかわらずほとんど持っておらず、それで人格が歪んで権力を笠に暴れて鼻つまみの嫌われ者扱いと原作ゲームではなっている。
金と権力とコネで大勢の人間を従えるのは半端に暴力に優れるよりも余程真っ当に強いと鬼邪殺戮怒として学んできたのだが、物語的には恋愛が主軸のゲームで帝王学的なものにそこまで踏み込むのを期待するのもアレだろう。
何はともあれこの手でロボットを操れそうにないのは多少残念だ。
まあ、やる事に変わりは無いのだが。
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『ソーサリーアカデミー~恋の魔法に掛けられて』の世界ではマッスル化した悪役令嬢鬼邪殺戮怒のせいで色々エライ目に遭った私だったが、目を覚ますと現実世界に帰っていた。
トラックに轢かれはしたもののどうやら死んだわけではないようで、事故から三日ほど経って病院のベッドで意識を取り戻した。
あんなに好きなゲームではあっても流石にしばらくは遊ぶ気になれず、積みゲーしていた『月と黒鉄のラプソディー』を集中攻略することにした。
感想としてはキャラもストーリーもいいんだけど、異常に作りこまれたロボット要素があからさまに購買層を外していた。
攻略サイトを見ながら全ルート見たけれど。
そろそろお気付きの事でしょうが、私は前回に引き続きこの恋愛ゲームの皮を被った鋼鉄バトルの世界に転生してしまった。
今度はトラックではなく、何の脈絡もなく落ちていたバナナの皮を踏んで転んだ結果だった。
・・・雑すぎるだろ!
今回こそ悪役令嬢になるかと思ったが、また転生先はヒロインだった。
導力こそ持たないが月光機のタンデム席搭乗時にパイロットの導力を大幅に増幅させる特殊な能力があり、戦闘パートで実際に月光機を操縦するのは同乗している現在のパートナーと言う設定なので前の世界と違い私自身が戦う事は無い。
さて今回も幼少期から始まり特殊能力を見込まれ学園に入学するまで成長したわけだが、今作の悪役令嬢であるフロイデ嬢が筋肉化して攻略対象と空中で殴りあっている様な事は幸いにしてなかった。
むしろシナリオの展開通りに下賤の庶民がどうのこうのと絡んできたので嬉しくなって満面の笑みで握手してしまった。
さて順調すぎるほどに順調に何もかもが進んでいたわけだが、あるキャラの存在が無い事に気が付いた。
今作どころか乙女ゲー屈指のヘイトキャラであるピギーがどこにもいない。
ゲームではヒロインと同時に入学したはずなのに。
このピギーと言うキャラは校内で派生する多くのイベントで悪役になっており、それがいないため驚くほどに平和な学園生活になっているのだ。
フロイデ嬢との仲を悪化させたり決定的な亀裂が入るのにも一役買っていたため、それが存在しない今彼女との関係も普通に良好だった。
むしろ彼女は顔を赤くして昼食に誘ってくるなど仕様外の動作をしてしまっている。
そんなこんなで、作中最初の大規模イベントバトルである≪黒き日輪≫の軍勢の≪殲天鬼≫との戦いまで来た。
殲天鬼は月光機によく似た巨大ロボで、スポーンと呼ばれる雑魚ロボを大量に引き連れている。
ヒロインはここで圧倒的に蹂躙された5人の攻略キャラの操る月光機の一つに偶然同乗し、覚醒じみたパワーアップで敵を撃退するという流れになっている。
前世では自分自身でもそこそこ戦ったが、一人では何の力もない今は流石に死ぬかもしれない戦いに緊張を覚えている。
ゾクリ
その時、背中に悪寒が走った。
命の危機とも違う本能的な何かに訴えてくるそれに襲われ、私は何となく視線を横に向けた。
月光機と殲天鬼の対峙する間に割り込むように、土煙を上げる何かが接近してきていた。
それは人の集団だった。
よく見ると全員筋骨隆々の男たちだった。
中でも体格のいい先頭を歩く男はヘルメット的な坊ちゃん刈りで、仕立てのよさそうな服が筋肉でパツンパツンになっていた。
男たちが雄叫びを上げてスポーンに襲い掛かるのと同時に、私は一瞬気が遠くなった。
雄叫びを上げたいのはこっちの方だ。
またか。
またなのか。
またお前かチクショオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!
かつて鬼邪殺戮怒として散々滅茶苦茶やってくれやがった奴が、今度はピギーに転生を果たしていたのだ。
だらしない肥満体だったはずの肉体を筋肉兵器に変えるのはもちろんの事、何か今回は軍勢まで引き連れて。
殲天鬼は月光機と同じぐらいの全長で10m前後、スポーンはその半分ぐらいで5m程度はある。
だというのに突然の筋肉男たちにスポーンどもはちぎっては投げちぎっては投げされており、今回はピギーであるその男は殲天鬼の前に立った。
当たり前のように鋼鉄の巨体と殴り合い始めたその男は、不意に距離を取ってポーズとともに叫んだ。
「ナックルブラスタアアアアアアアアアアアア!」
拳から飛んだ光の弾丸、と言うよりむしろドリル回転する極太レーザー的なものが殲天鬼の胸を貫き、大きな穴を開けてしまった。
・・・私はそれに見覚えがあった。
『ソーサリーアカデミー~恋の魔法に掛けられて』の世界で鬼邪殺戮怒が使っていた技の一つだ。
元はただの攻撃魔法である≪ファイアーボール≫なのだが、その異常な拳圧が発射時に加えられることであのか○はめ波になってしまうのだ。
そう、あれは(筋肉付きとは言え基本的に)魔法だ。
この世界にあるはずのない魔法。
気が付くと私は、今回はピギーであるそいつに頭に上った血の勢いでズカズカと近寄っていた。
「ちょっとお前ゴルルアアアァァァァァァア!何魔法とか使ってんのよおおおおおおおお!世界観考えろ筋肉クソ野郎がああああああああああああ!ていうか何で使えてんのよおおおおおおおお!」
「ん?誰かと思えば、前の世界でヒロインだった・・・ああ、今回も主人公なのか」
「私が誰だっていいでしょうが!それよりもアンタこの後の展開忘れてないでしょうね!?」
「む・・・?」
「本来はあの殲天鬼は撤退するだけだけど、倒しちゃったら戦闘が益々ハードで世界が危なくて人がバンバン死にまくる裏ルートに行っちゃうんでしょーが!」
そうこうしているうちに、空が黒く口を開けた。
もう遅い、悲劇の幕は上がってしまった。
「・・・魔法は使おうとしていないだけで、お前も普通に使えると思うぞ?」
「そんなポンポン出るわけないでしょーが!確かに私も前の世界じゃ最後の方は≪メテオフォール≫とか撃ちまくってたけど・・・」
その時、私の中で何かのリソースが消費されたのが分かった。
この感覚には覚えがある、魔法を使って魔力が消費される時の感覚だ。
次いで、蒼天を切り裂いて飛来する赤い閃光。
空に開いた黒い口からあふれ出た殲天鬼やスポーンたちの群れに直撃し、凄まじいまでの大爆発。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「やはり純粋な魔力でヒロインには勝てそうもないな」
膝から崩れ落ちた私の中で、何かが壊れた。
「うわああああああああチクショオオオオオオオF●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!F●CK!フ●アアアアアアアアアアアアアアアック!!!!!!!!!」
呆然とする月光機の軍勢、スポーンの生き残りを執拗に破壊し続ける筋肉男たち。
今回の転生も、なんか始まったと思ったらいろんな意味で終わってしまった。