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78 因果が巡り

「なッ!?」


 聖鎚院長が提示した条件に、ギャリコもエイジもセルンも衝撃を受ける。


「オレの専属鍛冶師になれギャリコ! そうすればお前の望みを叶えてやるぜ!!」


 先日エイジによって解体された鎧とは別のものを着込み、しかもそれも機能性を無視するレベルで豪勢なデザイン。


「汚いわよドレスキファ! アナタ聖鎚院長に何を吹き込んだの!?」

「吹き込んだ? オレは聖鎚の覇勇者として、聖鎚院にためになる助言をしたまでさ。ギャリコ、お前のような最高の鍛冶師を外で遊ばせておくべきじゃないってよ!!」

「ドレスキファの言う通りじゃ」


 聖鎚院長も攻勢に加わる。


「ギャリコ、話に聞けばお前は、そこの人間族の覇勇者に仕えると言ったそうではないか?」

「そ、それが何か……!?」

「ドワーフ最高の鍛冶師は、ドワーフ最強の勇者に仕えるのが筋であろう。ワシらはそのためにスミスアカデミーを経営し、鍛冶師のエリートを育てておるのだ」


 そこを言われるとぐうの音も出ない。


「ギャリコよ、お前に自族を愛する心はないのか? 聖鎚院に籍を置かぬだけでも罪深いのに、その貴重な腕をよりにもよって他種族のために振るうとは。罪深いことこの上ない!」

「お前は人間族よりも、ドワーフの覇勇者であるこのオレの専属鍛冶師であるべきなんだギャリコ! 自分の運命を受けいれろ!!」


 最大の急所を突かれた形となったギャリコ。

 受け入れがたい条件を飲まなければ、最大の望みは叶えられない。

 究極の選択を迫られる。


「断ろうギャリコ」


 即座にエイジが言った。


「ハルコーンの角を溶かす超高熱は、別のところから見つけてくればいい。キミを犠牲に望みを叶えることなどできない……!」

「でも……! 多分これ以外に方法は……!」


 さらに周囲に立つセルンとクリステナも、オロオロ戸惑うばかり。

 答えに窮する。ただ一言を除いて。


「わかったわ……!」


 ギャリコは言った。


「ドレスキファの専属鍛冶師に、なりま……」

「お待ちください!!」


 この部屋にいない何者かの声が、部屋中に響き渡った。

 たった一人の、それほどに大きな声。


 声をした方へ振り向くと、大きく開け放たれた出入り口のドアに、見覚えのある少女ドワーフの姿があった。


「キミは……!?」

「ガブル……!?」


 スミスアカデミーで鍛冶スキルを学ぶ少女ドワーフ。

 しかし何故彼女がここにいるのか、理由も必然性も皆目見当がつかない。


「お父様! あまりに了見が狭すぎますわ!!」

「「「「お父様!?」」」」


 ガブルの言葉は、聖鎚院長へと向けられているようだった。


「ガブルちゃん、マイドーター! 一体どうしたのかね!?」


 聖鎚院長、驚き動揺しながらも今まで聞いたことのない猫なで声。

 それはつまり……。


「ガブルって、聖鎚院長の娘!? お嬢様!?」

「そんなこと全然知らなかった!」


 戸惑うエイジたちを突っ切って、ガブルは父親――、聖鎚院長の前へと進み出る。


「そもそもお父様は大きな思い違いをしております。聖鎚院は何のためにあるのですか?」

「か、神より与えられし聖鎚を、管理するために……!」

「違います! 襲い来るモンスターから同族を守るため! この世界のために聖鎚院はあるのです!!」


 凄まじい剣幕で親を叱り飛ばす娘。


「それなのにお父様の物言いは、何から何まで聖鎚院の利益のため! みみっちいったらありませんわ! 聖鎚院をもって世界に尽くそうという気概はありませんの!?」

「そ、そうは言うが、それと今の話に何の関係が……!?」

「スミスアカデミーは、聖鎚院だけでなく、世界すべてに役立つ鍛冶師を育てる学校。聖鎚院は、スミスアカデミーを通して世界に役立っている。そう考えればいいではないですか!」


 そう考えれば……。


「ギャリコお姉さまが聖鎚院の外で活躍されても何の問題もありません! むしろドワーフの鍛冶の腕、スミスアカデミーの教育力を世界中に知らしめる好機ですわ!」


 気づいてみれば、そこはガブルの独壇場。

 エイジ始め人間族チームは、その成り行きを呆然と見守るしかない。


「きっと、ギャリコお姉さまの鍛冶スキルは、聖鎚院には収まりきらないほど大きいのです」

「えぇ……!?」

「だからこそ聖鎚院に閉じ込めず、お姉さまの自由にやらせてあげた方が皆にとって都合がいいですわ。ギャリコお姉さまの鍛冶スキルを、十二分に活かしきれるのは、あの人間族の方だけと存じます!」

「何ぃ!?」


 これには聖鎚の覇勇者ドレスキファが色を成した。


「バカ言うんじゃねえ! ドワーフの鍛冶師が腕を振るうべきは、ドワーフの勇者に決まってるじゃねえか!! つまり聖鎚の覇勇者たるこのオレ!!」

「アナタは、エイジ様にけちょんけちょんに負けたではないですか」

「んなあッ!?」


 その言葉に、聖鎚院長の眉根がピクリと動く。

 やはりドレスキファは、自分に都合の悪い報告は巧みに避けていたようだ。


「ハッキリ申し上げて、ギャリコお姉さまがどんなに心を込めて武具を作っても、アナタの実力では使いこなせません。アナタはギャリコお姉さまのパートナーとして弱すぎます」

「お前……!? お前……ッッ!!」

「反論なら、エイジ様に勝ってから仰るべきね。……お父様」


 再びガブルの目線が、父親たる聖鎚院長へ向く。


「ギャリコお姉さまとエイジ様の組み合わせは、世界最高のものです。それを引き裂くのは世界の損失です。それをあえて引き裂くならば、お父様は自身の利益しか見ることのできない小ドワーフとして後世に汚名を残しますわ!」

「うう……!」

「お願いお父様! あの人たちのやりたいようにさせてあげて! それが聖鎚院やドワーフだけに留まらない世界の利益になりますの!」


              *    *    *


 そして。


「ガブル、ありがとうとしか言いようがないわね……!」


 当初の条件は撤回され、ギャリコエイジの要求に対する聖鎚院の許可は見事出された。

 それには突如乱入してきたガブルが貢献したこと、ガブルがいなければこう上手くはいかなかったことは疑いない。


「ワタシ、ギャリコ姉さまの弟子ですもの! お姉さまの役に立つのは当然ですわ!」


 と高らかに胸を張るガブルだった。


「でもまさかガブルが聖鎚院長の娘さんだったとは。お嬢様じゃないか。何故隠していたんだ?」

「ワタシ、父親の七光りでスミスアカデミーに入れたなんて思われたくありませんの。自分の実力に自信を持っていますんで。よほどのことがない限り親のことは話しませんわ」


 自分たちも色々経歴を秘密にしてきたエイジやギャリコは黙り込むしかなかった。


「でも、お陰でガブルには思い切り助けられたわね。これはいよいよ弟子取りしないといけなさそう……!」

「ホントですのお姉さま! お姉さまのヒミツを色々教えてくれるんですの!?」


 とにかく、これでいよいよ虹色坑道に入る許可は下りた。

 ドワーフの都にたどり着いてからの様々な出会い。それら一件無駄なように見えたすべてが繋がり合って突破口を開くことがで来た。

 もっとも重要なのは人の縁だと、エイジも実感せずにはいられなかった。


「……ん?」


 しかし。


「最初からガブルに頼んでおけば、クリステナを通して聖鎚院長に面談する必要もなかったんじゃないか?」

「エイジ様!?」


 人の縁に一つ無駄な、それでいてあとでメチャクチャ高くつきそうなセクションが見つかった。

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