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56 彼の人は

 そしてエイジたちはエルフの森を去った。

 モンスターと言う形ある災禍を退け、再び平穏に包まれた森林。

 その外れに一人の男が直立している。


「まだここにいたんですの? さっさと聖槍院に帰りなさいな?」


 背後から歩み寄ってくるエルフの女性。


「お前こそ、他のエルフたちと一緒に森の奥に帰ったんじゃないのかよ?」


 竜人族の勇者ライガーと、エルフ族の勇者レシュティア。

 二人は並んで、共に戦った者たちの去っていった方向を眺める。


「なんだか名残惜しくなってしまって……。あの方たちと一緒に戦ったのが、過去になってしまうことに」

「お前もかよ。……たしかにな」


 ライガーは噛みしめるように言う。


「オイラたちがずっと憧れてきた『青鈍の勇者』と一緒に戦うのがな」


 長い年月夢想していたことがついに現実になって、過去となって過ぎ去ってしまったことを惜しむ。


「……気づいていたのですか、アナタも?」

「そりゃあよ、あんだけデタラメに強い人間族で、そのくせ聖剣も持っていないなんて怪しすぎるじゃねえか。セルンの話では、当の『青鈍の勇者』は引退して聖剣を返上したとか言いやがるしよ」

「結びつけない方がおかしいというわけですか」


 レシュティアはライガーの隣に立って、少しずつ距離を縮める。


「ついさっきトーラ様から伺いました。半年ほど前、人間族が覇聖剣の新たな所有者を選び出す儀式を行い、それにあの方が見事合格したと」

「えッ!? ってことは覇勇者かよ!? 道理でクソ強いわけだ!」

「でも、せっかく新しい覇勇者に選ばれたというのに、覇聖剣を拒否して行方をくらませてしまったのだそうです。おかげで聖剣院は今でも大騒ぎ。あの方を呼び戻そうと、四方に捜索隊を放っているのだとか……!」

「でもオイラ、人間族がそんなに騒いでるって少しも聞かないぜ?」

「だから静かに騒いでいるんです。私たちエルフは誇りを重んじますが、人間族は体面を重んじる。自分たちの弱みを表に晒したくないのですわ」


 そして栄誉称号を捨て去った末に、彼は自分たちと出会った。

 そういう結論が二人の中で生まれた。


「聖剣院なんてけったいな組織を辞めた理由は、やっぱアレかな?」

「魔剣ですか。……私はやっぱり、少し危うい気がします。アナタはどうです?」

「面白くなりそうとしか思えねえな! 元々聖槍が五本しかないのもケチくせぇと思ってたんだ。魔剣だけじゃなく……魔槍? ってのも作られたら、随分賑やかになると思わねえか?」

「本当にアナタは楽観的なんですから……? でもあの方は、本当に私たちには見えない未来を見据えているのかもしれませんわね」


 聖なる武器だけが打ち砕く人類種の敵。

 そこにもう一つの選択肢が加わる。それは世界を丸ごと変えてしまうことにはなるまいか。


「でもライガー……」


 ふと気づいたことがあって、レシュティアはライガーに問いかけた。


「アナタ、エイジさんの正体に気づいていたなら、何故黙っていましたの? 本当のことを指摘すれば、勇者時代の突っ込んだ話もできたかもしれませんのに?」

「そりゃあ、あの人が『バレてほしくないな』って顔してたからだよ。弟子は師匠の想いを汲み取るものだからよ」

「あら、私と同じでしたのね」


 二人の勇者は、心重ね合うように同じ笑い方をした。


「今度会った時は、腹割って話してみるか」

「そのためにも、次会うまでにもっと強くならなければいけませんわね。今度はあの方と肩を並べて戦えるように」


 二人の勇者は誓い合うのだった。


「ところでライガー」


 さらにレシュティアが語りかける。


「覚えていますわよね? レイニーレイザーと戦う前にした約束を」

「ん? ああ、おうもちろんだぜ!」


 迂闊にレシュティアのスキルウィンドウを覗いてしまったために勃発した大問題。

 それを一時的にでも鎮静させるため、ライガーは二人きりの時にレシュティアとある約束をした。



「レイニーレイザーを倒したあと、またアナタのスキルウィンドウを見せてもらうと約束しました。さあ、見せてもらいましょう!」

「なんでそんなに見たがるかなあ。戦いの前に見せたばっかりじゃねえか……?」

「だって、その、戦闘で活躍する私を見てくれれば、スキルが上がるかもしれないじゃないですか!!」

「どのスキルだよ?」


 言われるままにライガーは、自身のスキルウィンドウを開く。そこに浮かぶ項目は、上からランススキル、筋力スキル、敏捷スキル、耐久スキル、跳躍スキルと来て、最後の六項目が……。


「「あっ……!?」」


              *    *    *


「「「上がってる……!?」」」


 エルフの森から出発して、しばらく休んで休憩中。

 エイジ、ギャリコ、セルンの三人は、開かれたスキルウィンドウに注目していた。

 肝心のチェックをドタバタで忘れていたため、今になって確認していたのだ。


 あの戦いによって、セルンの兵法スキルがキッチリ上がっているかどうか。


セルン 種族:人間

 ソードスキル:1290

 筋力スキル:1040

 敏捷スキル:870

 耐久スキル:1020

 兵法スキル:770

 料理スキル:560


 ――兵法スキル:770


「「上がってるーーーッッ!?」」


 セルン本人だけでなく、ギャリコまで我がことのように喜び、互いに抱き合う。


「割と派手に上がったな。一戦闘で200以上も伸びるとは」


 他のスキルも伸びが見られ、レイニーレイザーとの戦いはセルンにいい影響を及ぼしたと判断してよかった。


「この勢いなら『一剣倚天』を修得するのもそう先のことじゃなさそうだな。とりあえずは同じように実戦経験をバンバン積んでいく方向でいいか」

「じゃあ、再び寄り道ね!」


 奮い立つギャリコ。

 ドワーフの都にたどり着くのはまだまだ先のことになりそうだった。


「しかしエイジ様……、聖剣院からの伝令カラスが来てないので、次のモンスターの情報が……!」

「集落に行けば何か聞けるだろう。レシュティアの話ではこの先にあるってことだからな。まずはそこを目指して進むのみ!」


 旅によって積み上げられるもの、近づく到達点がたしかにあると手ごたえを感じ、三人は進んでいく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ライガーとレティシア 色々と未来が気になる2人だなぁ…
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