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80 万日を越えて

「「いちまんッ!?」」


 ギャリコとセルンが、目と一緒に飛び出さんばかりに吐いた数字は、凄まじい高数値と言ってよかった。

 それを見届けドレスキファが満足げにほくそ笑む。


「何よそれッ!? 一万なんてバカみたいな数字!? なんで門ごときがスキル値を審査するのよ!?」

「さあ? この門の向こうにいるのがクソ強いモンスターだってんなら、それ相応の資格がいるってことだろ? 筋は通ってると思うぜ」


 鎚神ペレが施した封印を越えて超絶モンスターの下へ赴く者は、そのモンスターを倒す意志と実力を持っているべき。

 それを審査するのに、たしかにスキルウィンドウに示される値は、この上なく有効な物差しになりえる。


「でも、一万なんて……! ムチャクチャよ!」


 スキルウィンドウに記載されたスキル値の合計で一万。

 スキルウィンドウに掲載される項目は全部で六なので、六種のスキル値を足して一万超えることが求められる。


「つまりスキル値平均が1600……、いえ1700は行ってなければ条件を満たせない。かなりつらい条件ですね……!」


 世間一般のレベルから見て、スキル値が1000を越えれば充分に達人級。

 しかも一芸のみに限らず、すべてにおいて1000を大きく上回らなければいけないというのは、それは達人どころか超人に課せられた条件だった。


「とにかく! やるしかないじゃない!」


 ギャリコが空元気気味に勇み立つ。


「挑戦すること自体にリスクはなさそうだし、奇跡を信じてぶっこむしかないわ。あのくぼみにハメればいいんでしょう!!」

「ギャリコ! やる気ですか!?」


 ギャリコは肩を怒らせ扉に近づくと、指定場所にみずからのスキルウィンドウをはめ込む。

 ゴゴゴゴ……、と最初と同じ鳴動が始まる。


『スキルウィンドウ解析。鍛冶スキル:2190。装飾スキル:1170。建設スキル:730。筋力スキル:638。敏捷スキル:450。耐久スキル:812』

「どうよ……? 行きなさいよ、行ってよ。遠慮しなくていいのよ!?」


 集計完了。


『スキル値合計5990。必要値に達していません。開放シークエンス発動不許可』

「ダーメーかーッ!?」


 当たって砕けてギャリコはその場に崩れ落ちた。


「ほぼ6000……! 開放条件の一万には程遠かったわ!!」

「最初の鍛冶スキル2130はよかったのですが、それ以外全部のスキル値が足を引っ張りましたね。やはり戦闘者でないギャリコで身体能力スキル1000越えは難しすぎます」


 一芸特化でなく全体の高水準が求められるのがこの試練の難しいところ。

 門は沈黙を保ったままだ。


「しかし、鍛冶スキルが2000を越えてるとは、さすがオレの専属鍛冶師だぜ……! こんなに才能をもっててギャリコは何故オレの言うことを聞かないんだ!?」


 ドレスキファの勝手な物言いは全員から無視された。


「ならば次は私が……!」

「セルン!」


 満を持して、青の聖剣セルンが立つ。


「今回、ここまでの運びで私は大してお役に立てませんでした。今こそ必要に応じ、存在感を示す時!!」


 門のくぼみへスキルウィンドウを叩きつける。

 お決まりの鳴動が始まる。


『スキルウィンドウ解析。ソードスキル:1890。筋力スキル:1340。敏捷スキル:1290。耐久スキル:1220。兵法スキル:1567。料理スキル:610』


 そして示された回答は……。


『スキル値合計7917。必要値に達していません。開放シークエンス発動不許可』

「あーあーあーッ!?」


 セルンもまたダメだった。


「へっへっへ……、無様だなあ剣の勇者様?」

「くッ!?」


 見下すようなドレスキファに、セルンは悔しいばかりだった。


「いや、セルンのスキル合計値7917よ? ドレスキファの合計値と100も違わないじゃない! 覇勇者と勇者の差として、これは勝ち誇っていいものなの!?」

「まあ、そこは置いといて……」


 やはり勝ち誇るドレスキファ。


「わかっただろう? この扉はこんな調子で、存在を確認されて以来一度として開いたことがないんだ!! 調べるだけ無駄ってことだな!!」

「ドレスキファ! アンタそのことを最初から知っててここまで案内したのね!?」

「へッ、バカが躓くのを前もって注意してやるバカがいるかよ! でも、この門を調べさせてやるって約束は、こっちは果たしたんだ。お前らも約束は守ってもらうぜ!」


 ドワーフ勢力圏内のモンスター被害をすべて放逐する。

 それが聖鎚院長の提示した条件。


「ドワーフの都周辺で報告されてるモンスター被害は、百件はあったかなあ? それを全部片付けるとなると相当時間がかかるだろう?」

「アンタ……! 本来それはアンタたちが片付けるべき……!!」


 義憤のあまりに、歯ぎしりするギャリコの奥歯が砕けそうだ。


「ギャリコも長くここに滞在することになりそうだなあ。またしばらく仲良くやろうぜ、そして気が変わったらいつでもオレの専属鍛冶師になってくれよ!!」

「アンタの世迷言もここまでよ!!」

「そうです! アナタは忘れています!! 私たちにはまだ最後の切り札が遺されていると!!」

「え?」


 キョトンとするドレスキファを余所に、二人の視線が同じ場所を向く。


「「エイジ!!」様!!」


 ギャリコとセルンが求めたのは、ここに来てなぜがずっと沈黙しているエイジだった。


「ここにいる中で一番スキル値が大きいのは、エイジに決まってるじゃない!!」

「そうです! エイジ様どうか今こそ、その正真正銘覇勇者的なスキルウィンドウをお示しください!!」

「えー?」


 エイジは嫌そうに、後頭部をボリボリ掻く。

 ここに来て急に黙り込んでしまったのもそれが原因だろう。


 何故かエイジは、自身のスキルウィンドウを頑なに他人に見せない。

『スキルウィンドウを見せるのは裸を見せるも同じ』と言われている世の風潮と比較しても、一際見せることを拒否しているように思える。


「はっ、たしかに覇勇者のスキルウィンドウなら前二人より上等だろうが。既に覇勇者のオレが開放に失敗してるのを忘れたのか!?」

「煩いドレスキファ! 勇者のセルンに紙一重でなんとか勝ったアンタが偉そうにしてんじゃないわよ! アンタの覇勇者とエイジの覇勇者は根本的に次元が違うの!!」


 事実そうなのでドレスキファはぐうの音も出ない。


「僕のスキルウィンドウはトリッキーだから、あまり人には見せたくなかったんだけどなあ。……まあ、仕方ない」


 エイジは不承不承という風で、扉のくぼみの前に立つ。


「ギャリコも、魔剣作成のために一時は自分を身売りしようとした。僕も多少の覚悟を示さなきゃ申し訳が立たない」


 エイジの指先が虚空に四角形を描き、現れた透明の図板を即座にくぼみにハメこむ。

 お決まりとばかりに鳴り響く鳴動。


『スキルウィンドウ解析。ソードスキル:4619』

「「「おお!!」」」


 示されたスキル値の高さに早速周囲が湧きたつ。


「ソードスキル値4619!? 前計った時より上がってるじゃない!?」

「3000台でも変態的な数値だというのに、エイジ様はどこまで強くなるというのですか!?」


 しかもこれで、要求値一万のほぼ半分を満たしたことになる。

 一つ目の項目で既に半分。

 誰もが希望に胸にした。

 しかし扉が次に読み上げたのは……。


『筋力スキル:76』

「「「は?」」」


 誰もが耳を疑った。

 覇勇者どころか、勇者としてもあるまじき身体スキルの低スキル値。


「76? ギャハハハハハハ何じゃそりゃ76ッ!? なんだよ聖剣の覇勇者様!? 一般人並みの筋力じゃねえか!? ギャハハハ!!」


 ドレスキファがここぞとばかりに爆笑するのも仕方のないことだった。スキル値二桁はまさしく一般人レベル。

 剣の覇者たるエイジがまさかそんな低数値だとは、誰も予想していない。


『敏捷スキル:90。耐久スキル:57』

「敏捷や耐久まで……!?」

「身体能力スキル総壊滅じゃない……! どうなってるのよエイジ……!?」


 最強と思われた人の、思いがけない無様な数字にセルンもギャリコも戸惑うしかない。

 それと共に、スキルウィンドウ合計値が一万を超えるという、この門の示す要件が、このままでは満たせない。

 全六項目中四項目を読み上げられたというのに、まだ5000にも達していないのだ。

 最初の勢いはどこへ行ったか、であった。

 このままでは……。


『兵法スキル:7600』

「「「は?」」」


 と思ったらアッサリ一万を超えた。

 そして最後の六項目。


『呼吸スキル:4万8500』

「「「はあッッ!?」」」


『スキル値合計5万8242。必要値をクリアしました。開放シークエンス発動許可』


 ゴゴゴゴ、と今度は鳴動ではない。実質的なうねりを上げて、閉ざされた門が開いていく。

 記録上一度も開いたことがないという地底の門が、剣の覇者エイジの前に通行を許可したのだった。


「……だから言ったじゃないか。僕のスキルウィンドウはトリッキー過ぎてヒトに見せられないって」

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