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57 限界状況

 今日も今日とてモンスター退治。


「セルン! そっち行ったわよ!!」


 ジャンジャン鐘のようなものを鳴らしながらギャリコが言った。

 その鐘の音を嫌い、追い立てられるように暴走する巨大なムカデ。


 メガリスイーターという名の勇者級モンスターだった。


「承知したギャリコ!!」


 大ムカデの走行進路を塞ぐかのように、青き剣を振り上げて女剣士が躍り出る。


「この角度! この間合い! 最高のタイミングだ! 食らえ!!」


 仲間と共にモンスターを追い立てることで作り上げた絶好の瞬間。青の聖剣の勇者セルンは見逃さない。


「ソードスキル『一刀両断』!!」


 聖剣より放たれるオーラの刃が、巨大ムカデにしっかりと命中し、その頭部を弾き飛ばした。

 首から上が四散して消え去り、胴体だけとなる巨大ムカデ。


「やった!」

「勝ったわセルン!」


 セルンもギャリコも、その成果に喝采を上げる。

 が。


「……ん?」

「あれ?」


 どういうことか、頭部を失ったはずの巨大ムカデはそれでも、胴体のみで暴れ狂うではないか。

 どんな生物も、頭部を失えば絶命し、即座に動かなくなるのではないのか。

 必殺の一撃を放った直後、しかも勝利を確信して気が緩み切っていたセルンは、この予想外の暴走に対処の暇がない。

 首なしムカデの爆走に轢き潰される。

 それ以外に為す術がない。そう思われる寸前……。


「ソードスキル『処刑剣:断頭斬』」


 頭上から降り注ぐ斬撃の雨が、巨大ムカデの体をいくつにも斬り刻んだ。ムカデ特有の節ある長い体が、その節ごとに細かくバラバラとなる。


 ノコギリのようにギザギザな刃を振るいながら、上空より降りてくる一つの人影。


「エイジ様!?」


 翼剣レイザーソーを持った覇の剣士エイジが最後に現れた。


「セルン、最後で大しくじりだな」


 現れるなりエイジは、生徒を窘める教師のような口調でセルンを責める。


「昆虫系のモンスターは総じて生命力が高い。植物系に比べればやや劣るものの、中には頭を千切り取られてもしばらく暴れ続ける、しぶといヤツもいる」


 その典型が、今倒した大ムカデモンスター、メガリスイーターであった。

 さすがにバラバラに斬り刻まれては暴れることもできず、今度こそ絶命してその脅威は去った。


「各モンスターの特性をしっかり記憶することも当然だが、倒したと思ってすぐ気を抜くのも減点対象だな。『残心』の心得は聖剣院でもしっかり学ばされているはずだ」

「す、すいません……!」


 勇者でありながら、実に初歩的な部分を突っつかれてシュンとなるセルンだった。


「そんなに言わなくてもいいじゃないエイジ!!」


 ギャリコが、バラバラとなった大ムカデの残骸をおっかなびっくり踏み越えながら駆け寄ってくる。


「セルンは毎回モンスター退治の作戦立案と実行を担って一番大変な役どころなんだから、勝った時ぐらい労ってあげてもいいじゃない!」

「いや、あのねギャリコ……、何故作戦立案や指揮を任せているかというと……!」


 究極ソードスキルの修得に必要な兵法スキル、ソードスキルを上げるために必要なことで。


「アンタなんて、不測に備えて待機する楽な役割なんだから、少しは身の程弁えなさいよ。むしろ今回なんてやっと実際働けて、役立たずでないこと証明できてラッキーぐらいに思うところよ!!」

「いいえ、あの……!」


 セルンを庇うギャリコの烈火のごとき態度に、エイジはたじたじだった。


「いいのですギャリコ……! 私がミスをしたのは事実なのですし、エイジ様に助けていただかなければ死ぬところでした。それにしても……!」


 セルンは、微塵に刻まれた大ムカデの死骸を改めて見やる。


「……ソードスキル『処刑剣:断頭斬』。オーラを込めた刀身を完全垂直に振り下ろすことで切断力を『一刀両断』以上に高めるスキル。しかしオーラを集約する手間と、垂直に振り下ろすという扱いづらさで実戦利用は不可能と言われているのに」

「『処刑剣』と銘打たれたソードスキルは大体そうだからね。文字通り動かなくなった相手を処刑する用途にしか使えないのさ」

「そんな『処刑剣』を無秩序に暴れ回る相手に。しかも連続して叩きこむなんて……!」


 本来『断頭斬』は単発技で、『五月雨切り』のように連撃するなど想定されていないソードスキルだった。


「いずれもエイジ様の絶技的なソードスキルによって初めて可能となること。ともに旅するようになって改めてエイジ様の偉大さが身に沁みます……!」

「いやいやいやいや……!」


 エイジは謙遜するように手を振った。


「セルン、キミだって充分大したヤツだよ。今は問題点を注意したけど、全体的には実に見事なモンスター退治だった」

「でしょでしょ!?」


 ギャリコが便乗して騒ぎ立てる。


「メガリスイーターを誘導して、自分の真ん前にまで来させる作戦も完璧だったし、決め手となったソードスキル『一刀両断』も相変わらず冴え渡っていた」

「いいえ。あの作戦は、メガリスイーターが高い金属音を苦手としている事実を見抜いたギャリコの功績です。それがなければモンスターを誘導するなどとても不可能でした」

「えへへ……!」


 それを聞いてギャリコ、大ムカデが大嫌いな金属音を放出する鐘を持ったまま照れる。

 彼女自身がこの作戦のために即興で作り上げたものだった。


「ギャリコがモンスターの特性を見抜いて、それを有効活用できる道具を創作。セルンが作戦に取り入れてモンスター討伐を実行……」


 彼らチームは、それをかれこれもう十回以上繰り返してきた。


「ドワーフの鉱山集落を出てからもう何ヶ月か経つけれど。僕らのモンスター退治も大分様になってきたな。二人のスキル値も大分上がってきたんじゃないか?」


 元々は『聖剣を超える剣を作る』という大目的のために旅立ったエイジとギャリコ。それに無理やり同行する形となったセルン。

 特に聖剣を超える剣=魔剣作りを直接実行する女ドワーフ、ギャリコは究極の魔剣作りのためにより多くの鍛冶スキル値と魔剣作りノウハウ蓄積を欲した。

 そんな彼女の要望を叶えるため、エイジたちは各地を巡ってモンスターを探し出しては討伐。

 その実戦経験によってレベルアップを図っているところであった。


「ま、メガリスイーターは無事倒せたことだし……」


 いつもならここでギャリコの本格ターン。

 倒したモンスターを解体して使えそうな素材を確保。それを元に新たな魔剣の試作品をを製造するところであるが……。


「ここらで一回、二人のスキル値をチェックしておこうか」

「うんッ!」

「かしこまりました」


 ギャリコとセルン。エイジの求めに少しも渋ることなく、指先で虚空に四角形を描く。

 その四角の枠に沿って現れる透明な図板。そこに並ぶ数字。

 スキルウィンドウであった。


ギャリコ 種族:ドワーフ

 鍛冶スキル:2190

 装飾スキル:1170

 建設スキル:730

 筋力スキル:638

 敏捷スキル:450

 耐久スキル:812


セルン 種族:人間

 ソードスキル:1890

 筋力スキル:1340

 敏捷スキル:1290

 耐久スキル:1220

 兵法スキル:1567

 料理スキル:610


 スキルウィンドウは自分の手の内を偽りなく晒し『他人にスキルウィンドウを見せるのは裸を見せるも同じ』とまで言われる行為だが、今では乙女二人、エイジに奥底を曝け出すのに何の抵抗もない。


「うわぁ……! 上がってる上がってる! セルンのソードスキル値なんか最初見た時の倍ぐらい上がってるじゃない!!」

「それを言うならギャリコの鍛冶スキル値だって……! ついに2000を超えましたか……! もはや覇勇者クラスではないですか……!」


 余談ながら、かつては「セルンさん」「ギャリコ殿」とよそよそしく呼び合っていた二人も。いつの間にか敬称が取れて呼び捨てし合うようになっていた。

 旅を通じて育まれたのは、スキル値だけではないらしい。


「成長おめでとー! イエィ!」

「い、いえい……!?」


 照れながらギャリコとのハイタッチに応えるセルンだった。

 ただ一人、エイジだけが物静かな顔つきで。


「……そろそろ、いいかもしれないな」


 と呟いた。


「?」

「何がです?」


 その呟きに乙女二人が訝る。


「ここまでスキル値を上げられたんなら、もうゴールに向かってもいいと思ってさ」


 そもそもエイジたちが旅に出たのは、明確な目的地合ってのこと。

 その目的地とは、この地上に繁栄する人類種の一つ、ドワーフ族。


 そのドワーフ族がもっとも集まり、発展している都市。


 ドワーフの都。

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