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68 クリエイターの本懐

「ちくしょう! 覚えてやがれ! これで勝ったと思うなよ!!」


 エイジによって半裸に剥かれたドワーフ勇者たちは、慌てふためきスミスアカデミーから逃げ去っていった。


「なんだいそのザコ感丸出しな捨てセリフは?」


 最後まで強者の威厳らしきものの欠片も示さなかったドワーフの覇勇者ドレスキファ。

 彼女の振る舞いにエイジは呆れる他なかった。


「おおおおお……!」

「すげえええええ……!」


 そんな人間族の圧倒的強さに、居合わせたスミスアカデミー生徒たちは静かに揺れ動く。


「てな風に圧倒しちゃったけど、よかったのかな? 彼女らが腹いせに聖鎚院に報告して、なんか大ごとにならない?」

「大丈夫でしょう多分」


 尋ねられてギャリコが答える。


「アイツらはプライドばっかりご立派だから、自分の無様をヒトに報せたりなんて絶対しないわ。まして聖鎚院執行部は、アイツらが一番いいカッコしていたい相手だからね」


 ヘタに失態を知られると、それを根拠に更迭の恐れすら出てくる。


「都会のドワーフは、どいつもこいつも見栄っ張りなのよ。意味のないもので自分を飾ることしか考えない」


 そう言ってギャリコは、床に散らばる五人分の残骸を見下ろす。

 エイジがドワーフ勇者から切り落とした鎧のパーツたちだった。いずれも黄金もしくはプラチナ製なのか、やたらキラキラと光っている。


「さすがにクソ重い純金で出来てるわけじゃなくて、軽いアルミにメッキを施したみたいね。でも見た目優先で、機能性なんてまったく求めてないのに変わりない。元々モンスター相手に防備を固めること自体ナンセンスだし……」


 勇者はモンスターと戦うのが仕事なので、その居住まいは逐一モンスターに対抗するためのもの。


「エイジの言う通りだわ。ドワーフ勇者たちは、人類種それぞれにいる勇者たちの中できっと最低水準なのよ。モンスターと戦うっていう本来の使命を忘れて。勇者であることを誇るばかり」


 派手で豪勢な鎧をまといたがることも、その傾向だった。


「腕のいい鍛冶師を抱えて、美しいだけ、豪勢なだけの鎧を作らせて、それで着飾って満足している。それでモンスターから同族を救えるなんてまったくないのに」


 そんなドワーフ勇者たちの自己満足に付き合いきれなくなって、ギャリコはドワーフの都を去った。

 ドレスキファらが、自分の間だけで鎧の着せ替えごっこを楽しむだけなら、ギャリコも別に迷惑ではなかった。

 しかしギャリコの卓越した鍛冶スキルに目をつけ、興味のない鎧作りを強制しようとした時、彼女の我慢は即座に限界を振り越えた。


「アタシは実用性のない鎧を作るために鍛冶スキルを上げたんじゃないのよ!」


 すべては幼き日に邂逅した究極の機能美。

 それを我が手で作り上げんため。


「とは言っても、聖鎚院あってこそのスミスアカデミーだからね。ましてその代表たる勇者様に専属指名されるってことは最高の栄誉ってわけよ」

「断るなんてもっての外」

「そう、そのもっての外を断行するには、ドワーフの都を出て行くより他ならなかった。それでアタシはお父さんの鉱山集落に出戻ったわけ」


 そこでエイジとの運命的な再会を果たすのであるが……。


「ドレスキファのアホがまだ諦めてないってのは予想外だったわ。しかもアタシが都を離れてた間に覇勇者に昇進するなんて……!」


 覇勇者ともなれば、その権限は勇者よりも格段に上がる。


「実力はそんなに上がったようにも思えなかったけど、その権力で何かしてきたら厄介だわ」


 その前にハルコーンの角を溶かし、究極の魔剣を作り出してドワーフの都から退散しましょう。そう表情が訴えていた。


「やれやれ、せっかく目的地に着いたっていうのに前途多難だな」

「都会というのはそういうものでしょう。聖剣院本部のある剣都アクロポリスも似たようなものです」


 エイジもセルンも人が密集することで起こる特有のトラブルを思い出したり予想したりでげんなり気味だった。


「凄いですわッッ!!」

「「「うひゃあッ!?」」」


 いきなり飛びかかるように賞賛されて、エイジ、セルン、ギャリコの三人は揃ってビビる。

 奇襲気味に奇声を上げたのは、例のスミスアカデミー生徒ガブルだった。


「ああ……! アナタまだいたの?」

「あのドワーフ勇者が乱入してからすっかり静かだったので、てっきりどこかへ行ったものかと」


 ところがどっこい、終始ずっといたドワーフ少女。


「私、ずっと気になっていましたの。スミスアカデミーに伝わる謎。マイスター・ギャリコ隠遁の謎!!」

「え? そんなのが御大層な謎になって伝わってるの?」

「アカデミー七不思議の一つですわ!!」


 そんな風に伝説化されていて当人が一番びっくり。


「マイスター・ギャリコは何故、栄誉ある勇者からの誘いを蹴って都から去ってしまわれたのか。その理由がわかりましたわ!!」

「?」

「お姉さまは、より強力な勇者に鍛冶師として仕えたかったのですね!?」


 などと言われてギャリコは一瞬呼吸を止めた。


「自族の覇勇者にすら、自分の絶技を捧げるに値しないと見限って、自分の真の主を求めて旅だったんですね!! そして出会ったのが人間族の覇勇者!!」


 ガブルの推理めいたものに、他の生徒もどよめき始める。


「ドワーフ側の勇者全員を一蹴だもんな……!」

「人間族ってあんなに強かったのか……! もしかしたらエルフや竜人より強いんじゃないか……!?」

「オレもどうせなら、もっと強い人類種のために武具を作りたいぜ……!」

「マイスター・ギャリコは、自分の鍛冶の腕に相応しい勇者を探しに行ったのね!?」


 どんどん話が尊大になっていく。


「そして実際に最強の勇者に仕えることがで来たんだから凄いわ!!」

「そうだな! 人間族の覇勇者だってマイスター・ギャリコが凄腕の鍛冶師だから雇ったんだ! 他種族の勇者からも腕を認めてもらえるなんてさすがマイスター・ギャリコ!!」

「最強の勇者と最高の鍛冶師! これ以上ない組み合わせね!!」


 と勝手に盛り上がっていく。

 これをどう収拾付けたものか。


「そうよ!!」


 ギャリコが言った。


「アタシはこのエイジに仕えるためにアカデミーを辞めたのよ!!」

「「乗っかったッ!?」」


 意外な流れにエイジもセルンも戸惑う。


「アタシが鍛冶師として本当に作りたいものは、エイジに振るってもらって初めて最高の意味を持つの!! 鍛冶師たる者、自分の最高傑作を捧げるに相応しい相手に出会えることこそ真の幸福なのよ!!」

「「「「「「おおおおお~~~~ッッ!!」」」」」」


 スミスアカデミーはギャリコを中心に、興奮の最高潮にあった。


「さすがマイスター・ギャリコ!! スミスアカデミー始まって以来の天才!!」

「自分の腕に相応しい主を見つけることに妥協がない!!」

「ギャリコお姉さま!! 私にもお姉さまを手伝わせてください! 人間族の勇者に捧げる武具づくりを!!」


 ギャリコを取り囲んでお祭り騒ぎの生徒たち。

 その模様を、他種族の二人は呆然と見守るのみだった。


「ドワーフ族って……!?」

「他種族の習性や文化が理解できないなんていつものことさ」


 セルンもエイジも、彼らの興奮が冷めるのをただ待ち続けるしかなかった。

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