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53 流星剣

「…………んなッ!?」


 セルンより耳打ちされて、レシュティアは目を丸くする。


「本気ですの!? そんなことをしてはアナタの身に危険が……!?」

「できるのか!? できないのか!? 知りたいのはそれだけです!!」


 二人は今もなお、空中を自由落下の最中だった。

 そう遠くないうちに体は地面に叩きつけられる。次の行動を起こすなら、その前に踏み切らなければならない。


「……わ、わかりませんわ。そんなこと試したことも、想像したことすらありません」

「ならばこの場で試すべきです。どうなろうとアナタを恨みはしません。実行しないという以外では!!」


 セルンは、エイジの一閃を目の当たりにしてから、セルンの表情に鬼気が迫っていた。

 何としてもこの場で凶鳥を始末するという烈気を噴き上げている。


「…………わかりました。わかりましたわ!!」


 その熱に煽られて、レシュティアもヤケクソとなる。


「私だって勇者の意地に懸けて、あの鳥をこの場で倒したい。そのためにセルンさん一人の犠牲など安いものですわ!!」

「その意気です! では打ち合わせ通り頼みますよ!!」


 この無茶を押し通すには、激情に身を委ねるしかない。それぐらいの勢いでレシュティアは聖弓を力いっぱい引いた。

 そして何故かその真ん前を、セルンが立ち塞ぐ。


「オーラ矢の特性は接触爆発型に変えておきました。その爆発をどれだけ推進力に変えられるかがアナタの技量ですわセルンさん!!」

「承知!! あとは成功を祈ってくださいレシュティア殿!!」


 神よ……。そんな祈りが聞こえてきそうなほどの切実さで、弓の弦が話された。

 放たれるオーラ矢は、レシュティアのすぐ直前に出たセルンに命中して爆発する。


「はああああああああああッ!!」


 セルンはオーラ矢を聖剣で受け、起った爆発により猛スピードで吹っ飛ばされる。

 それはまるで矢の代わりにセルン自身が、聖弓によって撃ち出されたかのようだった。

 聖弓による人間射出。

 それこそセルンがレシュティアに提案した逆転の秘策だった。


「人間ってまったくムチャクチャですわーーーーーーーーーー!!」


 遠ざかっていくレシュティアの叫びを、セルンは耳に受け取る。

 ともかくこのおかげでセルンは一度地上に降りてから疾走するより何倍も早く、標的に追いつくことができる。


 みずから矢となって空中を疾駆し、凶鳥を貫くのだ。

 空気抵抗で頬の肉が削げ落ちそうになりながら、それでもセルンは勢いに任せて飛ぶ。


 するともう目の前に、恐れおののく凶鳥レイニーレイザーの姿が。


「外しません……! 絶対に、ライガー殿とレシュティア殿が繋げてくれた……! エイジ様が押し留めてくれた……!」


 柄に両手を添えて、怒涛の空気抵抗の中振り上げる聖剣。

 凶鳥の恐れ慌てる顔が、すぐそこまで迫っていた。


「ソードスキル『一刀両断』ッッ!!」


 駆け抜けると共に振り下ろされた剣が、正確に凶鳥の、頭と胴を繋げる部分を切断した。

 頭だけになって空を舞い飛ぶレイニーレイザー。


『クエエエエエエエエエエエエッッ!!』


 断末魔を上げながら、胴体共々重力に引かれて落ち樹海に沈んで消えていった。


「やった!!」


 完遂を喜ぶセルンだったが、まだ本当の終わりではない。

 何しろ彼女自身、聖弓で勢いついたまま空中を疾走中なのだ。このスピードのまま地面に叩きつけられれば、大ケガどころでは済まない。


「……はッ!」


 そんなセルンを、後ろからかけて追いついた黒い影が抱きかかえた。


「えッ!?」


 その影はセルンの華奢な体を抱き包んだまま、周囲に伸びる木に何回もぶつかり、さながら少しずつ勢いを減殺、最後に地面へと叩きつけられた。

 その間セルンの体は優しく抱きかかえられて、地面や木に直接接触することは一度たりともなかった。

 すべて、セルンを抱きかかえる誰かが身代わりになったのだ。


「エイジ様ッ!?」


 セルンを守って何度も叩きつけられたエイジ。

 さすがにあちこち擦過傷や内出血で傷だらけとなっていた。


「よくやったセルン。レイニーレイザー、見事キミたちの手で討ち果たしたぞ」


 それでも別段痛がる風も見せないエイジ。


「最後の攻撃は、土壇場の思い付きとしても上出来だった。兵法スキルもかなり上がったんじゃないか?」

「いいえ、最後にはやっぱりエイジ様に尻拭いしていただくことになりました。エイジ様に助けてもらわなかったら、今頃私は壁に投げつけたトマトみたいに……!!」


 自然と鼻声になり、目から涙がこぼれる。

 抉れた地面に大の字になって伸びるエイジ、その体に馬乗りになったような体勢で、セルンは己の未熟さに泣きじゃくった。


「勝ったのに泣いてんじゃねえよ」

「え?」


 近づく声にセルンが振り向くと、そこにはライガーとレシュティアがいた。

 彼らも地上に降り、勝利の現場に駆け付けたのだろう。


「ライガー、レシュティアはキミが助けてくれたのか。期待通りだ」


 レシュティアは、ライガーの力強い両腕に抱き上げられて、いわばお姫様だっこの体勢だった。

 セルンを射出したあと、彼女自身落下中で地面に叩きつけられるのを待つばかりだったが、位置関係上、先に着地していたライガーがもう一度跳躍して、地表との激突前にレシュティアをキャッチしたのだった。


「キミの咄嗟の思い付きもよかったな。レシュティアに射抜いてもらうことで『メテオ・フォール』を空中誘爆させるとは。人間族並の発想転換じゃないか」

「人間族だけが頭いいと思ったら大間違いってこってすよ師匠。それにオイラ、コイツのことを信頼してますんで」


 と、自身の腕の中にいるレシュティアを示す。


「コイツなら何とかしてくれるとね。何せコイツら、オイラより頭がいいから」

「そうなんですの!?」


 いまだお姫様だっこの中にいるレシュティア。


「あそこまでやっておいて何も考えてなかったって、竜人はどこまで頭空っぽなんです!? っていうかいつまで私のこと抱きかかえているんですか!? 自分で歩けますから降ろしてください!!」


 と暴れる。


「ま、ともかくキミたちはよくやった。勇者でありながら覇王級モンスターを仕留めたんだ。大金星と言っていい」

「それでも他種族の勇者と寄ってたかってだけどな。むろそっちの件で怒られそうだぜ」

「そんなこと絶対にさせませんわ」


 いまだライガーの腕の中で、レシュティアがキリッと言った。


「私たちエルフは、今回竜人と人間の勇者に助けられました。覇王級モンスター襲来は、集落存亡の危機です。それを救ってもらいながら、種族の意地を優先させて恩人に唾を吐きかけるなど、その方がエルフの誇りを傷つける行為ですわ!!」


 言っていることは勇者として立派なものだったが、愛しいライガーにしがみつきながら言うためかいまいち締まらなかった。


「じゃあ、そろそろ……?」

「はい?」

「セルン、僕の体から降りてくれないかな? でないと起き上がれない」

「きゃあッ!?」


 尊敬する覇勇者をまたいでいる自分にようやく気付き、飛び上るセルンだった。

 覇王級モンスター、レイニーレイザーの脅威は、こうしてエルフの森から去った。

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