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74 地底の熱王

 それからさらに数日が経った。


 ギャリコに調べものを任せきりで、することのないエイジとセルンも、ドワーフの都に到着早々起こした騒ぎの数々に「迂闊に外に出ることもできない」と警戒。

 スミスアカデミーの教師デスミスの邸宅に泊まり込んで一歩も出ない生活が続いた。

 エイジらにとってはモンスターと戦うよりも遥かに辛い引きこもりの日々。

 そんな退屈にやっと終止符が打たれる。

 ギャリコの調査がついに完了したのだ。


              *    *    *


「結論から言って……、ハルコーンの角を溶かす方法は……!」


 呼び出されて、デスミス邸の一室に呼び出されたエイジとセルン。

 室内は何百冊という本でごった返しになっていた。数日前からギャリコの調査室本部の様相を呈している。

 で。

 ハルコーンの角を溶かして剣の打ち直す方法は。


「……ある!!」


 溜めに溜めまくった結論に、エイジも喝采で答える。


「よっしゃーーーーッ!!」


 これでダメとなれば、ギャリコとエイジが共犯で行う『聖剣を超える剣作り』が破綻してしまうために、危機を脱したという心境だ。


「よかった……! 本当によかった……!! ここまで来てダメとなったらどうしようかと……!!」

「何だか私までホッとしてしまいました……!」


 最初は魔剣作りに否定的だったセルンまで、今では皆と心を一つにしている。


「……でも、安心するのはまだ早いわ」


 興奮を抑えるようにギャリコは言った。


「方法が見つかったと言っても、それがとんでもなく難しくて、雲を掴むような話だってこともありうる。アタシはデスミス先生所蔵の本を残らず洗い直したけど、見つかったのは結局一つしかなかったわ」

「またえらく勿体ぶった言い方ですね……!」

「ギャリコ」


 エイジがギャリコへ、迫るように訴える。


「ここまで来たんだ。目の前にどんな困難が待ち受けていようとも引き下がることなんてできない。僕たちに道を示してくれ……!」

「わかった……!」


 観念したと言わんばかりにギャリコは、本題を語り始める。


「ハルコーンの角を溶かす、起死回生の方法。それは結局のところ今までしてきたことと同じよ」

「?」

「モンスターの力を利用するの」


 どんな武器でも傷つけられないモンスターの体を、同じモンスターの体から作った武器でなら打ち砕ける。

 その発想の下に作り出されたのが『魔物から作った剣』――、魔剣。


「モンスターを利用して剣を作るのに……!」

「またモンスターの力を利用する……?」


 ギャリコが大きく頷く。


「いかなるスキルを用いても人類種には実現できない高熱も、モンスターなら出すことができるかもしれない。アイツらのすることはいちいち常識を超えるし、能力個性も多種多様。中には超高熱を使って周囲を火の海にしてしまうモンスターも、事実いる」

「なるほど! そんなモンスターを利用して、人間には溶かせないハルコーンの角を溶かしてもらおうと!」

「またギャリコならではの発想ですね!」


 そうなれば次に考えるべきことは、具体的にどんなモンスターを利用するかということだ。


「デスミス先生が持ってた本の中に、あるモンスターについての記述があったの。その名はウォルカヌス」


 ――ウォルカヌス。


「そのモンスターは、地中深くのマグマが生命を持ったかのような不定形モンスターで、超高熱を武器にするらしいわ」

「そんなモンスター、聞いたことないな……!?」


 モンスターと戦うことを生業として生きてきたエイジですら名前を知らないモンスター。


「そのモンスターに注目する理由は? 高熱を使うモンスターならデスコールとか、他にも色々いるだろう?」

「『生きた石炭』の異名を取るデスコール……。アイツは覇王級で、目撃例もそれなりにあるけど、きっと温度が足りない。アイツの燃焼温度じゃとてもハルコーンの角を溶かすところまで行かないのよ」

「なるほど、ハルコーンの角の融点四千五百度を指標とすれば、目的とするモンスターは自然と搾れるというわけですね?」


 セルンの相槌にギャリコは頷く。


「モンスター図鑑を何十回と読み返しても、条件に見合う高熱を出せそうなモンスターは発見できなかったわ。二体以上のモンスターを掛け合わせてより凄い高熱を生み出せないかとも思ったけど現実的じゃないし……!」


 しかし、答えは別の文献にあった。

 とにかくすべての情報を洗ってみようとギャリコが一見まったく関係なさそうな本も開いてみたことが、彼女を救った。


「それは、五百年ほど前の聖鎚院職員が書き残した日記だった。その当時もここドワーフの都は大いに栄えていて、鉱山からたくさんの鉱石原石を掘り出していたんですって」


 ドワーフの都の正式名称はマザーギビング。

『地母神の大盤振る舞い』という名に相応しく、この街の基盤となる鉱山は金や銀、各種の宝石まで産出されるという常識外れに豪華な鉱山だった。


「だからこそこの街はドワーフ族の中心都市として、聖鎚院本部まで置かれる大都市なんだけど……。掘れば掘るほど出てくる金銀財宝。調子に乗ってドワーフたちはどんどん地下深くを掘り進み、ある者を掘り出してしまった」

「それは?」

「さっき言ったモンスター、ウォルカヌスよ」


 金や銀や宝石を求めて、地下深くへ掘って掘って掘り進んだ挙句。

 出てきたのはモンスターだった、というらしい。


「マザーギビング鉱山は、壊滅の危機に陥ったらしいわ。この日記の記述を信じるなら、掘り進んだ坑道中にマグマが流れ込み、坑道の外まで溢れ出して街が灼熱地獄に陥った」

「ひええええええ……!?」

「当時のドワーフ族の覇勇者ですら手に負えず。一度は街の放棄が決定されたんですって」

「覇勇者でも……、勝てない……!」


 ウィルカヌスの灼熱の恐ろしさよりも、覇勇者すらも跳ね返すという事実一点にエイジは衝撃を受けた。


「本来なら、ドワーフの都はそこで滅びるはずだった。でも奇跡が起こった」

「奇跡」

「ドワーフが崇める鎚神ペレが直接救いをもたらして、ウォルカヌスを地中の奥、さらに奥底へ押し戻して封印したんですって。それによってドワーフの都からウォルカヌスの脅威は去り、ドワーフたちも都を放棄せずに済んだ」


 やはり神の恩寵は素晴らしい。

 慈悲深き鎚神ペレに祝福された我らドワーフこそ、人類種で最高の種族だろうという賛美で日記は締めくくられていた。


「これ以外に、モンスター図鑑にすら記載されていないウォルカヌスは、恐らく一種一体の固有モンスター。全モンスターの中でも、ハルコーンの角を融解できそうなヤツはコイツだけだわ」

「コイツは今でもドワーフの都の地下に?」

「日記の記述が正しければそうだけど……。正直わからないわ。アタシもドワーフの都にある坑道には入ったことがないから」


 実家の鉱山集落では坑道エリアの監督役だったギャリコも、父親から『鍛冶師になるなら全部の製造スキルを修めろ』と言われて坑道に入ったクチだった。


「正真正銘、雲を掴むような話になってきましたね……!?」

「しかもそれ以外に有効な方法は見つからないと来た。どこまで僕らを悩ませるのかね、ハルコーンさんは……!?」


 魔剣の原料として覇王級モンスター、ハルコーンが遺した角に振り回されっぱなしのエイジたち。

 それもまだまだ続くということ。


「真偽をたしかめるためも実際にここの坑道に入らなきゃいけないわね……!」

「わかった、僕も当然付き合おう」

「モンスターが現れるかもしれないというなら、当然私も同行させていただきます。モンスターと戦うことこそ勇者の務めですので!」


 エイジもセルンも意気揚々。

 しかしギャリコが一人浮かない顔だった。


「うーん、何と言うかそれ以前に」

「「?」」

「アタシたち、坑道に入る許可が下りないと思うんだけど……!」

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