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54 報酬

 覇王級モンスター、レイニーレイザーは討伐された。

 幾重にも連続した攻撃の極めつけにセルンのソードスキル『一刀両断』で首を胴から斬り離され、あえなく絶命。


 これで戦いは終わったかに見えた、が。

 しかしエイジたちにとっては、まさにここからが戦いの始まりだった。


              *    *    *


「やっとアタシのターンよぉぉぉーーーーーーーーーッ!!」


 活き活きと目を輝かせるドワーフ乙女ギャリコ。

 レイニーレイザーの死骸をさっさと解体し、使えそうな素材をあらかた回収し終えてしまっていた。


「勝った直後に姿が見えないと思ったら……!!」


 あとから合流したエイジたちが、ギャリコのバイタリティの強さに絶句していた。

 元々エイジチームがモンスター打倒を求めた理由が、その素材をゲットして武器を作ることだったので、当初の目的には沿っていると言えるが……。


 回収成功したレイニーレイザーの素材でどんな武器が制作可能なのか。


「どう? 行けそう? やっぱレイニーレイザーも覇王級だからハルコーンの角と同様で加工不可とかならない?」


 素材があまりに頑強すぎて精錬も鍛錬もできない。

 そんな事態が覇王級モンスター、ハルコーンの素材で起こったため、同じく覇王級のレイニーレイザーにも不安が起こる。


「その点は大丈夫そう」


 ギャリコは所在から目を離さずぬまま言った。


「やっぱり同じ覇王級でも、空に浮かぶしか能のないレイニーレイザーは、ハルコーンよりかなり格下だったみたいね。解体もアントナイフでサクサク進められたし。強度的には勇者級が精々みたい、この鳥」

「何とも釈然としない情報です……」


 その名ばかり覇王級を三人がかりでやっと倒した身としては、忸怩たる思いのセルンだった。


「それにハルコーンと違って鉱物的な部位もないから、真っ当な剣として鍛え直すのも無理そうね。唯一使えそうな方法は……!」



 ギャリコが差し出したのは、レイニーレイザーの翼をそのまま剣に変えたような一振りだった。

 鳥が翼を構成する骨格に、無理やり剣の柄を取り付けたような。


「取り急ぎ作ってみた試作品よ。使ってみて」


 翼の剣。

 それを受け取りエイジは、その使い心地を探るかのようにブゥオン、ブゥオンと振ってみる。


「元々レイニーレイザーの羽は、鋭いカミソリみたいになっていたわ」

「アイツの最大にして、唯一の攻撃手段でしたね」

「そのカミソリ羽が鈴なりになっている翼自体を刀身に使ってみることにしたの。もちろん剣の形としては無様この上ないけれど、威力はこれまでの剣で一番高いはずよ」


 何しろ初めての覇王級素材を元にした剣なのだから。

 ただ鳥の羽を何の工夫もなく刀身に流用した雑さは拭えない。本来美しい直線を描くべき刀身は無様なくの字にへし折れて、エイジは随分と使いにくそうだった。


「これまで使ってきた魔剣の中では、ダントツに使い心地が悪いな」

「そ、そう……!」

「でも間違いなく、これまで作ってきた魔剣の中でも最強だと思う」


 曲がりなりにも覇王級の素材は、やはり違うということだった。


「より完成された覇王級魔剣への繋ぎには充分な出来だろう。ハルコーンの角を高熱炉で溶かし、打ち直して、より完璧な形の剣に仕上げる。そのノウハウを積むためにも……!」

「……ッ! うん!!」


 エイジに認められてギャリコも制作者としての感情を満足させることができた。


「じゃあ、この方針で細かい部分を調整してみるわ! できるだけ形も真っ直ぐにして、振りやすいようにしてみる!!」

「でも、どんだけ調整しても形の歪な気持ち悪い剣にしかならなそうなんだよなあ」


 不格好な分正常な太刀運びもできず、その分使えるソードスキルの幅も狭まるだろう。

 少なくとも究極ソードスキル『一剣倚天』は、この剣モドキと言っていい剣で放つのは不可能。


「やっぱりハルコーンの角を精錬して打ち直すって方法は、究極的に正しい気がする。そうしてこそ理想的に扱いやすい形の、かつ最高攻撃力を持つ魔剣が作れる」


 ハルコーンの角を打ち直して作り出す魔剣のゴールは変わらないどころか、より不動のものとなって存在感を増した。


「レイニーレイザーの羽もカミソリみたいに鋭いのはいいですが、それを何十枚と束ねて一本の剣にすること自体無理がありますしね。ヘタに束ねている分、余計な重量もありそうです」

「羽を並べて刃がギザギザになってるのは、まるでノコギリみたいだよな……」


 ふむ……、と沈思。


「この魔剣の名前はレイザーソーとでもしておこうか」

「剣ならぬノコギリですか。まあ理想的な剣でないということを示すためにもよいネーミングかも知れません」


 セルンは、こちらの分野にあまり興味がないので、態度もすげない。

 しかしさらに一方で、一連のやりとりに驚愕を持って見守る者たちがいた。


「なんだこれ……!?」

「悪魔の所業ですわ……! 悪魔の儀式ですわ……!?」


 ライガーとレシュティア。

 モンスターを素材にしてモンスターを倒す剣を作る、と言うエイジたち本来の目的を知らなかった二人は、目の前で行われる解体、作成作業をサバトか何かと見紛い戦慄する。


「……アンタら、このためにモンスター狩ったのかよ!?」

「あれ? 言ってなかったっけ?」


 一通り説明して、ライガーたちの目から鱗が噴出する。


「へえええ……、そんな方法でモンスターを倒そうなんてなあ。人間もドワーフもとんでもないこと思いつきやがるぜ」

「それ、許していいものなんですの? 神々の聖なる武器以外にモンスターへの対抗手段が出来たら、私たち勇者のありがたみが……!?」


 ライガーとレシュティア、二人の反応は面白いほど対照的だった。


「でもレシュティア、キミがレイニーレイザーを射た矢。あれも広い意味での魔剣だぜ?」


 レイニーレイザー本体が放った刃の羽を鏃に転用した矢は、聖弓の勇者レシュティアからも有用性を認められた。


「うっ……! あの矢は百本ぐらい作り置きして行ってください!!」

「やっぱり認めてやがるじゃねえか」

「煩いですわ! あの矢があれば、勇者でない聖弓院兵士もモンスターにダメージを与えられます。予期せぬ遭遇をしたとしても生還率がグッと増しますわ!!」


 自分の戦力アップよりも兵士の安全に気を配るレシュティアに、一同心がホンワカなった。


 とにかくもドワーフの仕事は黙々と続くもの。

 戦い抜いた勇者たちに必要な休息時間も重なり、時間は静かに過ぎ去っていく。

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