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92 裸の完全武装

「そして出来たのがこれよ!!」


 ギャリコは、ガブルの引いてきた馬車から鎧櫃を蹴り出すように降ろすと、さらに鎧櫃を豪快に開け放った。


 中から現れたのは、鈍色の光を放つシンプルなデザインの鎧。


「おお……!」


 傍から見ているエイジまでもが感嘆の息を漏らした。

 重厚という言葉こそもっとも似つかわしい全身鎧。


「ドワーフの都に来る直前に狩ったムカデ型モンスター、メガリスイーターの殻で作った鎧よ!」


 つまりは魔物から作り出した鎧。

 魔鎧。


「関節部には覇王級レイニーレイザーの革を使用しておりますわ! こんな方法で鎧を作るなんてさすがギャリコお姉さま! 凡人の発想を超えています!!」


 ギャリコとガブルの鍛冶娘コンビが大はしゃぎで解説する。

 このハイなテンションは自信作を仕上げた職人の気分そのものだろう。


「メガリスイーターは勇者級だけど、その強さ硬さは覇王級に限りなく近いと言われている。その殻で作った鎧なら防御力は折り紙付きよ!」

「さあドレスキファさん! この鎧をまとって戦うのですわ。この防御力なら、覇王級モンスターの攻撃だって、きっと凌げること請け合いですわ」

「ちょっと待って……!」


 しかし二人の態度とは対照的に、ドレスキファの口調は重い。

 彼女に瞳にも、ギャリコが確信をもって作り上げた魔鎧が映っている。


「なんだよこれ……! そりゃオレは、何度も何度もギャリコに頼み込んだよ。オレ専用の鎧を作ってくれって。それが実現したと思えば喜びもひとしおだよ。感無量だよ。……でもさあ!」


 涙を流しながらドレスキファが言った。


「なんでこんなに地味なんだよ! 地味なデザインが地味なんだよ!?」


 と泣きながらに訴えるのである。

 勇者級モンスター、メガリスイーターの殻で作ったという魔鎧は、元となった大ムカデそのままに、極めて漆黒に近い濃茶色で全身を染め、デザインは極めてシンプル。

 余計な飾り、前衛性は徹底的に排除し、それゆえに機能性を追求していることがわかる。

 しかし。


「オレが求めていたのは! あの『プラチネスの鎧』みたいな金ピカでカッコいい鎧なの! こんな渋くてダサい鎧なんか出されても『皮肉なの? イジメなの?』としか思えねえよ!!」

「いいから黙って着なさい! 『プラチネスの鎧』は所詮調度品でしかないのよ! あんなの着て覇王級モンスターに勝てるわけあるかあ!!」

「そうです!! ワタシもギャリコお姉さまと一緒に作業して納得できたんです! 武器も防具も戦いの道具。機能性がなくては何の意味もないと! 鎧の機能性とは、敵からの攻撃を防いで装着者の安全を確保することですわ!!」


 いつの間にかガブルまでギャリコの職人気質に洗脳されていた。


「それだけじゃないわ、鎧の可動域や装着時の快適性、その他色々、これまで蓄積してきたアイデアを盛り込んでみたの! これを着て、デスコール退治に役立つことはあっても邪魔になることはないわよ!」

「でもぉ……!」


 ドレスキファはまだ不満げだった。


「戦場には戦場の美しさがある」


 エイジが冷たく言い放った。

 その視線は、ソードスキル『虚空勢』で一度は吹き飛ばされて、ダメージから立ち直ろうとしているデスコールをしっかり見据えている。


「お前が求める華美さは、少なくとも戦場の美ではない。その華美さで固めた、今お前の着ている鎧はどうなっている?」


 現在ドレスキファが装着中の鎧も、『プラチネスの鎧』と同系統の装飾重視の鎧だった。

 しかしデスコールの放つ高熱によって表面の金メッキはドロドロに溶け、細かく豪奢な彫刻は見る影もない。

 むしろ食べかけのチョコレートのような混沌さになっている。


「この世でもっともカッコ悪いことは何か教えてやろうか?」


 挑発的にエイジは言う。


「普段偉そうに言っていることを、必要なときに実行できないことだ。鎧を着替える時間は僕が稼いでやる。でも長くはもたないぞ」


 あまり時間をかけすぎると……。


「つい勢い余って倒してしまうからな」


 そして体勢を立て直したデスコールへ向けて駆けて行った。


「おい! 待ちやがれ! ソイツはオレの獲物だって……!」


 ドレスキファは追えなかった。

 それまでの攻防で体力を消費しているだけでなく、熱で変形してしまった鎧が彼女の動きを阻害するのだ。

 これでは走ることすらままならない。


「ギャリコ……!」


 断腸の思いを込めてドレスキファは言う。


「その地味鎧を着れば……! デスコールに勝てるんだな……!?」

「それはアンタ次第よ。あくまでモンスターを倒すのは、アンタが振るう覇聖鎚なんだから」

「どうだっていい! どっち道今の鎧は使い物にならねえんだ! そんな地味鎧でもないよりマシだ! さっさと着替えるぜ!!」


 その言葉を待ってましたとばかりにギャリコとガブルは発動する。


「装着を手伝うわよガブル! 重装鎧って一人じゃ着れないのがますます面倒よね!」

「その補佐も鍛冶師の仕事ですわお姉さま! ワタシ、鎧早脱がせコンテストで一位を取りましたのよ!」

「そんなコンテストがあるの今!?」


 そしていそいそとドレスキファを脱がせて裸に近づけていく。


「…………」

「……あの、ドレスキファさんって……」

「鎧着てると本当に性別不詳なのに、脱がすと途端女の子に……!」

「うるさいな! オレは最初から女だよ!!」


 ぶるんぶるんであった。


              *    *    *


「待たせたな!!」


 デスコールを苦も無く完封するエイジに、漆黒の魔鎧を着た重歩兵が見参した。


「お前の出番は終わりだ! 引っ込んでろ! デスコールは、この聖鎚の覇勇者ドレスキファが倒す!!」

「ほう、引き締まったじゃないか!!」


 魔鎧を装着したドレスキファは、虚飾をはぎ取り機能性だけの裸一貫となった印象だった。

 無駄なものが一つもない。


「ではご希望に沿って通りすがりは身を引くとしよう。元々この街を守るのはお前の仕事だ」

「当たり前だ! お前らはそこでオレの活躍を見てやがれ!」


 エイジの猛攻に晒されることがなくなったデスコールは、早速調子を取り戻して、石炭の集合体である体を筒状に変形させる。


「炎を吐く予備動作だな。どうするつもりだ?」

「ハンマースキル『シールド・プレーン』!!」


 ドレスキファの取った対応は、依然とまったく同じだった。

 覇聖鎚の先からオーラ壁を展開し、炎を遮断する。しかし以前は炎のすべてをシャットアウトしきれず、高熱の余波に鎧が変形してジワジワとダメージを負っていたのが……。


「なんともねえ……!?」


 ドレスキファは明るい驚きと共に言う。


「少しも熱くねえ……! さっきと同様『シールド・プレーン』は相手の炎すべてを遮断できてないはずなのに。この鎧のお陰か、鎧の防御力が段違いに高いからか!?」


 ドレスキファは、みずから『シールド・プレーン』のオーラ壁を解除した。

 地獄の猛火が、津波のようにドレスキファを飲み込む。


「おい、バカ……ッ!?」


 さすがにエイジも慌てるが、人間族の彼は迂闊に猛火の中へは近づけない。

 そしてその必要もなかった。


「熱くねえ……!!」


 炎の真っ只中で漆黒の巨体が言う。


「この鎧の防御力だけで、完全にデスコールの炎を無効化してやがる! なんて物凄い鎧なんだ! さすがはギャリコ! オレの専属鍛冶師だぜ!」

「だから違うって言ってるでしょう!!」


 激流を遡るかのように、ドレスキファは炎を押し分け前へと進む。

 その標的は炎の源流、覇王級でスコールの下。

 デスコールはその時逃げればよかったのに、炎の勢いを上げて敵を焼く尽くす選択をしてしまった。

 しかしどれだけ火勢を増しても、漆黒の魔鎧はビクともしない。

 ついにはハンマーの届く距離にまで距離が詰まった。


「嬉しいぜ、やっと抱きしめられる距離まで来てくれたな……!」


 慌てるデスコールは吐き出す炎を中断し、石炭の集合体を流動させて逃げようとしたがもう遅い。


「一度間合いに入ったからには絶対逃がさねえ……! 最後はこの技で決めてやる。聖鎚の覇勇者のみが使える究極ハンマースキルでな!!」

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