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94 新たなる課題

「鞘が……、作れない……ッ!!」


 ドワーフの都を狂乱の極みに陥れた覇王級モンスター三体同時襲来。

 それを何とか退けて翌日。

 エイジとセルンの二人は、スミスアカデミー教師デスミスの私邸で、そんなギャリコの告白を受け止めた。


「鞘が作れないって……!?」

「魔剣キリムスビ、のですか?」


 多くの困難乗り越えて、やっとのこと完成にこぎつけた究極の魔剣キリムスビ。

 その威力は覇王級モンスター、アイスルートを難なく斬り刻んだことで立証された。

 これでもはやエイジの実力を十二分に引き出せる究極魔剣作成の目的は達せられたかと思ったのに、ここで新たなる問題が。


「鞘を作れないってどういうことなのです? そんなの剣のおまけみたいなものでしょう!?」


 木製なり、革製なり、何でもいいのでパパッと作ればいいではないかとセルンは言いたげだ。


「その意見は一人の職人として反論したいところだけど……! たしかにメインは剣で鞘は付属品だってことは事実よ。だからアタシも、こんなところで躓くなんて想像もしてなかった……!」

「どういうことなんだギャリコ? 詳しく説明してほしいんだけど……!」

「まあ論より証拠。見てもらった方が早いわね」


 そう言ってギャリコが取り出したのは、細長い中空の筒のようなもの。一端の先が開き、一端が閉じている。

 これぞまさに鞘だった。


「なんだ、完成してるじゃないか」

「メガリスイーターの殻が余ってたから削って作ったのよ。これにキリムズビを納めるでしょう?」


 と言って、エイジから預かってある魔剣キリムビを納刀。

 さすがに制作者の腕がよく、剣は少しの躓きもなく鞘の中に滑り込んだ。

 そして……。


 サクッと、鞘が内側から斬られて裂けた。


「「ヒィッッ!?」」」


 その光景に思わず悲鳴を上げるエイジとセルン。


「……見てのとおりよ。キリムスビの斬れ味が凄すぎて、どんな素材で鞘を作っても内側から斬り裂いちゃうのよ!」

「マジか……!」

「その鞘って、メガリスイーターの殻を素材にしたって言ってましたよね? 勇者級モンスターの素材ですら、その刃を納めきれないのですか!?」


 三人の間に絶望が広がった。

 鞘がないのであれば、抜き身で持ち歩くしかないではないか。

 しかし勇者級モンスターから採取した殻でも自然に両断してしまう魔刃。そんなものをぶら下げて、仮に人ごみにでも入ろうものならどうなるか……。


「ここまで来て、こんな問題にぶち当たるなんて……!?」

「いい加減にしてほしいですよ……! ハルコーンは、死んで角だけになって、形も剣に変わったと言うのに、まだ私たちを悩ませるというんですか!?」


 皆の恨みがハルコーンに集中していた。

 もっともエイジに退治されて今は亡きハルコーンも、そんな苦情を入れられる筋合いはないだろうが。


「キリムスビの素材になったオリハルコンは? 同じオリハルコン製なら、キリムスビを納められる鞘を作れるんじゃないですか?」

「当のキリムスビを作るのに全部使いきっちゃったわよ……!」

「うわぁ……! じゃあやはり現実的なのは、新たに別の覇王級モンスターから素材をゲットして、それで鞘を作り出すってところかな。……そうだ、セルンたちが倒したソフトハードプレートは?」


 塵も残さず抹消してしまった他二体と異なり、覇王級モンスター、ソフトハードプレートは綺麗に両断されて素材も豊富に残っているはずだった。

 元が鉄板のようだっただけに、利用も容易ではないかとエイジは安易な希望を持つ。


「ソフトハードプレートは、死んだあとゴムみたいにぐんにゃりして、とても金属としての利用は無理そうだわ」

「元々ゴムなのか金属なのか生物なのか、本当よくわからないヤツでしたからね……!」

「今ガブルと一緒にどんな利用法があるか研究してるところだけれど。少なくとも鞘に加工するのは無理そうね。素材なら別の覇王級モンスターが必要になりそう」


 そこまで言い終えて、三人の間に重い沈黙が流れた。

 思えば、覇王級ハルコーンの角を魔剣キリムスビに変えることですら、ここまで多大な苦労を強いられた。

 覇王級モンスターの素材は、まだまだ人類種の手に余るほど加工が難しい。

 この上キリムスビの切断力をしっかり受け止める鞘を作るとなると、どれほどの時間と苦労が必要になるのか。


「私にお任せくださいませんか!?」

「うわあッ!?」


 いきなり別の人物が部屋に乱入してきて、エイジ動揺。

 ドアを蹴破り現れたのは、人間族の女商人クリステナだった。


「話は聞かせていただきました! 同族の覇勇者様であるエイジ様のお役に立つために、このクリステナめにどうか提案させてください!」


 盗み聞きしていたのかと全員、彼女に警戒感しか抱けなかった。

 とかく人間族の商人は油断するとすぐ内面に踏み込んできて儲け話に変えてしまう。


「……キミ、まだ僕の周囲を嗅ぎまわってたの?」

「ハイ! 聖鎚院長会談の件ではあまりお役に立てなかったようなので! 今度こそは完全無欠にエイジ様をお助けして名前を覚えていただこうと機会を窺っておりました」

「キミの名前は充分覚えたよ」


 要注意人物として。


「お困りの件ですが、こういうのはどうでしょう? 我々の知らないことは、我々の知らないことを知っている人に相談してみるというのは?」

「知らないことは?」

「知らないことを?」

「知っている人に?」


 色々ゴチャゴチャしてわかりづらい。


「天人です。彼らなら我々では手に負えない難題にも、打開策を示してくれるかもしれません!」

「てんじん?」

「何それ? 聞いたことないわよ」


 これは、クリステナからさらなる説明を聞かなければいけなくなりそうだった。


「天人族は、人類種の一つですよ。他種族と比較しても希少な上に、エルフ族以上に外との交流を断絶していますので、知らないのは仕方ないかもしれません」


 天人は、他種族にはない特殊な力を持ち、自族だけが保存する叡智を何代にも渡って伝えているという。


「そう言えば聞いたことあるかも……! たしかグランゼルド殿が折ったハルコーンの角が、なんとかいう種族の特殊な力で編んだ布で包まれていたから、ハルコーン本体の追尾を断つことができたとかなんとか……!」

「そのなんとかいう種族が、天人なのでしょうか……!?」

「天人に相談すれば、キリムスビの切断力を包容できる鞘を作り出せるかもしれない?」


 と、情報が繋がってくる。


「私どもの商会は、新たな商品を開拓するために天人と交渉中なのです。私もドワーフ族との商談が済み次第、天人たちの住むアスクレピオス山脈へ向かう予定になっています」

「……」

「もしよろしければ、エイジ様たちもご一緒に天人の居住地を訪問してみませんか? 見知らぬ新たな人類種とも邂逅できますし、得るものがまったくないということにはならぬかと!!」


 既に営業トークとなりつつあるクリステナの調子に、エイジは不安を覚えざるを得なかった。

 しかしながら他によい方法も思い浮かばないエイジたちは、長い沈思黙考の結果、クリステナの提案に乗らざるを得なくなるのだった。

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