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五時間目のガマン

作者: 弥生みつる

 楽しい給食と昼休みが終わって、五時間目の国語の授業が始まった。

 いつもはただ眠いけど、今日はぜんぜん眠くない。

 だって、なぜなら、ぼくは今。

「……っう」

 うんちがしたいのを、必死にガマンしているからだ。


 今日の給食はぼくの大好きなカレーライスとたまごスープで、それぞれ一回ずつおかわりした。

 それから掃除の時間にぞうきん掛けで走り回って、昼休みにはドッジボールをした。

 前に図書室でうんちの本を読んだとき、うんちがしたくなるのはごはんを食べた後とか、運動をした後が多いって書いてあった。それを読んだときは、こんなの本当かな、って思ったけど、どうやら本当だったみたい。

 昼休みが終わって教室に入るまではトイレに行きたい気持ちなんてこれっぽっちもなかったのに、教科書を持ったら急にお腹がギュッとして、おしりの穴の近くに大きなかたいものがおりてきた。

 ぼくはもう小学三年生。おもらしなんて、それもうんちのおもらしなんて、しちゃいけない。しちゃいけないけど、ガマンできない。

 先生に言ってトイレに行くのも恥ずかしい。一年生のとき、そうやってトイレに行った子が笑われていたから。

 思い出したら、なんだかちんちんがムズムズしてきた。おしっこ。おしっこもしたい。牛乳もお水も飲んだからかな。

 ぼくは机の下で、まわりから見えないようにギュッとちんちんをにぎった。こうしていないと、もれちゃいそう。

「おい、ゆうき。おしっこか?」

 となりの席のたくまが、こっそりきいてきた。バレてないと思ってたけど、となりからは丸見えだったみたい。

「授業終わるまで待てるし」

 ぼくはそう言ったけど、本当は今すぐトイレに行きたいし、おしっこよりもうんちがしたい。

 たくまは、もらしたらウケるな、とか言って笑ってるけど、笑いごとじゃない。それに、おしっこまでもらしたら、たくまの足もともぼくのおしっこでびちゃびちゃになるんだぞ。

「次。教科書の三十六ページ三行目から読んでもらおうかな」

 先生の声がする。音読の時間。先生はいつも出席番号順に音読の順番をまわしてて、昨日でぼく、渡辺ゆうきの番が終わった。だから今日は最初に戻って、一番の相田ひろこから。

「今度は出席番号を後ろから行こうか。昨日やったばっかりで悪いけど、渡辺ゆうきくんから」

「えっ!」

 なんで。なんでぼくなの。相田でいいじゃん。

 でも、先生に言われたからやるしかない。ぼくは教科書を持って立ち上がる。

「読みます」

「どうぞ」

 ぼくは教科書を読み上げながら、トイレをガマンするのに必死だった。お腹に勝手に力が入って、おしりの穴がうんちで押されてもこってなる。おしっこももれそうで、ちんちんがちぢんでるみたい。しかも、パンツの中は汗びっしょり。

 太ももをきつくとじて、ちょっともじもじしたら、よけいにトイレに行きたくなった。どうしよう。もうトイレ行きたいって言っちゃおうかな。

「はい、渡辺くん、そこまで。座って」

「……はい」

 うんちとおしっこのガマンに必死になっているうちに、ぼくはなんとか音読をしたみたいだけど、ドキドキして何を読んだのかまったく覚えてない。

 いすに座ったら、ちょっと楽になったような、よけいに行きたくなったような。お腹に力を入れると、うんちは出そうだけど出なくなる。

 授業が終わるまで、あと五分。もうちょっと、もうちょっとだ。

 ちんちんをおさえて、お腹に力を入れて、太ももをこすり合わせて、体をゆらして。

 ついにラストの五分が終わって、五時間目の終わりのチャイムが鳴った。

「起立」

 日直の高山が号令をかける。

「礼」

「ありがとうございました」

 体を曲げると、今度こそもれそう。

「着席」

 ぼくは着席の号令を無視して、急いで教室を飛び出した。


 三年二組の教室から一番近い男子トイレ。

 ぼくは他のクラスも合わせた中でだれよりも早くトイレにかけこんで、一番奥のうんち用のトイレに入った。

 学校のトイレはしゃがんでするタイプ、和式トイレっていうらしい。ぼくはちょっと苦手だったけど、そんなこと言ってられない。

 トイレをまたいでズボンとパンツを一緒に下げて、そのまましゃがむ。しゃがんだのと同時に、ぼくのちんちんとおしりの穴から、それぞれおしっことうんちが飛び出した。

 しゃー、ぼとぼと。むちむち、じょー。

 あー、いい気持ち。ずっとガマンしてたうんちと、とちゅうから一緒にガマンしてたおしっこ。どっちも、いっぱい出てくる。

 家の座ってするトイレとちがって、しゃがんでするトイレだと、うんちが水の外に出るからなのか、すっごくくさい。くさいからもう止めたいけど、まだまだうんちが出る。

 ぼとん、にゅるにゅる。しー、ぶりり。

 おならが三回ぶびぶび出たら、やっとスッキリ。

 すごい、こんなにたまってたんだ。

 おしりを拭いて立ち上がったら、トイレにはぼくのうんちの山ができていた。

 流れなかったらどうしよう、と思いながら水を流すと、やっぱりうんちはちょっと残った。

「おーい、ゆうき、いる!? 帰りの会始まるぞー!」

 外から、たくまの声。どうしよう。うんちが流れなくて出られないとか、言えない。

「ゆうきー? うんこしてんの、ゆうきじゃねーのー?」

「ううん、ぼく。いま行く!」

 もう帰る時間だし、置いて逃げてもバレないかな。

 ぼくはドキドキしながらトイレを出ると、手を洗って教室へと歩いて行った。


 次の日。

 朝の会で先生から、男子トイレに流してないうんちがあったってお知らせされた。

「トイレが流れなくなったら先生を呼んで、必ずきれいにしてください」

 はーい、って返事をしながら、ぼくは恥ずかしくて、顔が燃えてるみたいに熱かった。

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